RPAとAIの違い|どこまでRPAでどこからAIか
業務効率化支援を行う「Ai-Raku(アイラク)」代表。国立大学でAIの研究を行い、ITコンサル・ウェブコンサルを経て独立。官公庁向けの業務効率化や上場企業の支援等を経て、中小企業の現場に定着するAI活用を企画から運用まで一気通貫で支援している。

- AIを入れればRPAは不要?
- なりません。役割が違うためです。総務省のガイドブックでは、現在普及しているRPAツールは自動化レベルの1段階目でAIを含んでおらず、AIを搭載した他のツールと組み合わせた利用が可能だと整理されています。手順が完全に固定された大量の転記や照合は、同じ入力に同じ出力を返すRPAのほうが確実です。AIは意味を読む工程を担い、RPAは正確に写す工程を担うという分担になります。
- RPAとAIはどちらが安いですか?
- 一概には言えません。初期費用はAIのほうが小さくなる傾向があり、RPAはシナリオ作成の工数が業務数に比例して増えます。一方、件数が非常に多い定型転記では、RPAのほうが1件あたりの費用が下がります。比較すべきは製品の価格ではなく、対象業務の件数と手順の安定度です。
- 止まったRPAは直す?捨てる?
- 月間件数で決めてください。数十件以下なら、保守の手間が削減時間を上回ることが多いため捨てる判断が合理的です。数百件以上あり手順が今も同じなら直す価値があります。止まった原因が外部サイトの仕様変更である場合は、また止まるため、別の入手経路を検討してください。
- RPAは自社で作れますか?
- 一定の素養があれば可能です。総務省のガイドブックには、シナリオ作成・保守はプログラミングよりは難易度が低いとはいえ、繰り返しや条件分岐、変数の扱いなどの基礎的な素養が必要になることが多く、OAソフトのように誰もができるものとは言えない、という趣旨の記述があります。内製する場合は、必ず2人以上が触れる状態にしてください。1人に依存すると、その人の異動で止まります。
- 中小企業でもRPAは効きますか?
- 条件がそろえば出ます。2026年版中小企業白書には、従業員40名の物流企業がExcelへの手入力からRPAの活用による自動化を実現し、得意先別や輸送ルート別の日次の売上高・利益率・付加価値額等が自動で算出される体制を構築した事例が掲載されています(出典:中小企業庁「2026年版 中小企業白書」)。件数が多く手順が固定された作業があるかどうかが分かれ目です。
- 何から自動化すべきですか?
- その悩みは多数派です。2026年版中小企業白書によると、AIを活用していない理由の第1位は「活用する業務がイメージできていない」で63.4パーセントでした。まずは担当者が「面倒だ」と口にする作業を10個書き出し、本記事の4つの問いで判定してみてください。思いつかないのではなく、書き出していないだけであることがほとんどです。
- 生成AIとAI-OCRの違いは?
- AI-OCRは主に紙や画像から文字を読み取る技術で、生成AIは文章を理解して新しい文章を作る技術です。実務では、AI-OCRで読み取ってから生成AIで内容を整理し、RPAでシステムに入力する、という組み合わせになることがあります。総務省の資料でも、AI-OCRとRPAの組み合わせによる自治体での活用例が増えているとされています。
- RPAの費用はいくらですか?
- 製品と台数で大きく変わるため、相場を断定することはできません。構造としては、ライセンス費用(台数や実行環境の数で決まる)、シナリオ作成の工数、そして変更対応の保守費用の3つで決まります。参考として、総務省の令和7年度調査では自治体のRPA年間運用費用は1,000千円から2,500千円未満の回答が最も多くなっています(出典:総務省「自治体におけるAI・RPA活用促進(令和7年度)」)。自治体と中小企業では規模が異なるため、そのまま当てはめず、必ず自社の条件で見積を取ってください。
- 導入を進める人材がいません
- 人材不足は全国共通の課題です。総務省の令和7年度調査では、RPAの導入における課題として「取り組むための人材がいない又は不足している」が1,026件で最も多く、次いで「取り組むためのコストが高額であり予算を獲得するのが難しい」が621件、「RPAの技術を理解することが難しい」が495件でした(出典:総務省「自治体におけるAI・RPA活用促進(令和7年度)」)。中小企業では、まず対象業務を1つに絞り、外部の支援を使いながら社内に手順を残す進め方が現実的です。
- 社員がAIを使ってくれません
- 教える時間が足りていない可能性が高いです。2026年版中小企業白書では、従業員のITツール活用促進に向けた研修や勉強会を実施している企業のほうが、実施していない企業より効果が得られたと回答する割合が高いことが示されています。週1回30分でも構いません。使い方を聞ける場所があるかどうかが定着を分けます。個別の対処はAIが使えないと感じたときの見直し方で解説しています。
- 大企業とのAI導入率の差は?
- 大きく違います。IPAの調査では、AIの導入状況を従業員規模別に見ると、1,001人以上の企業で8割近くが導入している一方、101人以下の企業では16.6パーセントにとどまっています(出典:IPA「国内企業のDX動向・AI活用動向のポイントを公開」)。ただし、この差は資金力より使いどころを決められているかどうかの差である場合が多く、小規模でも判定表を埋めれば追いつけます。
- AI導入でどんな効果が出る?
- 効果の中心は業務効率化です。IPAの調査によると、AI導入による効果の内容は「業務が効率化したり迅速化した」が91.6パーセントと最も高く、「企画提案等の品質や速さが向上した」が48.9パーセント、「残業時間の削減につながった」が29.2パーセントでした。一方で「顧客満足度が向上した」は4.5パーセント、「売上や利益が向上した」は3.9パーセントにとどまっています(出典:IPA「国内企業のDX動向・AI活用動向のポイントを公開」)。まずは効率化を狙うのが素直な入り方だと言えます。
- 日本企業は生成AIに何を期待?
- 総務省の令和7年版情報通信白書によると、生成AIの活用推進による自社への影響について、日本では「業務効率化や人員不足の解消につながる」が最も多く挙げられており、他の3か国ではビジネスの拡大や新たな顧客獲得、新たなイノベーションを多く挙げる傾向にあるとされています。なお同白書は、4か国いずれもポジティブな面をネガティブな面よりも注目しているとも述べています(出典:総務省「令和7年版 情報通信白書」企業におけるAI利用の現状)。
- 自治体の事例は参考になる?
- 業務内容は異なりますが、つまずき方は驚くほど似ています。人材不足、効果が不明、担当者の異動で止まる、外部システムの変更で動かなくなる。いずれも中小企業で起きていることと同じです。自治体の情報は公開量が多く、失敗も含めて記録されているため、判断材料としては非常に有用です。導入手順の考え方は総務省「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック 導入手順編」も参考になります。
「RPAを入れたのに、いつの間にか動かなくなって放置している」「AIを入れればRPAはもう要らないのではないか」。中小企業の経営者や情報システム担当の方から、この2つの相談をほぼ同時に受けるようになりました。
ところが検索して出てくる解説の多くは、「RPAは手、AIは脳」「RPAは決まった作業、AIは判断が必要な作業」という説明で終わっています。間違ってはいないのですが、これを読んでも目の前の請求書処理をどちらに任せればいいのかは分かりません。実際の業務は「決まった作業」と「判断が必要な作業」が1本の流れの中に混ざっているからです。
この記事では、RPAとAIの違いを言葉の定義でなく「同じ業務のどこまでをRPAに任せ、どこからAIに任せるか」という線引きとして整理します。当社はAI導入支援を行う事業者ですが、RPAのほうが適している場面は、そのとおりに書きます。AIを売りたいがためにRPAを不要だと書くことは、結果的に導入の失敗を増やすだけだからです。
- RPAとAIの違いを、4つの問いで自社の業務に当てはめる方法
- 「この業務はRPAか、AIか、どちらも要らないか」を判定する表
- RPAのほうが確実に優れている場面と、その理由
- RPAが動かなくなる3つの原因と、放置されたRPAの立て直し手順
- 従業員45名の製造業を想定したモデルケースの試算
- RPAとAIのどちらから手を付けるべきかの順番
結論|線引きは4つの問いで決まる
先に結論をお伝えします。RPAとAIのどちらを使うかは、ツールの性能ではなく対象業務の性質で決まります。そして、その性質は次の4つの問いで判別できます。
判断は4つの問いで足りる
- 手順が毎回同じか。例外が出るたびに人が考えるなら、RPAには向きません
- 画面や書式の位置が変わるか。変わるならRPAは止まります
- 文章の意味を読む必要があるか。読む必要があるならAIの領域です
- 間違えたとき、元に戻せるか。戻せないならどちらにも最終判断をさせません
この4問のうち、1と2が「同じ・変わらない」で、3が「読む必要はない」ならRPAです。3が「読む必要がある」ならAIです。そして4が「戻せない」場合は、RPAでもAIでも実行の直前に人の承認を挟む設計にします。
この4問には、もうひとつ重要な使い方があります。「どちらも要らない」業務を見つけることです。詳しくは後述しますが、実務ではここが最も費用対効果の高い発見になります。
RPAとAIは競合しない
まず誤解を解いておきます。AIが普及してもRPAは不要になりません。役割が違うからです。
総務省が令和7年7月に公表した「自治体におけるRPA導入ガイドブック」には、RPAには3段階の自動化レベルがあり、AIを搭載した2段階目以上であればその都度判断を要する非定型作業も自動化できるとされる一方、現在普及しているRPAツールは1段階目(クラス1)でAIは含んでいないという整理が明記されています。そのうえで、AIを搭載した他のツールと組み合わせた利用は可能であり、特にAI-OCRとの親和性が高いとされています(出典:総務省「自治体におけるRPA導入ガイドブック」(令和7年7月))。
つまり公的な整理としても、RPAとAIは置き換え合う関係ではなく、組み合わせる関係として扱われています。実務でも、AIが読み取った結果をRPAがシステムに入力する、という構成が最も現実的です。
当社がRPAを勧める場面
当社はAI導入支援の事業者です。それでも、次の条件がそろう業務にはAIではなくRPAを勧めます。
- 処理件数が月に数百件以上あり、手順が完全に固定されている
- 入力先の画面が自社で管理しているシステムで、勝手に変わらない
- 1文字でも間違えてはいけない転記である
この条件では、AIを使う理由がありません。AIは同じ入力に対して毎回まったく同じ出力を返すとは限らないため、1文字も間違えてはいけない転記には構造的に不利です。決まった手順を寸分違わず繰り返すことについては、RPAのほうが確実です。
RPAとは何か|できることの範囲
比較の前に、RPAの定義と限界を正確に押さえます。ここを曖昧にしたまま導入すると、後述する「動かなくなって放置」に直行します。
RPAの定義とシナリオ
RPA(Robotic Process Automation)とは、人がパソコンで行う画面操作を、あらかじめ定義した手順どおりに自動実行するソフトウェアのことです。この処理手順や判断条件を具体的に記述したものを「シナリオ」と呼びます。
総務省のガイドブックでは、RPAができる処理を「検索・参照」「転記・登録」「集計・集約」「抽出・仕訳」「加工・変換」「照合」の6つに整理しています。処理対象はリスト、システム上のデータ、電子メール、帳票などで、結果も同じ形式で残ります(出典:総務省「自治体におけるRPA導入ガイドブック」)。
言い換えると、RPAは「見て、写して、突き合わせる」作業の自動化です。人間が画面を見ながらやっている単純作業を、そのまま代行します。
RPAができない3つのこと
同じガイドブックは、RPAができないことも明記しています。RPAは与えられたインプットとシナリオのとおりに動作し、人間のようにあらゆる状況に応じてその都度判断し、迷ったら指示を仰ぐということはできないとされています。したがって、判断を必要としない、または判断の条件をすべて定義しきれるような単純作業のみを切り出して行わせることになります。
実務に翻訳すると、RPAができないことは次の3つです。
- 意味を読むこと。「至急」と「なるはや」が同じ意味だと判断できません
- 想定外への対応。定義していないパターンが来ると、止まるか誤作動します
- 見た目の揺れの吸収。取引先ごとに書式が違う注文書は、そのままでは扱えません
1件だけなら人のほうが速い
見落とされがちな指摘があります。同ガイドブックは、1件あたりにかかる処理時間で比べた場合、RPAが人間より短時間で終えられるとは限らないと述べています。熟練した職員のほうが手早く終えられることも珍しくなく、事前準備や処理結果の確認も含めればRPAを使うほうが時間がかかることもある、という記述です。
RPAが真価を発揮するのは、同じ処理を何件も繰り返す必要があるときです。休まず間違えず処理を続けられること、そしてRPAが処理している間に人がそれに付き合う必要がないことが本質的な価値だと整理されています。
この一文は、中小企業のRPA検討で最も重要な判断材料です。月に10件しかない作業をRPA化しても、シナリオ作成と保守の手間のほうが大きくなります。件数が少ない業務は、後述する「どちらも要らない」に振り分けるほうが合理的です。
AIとの違いを6つの観点で比較
ここでのAIは、文章や画像の内容を扱う生成AIおよびAI-OCRを指します。両者の違いを、導入判断に直結する6つの観点で比較します。
比較表で全体をつかむ
| 観点 | RPA | AI(生成AI・AI-OCR) |
|---|---|---|
| やっていること | 決めた手順どおりの画面操作 | 入力内容から確からしい出力を推定 |
| 同じ入力への出力 | 常に同じ(再現性が高い) | 揺れることがある(再現性は保証されない) |
| 想定外への反応 | 止まる、または誤作動する | それらしい答えを返してしまう |
| 準備に必要なもの | 手順の定義(シナリオ作成) | 指示文と判定基準、確認の仕組み |
| 壊れ方 | 画面や仕様の変更で突然止まる | 止まらないまま精度だけ下がる |
| 向く業務 | 件数が多く手順が固定の転記・照合 | 文章や書式が毎回変わる読み取り・下書き |
決定的な違いは「ゆらぎ」
6つのうち最も本質的なのは、2行目の再現性です。
RPAは、同じデータを入れれば毎回まったく同じ結果を返します。だから金額の転記を任せられます。一方のAIは、同じ文章を渡しても表現が変わることがあり、まれに判断も変わります。だからAIには「正解が1つしかない作業」を単独で任せてはいけません。
逆に、この「ゆらぎ」があるからこそAIは未知の入力に対応できます。取引先ごとに書式の違う注文書から品番と数量を拾う作業は、書式のパターンを全部定義しなくても動きます。RPAでこれをやろうとすると、取引先の数だけシナリオを作ることになります。
誤りの出方が正反対
運用上、最も注意すべきは間違え方の違いです。
RPAは間違えるとき、たいてい止まります。画面が変わればボタンを押せず、そこで処理が終わります。異常は目に見えます。
AIは間違えるとき、止まりません。それらしい答えを出し続けます。数字を1桁読み違えても、そのまま自信ありげに出力します。だからAIを使う業務では、出力の確認方法をセットで設計しないと事故に気づけません。この点は、AIを入れたのに現場が使わなくなる典型的な原因でもあります。詳しくはAIが使えないと感じたときの見直し方で整理しています。
判定表|RPAかAIかどちらも不要か
ここからが本記事の中心です。4つの問いを、実際に業務へ当てはめられる形にします。
4つの問いの答え方
| 問い | 確認のしかた | RPA寄りの答え | AI寄りの答え |
|---|---|---|---|
| 1. 手順が毎回同じか | 直近20件で、手順が分岐した回数を数える | 0回から2回 | 3回以上、または数えられない |
| 2. 画面や書式の位置が変わるか | 入力元の資料を10件並べて見比べる | すべて同じ位置に同じ項目がある | 差出人ごとに項目の位置が違う |
| 3. 文章の意味を読む必要があるか | 「この欄をどう埋めるか」を新人に説明してみる | 位置と転記先だけで説明できる | 文脈や背景の説明が必要になる |
| 4. 間違えたとき元に戻せるか | 誤入力を1件戻す手順が書けるか試す | 戻せる(社内システム内で完結) | 戻せない(送信・支払・対外提出) |
4番目だけは、RPAとAIの選択ではなく人の承認をどこに置くかの問いです。「戻せない」に該当する業務は、自動化そのものを止めるのではなく、最後の実行ボタンだけを人が押す設計にしてください。
業務別の判定早見表
中小企業で相談の多い業務を、4つの問いで判定した結果です。自社の業務名に読み替えてご覧ください。
| 業務 | 手順は同じか | 位置は変わるか | 意味を読むか | 判定 |
|---|---|---|---|---|
| 受注データの基幹システム入力 | 同じ | 変わらない | 読まない | RPA |
| 取引先ごとに書式の違う注文書の読み取り | 同じ | 変わる | 少し読む | AI(読み取り)+RPA(入力) |
| 請求データと入金データの突合 | 同じ | 変わらない | 読まない | RPA |
| 問い合わせメールの返信下書き | 違う | 変わる | 読む | AI(送信は人) |
| 見積書の下書き作成 | 違う | 変わる | 読む | AI(金額確認は人) |
| 勤怠データの集計と月次集約 | 同じ | 変わらない | 読まない | まず標準機能を確認 |
| 会議の議事録作成 | 違う | 変わる | 読む | AI |
| 月次の在庫レポート作成 | 同じ | 変わらない | 読まない | まず標準機能を確認 |
| 複数サイトからの価格情報収集 | 同じ | 変わることがある | 少し読む | 要検討(外部サイト依存) |
| 採用応募者への一次返信 | 同じ | 変わらない | 読まない | まず標準機能を確認 |
「どちらも不要」が最も多い
表の中に「まず標準機能を確認」が3つあることに気づかれたと思います。これは意図的です。
総務省のガイドブックには、Excelファイルの加工・変換などはExcelやマクロ機能でも実現でき、業務システムに機能として搭載されていれば、RPAで自動化する必要はないかもしれないという趣旨の記述があります。そのうえで、現に利用している業務システムにその機能がない場合に、RPAであれば時間とコストを抑えて作業を自動化できる可能性があると整理されています(出典:総務省「自治体におけるRPA導入ガイドブック」)。
当社が業務の棚卸を手伝うと、自動化の相談として持ち込まれた業務の一定数が、既存システムの標準機能で解決します。集計機能を使っていない、CSVの取り込み機能を知らない、といった理由です。RPAもAIも入れずに済むのですから、これが最も安く確実な答えです。
次に多いのが、Excelの関数や機能で足りるケースです。Excel側でできる範囲はExcelのAI自動化でできることにまとめています。そして最後に残ったものだけが、RPAかAIの検討対象になります。
判定の順番は「標準機能で足りないか」「Excelで足りないか」「手順は固定か」「意味を読む必要はあるか」です。いきなりRPAかAIかを議論すると、要らない自動化に費用を払うことになります。
同じ業務を工程で切り分ける
実務でつまずくのは、1つの業務がまるごとRPA向きだったりAI向きだったりすることはほとんどないという点です。1本の業務を工程に割ると、答えが出ます。
請求書処理を5工程に割る
仕入先からの請求書を処理して支払うまでを、5つに割ってみます。
| 工程 | 内容 | 担当 | 理由 |
|---|---|---|---|
| 1. 受領 | メール添付のPDFを所定フォルダに保存 | RPA | 手順が固定で件数が多い |
| 2. 読み取り | 取引先ごとに異なる書式から金額と品目を抽出 | AI | 書式が毎回変わる |
| 3. 照合 | 発注データと金額・数量を突き合わせる | RPA | 正解が1つで、揺れてはいけない |
| 4. 例外処理 | 差異が出た明細の原因を調べる | 人 | 判断の条件を定義しきれない |
| 5. 支払承認 | 支払データを確定して実行 | 人 | 間違えると元に戻せない |
この分け方の要点は、2の読み取りだけがAIだということです。「請求書処理をAIで自動化する」という言い方をすると、3の照合までAIに任せてしまいがちですが、照合は正解が1つに決まる作業なので、揺れる可能性のあるAIに任せる理由がありません。
問い合わせ対応の切り分け
もう1例、問い合わせ対応です。
- 受信と振り分け:件名や差出人での機械的な仕分けはRPA。内容を読んでの分類はAI
- 返信の下書き:過去の対応履歴を踏まえた文面はAI
- 顧客管理システムへの登録:項目が固定ならRPA
- 送信:人。誤送信は取り消せません
この切り分けをすると、「AIで問い合わせ対応を自動化」という漠然とした要望が、4つの小さな課題に分解されます。分解できれば、費用も期間も見積もれるようになります。要件の詰め方は要件定義の進め方で詳しく扱っています。
つなぎ目に人の承認を置く
工程を割ったら、次はつなぎ目を決めます。原則は1つだけです。
「間違えても社内で戻せる工程」の後ろには人を置かない。「間違えると外に出る工程」の前には必ず人を置く。
この原則で設計すると、確認作業が最小限になります。全工程で人が確認する運用にすると、自動化しても手間が減らず、現場から「二度手間だ」と言われて使われなくなります。逆に承認をどこにも置かないと、誤送信や誤払いが起きた瞬間に運用が止まります。
RPAのほうが適している場面
当社はAI導入支援の事業者ですが、この章ではRPAを選ぶべき場面を正直に書きます。ここを曖昧にすると、読者が高い買い物をすることになるからです。
件数が多く手順が固定の作業
1件あたりの作業が単純で、件数が月に数百件以上あり、手順が固定されている作業。これはRPAの独壇場です。AIに置き換える技術的な理由がありません。
総務省のガイドブックが示す対象業務の判断基準も、この方向で一致しています。適した業務として「典型的な活用パターンに適合する業務」「定型的で複雑な判断を要しない業務」「大量の処理を繰り返し行う業務」「即時対応が求められず、まとめて行える業務」「入口となるインプット情報が電子化されている、または電子化できる業務」「処理対象が安定しており変化が少ない業務」が挙げられています(出典:総務省「自治体におけるRPA導入ガイドブック」)。
間違いが許されない転記
金額、口座番号、数量、日付。これらの転記は、1文字の誤りが実損になります。同じ入力に対して常に同じ出力を返すRPAのほうが、構造的に安全です。
AIに読み取らせる場合でも、実務では読み取り結果を人か機械が必ず突き合わせる工程を挟みます。この突合そのものはRPAの仕事です。「AIで読み取ってAIで確認する」構成にしないでください。同じ誤りを2回繰り返す可能性があります。
自治体の削減実績が示すもの
RPAの効果が幻想ではないことは、公的な集計で確認できます。総務省が令和8年4月24日に公表した令和7年度調査によると、RPAの導入済団体数の割合は都道府県が98パーセント、指定都市が100パーセント、その他の市区町村が44パーセントで、実証中・導入予定・導入検討中を含めると約62パーセントがRPA導入に向けて取り組んでいます。調査は1,788団体を対象に行われ、1,788団体すべてから回答が得られています(出典:総務省「令和7年度 地方自治体におけるAI・RPAの実証実験・導入状況等調査の調査結果の公表」)。
削減効果の具体例も公表されています。同調査の概要資料には、ある都道府県で河川海岸等許可台帳システムへの入力業務が年間3,300時間の削減(99パーセント減)、自動車税種別割継続検査確認業務が年間1,400時間の削減(80パーセント減)となり、合計で年間26,128時間の削減に至った例が挙げられています。また人口10万人未満の団体でも、複数業務への適用で合計1,000時間を超える効果が得られた例が示されています(出典:総務省「自治体におけるAI・RPA活用促進(令和7年度)」)。
99パーセント減という数字が出るのは、手順が完全に固定された大量転記だからです。中小企業でも、条件がそろえば同じ性質の効果が出ます。逆に言えば、条件がそろわない業務にRPAを入れても、この数字にはなりません。
AIに任せるべき場面
次に、AIを選ぶべき場面です。判断基準は3つあります。
文章の意味を読む作業
問い合わせの意図を汲む、議事録から決定事項を抜き出す、仕様書を読んで見積の前提を整理する。これらは入力のパターンを事前に定義できないため、RPAでは扱えません。
実際の企業のAI利用も、この方向に集中しています。IPAが2026年7月16日に公表した調査によると、AIの利用用途は「文書・音声の要約・翻訳・校正」が82.5パーセントと最も高く、次いで「文書・レポートの作成」が80.5パーセント、「情報検索・収集・分析・レポーティング」が77.0パーセントでした。一方で「生産・物流・サービス提供の計画支援」は6.0パーセント、「自社製品・サービスの高度化」は10.9パーセントにとどまっています(出典:IPA「国内企業のDX動向・AI活用動向のポイントを公開」(2026年7月16日))。
この分布は、いま実務で成果が出ているAIの用途がほぼ文章まわりに限られていることを示しています。過度な期待を持たず、ここから入るのが確実です。
毎回書式が変わる入力
取引先ごとに様式の違う注文書、手書きの申込書、レイアウトが統一されていない社内の報告書。RPAで扱うには様式ごとにシナリオを作る必要があり、様式が増えるたびに保守が増えます。
ここはAI-OCRや生成AIの読み取りが向きます。総務省の資料でも、AI-OCRとRPAを組み合わせることで紙の申請書等をデジタルデータ化してシステムに入力する一連の作業を効率化でき、自治体での活用例が増えてきているとされています(出典:総務省「自治体におけるRPA導入ガイドブック」)。
人が最終確認できる作業
3つ目の条件は、AI側の性質ではなく業務側の条件です。AIの出力を人が確認できる作業であること。具体的には、次のいずれかが成り立つ業務です。
- 出力が短く、目視で正誤を判断できる(返信文の下書きなど)
- 元データと突き合わせれば正誤が分かる(読み取り結果など)
- 間違えても手戻りが小さい(社内向けの要約など)
この条件を満たさない作業、たとえば「誰にも検算できない集計をAIに任せる」といった使い方は避けてください。AIが業務システムを横断して動く仕組みを検討する段階に入っている場合は、AIエージェントとはとAIエージェントの作り方もあわせてご覧ください。
RPAが動かなくなる原因と対処
ここからは、読者の最大の悩みである「入れたRPAが動かなくなって放置している」に正面から答えます。原因は感覚的なものではなく、公的資料に整理されています。
画面や仕様の変更で止まる
総務省のガイドブックは、運用段階のリスクとして次の点を挙げています。RPAのシナリオに不具合がなかったとしても、操作対象の業務システムの画面や処理内容、入口となる帳票やデータの仕様が変更されれば、その時点からRPAは意図した動作ができなくなる。とくに外部のシステム(インターネット上のサービスやウェブサイトを含む)の仕様変更は事前の通告なく頻繁に行われることもあるので留意が必要、という記述です(出典:総務省「自治体におけるRPA導入ガイドブック」)。
これがRPA最大の弱点です。自社で管理していないシステムを操作するシナリオは、いつ止まってもおかしくありません。だから前掲の判定表で、外部サイトからの情報収集を「要検討」に置いています。
対処は2つです。第一に、止まったことに気づける仕組みを先に作ること。同ガイドブックも、どこまで正しく動作できたか確認できるようログを残すこと、実運用後も処理結果を確認し、停止・誤作動があった場合に対応できる体制を確保することが必要だとしています。第二に、操作対象を自社管理下のシステムに寄せることです。可能ならCSVの入出力やAPI連携に置き換えます。
制度改正に修正が追いつかない
2つ目の原因は、業務そのものの変更です。同ガイドブックには、RPAの導入を意図せず取りやめた事例として、総務省の調査結果から次の3件が紹介されています。
- RPAで自動化していた処理が基幹系システムに実装されたため、導入して数年でそのRPAが不要となり、費用対効果が悪いものとなってしまった
- RPAを導入した業務は制度改正が頻発しており、シナリオの修正が追い付かず利用をやめてしまった
- RPAを利用していた職員の異動後、後任に運用が引き継がれず利用をやめてしまった。もしくはシナリオのメンテナンスができなくなり利用を中止した
1つ目は中小企業でも頻繁に起こります。基幹システムの更新でRPAが要らなくなるのは失敗ではありませんが、更新予定を知らずに大規模なシナリオを作ると無駄になります。RPA化の前に、そのシステムの更新予定と保守契約の内容を確認してください。
担当者の異動で保守が途絶える
3つ目が、中小企業では最も深刻です。同ガイドブックも、シナリオ作成・保守を内製化している場合には担当者の異動・退職等により内部構造が分からなくなり、メンテナンスができなくなることがないような準備が必要だとし、長期にわたり処理をRPAに任せきりにしていた場合、いざという時に対応できる職員がいないおそれがあると指摘しています。
中小企業では担当者が1人しかいないことが普通です。対処は次の3つに絞ってください。
- シナリオごとにA4で1枚の説明書を作る。「何をするものか」「いつ動くか」「止まったら誰に連絡するか」「手作業で代替する手順」の4項目で足ります
- 手作業の手順書を捨てない。RPAが止まった日に業務を止めないための保険です
- 作った本人以外が1回動かしてみる。引き継ぎができるかは、実際にやってみないと分かりません
野良ロボットという状態
担当者が異動し、メンテナンスされずに放置されたRPAは、同ガイドブックで「野良ロボット」と呼ばれ、セキュリティ上のリスクにもなりかねないものだと説明されています。RPAは職員に代わって業務システムを操作する権限を持つため、実行を制限していなければ不正利用が可能になること、認証情報をシナリオファイル内に保持していると閲覧・編集から情報が取得されうることも指摘されています。
放置されたRPAは、動かないだけでなくリスクです。使っていないシナリオが残っているなら、止めて権限を外すところまでを含めて片付けてください。
放置されたRPAの立て直し手順
すでにRPAが放置されている場合の、現実的な立て直し手順です。3ステップで足ります。
まず台帳を作って棚卸す
最初にやることは、新しいツールの検討ではありません。いま何本のシナリオがあるかを数えることです。総務省のガイドブックも、RPAの適用業務、自動化範囲、動作環境、操作対象のシステム名、管理者、担当者等の情報を管理台帳に記載し、一元管理することを構成管理の方法として挙げています。
中小企業向けに簡略化すると、次の6列で十分です。
| 列 | 記入内容 |
|---|---|
| シナリオ名 | 何をするものか、業務名で書く |
| 最終稼働日 | 最後に正常終了した日 |
| 操作対象 | どのシステム、どの画面を触るか |
| 月間件数 | 実際に処理している件数 |
| 担当者 | 直せる人の名前(不在なら空欄のまま) |
| 状態 | 稼働中/停止中/不明 |
「不明」が並ぶこと自体が現状把握です。恥ずかしがらずに空欄で埋めてください。
直す・捨てる・AIに移すの判断
台帳ができたら、1本ずつ次の判断をします。
| 状況 | 判断 | 理由 |
|---|---|---|
| 月間件数が多く、手順は今も同じ | 直す | RPAが最も効く条件がそろっている |
| 月間件数が数十件以下 | 捨てる | 保守の手間が削減時間を上回る |
| 止まった原因が外部サイトの変更 | 捨てるか作り直す | また止まる。別の入手経路を探す |
| 書式が増えて分岐が膨らんでいる | AIに移す | 読み取りはAI、入力はRPAに再分割 |
| 基幹システムに同じ機能ができた | 捨てる | 標準機能が常に優先 |
| 誰も内容を説明できない | 止めて権限を外す | 野良ロボットの状態にしない |
捨てる判断を先にする
立て直しでいちばん大事なのは、捨てる判断を先にすることです。
放置されたRPAを全部直そうとすると、担当者1人の手が完全に塞がります。まず捨てるものを決めて本数を減らし、残った少数を確実に動く状態に戻す。この順番でないと終わりません。
当社が支援に入る場合も、最初の2週間は棚卸と廃止の判断だけを行います。新しい仕組みの話はそのあとです。DX全般の進め方でつまずいている場合はDXが失敗する理由もあわせてご覧ください。
モデルケース|金属加工B社の試算
試算の前提
以下は実在の企業ではなく、当社が想定する典型的な状況にもとづくモデルケース(試算)です。実際の効果は業務内容・件数・システム構成によって大きく変わります。試算は人件費を時給2,500円、月20営業日として計算しています。削減時間はそのまま人件費の削減を意味するものではなく、他の業務に振り向けられる時間として整理しています。
モデル企業は、従業員45名の金属加工業B社です。3年前にRPAを導入しましたが、担当者の退職後にシナリオが2本止まったまま放置され、「AIを入れればRPAは要らないのでは」という相談から検討が始まった、という設定です。
業務ごとの切り分け結果
4つの問いで棚卸した結果、5つの業務は次のように振り分けられました。
| 業務 | 月間件数 | 判定 | 判定理由 |
|---|---|---|---|
| 受注データの基幹システム入力 | 約600件 | RPA(既存を直す) | 手順固定、画面は自社管理 |
| 注文書PDFの読み取り | 約300件 | AIに移す | 取引先12社で書式が違う |
| 見積書の下書き作成 | 約60件 | AI | 仕様書を読む必要がある |
| 請求と入金の突合 | 約400件 | RPA(既存を直す) | 正解が1つ、揺れは許されない |
| 月次の在庫レポート | 月1回 | どちらも不要 | 基幹システムの帳票機能で出せた |
この時点で、止まっていた2本のうち1本(在庫レポート用)はそもそも直す必要がなかったことが分かりました。基幹システムの標準帳票で同じ表が出せたためです。導入当時は担当者がその機能を知らなかった、という経緯でした。
削減時間と費用の試算表
| 業務 | 担当 | 導入前(月) | 導入後(月) | 削減時間 | 削減額相当 |
|---|---|---|---|---|---|
| 受注データ入力 | RPA | 40時間 | 6時間 | 34時間 | 85,000円 |
| 注文書PDFの読み取り | AI+人の確認 | 30時間 | 12時間 | 18時間 | 45,000円 |
| 見積書の下書き | AI+人の確認 | 24時間 | 10時間 | 14時間 | 35,000円 |
| 請求と入金の突合 | RPA | 16時間 | 4時間 | 12時間 | 30,000円 |
| 月次の在庫レポート | 標準機能 | 8時間 | 1時間 | 7時間 | 17,500円 |
| 合計 | ― | 118時間 | 33時間 | 85時間 | 212,500円 |
費用の考え方も明示しておきます。当社の導入支援は初期費用0円、月額5万円です。これとは別に、RPAツールのライセンス費用とAIサービスの利用料が発生します。これらは製品・台数・利用量で決まるため、本記事では金額を記載しません。見積の段階で、ライセンス本数と課金の単位(台数か利用量か)を必ず確認してください。
なお、85時間の削減はそのまま人件費が85時間分減ることを意味しません。B社の場合、浮いた時間は見積対応の件数増と、残業の削減に振り向ける想定です。効果の測り方は、削減額ではなく「何時間を、何に使えるようになったか」で見るほうが現場に伝わります。
つまずいた点と対処
うまくいった話だけでは参考になりません。B社の想定でつまずく点を3つ挙げます。
- 基幹システムの更新でRPAが再び止まった。対処として、更新予定を保守会社から3か月前に連絡してもらう取り決めを作り、更新後に必ず再テストする手順を台帳に書きました
- AIの読み取りが100パーセントにはならない。金額欄と数量欄だけは人が全件確認する運用にしました。それでも作業時間は3割以下になっています
- 現場が最初の1か月は元の手作業に戻した。対処として、週1回30分の相談枠を設けました。中小企業白書でも、従業員のITツール活用促進に向けた研修や勉強会を実施している企業では「想定した効果が得られなかった」との回答が8.7パーセントであるのに対し、実施していない企業では19.1パーセントであることが示されています(出典:中小企業庁「2026年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要」)
ツールより、教える時間のほうが定着を決めます。これは当社が支援した現場でも一貫して同じです。
「RPAが止まっているが、直すべきか捨てるべきか分からない」「AIに置き換えられるのか判断できない」という段階でも構いません。当社は業務の棚卸と切り分けからお手伝いしています。無料相談はこちらからお問い合わせください。
どちらから手を付けるかの順番
「RPAとAI、どちらから始めるべきか」という質問には、条件付きの答えがあります。
最初にやるのは業務の棚卸
どちらでもありません。最初にやるのは業務の棚卸です。
総務省のガイドブックも、RPAの導入ありきで検討するのではなく、まず業務の棚卸を行い現状を可視化したうえで対象業務を特定する進め方が、より大きな効率化の効果を得るためには必要だとしています。同時に、棚卸自体はRPAの導入ありきで行う必要はなく、AIの活用や業務委託など、RPA以外の業務改善も含めて検討することが考えられるとも書かれています(出典:総務省「自治体におけるRPA導入ガイドブック」)。
棚卸の粒度に迷う場合は、業務効率化のアイデア集にある業務の洗い出し方が使えます。全業務を対象にする必要はありません。担当者が「面倒だ」と口にする作業から10個書き出せば十分です。
AIから始めたほうが早い理由
棚卸のあと、中小企業ではAIから始めたほうが早いケースが多くなります。理由は3つです。
- 始めるまでが速い。AIは契約したその日から試せます。RPAはシナリオを作るまで何も動きません
- 失敗しても捨てやすい。合わなければ使うのをやめるだけです。RPAは作った資産が無駄になります
- 棚卸の精度が上がる。AIを触ると、社員が「この作業も自動化できるのでは」と言い始めます
ただし例外があります。すでに月数百件の定型転記が特定できていて、担当者の残業がそこに集中している場合は、RPAが先です。効果が最も大きく、判断も明確だからです。
なお、AIから始めるべきという当社の見解は、中小企業のAI活用が思ったほど進んでいないという現実も踏まえています。2026年版中小企業白書によると、AI活用に「取り組んだ」と回答した中小企業は30.3パーセントでした。活用していない理由としては「活用する業務がイメージできていない」が63.4パーセントで最も多く、次いで「活用を推進する人材が不足している」が40.0パーセント、「社内ルール・ガイドラインが整備されていない」が26.2パーセントとなっています(出典:中小企業庁「2026年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要」)。
最大の障壁は技術ではなく「使いどころが分からない」ことです。だからこそ、判定表で使いどころを先に決める価値があります。
90日で回す進め方
中小企業で現実的な進め方を、90日で区切ってまとめます。
| 期間 | やること | 終了時の状態 |
|---|---|---|
| 1日目から14日目 | 業務10個の棚卸と、4つの問いによる判定 | 判定表が埋まっている |
| 15日目から30日目 | 標準機能とExcelで解決するものを片付ける | 対象が3つ程度に絞れている |
| 31日目から60日目 | AI側の1業務を試し、合否基準で判定する | 続けるか止めるかが決まっている |
| 61日目から90日目 | RPA側の1業務に着手、または台帳の整備 | 止まっても気づける状態になっている |
合否基準は始める前に1行で書いておいてください。「過去の注文書100件で試し、80件以上が修正なしで取り込めれば合格」といった形です。後から基準を作ると、必ず結果に引きずられます。
費用と補助金の考え方
RPAとAIの費用構造の違い
金額そのものは製品によって大きく異なるため、ここでは何で費用が決まるかの構造を示します。
| 費目 | RPA | AI |
|---|---|---|
| 初期費用 | シナリオ作成の工数が主。業務数に比例 | 指示文と確認手順の設計。比較的小さい |
| 継続費用 | ライセンス(台数・実行環境の数で決まる) | 利用量または人数で決まる |
| 保守費用 | 変更のたびに発生。ここを見落としがち | 指示文の調整。小さいが継続する |
| 止まったときの費用 | 復旧工数+手作業に戻す人件費 | 精度低下は費用に見えにくい |
注意すべきはRPAの保守費用です。導入時の見積には入っていても、翌年以降の変更対応が含まれていないことがあります。契約前に「システム側の変更でシナリオが止まった場合の対応は保守に含まれるか」を必ず確認してください。
公的なデータでも、RPAの費用は初期より運用で効いてくる構造が見て取れます。総務省の令和7年度調査では、自治体のRPA導入費用は「0円」の回答が最も多く、次いで1円から1,000千円未満が多い一方、年間運用費用は1,000千円から2,500千円未満の回答が最も多くなっています(出典:総務省「自治体におけるAI・RPA活用促進(令和7年度)」)。
当社の支援費用
当社の導入支援は初期費用0円、月額5万円です。業務の棚卸、4つの問いによる切り分け、AI側の設計と定着支援、RPAが必要な場合の要件整理までを含みます。ツールのライセンス費用は別途、実費でご負担いただきます。
「まず何をすればいいか分からない」という段階でのご相談が最も多く、実際にその段階でお会いすると、半分近くの業務が標準機能かExcelで片付くことが珍しくありません。経費全体の見直しの観点は経費削減の進め方にまとめています。
補助金を待たずに始める
省力化に使える公的な支援制度としては、中小企業省力化投資補助金があり、カタログ注文型と一般型が用意されています。制度の内容は年度により変わるため、最新の公募要領を必ず事務局サイトでご確認ください。当サイトでも省力化投資補助金の使い方を整理しています。
ただし、実務上のお勧めは補助金の採択を待たずに小さく始めることです。理由は単純で、補助金の申請には「どの業務を、どう効率化するか」を書く必要があり、それは棚卸と判定を終えていないと書けないからです。先に判定表を埋めておくほうが、申請書も通りやすくなります。
よくある失敗と回避策
効果測定をしていない
最も多い失敗です。導入前の作業時間を測っていないため、効果があったのか分からず、続けるべきかも判断できません。
回避策:導入前の2週間だけ、対象業務の所要時間を記録してください。ストップウォッチは不要で、「1件あたり何分、月に何件」の2つで足ります。この2つがないと、後から何を言っても水掛け論になります。
全社一斉に広げてしまう
1部署でうまくいったからと、翌月に全社展開して失敗する例です。部署ごとに業務の性質が違うため、同じシナリオも同じ指示文も、そのままでは動きません。
回避策:横展開する前に、移す先の業務を4つの問いで判定し直してください。判定が変われば、やり方も変わります。なお、部門をまたぐ連携は効果に直結します。中小企業白書では、ITツールの部門間連携ができている企業では「想定した効果が得られなかった」との回答が7.6パーセントであるのに対し、できていない企業では34.8パーセントであることが示されています(出典:中小企業庁「2026年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要」)。
業務を見直さず自動化する
いまの手順をそのままRPAに写すと、無駄な工程まで自動化されます。二重チェックや不要な印刷が、機械の速度で繰り返されるだけです。
回避策:自動化の前に「この工程はやめられないか」を1回だけ問うてください。総務省のガイドブックも、設定した目標を達成できるようRPAを導入するだけでなく業務の見直しを行うことが効果的だとしています。やめられる工程を消してから自動化するのが、最も効果の大きい順番です。
AIに最終判断をさせる
AIの出力をそのまま送信・支払・提出に使ってしまう失敗です。前述のとおり、AIは間違えても止まりません。
回避策:外に出るもの、戻せないものの直前には必ず人を置いてください。ここは効率化の対象外にします。この1点を守るだけで、AI導入の重大事故はほぼ防げます。企業のAI利用が文書まわりに集中しているのも、確認しやすい用途から広がっている結果だと考えられます(出典:IPA「DX動向2026」)。
よくある質問(FAQ)
Q. AIを入れればRPAは不要?
A. なりません。役割が違うためです。総務省のガイドブックでは、現在普及しているRPAツールは自動化レベルの1段階目でAIを含んでおらず、AIを搭載した他のツールと組み合わせた利用が可能だと整理されています。手順が完全に固定された大量の転記や照合は、同じ入力に同じ出力を返すRPAのほうが確実です。AIは意味を読む工程を担い、RPAは正確に写す工程を担うという分担になります。
Q. RPAとAIはどちらが安いですか?
A. 一概には言えません。初期費用はAIのほうが小さくなる傾向があり、RPAはシナリオ作成の工数が業務数に比例して増えます。一方、件数が非常に多い定型転記では、RPAのほうが1件あたりの費用が下がります。比較すべきは製品の価格ではなく、対象業務の件数と手順の安定度です。
Q. 止まったRPAは直す?捨てる?
A. 月間件数で決めてください。数十件以下なら、保守の手間が削減時間を上回ることが多いため捨てる判断が合理的です。数百件以上あり手順が今も同じなら直す価値があります。止まった原因が外部サイトの仕様変更である場合は、また止まるため、別の入手経路を検討してください。
Q. RPAは自社で作れますか?
A. 一定の素養があれば可能です。総務省のガイドブックには、シナリオ作成・保守はプログラミングよりは難易度が低いとはいえ、繰り返しや条件分岐、変数の扱いなどの基礎的な素養が必要になることが多く、OAソフトのように誰もができるものとは言えない、という趣旨の記述があります。内製する場合は、必ず2人以上が触れる状態にしてください。1人に依存すると、その人の異動で止まります。
Q. 中小企業でもRPAは効きますか?
A. 条件がそろえば出ます。2026年版中小企業白書には、従業員40名の物流企業がExcelへの手入力からRPAの活用による自動化を実現し、得意先別や輸送ルート別の日次の売上高・利益率・付加価値額等が自動で算出される体制を構築した事例が掲載されています(出典:中小企業庁「2026年版 中小企業白書」)。件数が多く手順が固定された作業があるかどうかが分かれ目です。
Q. 何から自動化すべきですか?
A. その悩みは多数派です。2026年版中小企業白書によると、AIを活用していない理由の第1位は「活用する業務がイメージできていない」で63.4パーセントでした。まずは担当者が「面倒だ」と口にする作業を10個書き出し、本記事の4つの問いで判定してみてください。思いつかないのではなく、書き出していないだけであることがほとんどです。
Q. 生成AIとAI-OCRの違いは?
A. AI-OCRは主に紙や画像から文字を読み取る技術で、生成AIは文章を理解して新しい文章を作る技術です。実務では、AI-OCRで読み取ってから生成AIで内容を整理し、RPAでシステムに入力する、という組み合わせになることがあります。総務省の資料でも、AI-OCRとRPAの組み合わせによる自治体での活用例が増えているとされています。
Q. RPAの費用はいくらですか?
A. 製品と台数で大きく変わるため、相場を断定することはできません。構造としては、ライセンス費用(台数や実行環境の数で決まる)、シナリオ作成の工数、そして変更対応の保守費用の3つで決まります。参考として、総務省の令和7年度調査では自治体のRPA年間運用費用は1,000千円から2,500千円未満の回答が最も多くなっています(出典:総務省「自治体におけるAI・RPA活用促進(令和7年度)」)。自治体と中小企業では規模が異なるため、そのまま当てはめず、必ず自社の条件で見積を取ってください。
Q. 導入を進める人材がいません
A. 人材不足は全国共通の課題です。総務省の令和7年度調査では、RPAの導入における課題として「取り組むための人材がいない又は不足している」が1,026件で最も多く、次いで「取り組むためのコストが高額であり予算を獲得するのが難しい」が621件、「RPAの技術を理解することが難しい」が495件でした(出典:総務省「自治体におけるAI・RPA活用促進(令和7年度)」)。中小企業では、まず対象業務を1つに絞り、外部の支援を使いながら社内に手順を残す進め方が現実的です。
Q. 社員がAIを使ってくれません
A. 教える時間が足りていない可能性が高いです。2026年版中小企業白書では、従業員のITツール活用促進に向けた研修や勉強会を実施している企業のほうが、実施していない企業より効果が得られたと回答する割合が高いことが示されています。週1回30分でも構いません。使い方を聞ける場所があるかどうかが定着を分けます。個別の対処はAIが使えないと感じたときの見直し方で解説しています。
Q. 大企業とのAI導入率の差は?
A. 大きく違います。IPAの調査では、AIの導入状況を従業員規模別に見ると、1,001人以上の企業で8割近くが導入している一方、101人以下の企業では16.6パーセントにとどまっています(出典:IPA「国内企業のDX動向・AI活用動向のポイントを公開」)。ただし、この差は資金力より使いどころを決められているかどうかの差である場合が多く、小規模でも判定表を埋めれば追いつけます。
Q. AI導入でどんな効果が出る?
A. 効果の中心は業務効率化です。IPAの調査によると、AI導入による効果の内容は「業務が効率化したり迅速化した」が91.6パーセントと最も高く、「企画提案等の品質や速さが向上した」が48.9パーセント、「残業時間の削減につながった」が29.2パーセントでした。一方で「顧客満足度が向上した」は4.5パーセント、「売上や利益が向上した」は3.9パーセントにとどまっています(出典:IPA「国内企業のDX動向・AI活用動向のポイントを公開」)。まずは効率化を狙うのが素直な入り方だと言えます。
Q. 日本企業は生成AIに何を期待?
A. 総務省の令和7年版情報通信白書によると、生成AIの活用推進による自社への影響について、日本では「業務効率化や人員不足の解消につながる」が最も多く挙げられており、他の3か国ではビジネスの拡大や新たな顧客獲得、新たなイノベーションを多く挙げる傾向にあるとされています。なお同白書は、4か国いずれもポジティブな面をネガティブな面よりも注目しているとも述べています(出典:総務省「令和7年版 情報通信白書」企業におけるAI利用の現状)。
Q. 自治体の事例は参考になる?
A. 業務内容は異なりますが、つまずき方は驚くほど似ています。人材不足、効果が不明、担当者の異動で止まる、外部システムの変更で動かなくなる。いずれも中小企業で起きていることと同じです。自治体の情報は公開量が多く、失敗も含めて記録されているため、判断材料としては非常に有用です。導入手順の考え方は総務省「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック 導入手順編」も参考になります。
まとめ|線引きの4問に戻る
最後に、要点を整理します。
- RPAとAIは置き換え合う関係ではなく、組み合わせる関係。総務省の整理でも、普及しているRPAはAIを含まないクラス1で、AI搭載ツールとの併用が想定されている
- 線引きは4つの問いで決まる。手順は毎回同じか/位置は変わるか/意味を読むか/間違えて元に戻せるか
- 意味を読まないならRPA、読むならAI。戻せないなら、どちらであっても直前に人の承認を置く
- 最も多いのは「どちらも要らない」。標準機能とExcelで片付く業務を先に外す
- 1つの業務をまるごと振り分けない。工程に割ると、受領はRPA、読み取りはAI、照合はRPA、承認は人、と自然に決まる
- RPAが動かなくなる原因は画面や仕様の変更/制度改正/担当者の異動の3つ。いずれも公的資料に記録がある
- 放置されたRPAは、まず台帳を作って捨てる判断から。全部直そうとすると終わらない
- 始める順番は棚卸が先。そのうえで、中小企業は多くの場合AIから入ったほうが速い
- ただし月数百件の定型転記に残業が集中しているならRPAが先。ここは正直にそう申し上げます
- 定着を決めるのはツールではなく、教える時間と、聞ける場所
RPAとAIの違いを言葉で覚える必要はありません。必要なのは、目の前の業務に4つの問いを当てて、答えを1行で書けることだけです。それができれば、ツールの選択は自動的に決まります。
そして、もし今すでにRPAが止まったまま放置されているなら、新しいツールを検討する前に台帳を1枚作ってください。何本あるのか、どれが動いているのかが分かるだけで、次にやるべきことははっきりします。
当社はAI導入支援を行う立場から、業務の棚卸と「RPAか、AIか、どちらも要らないか」の切り分けをお手伝いしています。RPAのほうが適していると判断した場合は、そのとおりにお伝えします。費用は初期0円、月額5万円です。まずは自社の業務がどちらに当たるのかだけでも、お気軽にご相談ください。
関連する内容は、業務の洗い出し方は業務効率化のアイデア集、表計算での自動化はExcelのAI自動化、進め方の失敗はDXが失敗する理由にまとめています。


