介護記録をAIで作成|手書きと転記を減らす5手順
業務効率化支援を行う「Ai-Raku(アイラク)」代表。国立大学でAIの研究を行い、ITコンサル・ウェブコンサルを経て独立。官公庁向けの業務効率化や上場企業の支援等を経て、中小企業の現場に定着するAI活用を企画から運用まで一気通貫で支援している。著書に『中小企業のAI定着の教科書 — 入れた後に、何をするか』(2026年)。

- AIで減らせるのは「書く時間」ではなく「同じことを二度書く時間」
- 始め方は音声メモから。録音して、文字にして、型に流し込むの3段階
- 介護記録は要配慮個人情報。汎用の生成AIに実名で入れてはいけない
- 最後に読んで直すのは人。AIが書いた文章をそのまま残す運用は作らない
結論:減るのは二度書きの時間
介護記録をAIで軽くしたいという相談を受けたとき、最初に確認するのは「記録に何分かかっているか」ではありません。同じ内容を何回書いているかです。
現場でよく見るのはこの流れです。
- ケアの合間にメモ帳へ走り書きする
- 夕方、そのメモを見ながら介護ソフトに入力する
- 申し送りノートに、同じ内容を要約して書く
- 業務日誌に、その日の全体をもう一度まとめる
1つの出来事が、形を変えて4回書かれています。AIが効くのはここです。1回目のメモから、2回目以降を自動で作る。書く回数を4回から1回に近づける、というのがこの記事の内容です。
逆に言えば、記録が1回しか書かれていない事業所では、AIを入れても体感はほとんど変わりません。まず自分の事業所がどちらかを見てください。
介護記録に時間がかかる構造
厚生労働省が公表している第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数では、2022年度の介護職員215万人に対し、2026年度に約240万人、2040年度に約272万人が必要と推計されています。2026年度までは年6.3万人の増加が必要という計算です。
人が急に増える前提では計画できない、という状況が数字として示されています。そのなかで記録は減りません。記録は運営基準上の義務であり、報酬請求の根拠であり、事故が起きたときに事業所を守る証拠だからです。
だから「記録を減らす」ではなく「記録を書く回数を減らす」に発想を変えます。
時間が消えている5か所
| 時間が消える場所 | 起きていること | AIで扱えるか |
|---|---|---|
| 転記 | 紙のメモを介護ソフトへ打ち直す | 扱える |
| 要約 | 1日の記録を申し送り用に短くする | 扱える |
| 言い換え | 話し言葉を記録の文体に直す | 扱える |
| 判断 | 何を書き、何を書かないかを決める | 扱えない |
| 確認 | 事実と違わないか読み返す | 扱えない |
上の3つはAIが得意な作業です。下の2つは人の責任です。この線引きが、あとで出てくる運用ルールの土台になります。
AIで減らせる記録は3種類
介護の記録を全部まとめてAI化しようとすると失敗します。性質の違うものが混ざっているからです。次の3つに分けてください。
1. ケース記録(個別の支援記録)
利用者ごとに、その日の状態と実施したケアを書くものです。事実の記述が中心で、書式が決まっています。音声メモから作るのに最も向いています。
2. 申し送り・連絡ノート
次の勤務者に引き継ぐための情報です。1日分の記録から「次の人が知らないと困ること」だけを抜き出す作業なので、要約が中心です。AIの得意分野そのものです。
3. 業務日誌・行事記録
事業所全体の1日をまとめるものです。個別性が低く、定型文の割合が高いので、型さえ作れば下書きは自動で埋まります。
一方、ケアプランとアセスメントはこの記事の対象外です。これらは計画であって記録ではなく、根拠と責任の所在が異なります。別記事の介護のケアプラン作成・LIFE対応で扱っています。
音声メモから記録を作る5手順
いちばん効果が出て、いちばん失敗が少ないのがこの手順です。順番どおりに進めてください。
手順1:録音の場面を1つだけ決める
全部録ろうとすると続きません。1つの場面に限定します。おすすめは「入浴介助の直後」「バイタル測定の直後」のように、報告する内容が決まっている場面です。
スマートフォンの標準の録音アプリで構いません。1件30秒から1分。長く話す必要はありません。
手順2:話す順番を決めておく
ここが結果を左右します。話す順番を紙に書いて、更衣室に貼ってください。
- いつ(時刻)
- 誰に(利用者は記号や番号で。実名は言わない)
- 何をしたか(実施したケア)
- どうだったか(本人の反応・表情・発言)
- いつもと違った点(なければ「特変なし」と言う)
この順番で話すだけで、あとの作業がほぼ機械的になります。順番が決まっていない録音は、AIに渡しても使える記録になりません。
手順3:文字にする
音声を文字にする機能は、スマートフォンの音声入力、介護ソフトの音声入力機能、生成AIの文字起こし機能のいずれでも構いません。この段階の文章は読みにくくて構いません。助詞の間違いも気にしません。
手順4:型に流し込む
文字にしたものを、記録の文体に整えます。ここでAIを使います。そのまま使える指示文を置きます。
あなたは介護記録の作成を補助します。以下の音声メモを、 介護のケース記録として書き直してください。 【守ること】 - 事実だけを書く。推測・評価・感想は書かない - 「〜と思われる」「〜のようだ」は使わない - 本人の発言は「」で囲んで、言ったとおりに残す - メモに書かれていないことは補わない。足りない項目は 末尾に「【要確認】〇〇が不明」と列挙する - 文体は常体(〜した、〜であった) - 200字以内 【音声メモ】 (ここに文字起こしを貼る)
「メモに書かれていないことは補わない」という一文が最も重要です。これを入れないと、AIは自然な文章にするために事実を足します。介護記録では、それは事実と異なる記載になります。
手順5:人が読んで直す
出てきた文章を、記録した本人が読みます。読むのは30秒です。確認するのは3点だけにしてください。
- 書かれている事実が、実際に起きたことと一致しているか
- 言っていないことが足されていないか
- 【要確認】に挙がった項目を埋めたか
確認して介護ソフトへ貼る。ここまでが1件の流れです。
申し送りと日誌の下書きを作る
ケース記録が電子化されていれば、申し送りと日誌はそこから作れます。新しく書く必要はありません。
申し送りの作り方
以下は今日のケース記録です。次の勤務者への申し送りを作ってください。 【選ぶ基準】 - 次の勤務帯で対応が必要なことだけを残す - 「特変なし」の利用者は名前を挙げず、末尾にまとめて記号で列挙 - 医療的な判断(受診の要否・服薬の変更)は書かない。 該当しそうなものは「要相談」として項目名だけ挙げる - 全体で400字以内。箇条書き 【今日のケース記録】 (ここに貼る)
「医療的な判断は書かない」を必ず入れます。ここを空けておかないと、AIが受診の要否まで書いてしまいます。それは看護職と管理者の判断であって、記録作成の補助が踏み込む領域ではありません。
業務日誌の作り方
業務日誌は、前月の日誌を3日分そろえて「この型で書いて」と渡すのがいちばん早い方法です。型を毎回説明するより、実物を見せるほうが正確に真似します。
ただし過去の日誌を渡すときも、利用者の実名は削ってから渡します。理由は次の章で説明します。
個人情報の扱いで守る線引き
ここは飛ばさずに読んでください。介護記録は、個人情報のなかでも扱いが厳しい種類にあたります。
個人情報保護委員会と厚生労働省が出している医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス(平成29年4月14日制定、令和4年3月一部改正)は、病院・診療所・薬局に加えて介護保険法に規定する居宅サービス事業を行う者等を対象としています。ここで義務とされている内容を守らない場合、個人情報保護委員会が報告徴収・立入検査・指導・助言・勧告・命令を行うことがあると明記されています。
介護記録には病歴や心身の状態が含まれます。これは要配慮個人情報にあたり、通常の個人情報より厳しい取扱いが求められます。
実務で決めておく4つのこと
| 決めること | 実務での落とし方 |
|---|---|
| 実名を入れない | 録音でもテキストでも、利用者は「A様」「利用者1」などの記号で言う・書く。記号と実名の対応表は事業所内で管理する |
| 使うサービスを限定する | 職員が各自のアカウントで自由に使う状態にしない。事業所として1つ選び、それ以外は使わない |
| 学習に使われない設定にする | 法人向けプランでは入力内容を学習に使わない設定が用意されていることが多い。契約前に確認し、設定した記録を残す |
| 委託先として管理する | 外部サービスに個人データの取扱いを委ねる場合、委託先の監督が必要になる。利用規約とセキュリティの資料を保管しておく |
個人情報保護委員会は生成AIサービスの利用について注意喚起も公表しています。要配慮個人情報の取扱いや、入力した内容が機械学習に利用される可能性に触れられています。
いちばん確実なのは、実名をそもそも外に出さない運用です。記号で回せば、多くの論点が消えます。手間は対応表を1枚作るだけです。
費用と始め方のモデルケース
通所介護(デイサービス)を想定したモデルケース(試算)です。実測値ではなく、下に書いた前提を置いた場合の計算であることを先に明記します。
- 利用者30名、介護職員10名、生活相談員1名の通所介護事業所
- 現在、ケース記録は紙のメモから介護ソフトへ転記している
- 申し送りノートと業務日誌は手書き
- 対象は入浴介助後の記録に限定して開始する
- 転記に関与する職員は1日あたり5名
| 項目 | 導入前 | 導入後(試算) |
|---|---|---|
| ケース記録の転記(職員1名あたり1日) | 25分 | 10分 |
| ケース記録の転記(5名合計) | 125分 | 50分 |
| 申し送りの作成(1日) | 20分 | 7分 |
| 業務日誌の作成(1日) | 15分 | 5分 |
| 1日あたりの合計 | 160分 | 62分 |
差は1日98分です。営業日を月22日とすると、月あたり約36時間になります。
費用の内訳
| 項目 | 費用 | 備考 |
|---|---|---|
| 生成AIの法人向けプラン | 1人 月25〜30ドル前後 | 1ドル150円換算で月4,000円前後。改定されるため公式サイトで最新額を確認してください |
| 録音機器 | 0円 | 職員のスマートフォンまたは事業所の端末で足ります |
| 導入支援(Ai-Raku) | 初期費用0円・月額5万円〜 | 指示文の作成、運用ルール、職員への説明までを含みます |
アカウントは全員分そろえる必要はありません。まず記録を担当する2〜3名だけで始めるのが現実的です。うまくいってから広げます。
最初の1か月の進め方
- 1週目:録音する場面を1つ決め、言う順番の紙を作って貼る
- 2週目:2〜3名で録音と文字起こしだけを行う。まだAIには渡さない
- 3週目:指示文を使って記録の下書きを作り、実際の記録と見比べる
- 4週目:直した点を指示文に反映し、対象の場面を1つ増やす
3週目の「見比べる」を飛ばす事業所が多いのですが、ここが定着を決めます。職員が「これなら自分が書くのと同じだ」と納得しないと、翌週から使われなくなります。
AIに任せない記録の判断
次の記録は、AIに下書きさせてはいけません。手で書いてください。
| 記録の種類 | 理由 |
|---|---|
| 事故報告書・ヒヤリハット | 事実の順序と時刻が争点になる。生成された文章は、もっともらしく順序を整えてしまう |
| 身体拘束に関する記録 | 要件に当てはまるかは法的な判断。書きぶりで意味が変わる |
| 苦情・トラブルの経過記録 | 相手の発言を正確に残す必要がある。要約すると根拠にならない |
| 医療的な判断を含む記録 | 受診の要否、服薬の変更は職種ごとの責任範囲が決まっている |
| 虐待の疑いに関する記録 | 通報の義務に直結する。一次情報を加工しない |
判断の基準は単純です。「あとで誰かに説明を求められる可能性がある記録」は人が書く。日々の定型記録だけをAIに回す。この線を先に引いておけば、迷う場面はほとんどなくなります。
もう1つ。AIが作った文章をそのまま確定させる運用は作らないでください。必ず人が読んで承認する工程を挟みます。監査や事故対応の場面で「誰が確認したか」を答えられる状態にしておく必要があります。
つまずく3つのパターン
1. 全部の記録をいっぺんに変えようとする
いちばん多い失敗です。ケース記録も申し送りも日誌もアセスメントも、まとめてAIにしようとして、どれも中途半端になります。
最初は1つの場面だけです。入浴介助後の記録だけ。それが2週間続いたら次を足します。
2. 話す順番を決めずに録音を始める
「とりあえず録音してみましょう」で始めると、内容がばらばらになります。AIは、ばらばらな入力からは、ばらばらな出力しか作れません。
順番を決めた紙を貼るところまでが準備です。この紙がないまま始めた事業所は、たいてい1か月以内に止まります。
3. 読み返す工程を省く
慣れてくると、出てきた文章をそのまま貼りたくなります。ここで事故が起きます。
AIは、メモになかったことを自然に補います。「特変なし」としか言っていないのに「穏やかに過ごされた」と書くことがあります。穏やかだったかどうかは、誰も観察していません。これが記録に残ると、事実でないものが公式な記録になります。
30秒の読み返しは、削ってはいけない工程です。
よくある質問
介護ソフトを変えないとできませんか
変えなくてもできます。ここで説明した手順は、録音と文字起こしと下書き作成までがAI側の作業で、最後は既存のソフトに貼るだけです。ソフトの入れ替えは、この取り組みとは別に検討してください。同時に動かすと、どちらの効果か分からなくなります。
利用者の名前を入れずに記録が作れますか
作れます。記号で作った下書きを介護ソフトに貼るときに、対応表を見ながら実名へ戻します。1件あたり数秒です。この数秒を惜しんで実名を外部サービスに入れる判断は、割に合いません。
訪問介護でも同じ手順が使えますか
使えます。むしろ移動時間があるぶん、車内で録音できる訪問介護のほうが向いている面があります。サービス提供責任者の業務全体については訪問介護のAI活用で扱っています。
音声認識が方言や専門用語を間違えます
間違えます。ただし手順4のAIが文脈から直すため、文字起こしの精度は完璧でなくて構いません。どうしても間違える言い回しは、指示文に「用語の対応」として列挙してください。10個も書けば、ほぼ止まります。
監査で「AIで作った記録」は問題になりませんか
記録の作成過程ではなく、記録の内容が事実に基づき、必要な項目を満たしているかが問われます。人が確認して承認する工程があり、事実と異なる記載がなければ、作成の補助にAIを使うこと自体が問題になる性質のものではありません。ただし個別の解釈は保険者によって運用が異なる場合があるため、不安があれば事前に確認してください。
職員がAIに抵抗があります
「AIが記録を書く」と説明すると抵抗されます。「メモを清書する係を付ける」と説明すると受け入れられます。実際にやっていることは後者です。最初の説明の仕方で、定着のしやすさがはっきり変わります。
まとめ
介護記録のAI活用は、記録を減らす取り組みではありません。同じことを何度も書く時間をなくす取り組みです。
- まず「1つの出来事を何回書いているか」を数える。4回書いていれば効果が出る
- 録音する場面を1つに絞り、話す順番を紙に書いて貼る
- 指示文には「書かれていないことは補わない」を必ず入れる
- 利用者は記号で扱う。実名を外部サービスに入れない
- 事故報告・身体拘束・苦情・医療判断・虐待の記録は人が書く
- 出てきた文章は30秒読み返す。この工程は削らない
- 最初の1か月は範囲を広げない。2週間続いてから次へ
今日からできるのは、更衣室に「言う順番」の紙を貼ることです。それだけで、来週の録音は使えるものになります。
どの記録から手を付けるべきか、個人情報の運用ルールづくりから含めてご一緒することもできます。お問い合わせからお気軽にご相談ください。初期費用0円・月額5万円から、業務の切り分けと定着まで伴走します。
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