AI社員の作り方|役割・情報・線引きの5手順
業務効率化支援を行う「Ai-Raku(アイラク)」代表。国立大学でAIの研究を行い、ITコンサル・ウェブコンサルを経て独立。官公庁向けの業務効率化や上場企業の支援等を経て、中小企業の現場に定着するAI活用を企画から運用まで一気通貫で支援している。著書に『中小企業のAI定着の教科書 — 入れた後に、何をするか』(2026年)。

- 作り方は人を採用するときとまったく同じ。役割・引き継ぎ・就業規則の順
- 「何でも聞けるAI」を作らない。担当業務を1つに絞ったものだけが使われる
- 差がつくのはツールではなく読ませる社内文書。ここに手間をかける
- 作って終わりにしない。月1回30分の見直し担当を置いた会社だけが続く
結論:採用と同じ手順で作る
「AI社員を作りたい」という相談を受けたとき、最初にお伝えしているのはこれです。技術の話は後回しでいい。先に人事の話をしましょう。
人を1人採用するとき、会社は何をしているでしょうか。
- どの業務を担当してもらうかを決める
- 任せる範囲と、判断してよいことを伝える
- 引き継ぎ資料を渡す
- やってはいけないことを伝える
- 試用期間を置いて様子を見る
AI社員を作る手順は、これと1つも変わりません。この記事はその5手順をそのまま実務に落としたものです。
逆に言うと、うまくいかない会社は、この5つのうち1〜4を飛ばして「便利そうだから使ってみて」とアカウントだけ配っています。人を採用するときに、担当も引き継ぎも決めずに「まあ適当にやってみて」と言う会社はありません。AIだと、なぜかそれをやってしまいます。
何でも聞けるAIが使われない理由
最初に作りたくなるのが「社内のことなら何でも聞けるAI」です。ところがこれは、ほぼ確実に使われなくなります。
理由1:答えが薄くなる
範囲を広く取るほど、1つひとつの答えは浅くなります。経理も人事も現場も全部を担当させると、どの質問にも「一般的には」で始まる答えが返ってきます。それなら検索したほうが早い、となって使われなくなります。
理由2:誰の道具か分からない
全員のためのものは、誰のものでもありません。「経理の請求書チェック担当」と決まっていれば、経理の人が毎日使います。「何でも」だと、誰も自分の仕事だと思いません。
理由3:間違いに気づけない
担当が広いと、出てきた答えが正しいか判断できる人が社内にいません。間違いに気づけない道具は、そのうち怖くて使えなくなります。
この3つは、人を採用するときにも同じことが起きます。「なんでもやります」という人を採っても、配属が決まらないまま半年が過ぎる。それと同じです。
AI社員に持たせる3つのもの
作るときに用意するのは、次の3つだけです。ツールの選定はそのあとです。
| 持たせるもの | 人でいうと | 中身 |
|---|---|---|
| 1. 役割 | 職務記述書 | 担当業務/任せる範囲/判断してよいこと |
| 2. 情報 | 引き継ぎ資料 | 手順書/よくある質問と答え/過去のやりとり |
| 3. 線引き | 就業規則 | やらせないこと/人に回すこと |
この3つが書かれた文章そのものが「AI社員」です。それをどのサービスに入れるか(ChatGPTのカスタム指示、GPTs、Claudeのプロジェクト機能など)は、あとから決めれば済みます。
実際、この3つを紙に書けた会社は、どのツールを使ってもだいたいうまくいきます。書けていない会社は、どんなに高機能なツールを入れても止まります。
AI社員を作る5手順
手順1:担当業務を1つ決める
まず1つだけ選びます。選ぶ基準は3つです。
- 毎週発生している(月1回の業務では慣れる前に忘れる)
- 答えがだいたい決まっている(毎回ゼロから考える仕事は向かない)
- 間違えても取り返しがつく(下書きの段階で人が見られる)
この3つを満たしやすいのは、社内からの問い合わせ対応、定型的な文書の下書き、マニュアルの検索といった業務です。逆に、金額の決定や人の評価は最初に選んではいけません。
手順2:任せる範囲を書き出す
職務記述書にあたるものを書きます。そのまま使える形にしておきます。
【AI社員の職務記述書】 名前:(例)ケイリさん 担当業務:経費精算に関する社内からの問い合わせ対応 ■ 任せること - 経費精算の申請方法を案内する - 提出期限と締め日を答える - 領収書の要件(宛名・但し書き)を答える - 申請書の記入例を示す ■ 判断してよいこと - 手順書に書かれている範囲の可否判断 ■ 判断してはいけないこと(人に回す) - 経費として認めるかどうかの最終判断 - 例外の承認 - 金額の訂正 - 手順書に書かれていないことの可否 ■ 人に回すときの言い方 「こちらは経理担当の確認が必要です。◯◯までご連絡ください」
「判断してはいけないこと」の欄がいちばん重要です。ここが空欄のまま運用に入ると、AIは親切に答えようとして、権限のない判断まで書きます。
手順3:会社の情報を読ませる
ここに手間をかけた会社だけが、他社と違う結果になります。ツールは誰でも同じものが買えますが、社内文書は自社にしかありません。
読ませる優先順位は次のとおりです。
| 優先 | 読ませるもの | なぜ効くか |
|---|---|---|
| 1 | 過去の問い合わせと、そのときの回答 | 実際に聞かれた言葉づかいがそのまま入る |
| 2 | 手順書・マニュアル | 正解が固定されている |
| 3 | 様式・記入例 | 「どう書けばいいか」に直接答えられる |
| 4 | 社内規程 | 根拠を示せる。ただし解釈はさせない |
1がいちばん効きます。マニュアルは「あるべき手順」しか書いていませんが、実際の問い合わせには「マニュアルに書いていないこと」が多く含まれるためです。
ただし、そのまま渡しても精度は上がりません。読ませる前に、次の3つだけ整えてください。
- 古い版を捨てる。新旧が混ざっていると、古いほうを答えることがあります
- 個人名・取引先名を外す。必要がなければ入れない
- 答えが「場合による」で終わっているものを、決めきる。決められないものは、その旨を書いて人に回す対象にする
文書の整え方は社内ナレッジのAI活用で詳しく扱っています。
もう1つ、入れてよい情報かどうかの確認が要ります。個人情報保護委員会は生成AIサービスの利用について注意喚起を公表しています。入力した内容が機械学習に利用される可能性がある点に触れられています。
実務では、次の順で確認すれば足ります。
- 入力内容を学習に使わない設定があるプランか(法人向けプランには用意されていることが多い)
- その設定を有効にした記録を残したか
- そもそも個人情報や取引先の機密を入れずに済ませられないか
3が最も確実です。手順書とよくある質問だけなら、多くの場合、機密は含まれません。ここから始めれば、上の1と2はいったん脇に置けます。
手順4:やらせないことを決める
就業規則にあたる部分です。次の5つは、業種を問わず入れておいてください。
| やらせないこと | 理由 |
|---|---|
| 金額の決定 | 値付けは経営判断。根拠を説明できない金額は出せない |
| 人の評価・選考の判断 | 不利益が生じる判断を機械に委ねない |
| 対外的な約束 | 納期・条件の回答は、会社の意思表示になる |
| 規程・契約の解釈 | 解釈は責任の伴う判断。条文の位置を示すまでにとどめる |
| 手順書に書かれていないことの可否 | 書かれていない=まだ決まっていない。人が決める |
この線引きには根拠があります。総務省・経済産業省のAI事業者ガイドライン(第1.2版)(令和8年3月31日)は、関係者をAI開発者・AI提供者・AI利用者の3主体に分けて、それぞれに期待される取組を示しています。
ここで見落とされがちな点があります。社内向けにAI社員を作って他の社員に使わせる会社は、単なる「利用者」ではなく「提供者」の立場にもなります。作った側として、使う人にどう使ってもらうかまで設計する責任が生じる、ということです。だから「やらせないこと」を先に書いておく必要があります。
手順5:2週間の試用期間を置く
いきなり全社に配らないでください。担当業務に近い2〜3人だけで2週間使います。
見るのは次の3点だけです。
- 答えられなかった質問はどれか(=読ませる文書が足りていない)
- 間違えた答えはどれか(=手順書の記述があいまい)
- 人に回すべきなのに答えてしまったものはあるか(=線引きの書き方が弱い)
2週間で見つかったものを反映してから、範囲を広げます。ここを飛ばして全社展開すると、最初の1週間で「使えない」という評価が固まり、あとから直しても戻りません。
作ったのに使われない状態が続く原因は、生成AIが社内に浸透しない理由でも整理しています。
更新する担当を1人決める
ここを決めていない会社は、半年後にほぼ止まります。理由は単純で、会社の手順が変わってもAI社員は自動では変わらないからです。
やることは月1回、30分だけです。
- 先月、答えられなかった質問を見る
- その答えを手順書に足す(AIにではなく、手順書に足すのがポイント)
- 変わった社内ルールがあれば、古い記述を消す
2番目が肝心です。AIの指示文だけを直すと、人が読む手順書との間に食い違いが生まれます。手順書を直して、それを読ませる。この順番なら、人とAIの答えがずれません。
AI事業者ガイドラインにも、各主体に対して「主体内のAIに関わる者が、AIの正しい理解及び社会的に正しい利用ができる知識・リテラシー・倫理観を持つために、必要な教育を行うことが期待される」と示されています。担当を置くというのは、この教育を回す人を決めるということでもあります。
制度の側も動いている
総務省の令和8年版 情報通信白書によると、AI法は2025年5月に制定され、同年9月から全面施行されています。2025年12月にはAI基本計画が閣議決定され、同月に「人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針」が策定されました。
中小企業がすぐ何かを届け出るという性質のものではありませんが、「誰が管理しているか」を社内で言えない状態は、今後もっと居心地が悪くなります。担当を1人決めておくことは、その備えにもなります。
費用と体制のモデルケース
従業員25名の会社を想定したモデルケース(試算)です。実測値ではなく、下の前提を置いた場合の計算です。
- 従業員25名、管理部門3名(経理2名・総務1名)
- 作るのは1人分。担当業務は「経費精算に関する社内問い合わせ」
- 問い合わせは1日8件。1件あたり平均6分(中断と再開を含む)
- 手順書と過去の問い合わせ記録は、形は悪いが残っている
- 試用期間は経理2名で2週間
| 項目 | 導入前 | 導入後(試算) |
|---|---|---|
| 問い合わせ対応(1日8件) | 48分 | 14分(人に回るのは1日2件) |
| 同じ説明の繰り返し | 週2時間 | 週30分 |
| 更新作業(月1回) | 0分 | 30分 |
| 1か月あたりの合計 | 約24時間 | 約8時間 |
差は月あたり約16時間です。
準備にかかる時間
| 作業 | 時間の目安 |
|---|---|
| 職務記述書を書く | 1〜2時間 |
| 過去の問い合わせを集めて整える | 4〜8時間 |
| 手順書の「場合による」を決めきる | 2〜4時間 |
| 試用期間の観察と修正 | 2週間で計3時間程度 |
最初の1回だけ、10〜17時間かかります。ここを見込まずに始めると「思ったより効かない」となります。逆に、この時間さえ確保できれば、以後は月30分です。
費用の内訳
| 項目 | 費用 | 備考 |
|---|---|---|
| 生成AIの法人向けプラン | 1人 月25〜30ドル前後 | 1ドル150円換算で月4,000円前後。改定されるため公式サイトで最新額を確認してください |
| 追加のツール | 0円 | 最初の1人分は、既存のプランの範囲で作れます |
| 導入支援(Ai-Raku) | 初期費用0円・月額5万円〜 | 職務記述書の設計、読ませる文書の整理、線引きの明文化、更新の回し方まで |
AIエージェントとの違い
よく混同されるので、はっきり分けておきます。重なる部分はありますが、見ているものが違います。
| AIエージェント | AI社員 | |
|---|---|---|
| 問い | どこまで自動で動けるか | どの業務を、どこまで任せるか |
| 中心にあるもの | 技術・製品の機能 | 役割と責任の設計 |
| 作るもの | 処理の流れ | 職務記述書と線引き |
| 失敗の形 | 途中で止まる/誤作動する | 作ったのに使われない |
実務では両方必要になりますが、順番があります。役割が決まっていないまま自動化を組むと、何を自動化すべきかが決まりません。まず役割、次に自動化です。
技術側の話はAIエージェントの作り方、増えたあとの管理はAIエージェント導入の管理で扱っています。具体的な作成操作はGPTsの作り方やClaudeのプロジェクト機能をご覧ください。
失敗する3つのパターン
1. 役割を広げてしまう
いちばん多い失敗です。作っているうちに「これも答えられたほうが便利では」と範囲が広がり、気づくと「何でも聞けるAI」に戻っています。
職務記述書に書いていないことは、やらせない。足したくなったら、記述書に足してから広げます。この順番を守るだけで、範囲は膨らみません。
2. 社内文書を読ませずに指示文だけで作る
指示文を長く凝った内容にすれば賢くなる、と考えてしまう。ところが、いくら指示文を磨いても、自社の締め日や様式は書いていなければ答えられません。
差がつくのは指示文ではなく、読ませた文書の量と質です。指示文は30行もあれば足ります。時間は文書の整理に使ってください。
3. 更新の担当を決めない
作った直後は動きます。3か月後に締め日が変わり、半年後に様式が変わり、それでもAI社員は古いことを答え続けます。誰かが間違いに気づいた時点で、信用が一度で失われます。
月30分です。作る前に、誰がやるかを決めてください。決まらないなら、作らないほうがましです。
よくある質問
プログラミングの知識は必要ですか
不要です。ここで書いた5手順は、すべて日本語で文章を書く作業です。難しいのは技術ではなく、「任せる範囲を決めること」のほうです。これは経営や現場を知っている人にしかできません。
どのAIサービスで作るのがよいですか
すでに社内で使っているものがあれば、それで始めてください。役割・情報・線引きの3つは、サービスが変わっても書き直す必要がありません。先に3つを紙に書き、ツールは後から選ぶのが手戻りのない順番です。社内の情報を扱う場合は、入力内容を学習に使わない設定があるプランを選んでください。
何人分のAI社員を作ればよいですか
まず1人分だけです。2週間続けて使われたら、次を足します。同時に何人分も作ると、どれも中途半端になって全部止まります。実際に3人分を同時に作ろうとして、3か月後にどれも使われていなかった例があります。
すでに「何でも聞けるAI」を作ってしまいました
作り直す必要はありません。担当業務を1つに絞り直すところからやり直せます。いま入っている情報のうち、その業務に関係のないものを外し、職務記述書を書き足す。この2つで、たいていは使われる状態に戻ります。
社員が「仕事を取られる」と警戒しています
説明の仕方で変わります。「AIに担当させます」と言うと警戒されます。「同じことを何度も聞かれる手間をなくします」と言うと、たいてい歓迎されます。実際にやっていることは後者です。担当業務を決めるときに、その人自身に「何を聞かれるのが面倒か」を挙げてもらうと、さらに早く進みます。
効果はどう測ればよいですか
2つだけにしてください。人に回った件数と、答えられなかった質問の数です。前者が減っていれば効いています。後者は、読ませる文書を足す材料になります。利用回数や滞在時間は、判断に使えません。
まとめ
AI社員を作るというのは、新しい技術を導入することではありません。1人分の仕事を切り出して、任せる範囲を決める作業です。
- 手順は採用と同じ。役割 → 引き継ぎ → 就業規則 → 試用期間
- 担当業務は1つに絞る。毎週発生し、答えが決まっていて、取り返しがつくもの
- 職務記述書には「判断してはいけないこと」を必ず書く
- 読ませるのは過去の問い合わせが最優先。マニュアルより実際の質問
- 金額・人の評価・対外的な約束・規程の解釈はやらせない
- 社内に配る側は「提供者」の立場にもなる。使い方まで設計する
- 2〜3人で2週間の試用期間。全社展開はそのあと
- 更新担当を1人決める。月30分。決まらないなら作らない
今日からできるのは、職務記述書を1枚書いてみることです。担当業務と、任せること、判断してはいけないこと。この3行が書けるなら、もう半分は終わっています。
どの業務から切り出すべきか、読ませる文書の整理から含めてご一緒することもできます。お問い合わせからお気軽にご相談ください。初期費用0円・月額5万円から、業務の切り分けと定着まで伴走します。
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