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人事・採用

労務のAI活用|任せる範囲と社労士に頼む線引き

📅 公開日 2026.08.11 🔄 更新日 2026.08.13 ⏱ 読了 約46分
前田 大輔
監修者
前田 大輔Ai-Raku(アイラク) 代表

業務効率化支援を行う「Ai-Raku(アイラク)」代表。国立大学でAIの研究を行い、ITコンサル・ウェブコンサルを経て独立。官公庁向けの業務効率化や上場企業の支援等を経て、中小企業の現場に定着するAI活用を企画から運用まで一気通貫で支援している。

労務のAI活用|任せる範囲と社労士に頼む線引き
Qこの記事のポイント
労務のどこまでAIに任せてよいですか?
調べる・下書きする・整理するまでです。適用の判断と、行政への提出は必ず人が行ってください。判断の基準は「その出力がそのまま従業員や行政に出るか」です。出るものは人、出ないものはAIと分けると、ほとんどの作業は仕分けできます。
就業規則をAIに作らせてもよいですか?
たたき台までは可能ですが、完成品として使ってはいけません。厚生労働省もモデル就業規則について、あくまでモデル例であり就業規則の内容は事業場の実態に合ったものとしなければならないとしています。AIは自社の実態を知らないため、議論されていない数字や条件が条文に入り込みます。
就業規則は何人から作成義務がありますか?
常時10人以上の労働者を使用する事業場です。企業単位ではなく事業場単位で判断するため、複数の営業所や店舗がある場合は、それぞれで10人以上かどうかを見ます。過半数代表者の意見書を添えて所轄の労働基準監督署長に届け出ます。変更の場合も同様です。
法改正はAIに聞いても大丈夫ですか?
記憶に頼らせる聞き方は危険です。生成AIは学習時点の情報を、古いとは言わずに答えます。官公庁のページやリーフレットの原文を自分で取ってきて、それを貼ったうえで要約させてください。渡した範囲で答えさせる質問は安全、記憶から引き出させる質問は危険と覚えてください。
勤怠の集計をAIに任せてよいですか?
確認すべき行の抽出には使えますが、労働時間かどうかの判定には使えません。労働時間に該当するかは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるかで客観的に定まるとされており、これはデータに写らない事実認定です。抽出条件を書いて候補を出させ、判定は人が行ってください。
有給の残日数をAIに答えさせてもよいですか?
やめてください。理由は3つあります。残日数が個人データであること、AIが数値を推測で埋める性質があること、そして年次有給休暇管理簿という作成・保存が義務づけられた記録が別に存在することです。残日数の照会は勤怠システムか管理簿にもとづいて人が回答してください。
社会保険の電子申請は中小企業も義務ですか?
義務化の対象は、資本金等の額が1億円を超える等の特定の法人です。多くの中小企業は対象外ですが、任意で利用できます。労務担当が1名の会社ほど、窓口や郵送の往復がなくなる効果が大きいため、AIより先に検討する価値があります。
AIにマイナンバーを入力しても大丈夫ですか?
外部の生成AIサービスには入力しないでください。個人情報保護委員会は、個人情報を含むプロンプトを入力する場合には利用目的の達成に必要な範囲内であることを十分に確認すること、本人の同意なく個人データを入力する場合には機械学習に利用されないこと等を十分に確認することを求めています。
36協定の管理をAIに任せられますか?
月次の抽出を手伝わせることはできますが、上限に近づいているかの見張りは人が行ってください。時間外労働の上限規制には罰則があり、複数月平均や年間の累計の管理が必要です。記録に残る集計表として人が確認できる形にしてください。
AIがあれば社労士は不要になりますか?
なりません。AIは責任を持てず、自社の過去の運用も知らないためです。むしろAIを使うと「調べれば分かること」と「判断が要ること」が分離され、社労士への相談の中身が濃くなります。当社は社労士を減らす方向ではなく、相談の質を上げる方向をお勧めしています。
社内チャットボットで労務の質問に答えさせたいのですが?
制度の説明までなら可能ですが、個人の状況に関する回答と、個別事情の可否判断は人に残してください。また、相談窓口そのものをAIに置き換えると、相談しにくくなって問題の発見が遅れます。制度説明はAI、相談は人という入口の分け方をお勧めします。
何から手をつければよいですか?
直近1か月の問い合わせ件数と種類、勤怠の締めにかかった時間を数えてください。問い合わせは上位3種類で半分以上を占めることがほとんどで、そこがAIの対象になります。そのうえで、規程をテキスト化して最新版を1か所にまとめる作業から始めると、AIを使う前から効果が出ます。

「労務にもAIを使えないか」というご相談が増えました。ただ、労務は経理や営業事務とは事情が違います。間違えた結果が、法令違反や労働条件の不利益変更として残ってしまう領域だからです。作り直せば済む見積書とは、失敗したときの重さが違います。

だからといって、労務でAIがまったく使えないわけではありません。実際には、調べ物・下書き・整理といった作業が労務の時間の大半を占めています。ここはAIで確実に軽くなります。問題は「どこまで任せるか」の線を、使い始める前に引いておくことです。この線がないまま使い始めた会社が、古い法令にもとづく回答を社内に流してしまう事故を起こします。

この記事では、就業規則などの規程、社会保険や雇用保険の手続き、勤怠の集計と確認、入退社の手続き、従業員からの問い合わせ対応、そして法改正への追随という6つの領域について、AIに任せる範囲・人が判断する範囲・社会保険労務士(社労士)に頼む範囲を3分割で示します。根拠は厚生労働省・日本年金機構・個人情報保護委員会の一次情報です。採用そのもののAI活用は人事・採用のAI活用で扱っているので、本記事は採用したあとの労務にしぼります。

はじめにお読みください(本記事の位置づけ)

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の会社の状況に対する法的助言ではありません。当社はAI導入支援を行う事業者であり、社会保険労務士事務所ではありません。労働社会保険諸法令にもとづく書類の作成・提出代行や、個別の適用判断については、社会保険労務士または所轄の労働基準監督署・年金事務所にご相談ください。

また、本記事に「AIがあれば社労士は不要になる」という趣旨の記述はありません。むしろ後半で、AIを使うほど社労士に確認すべき論点が明確になるという当社の見方を書いています。

この記事でわかること

  • 労務でAIに任せてよいのは「調べる・下書きする・整理する」までという線引き
  • AI・人・社労士の3分割表(14の作業を分類)
  • 就業規則の作成をAIに丸投げしてはいけない具体的な理由
  • 法改正への追随でAIが最も危ない理由と、事故を防ぐ5段階の手順
  • 勤怠の集計でAIを使える場面と、使ってはいけない場面
  • 社会保険・雇用保険の手続きでAIが効く範囲(手続きそのものではない)
  • そのまま使えるプロンプト例3つ(規程の読み合わせ/一次回答の下書き/勤怠の異常値)
  • 従業員45名の会社で月27.3時間を減らすモデルケース(試算)
  1. 結論|調べる・下書き・整理まで
    1. 労務は間違うと戻せない
    2. AI・人・社労士の3分割
    3. 線引きを先に決める理由
  2. 労務でAIが効く6つの場面
    1. 規程の読み合わせと差分出し
    2. 社内問い合わせの一次回答
    3. 手続きの段取りと必要書類
    4. 勤怠データの異常値出し
    5. 入退社の案内文の下書き
    6. 法改正の論点整理
  3. 就業規則をAIに丸投げしない
    1. モデル就業規則は雛形にすぎない
    2. 事業場単位という落とし穴
    3. 不利益変更には合理性が要る
    4. 正しい使い方は読み合わせ
  4. 法改正の追随が一番危ない
    1. 学習時点の古い情報を答える
    2. 事故を防ぐ5段階の手順
    3. 一次情報の入口を3つに絞る
    4. AIに聞いてよい聞き方
  5. 勤怠集計|使える場面と危ない場面
    1. 記録は客観的な方法が原則
    2. AIは異常値の洗い出しに使う
    3. 労働時間の判定はさせない
    4. 36協定の上限は人が見張る
  6. 社会保険と雇用保険の手続き
    1. 電子申請の義務化と中小企業
    2. AIは調べ物と段取りに使う
    3. マイナンバーは入力しない
  7. 問い合わせ対応を仕組みにする
    1. 有給の残日数はAIに聞かない
    2. 一次回答の下書きに限定する
    3. 規程を探せる形にしておく
  8. そのまま使えるプロンプト3つ
    1. 規程の読み合わせプロンプト
    2. 問い合わせの一次回答の下書き
    3. 勤怠の異常値の洗い出し
  9. 大企業の事例と規模の違い
    1. 帳票の読み取りを自動化した例
    2. 記録の要約と申請の型づくり
    3. 中小企業が真似できる部分
  10. モデルケース|労務の試算
    1. 前提条件
    2. 導入前と導入後の工数
    3. 削減の内訳
    4. この試算に含まれないもの
  11. 社労士に頼むべき線引き
    1. 判断と提出代行は社労士の仕事
    2. AIがあっても社労士は要る
    3. 顧問社労士との役割分担
  12. 労務のAI活用でよくある失敗
    1. 規程の条文をAIに作らせる
    2. 古い情報のまま社内に周知
    3. 個人情報を無設定で入力
  13. 4週間で始める進め方
    1. 第1週|規程と問い合わせを棚卸し
    2. 第2週|使ってよい情報を決める
    3. 第3週|一次回答で試す
    4. 第4週|勤怠の異常値で試す
  14. よくある質問(FAQ)
    1. Q. 労務のどこまでAIに任せてよいですか?
    2. Q. 就業規則をAIに作らせてもよいですか?
    3. Q. 就業規則は何人から作成義務がありますか?
    4. Q. 法改正はAIに聞いても大丈夫ですか?
    5. Q. 勤怠の集計をAIに任せてよいですか?
    6. Q. 有給の残日数をAIに答えさせてもよいですか?
    7. Q. 社会保険の電子申請は中小企業も義務ですか?
    8. Q. AIにマイナンバーを入力しても大丈夫ですか?
    9. Q. 36協定の管理をAIに任せられますか?
    10. Q. AIがあれば社労士は不要になりますか?
    11. Q. 社内チャットボットで労務の質問に答えさせたいのですが?
    12. Q. 何から手をつければよいですか?
  15. まとめ

結論|調べる・下書き・整理まで

労務の仕事をAIに任せる範囲・人が決める範囲・社労士に頼む範囲の3つに分けた図

先に結論を書きます。労務でAIに任せてよいのは「調べる・下書きする・整理する」までです。適用の判断と、行政への提出は必ず人が行ってください。この一線を最初に引かないまま使い始めると、事故が起きたときに誰の責任か分からなくなります。

労務は間違うと戻せない

労務の作業には、経理や営業事務にはない特徴が2つあります。

1つ目は、誤りが法令違反として外に出ることです。たとえば就業規則には、労働基準法第89条により必ず記載しなければならない事項(絶対的必要記載事項)が定められています。労働時間関係、賃金関係、退職関係の3つです(出典:厚生労働省「モデル就業規則」令和7年12月版)。これが欠けた規則を届け出れば、それは形式的な不備ではなく法定の記載義務を満たしていない状態です。

2つ目は、誤りが労働者の権利に直結することです。就業規則を労働者に不利益な内容へ変更する場合、原則として労働者の合意が必要で、合意なく変更するには変更が合理的であることと、変更後の規則を労働者に周知させることの2つが要ります。合理性の判断では、労働者が受ける不利益の程度、変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働組合などとの交渉の状況が考慮されます(出典:厚生労働省 労働契約ポータルサイト「労働条件の変更」)。AIが出した条文をそのまま入れ替えた、では説明がつきません

この2つの性質があるため、労務では「速さ」より「戻せるか」で使いどころを決めます。戻せる作業(下書き・要約・候補出し)はAIに、戻せない作業(判断・提出・周知)は人に。これが本記事を貫く原則です。

AI・人・社労士の3分割

労務の代表的な作業を、任せる相手で3つに分けた表です。自社の作業を当てはめてご覧ください。

作業 任せる相手 理由
就業規則と自社の実態のズレの洗い出し AI 読み比べと論点出しは得意。指摘の採否は人が決める
規程の条文案の下書き AI たたき台まで。そのまま採用しない
手続きの必要書類と提出先の下調べ AI 当たりを付ける用途。最終確認は官公庁の原文で
社内問い合わせの一次回答の下書き AI 自社の規程を渡した範囲で下書きさせる
勤怠データの異常値の洗い出し AI 打刻漏れや長時間の兆候を見つける。判定はしない
入退社の案内文・チェックリストの作成 AI 定型文書。送信前に人が確認する
法改正の論点整理(原文を渡した場合) AI 原文を貼って要約させる。記憶に頼らせない
就業規則に入れる条文の最終決定 自社の実態と運用に責任を持つのは会社
労働時間に当たるかどうかの判定 指揮命令下にあったかの事実認定が必要
従業員への正式回答と周知 回答が労働条件の説明になる。記録も残す
行政への届出・提出 電子申請でも申請者は会社。提出行為は代行させない
就業規則の不利益変更の進め方 社労士 合理性の判断と手続の設計が要る
36協定の特別条項の設計と限度時間の運用 社労士 上限規制に罰則がある。自社判断は危うい
労働基準監督署の調査対応・是正勧告への対応 社労士 過去の運用まで含めた対応になる

この表で見ていただきたいのは、AI欄がすべて「下書き」「洗い出し」「下調べ」で終わっていることです。労務でAIが担えるのは、人が判断するための材料を早く用意する役割までです。ここを超えた瞬間に、労務は危ない道具になります。

線引きを先に決める理由

なぜ使い始める前に線を引くのか。理由は、労務の作業は「調べる」と「決める」が地続きだからです。

たとえば「パートさんの有給は何日付与すればいいか」という問い合わせ。調べる部分(比例付与の考え方)と、決める部分(この人の所定労働日数はいくつか、基準日はいつか)が連続しています。境目が曖昧なまま作業していると、調べたつもりが決めていた、という状態になります。

当社が労務のご相談を受けるときは、まず「この作業のアウトプットは、そのまま従業員や行政に出るものか」を1つずつ確認します。出るものは人、出ないものはAI。この単純な問いだけでも、ほとんどの作業は仕分けできます。社内でのAIの使い方を文書に落とす手順は社内AIルールの作り方で扱っています。

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労務でAIが効く6つの場面

規程の読み合わせ、社内問い合わせの一次回答、勤怠の異常値出しなど、労務でAIが効く6場面を効きやすさ順に並べた図

線引きを決めたうえで、労務のどこにAIが効くかを具体的に見ます。当社が実際にご相談を受けて効果が出やすいと感じているのは、次の6つです。

場面 AIにさせること 効きやすさ
規程の読み合わせ 就業規則と実態・法改正の論点の突き合わせ 高い
社内問い合わせの一次回答 規程を渡したうえでの回答文の下書き 高い
手続きの段取り 必要書類・提出先・期限の一覧化 中くらい
勤怠の異常値出し 打刻漏れ・連続勤務・長時間の候補抽出 高い
入退社の案内文 本人向け案内・社内周知文の下書き 高い
法改正の論点整理 原文を貼ったうえでの要約と影響範囲の整理 条件付き

規程の読み合わせと差分出し

最も効くのがここです。就業規則、賃金規程、育児介護休業規程、旅費規程。多くの中小企業では、これらが数年前の版のまま眠っています。

AIに自社の規程本文と、比較したい資料(厚生労働省のモデル就業規則や、改正内容のリーフレット)を渡し、「食い違っている箇所と、判断が必要な箇所を分けて表で出して」と指示します。人が上から読み合わせると半日かかる作業が、論点リストとして数分で返ってきます。

ただし、返ってきたリストは指摘の候補です。実際に直すかどうかは、自社の運用実態を知っている人が決めます。AIは自社が実際にどう運用しているかを知りません。

社内問い合わせの一次回答

労務担当者の時間を最も食っているのは、多くの場合ここです。「有給はあと何日ある」「子どもの看護休暇は使えるか」「引越したら何を出せばいいか」。同じ質問が繰り返し来ます。

ここでのAIの使い方は、自社の規程と社内手続きの一覧を渡したうえで、回答文の下書きを作らせることです。逆に、AIに直接従業員から質問させる形(社内チャットボット化)は、労務では慎重になるべきです。理由は後述します。

手続きの段取りと必要書類

入社・退社・氏名変更・住所変更・産休育休。それぞれ提出先(年金事務所、ハローワーク、健康保険組合)と期限が違い、毎回調べ直しています。

AIには「この場合に必要な届出を、提出先と期限と添付書類を列に持つ表で出して。根拠となる公的サイトのページ名も書いて」と指示します。ここで大事なのは、出てきた表をそのまま信じないことです。当たりを付けて、日本年金機構やハローワークの該当ページで裏を取る。この2段構えにすると、調べ物の時間だけが短くなります。

勤怠データの異常値出し

月末の勤怠締めで時間を食うのは、集計そのものより「おかしい行を探す作業」です。打刻漏れ、退勤打刻の抜け、休憩が取れていない日、深夜にまたがる日、連続勤務。

勤怠データをCSVで渡し、条件を明示して候補を抽出させるのは有効です。ただし「この人は残業代の対象か」「この時間は労働時間か」といった判定はさせません。これは後述する労働時間の考え方に関わります。

入退社の案内文の下書き

入社時の提出書類案内、退職時の社会保険・住民税の説明、育休取得者への案内。どれも定型ですが、毎回書き直しています。過去に使った案内文を渡して「この人の条件(入社日・雇用形態・扶養の有無)に合わせて書き換えて」と指示すれば、下書きは数分で出ます。

入退社に伴う社内の申請や承認の流れそのものを整理したい場合は、ワークフローの自動化で扱っている考え方が使えます。

法改正の論点整理

ここは「条件付き」です。AIの記憶に頼って法改正を聞くのは、労務で最も危険な使い方です。ただし、官公庁のページやリーフレットの原文を自分で取ってきて、それを貼ったうえで要約・影響範囲の整理をさせるなら有効です。詳しくは次章以降で扱います。

就業規則をAIに丸投げしない

就業規則でAIにさせる3つの検出と、AIにさせない3つの判断を対比した図

「就業規則 AI」で検索される方が知りたいのは、たいてい「AIに就業規則を作らせてよいか」です。答えは「たたき台までは可、完成品としては不可」です。理由を3つに分けて書きます。

モデル就業規則は雛形にすぎない

1つ目の理由は、AIが生成する就業規則の条文が、実質的に厚生労働省のモデル就業規則の焼き直しになりやすいことです。そしてモデル就業規則自体が、そのまま使うことを想定していません。

厚生労働省はモデル就業規則について、「本規則はあくまでモデル例であり、就業規則の内容は事業場の実態に合ったものとしなければなりません」と明記しています(出典:厚生労働省「モデル就業規則」令和7年12月版)。さらに、下線部分については各事業場の実情に応じて具体的な名称や数字を定めるよう求めており、規程例の中の数字も解説のために便宜的に記入したものだと注記しています。

ここが実務上いちばん危ないところです。AIは下線部を空欄にしてくれません。もっともらしい数字や条件を埋めて返してきます。「休職期間は6か月」「試用期間は3か月」といった条文が、自社で議論されないまま規則に入り込みます。そして就業規則は、周知された時点から労働条件として効力を持ちます。

モデル就業規則そのものは厚生労働省「モデル就業規則について」から入手できます。AIに聞く前に、まず原本を手元に置いてください。

事業場単位という落とし穴

2つ目は、AIが「会社単位」で答えがちなことです。実際の就業規則は事業場単位です。

厚生労働省は、就業規則は企業単位ではなく事業場単位で作成し、届け出なければならないとしています。1企業で2以上の営業所・店舗等を有している場合、企業全体の労働者数を合計するのではなく、それぞれを1つの事業場としてとらえ、常時使用する労働者が10人以上の事業場について作成義務が生じます(出典:厚生労働省「モデル就業規則」令和7年12月版)。

作成した規則は、常時10人以上の労働者を使用している事業場では、労働者の過半数で組織する労働組合、それがない場合は労働者の過半数を代表する者の意見書を添えて、所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります。変更の場合も同様です(出典:厚生労働省 栃木労働局「就業規則の作成・変更・届出の義務(第89条、第90条、第92条)」)。

さらに細かい点として、過半数代表者には要件があります。労働基準法第41条第2号の管理監督者でないこと、そして意見を聴取される者を選出することを明らかにして実施する投票・挙手等の方法で選出され、使用者の意向にもとづき選出された者でないことです(出典:厚生労働省「モデル就業規則」令和7年12月版)。「総務課長に意見書を書いてもらった」は、この要件を満たしません。AIに手続きを聞いても、この水準の注意までは返ってきません。

不利益変更には合理性が要る

3つ目は、変更のときです。前述のとおり、労働者に不利益な変更を合意なく行うには、変更の合理性と周知の2つが必要で、合理性の判断には不利益の程度、変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況が考慮されます(出典:厚生労働省 労働契約ポータルサイト「労働条件の変更」)。

この4つは、どれも自社の事情と交渉の経緯そのものです。AIには材料がありません。「合理的な文面にして」と頼んでも、合理性は文面ではなく実態と手続で決まります。ここは社労士に相談すべき領域です。

正しい使い方は読み合わせ

では就業規則でAIをどう使うか。「作らせる」ではなく「読み合わせる」に使ってください。具体的には次の3つです。

  1. 抜けの検出:絶対的必要記載事項と相対的必要記載事項の一覧を渡し、自社の規則に対応する条文があるかを照合させる
  2. 実態とのズレの検出:実際の運用(始業時刻、休憩の取り方、休職の運用)を箇条書きで渡し、規則の条文と食い違う箇所を挙げさせる
  3. 用語の不統一の検出:「社員」「従業員」「職員」が混在していないか、別規程の名称が正確かを機械的に洗う

3番目は地味ですが効果が大きい作業です。人が読むと目が滑る種類の誤りを、AIは確実に拾います。そして、この3つはどれも「指摘を出すだけ」で、条文を書き換えていません。ここが安全圏の境界です。

法改正の追随が一番危ない

日付に印を付けた卓上カレンダー

労務でAIを使うときに、当社が最も強く注意していただきたいのがここです。法改正に関する質問は、生成AIが最も自信満々に間違える領域です。

学習時点の古い情報を答える

生成AIは、学習した時点の情報にもとづいて答えます。しかも「その情報が古いかもしれない」とは言わずに答えます。労務の法令は毎年のように変わるため、1年前の正解が今年の不正解になっていることが普通に起きます。

実際に近年だけでも、労働条件明示のルールは2024年4月から変わり、労働者の募集や職業紹介事業者への求人申込みの際に明示しなければならない労働条件が追加されました(出典:厚生労働省「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」)。育児・介護休業法も改正され、厚生労働省は令和7年4月1日施行分と10月1日施行分に分けて内容を公表しています(出典:厚生労働省 育児休業制度特設サイト「法改正のポイント」)。

こうした改正は、就業規則の条文にも、社内の案内文にも、手続きの実務にも影響します。AIが古い前提で書いた案内文を社内に流してしまえば、従業員に誤った説明をしたことになります。生成AIが事実でないことを事実らしく述べる問題そのものはハルシネーション対策で扱っていますが、労務では「作り話」より「古い正解」のほうが厄介です。もっともらしく、しかも過去には正しかったからです。

事故を防ぐ5段階の手順

当社がお勧めしている運用は、次の5段階です。この順番を守るだけで、法改正まわりの事故はほぼ防げます。

段階 やること 使うもの やってはいけないこと
1. 気づく 改正がありそうな領域を洗い出す AI(論点出し) AIの回答を改正内容そのものとして受け取る
2. 原文を取る 官公庁のページ・リーフレットを自分で開く 厚労省・年金機構・労働局のサイト まとめサイトや解説記事で代用する
3. 貼って整理する 原文をAIに貼り、要約と影響範囲を出させる AI(要約) 原文を貼らずに記憶で答えさせる
4. 自社に当てる 自社の規程・運用のどこに当たるかを人が判定 人(労務担当) AIの「御社は対象です」を鵜呑みにする
5. 確認して出す 判断が割れる点を社労士に確認して周知 社労士・人 確認しないまま社内に周知する

この表で最も重要なのは2段階目です。ここを飛ばすと、あとの3段階がすべて崩れます。逆に言えば、原文さえ手元にあれば、AIは強力な整理役になります。

一次情報の入口を3つに絞る

「官公庁の原文を見る」と言われても、どこを見ればよいか分からないという声をよくいただきます。労務であれば、日常的に見るべき入口は3つで足ります。

  1. 厚生労働省:労働基準法、労働時間、就業規則、育児介護休業、労働条件明示など
  2. 日本年金機構:健康保険・厚生年金保険の届出、電子申請、様式
  3. 都道府県労働局・労働基準監督署:地域の様式、届出の実務、リーフレット

この3つをブックマークし、AIに聞いた内容は必ずこの3つのどれかで確かめるという運用にしてください。雇用保険であればハローワーク(厚生労働省)が加わります。社内で規程や通達を探しやすくする仕組みそのものは社内ナレッジのAI検索で扱っています。

AIに聞いてよい聞き方

同じ法改正の質問でも、聞き方で危険度が変わります。

聞き方 危険度 コメント
「育児介護休業法の最新の改正内容を教えて」 高い 学習時点の情報が返る。日付の裏取りができない
「このリーフレット(本文を貼付)の変更点を表にして」 低い 渡した範囲の要約なので検証できる
「当社の就業規則(貼付)で、このリーフレットに関係する条文はどれ」 低い 照合作業。判断は人が行う
「うちは対象になりますか」 高い 適用判断。AIに答えさせてはいけない

渡した資料の範囲で答えさせる質問は安全、記憶から引き出させる質問は危険。この区別を担当者全員で共有してください。

勤怠集計|使える場面と危ない場面

AIに勤怠の異常値の候補を出させ、労働時間の判定と36協定の上限確認は人が行う流れの図

勤怠は労務の中で最も定型的で、AIとの相性がよさそうに見えます。実際、使える場面はあります。ただし労働時間の判定にだけは絶対に使わないでください

記録は客観的な方法が原則

前提として、労働時間の把握には国が示した方法があります。厚生労働省のガイドラインは、使用者が始業・終業時刻を確認し記録する方法として、原則として次のいずれかによるとしています。使用者が自ら現認することにより確認し適正に記録すること、またはタイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し適正に記録することです(出典:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定))。

自己申告制によらざるを得ない場合には、実態調査の実施や、労働者による適正な申告を阻害する措置を講じてはならないことなど、複数の措置が求められます。同ガイドラインは、労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めない等の措置を講じてはならないと明記しています(出典:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」)。

ここから分かるのは、記録の主役はあくまで客観的な記録であって、推定ではないということです。AIは推定する道具なので、記録そのものを作らせてはいけません。

AIは異常値の洗い出しに使う

では何に使うか。客観的な記録が揃っている前提で、そこから確認すべき行を見つける作業です。具体的には次のような抽出です。

  • 出勤打刻はあるが退勤打刻がない日
  • 休憩時間が記録されていない、または実労働6時間超で休憩45分未満の日
  • 前日の退勤から翌日の出勤までの間隔が短い日
  • 7日を超えて連続で勤務している週
  • 月の時間外労働が一定の水準に近づいている人

これらは条件が明確なので、AIに条件を書いて渡せば表で返ってきます。返ってくるのは「確認すべき行の一覧」であって、「違反の一覧」ではありません。ここを取り違えないでください。

労働時間の判定はさせない

使ってはいけないのは、ある時間が労働時間に当たるかどうかの判定です。ガイドラインは、労働時間とは使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、労働時間に該当するか否かは労働契約・就業規則・労働協約等の定めのいかんによらず、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるとしています(出典:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」)。

同ガイドラインは、使用者の指示により就業を命じられた業務に必要な準備行為や業務終了後の後始末を事業場内で行った時間、いわゆる手待時間、参加が業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講時間などを労働時間として扱わなければならない例に挙げています。

これらはすべて「その場で何が起きていたか」の事実認定です。データには写っていません。AIに「この30分は労働時間ですか」と聞けば答えは返ってきますが、それは根拠のない推測です。判定は、事情を知っている人が行ってください。

36協定の上限は人が見張る

時間外労働の上限規制には罰則があります。残業時間の上限は原則として月45時間・年360時間で、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできません。臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、年720時間以内、休日労働を含む複数月平均80時間以内、休日労働を含む月100時間未満を超えることはできず、原則である月45時間を超えることができるのは年間6か月までです。違反した場合には6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるおそれがあるとされています(出典:厚生労働省 働き方改革特設サイト「時間外労働の上限規制」)。中小企業への適用は2020年4月からです。

そもそも時間外労働または休日労働をさせる場合には、あらかじめ36協定を締結し、労働基準監督署に届け出なければなりません(出典:厚生労働省「確かめよう労働条件(36協定とは)」)。

この管理をAIの計算に委ねてはいけません。複数月平均や年間の累計は、締めの都度、集計表として人が確認できる形で残してください。AIに月次の抽出を手伝わせるのは構いませんが、上限に近づいているかどうかの見張りは、記録に残る形で人が行う作業です。年次有給休暇についても同様で、使用者は法定の年次有給休暇付与日数が10日以上の全ての労働者に毎年5日を確実に取得させる必要があり、労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し3年間保存しなければなりません(出典:厚生労働省 働き方改革特設サイト「年次有給休暇の時季指定」)。管理簿は残す義務のある記録なので、AIの出力で代替できるものではありません。

自社の労務のどこにAIを使えるか知りたい方へ

就業規則・勤怠・社会保険の手続き・問い合わせ対応のうち、どこまでAIに任せてよいかの線引きから、当社にご相談いただけます。当社の支援は初期費用0円・月額5万円で、範囲を決めるところから伴走します。業務ごとの支援内容は業務別のAI活用支援をご覧ください。

社会保険と雇用保険の手続き

社会保険手続きの4ステップと、マイナンバーをAIに入力しないという注意を示した図

入退社のたびに発生する社会保険・雇用保険の手続きは、労務の時間を確実に食う作業です。ただしこの領域でAIが減らせるのは「調べ物」と「段取り」だけで、手続きそのものは減りません。ここは正直に書きます。

電子申請の義務化と中小企業

まず制度の現在地です。日本年金機構は、政府全体で行政手続きコストを削減するため電子申請の利用促進を図っており、その一環として、資本金等の額が1億円を超える等の特定の法人の事業所が社会保険に関する一部の手続きを行う場合には、必ず電子申請で行うこととなったと説明しています。義務化対象の手続きは、健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額算定基礎届、同月額変更届、同賞与支払届の3つで、令和2年4月から始まっています(出典:日本年金機構「電子申請の義務化」)。

つまり多くの中小企業は義務化の対象外です。対象外だから紙のままでよい、という判断もあり得ます。ただ、電子申請にすると窓口へ行く時間と郵送のやり取りがなくなるため、労務担当が1名の会社ほど効きます。電子申請の入口は日本年金機構「電子申請」にまとまっています。

労働基準法関係の届出も電子申請が可能です。36協定届や就業規則届を含む労働基準法等の規定にもとづく届出は電子申請でき、複数事業場を持つ企業向けの本社一括届出の仕組みも用意されています(出典:厚生労働省「労働基準法等の規定に基づく届出等の電子申請について」)。実際の申請窓口はe-Gov電子申請です。

ここで強調したいのは、AIより先に電子申請のほうが効く会社が多いということです。AI導入の相談をいただいたとき、当社がまず確認するのはこの点です。紙と郵送で回している会社に生成AIを入れても、削れるのは調べ物の時間だけです。

AIは調べ物と段取りに使う

そのうえで、AIが効く部分を挙げます。

  1. ケース別の必要書類の一覧化:「70歳到達」「賞与を支給」「役員報酬の変更」など、頻度の低いケースで当たりを付ける
  2. 社内向けの回収リストづくり:本人から集める書類を、期限つきのチェックリストにする
  3. 提出後の社内周知文の下書き:手続き完了の連絡や、保険証・資格確認書に関する案内文
  4. 過去の届出の整理:手元の控えを一覧化し、抜けを探す

いずれも届出そのものではありません。届出の内容と提出は、必ず人が行い、根拠は日本年金機構やハローワークの該当ページで確認してください。給与計算や年末調整まわりの効率化については、士業の実務側から整理した士業の記帳・給与のAI活用もあわせてご覧ください。

マイナンバーは入力しない

社会保険の手続きでAIを使うときの最重要ルールです。マイナンバー(個人番号)、基礎年金番号、健康保険の記号番号、家族構成、傷病名は、外部の生成AIサービスに入力しないでください

個人情報保護委員会は、個人情報取扱事業者が生成AIサービスに個人情報を含むプロンプトを入力する場合について、「特定された当該個人情報の利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認すること」としています。さらに、あらかじめ本人の同意を得ることなく個人データを含むプロンプトを入力し、当該個人データが応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合には個人情報保護法の規定に違反することとなる可能性があるため、当該生成AIサービスを提供する事業者が当該個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認することを求めています(出典:個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(令和5年6月2日))。

労務が扱うデータは、この注意喚起が想定する典型例です。実務では次の3点を守ってください。

  • 氏名は記号に置き換えて渡す(Aさん、社員01など)
  • マイナンバー・基礎年金番号・保険証番号・傷病名は渡さない
  • 使うサービスの学習利用の設定を確認し、記録を残す

社内で扱ってよい情報の範囲を決める具体的な手順は中小企業のセキュリティ対策で整理しています。労務は個人情報の密度が社内で最も高い部署なので、ここだけは先に決めてから使い始めてください。

問い合わせ対応を仕組みにする

メモ帳とキーボード、文具が並ぶデスク

労務担当者の時間を最も食っているのが、従業員からの問い合わせ対応です。ここは効果が大きい一方で、やり方を間違えると事故になります。

有給の残日数はAIに聞かない

まず、やってはいけない使い方から書きます。「有給はあと何日残っていますか」という質問に、AIが直接答える仕組みを作ってはいけません

理由は3つあります。1つ目は、残日数が個人ごとのデータであり、AIに正確に持たせるには個人データを預ける必要があること。2つ目は、AIが数値を推測で埋める性質があり、1日でもずれれば労働条件の誤った説明になること。3つ目は、年次有給休暇管理簿という作成・保存が義務づけられた記録が別に存在することです(出典:厚生労働省 働き方改革特設サイト「年次有給休暇の時季指定」)。

残日数の照会は、勤怠システムの本人画面か、管理簿にもとづく人からの回答で返してください。ここはAIの出番ではありません。

一次回答の下書きに限定する

逆に効くのは、「制度がどうなっているか」の説明文の下書きです。

問い合わせの種類 AIの使い方 回答者
制度の内容(休暇の種類、手当の条件) 自社規程を渡して回答文を下書き 人が確認して回答
手続きの方法(何を、いつまでに、誰に) 手順書を渡して案内文を下書き 人が確認して回答
個人の残日数・給与額・保険の加入状況 使わない 人がシステム・管理簿を見て回答
個別事情の可否判断(この場合は認められるか) 論点の整理のみ 人、必要に応じて社労士

3行目と4行目に「使わない」「論点の整理のみ」と書いてあることが重要です。問い合わせのうちAIに任せられるのは、上2行だけだと考えてください。それでも件数としては半分以上を占めることが多く、効果は十分に出ます。

規程を探せる形にしておく

一次回答の質は、AIの賢さではなく渡す規程の整い方で決まります。就業規則がPDFの画像スキャンのままだと、そもそも文字として読ませられません。

先にやるべきことは3つです。就業規則と各規程をテキストとして扱える形にすること、最新版がどれかを1か所で分かるようにすること、そして過去の問い合わせと回答を台帳にしておくことです。この3つが揃っていると、AIの一次回答は実用に耐えます。揃っていないと、それらしいだけの文章が返ってきます。バックオフィス全体の情報整理の考え方はバックオフィス業務の効率化で扱っています。

そのまま使えるプロンプト3つ

ここまでの内容を、実際に使える形にします。自社の状況に合わせて数値や条件を書き換えてお使いください。いずれも出力は「候補」であり、確定は人が行う前提です

規程の読み合わせプロンプト

あなたは労務実務の確認担当です。以下の2つの資料を突き合わせて、確認すべき論点を出してください。

【資料1】当社の就業規則の本文(このあとに貼り付け)
【資料2】比較したい資料の本文(モデル就業規則の該当章、または官公庁のリーフレット。このあとに貼り付け)
【資料3】当社の実際の運用(箇条書き。例:始業は8時30分だが朝礼が8時20分から、休憩は12時から13時だが交代制、休職は前例なし)

【やること】
1. 資料1に条文がない、または記載が不足している項目を挙げてください。
2. 資料1の条文と資料3の運用が食い違っている箇所を挙げてください。
3. 資料1と資料2で内容が異なる箇所を挙げてください。
4. 用語の不統一(社員・従業員・職員の混在、別規程名の表記ゆれ)を挙げてください。

【出力形式】
次の列を持つ表で出してください。
論点/該当する条文番号/何が問題か/資料1・2・3のどれを根拠にしたか/人が判断すべきか社労士に相談すべきか

【厳守】
・条文の書き換え案は出さないでください。指摘だけにしてください。
・渡した資料に書かれていないことを根拠にしないでください。
・法令の解釈が分かれる可能性がある論点は「要確認」と明記してください。

最後の3行が要点です。書き換え案を禁止しておくと、そのまま貼り付ける事故が起きません。指摘だけを受け取り、条文をどうするかは人が決めます。

問い合わせの一次回答の下書き

あなたは当社の労務担当の補助役です。従業員からの問い合わせに対する回答文の下書きを作ってください。

【当社の規程】(就業規則の関係する条文をこのあとに貼り付け)
【当社の手続き】(社内の申請手順・提出先・期限をこのあとに貼り付け)
【問い合わせ内容】(本文をこのあとに貼り付け。氏名は「Aさん」に置き換えること)

【条件】
1. 回答は、上に渡した規程と手続きに書かれている範囲だけで作ってください。
2. 渡した資料に書かれていないことを聞かれている場合は、回答文を作らず「規程に記載がないため要確認」とだけ返してください。
3. 個人の有給残日数・給与額・保険の加入状況には触れないでください。「担当者が確認してご連絡します」としてください。
4. 制度の可否を断定しないでください。「原則として」「詳細は担当までご確認ください」という書き方にしてください。
5. 300字程度、丁寧語で、社内向けの文面にしてください。

【出力形式】
回答文の下書き/根拠にした条文番号/人が確認すべき点(箇条書き)

【厳守】条文番号を推測で書かないでください。渡した資料にある番号だけを使ってください。

2番目と3番目の条件が安全装置です。知らないことを知らないと言わせる指示を先に書いておくと、労務での使用に耐える出力になります。

勤怠の異常値の洗い出し

あなたは勤怠データの確認担当です。以下のデータから、人が確認すべき行を抽出してください。

【データ】社員コード・日付・出勤打刻・退勤打刻・休憩時間・区分(出勤/有給/欠勤/休日)の一覧(このあとに貼り付け)
【当社の所定】始業9時00分、終業18時00分、休憩60分、所定労働8時間、法定休日は日曜

【抽出する条件】
1. 出勤打刻はあるが退勤打刻がない日
2. 退勤打刻はあるが出勤打刻がない日
3. 実労働が6時間を超えるのに休憩が45分未満の日
4. 実労働が8時間を超えるのに休憩が60分未満の日
5. 前日の退勤から翌日の出勤までの間隔が11時間未満の日
6. 7日を超えて連続で勤務している期間
7. 同じ日に2回以上の出勤打刻がある日
8. 出勤区分なのに打刻が1つもない日

【出力形式】
次の列を持つ表で出してください。
社員コード/日付/該当した条件の番号/実際の値/確認してほしい点

【厳守】
・労働時間に当たるかどうかの判定はしないでください。
・残業代の要否や法令違反の有無を書かないでください。
・条件に当てはまらない行は出力しないでください。
・データにない日付や値を補完しないでください。

この3つ目のプロンプトは、「厳守」の4行がなければ使ってはいけないと考えてください。特に1行目と2行目を外すと、AIは頼んでいない判定を勝手に付けてきます。それを社内で回すと、判定したのが誰かが分からなくなります。

大企業の事例と規模の違い

街路樹に囲まれた高層オフィスビル

労務まわりで実際にAIが動いている例を、外部の資料から挙げます。ここで使うのはGoogle Cloud「生成AI 顧客事例集」です。これは同社の販促資料であり、掲載企業は同社の顧客、成果も自己申告です。公的統計と同じ扱いはできません。そのうえで、どの用途で実際に動いているかを見る材料としては有用です。

帳票の読み取りを自動化した例

同事例集には、クラウド人事労務ソフトを提供するSmartHRの取り組みが掲載されています。年末調整で従業員が保険料控除証明書の内容を入力する際、保険会社ごとに書式が異なるため誤入力が多発し、確認や差し戻しの工数が負担になっていたという課題に対し、スマートフォンで撮影した帳票画像をマルチモーダルの生成AIで解析し、フォームへ自動入力する仕組みを構築したと説明されています。同資料には読み取り精度や削減工数の数値も記載されていますが、本記事ではこれを達成済みの成果としては扱いません。第三者が検証した数字ではなく、取り組みの段階についても資料の記述以上のことは分からないためです。

ここから読み取るべきは数値ではなく、「非定型の帳票を読み取らせる」という用途が実際に開発されているという事実です。労務の紙は、まさに非定型の帳票の集まりです。

記録の要約と申請の型づくり

同事例集には、保育業界向けサービスを提供するユニファの例も掲載されています。写真・日誌・連絡帳・発達記録などのデータから個別のレポートを生成する機能を追加し、それまで3時間から4時間はかかっていた保育計画立案のための日誌整理作業が大幅に短縮されたと説明されています。労務そのものではありませんが、蓄積された記録から必要な文書を組み立てるという構造は、労務の記録管理と同じです。

もう1つ、業務効率化ツールを提供するrakumoの例では、紙の申請書を撮影したデータやPDFをアップロードするだけで、AIが入力フォームなどデジタルワークフローのひな型を自動で作成する機能や、領収書をスマートフォンで撮影すると発生日・金額・税区分をAIが判別して自動登録する機能が説明されています。紙の申請書がワークフローに乗らないという問題は、中小企業の労務でもそのまま起きています。

中小企業が真似できる部分

ここで規模の違いをはっきり書いておきます。上の3社はいずれも自社でシステムを開発できる会社であり、クラウド基盤の上に専用の仕組みを構築しています。従業員数十名の会社が同じものを作ることはできませんし、作る必要もありません。

真似できるのは、次の2点だけだと考えてください。

  1. 紙の帳票を、まず画像やPDFとしてでも電子化すること。読み取らせるかどうかは次の話で、電子になっていなければ何も始まりません
  2. 記録を「後で使える形」でためること。問い合わせと回答、手続きの控え、規程の版。これがあると、生成AIでもできることが一気に増えます

この2つは、AIを使わなくても効果があります。そして、この2つをやっていない会社にAIを入れても効果は出ません。順番の話です。

モデルケース|労務の試算

従業員45名の金属加工業における労務4作業の工数を、現状・情報整備後・AI併用後で比較した棒グラフ

ここまでの内容を、具体的な数字に落とします。以下は実在の企業ではなく、当社が支援の初期見積りに使っているモデルケース(試算)です。自社の状況に置き換えてご覧ください。

前提条件

  • 従業員45名の金属加工業K社(本社1事業場・工場1事業場)
  • 労務担当は総務課の1名(経理と兼務、労務に月69時間)
  • 時給2,500円・月20営業日で試算
  • 就業規則は5年前の改定のまま。紙とWordの版が混在している
  • 勤怠はタイムカードをExcelに転記して集計している
  • 社会保険の手続きは紙で郵送。電子申請は未導入
  • 顧問社労士はいるが、相談は年に数回にとどまっている

この状態でのK社の悩みは、月末の勤怠締めと、従業員からの問い合わせで日中の時間が細切れになることでした。

導入前と導入後の工数

「情報整備後」は、就業規則と各規程をテキスト化し最新版を1か所に集約、過去1年分の問い合わせと回答を台帳化した状態です。「AI併用後」は、そのうえで一次回答の下書きと勤怠の異常値抽出にAIを使った状態です。

作業 現状(月) 情報整備後 AI併用後
従業員からの問い合わせ対応 12.0時間 8.5時間 6.5時間
就業規則・規程の確認と改定準備 4.0時間 3.0時間 2.2時間
社会保険・雇用保険の手続き 14.0時間 12.5時間 11.0時間
勤怠の集計と締め前の確認 18.0時間 14.0時間 10.5時間
時間外・有給の状況チェック 3.5時間 2.5時間 2.0時間
法改正の情報収集と社内周知 5.0時間 4.0時間 3.0時間
入退社の書類と案内文の作成 8.0時間 6.5時間 4.5時間
労務関係の社内資料の作成 4.5時間 3.5時間 2.0時間
合計 69.0時間 54.5時間 41.7時間

合計で月27.3時間が減る計算です。時給2,500円で換算すると月68,250円分になります。

削減の内訳

段階 削減時間(月) 時給2,500円換算 削減の割合
情報整備による削減 14.5時間 36,250円 全体の約53パーセント
AI併用による追加削減 12.8時間 32,000円 全体の約47パーセント
合計 27.3時間 68,250円 100パーセント

この表で見ていただきたいのは、削減の約半分がAIではなく情報整備によるものだという点です。規程をテキスト化して最新版を1か所にまとめ、問い合わせを台帳にする。それだけで月14.5時間が減ります。AIを入れなくても、です。

この試算に含まれないもの

この試算には含まれていないものが3つあります。

1つ目は、情報整備そのものの工数です。K社の場合、規程のテキスト化と版の整理に3日、過去1年分の問い合わせの台帳化に2日、合計で5日程度を見込んでいます。これは初回だけの作業ですが、決して小さくありません。

2つ目は、社会保険手続きの削減幅が小さいことです。表を見ると、14.0時間が11.0時間にしか減っていません。手続きそのものはAIでは減らないからです。ここを大きく減らしたい場合は、AIではなく電子申請の導入か、社労士への外部委託を検討したほうが早いです。

3つ目は、この試算が効果を保証するものではないことです。従業員数、事業場の数、勤怠の複雑さ(変形労働時間制やシフト制の有無)、現在の規程の整い方によって結果は大きく変わります。自社での削減余地を知りたい場合は、まず1か月分の労務の作業を記録し、問い合わせの件数と勤怠確認にかかった時間を数えてください。それが最も正確な出発点です。

社労士に頼むべき線引き

最後に、この記事で一番書いておきたいことを書きます。AIを使うほど、社労士に相談すべき論点は減るのではなく、はっきりします

判断と提出代行は社労士の仕事

労働社会保険諸法令にもとづく申請書等の作成や、事業主に代わって行う提出手続の代行は、社会保険労務士の業務です。ここはAIでも、社内の担当者でも代わりになりません。

そのうえで、当社が「これは社労士に相談してください」とお伝えしている場面は次のとおりです。

場面 なぜ社労士か
就業規則を不利益な内容に変更する 合理性の判断と、交渉・周知の手続設計が必要
36協定の特別条項を新たに結ぶ 上限規制に罰則があり、運用設計まで含めた判断が要る
変形労働時間制やみなし労働時間制を導入する 要件が細かく、運用を誤ると全期間が問題になる
問題行動のある従業員への対応を検討する 手順と記録の残し方で結論が変わる
労働基準監督署の調査や是正勧告に対応する 過去の運用まで含めた説明が必要
助成金の申請を検討する 要件の判定と時期の管理が難しい
初めての産休育休・介護休業に対応する 給付と社会保険の手続きが連動し、期限が多い

AIがあっても社労士は要る

「AIがあれば社労士は不要になるのでは」と聞かれることがありますが、当社はそうは考えていません。理由は2つです。

1つ目は、AIが責任を持てないことです。労務の判断は、間違えたときに誰が説明するかまで含めて成り立っています。AIの出力に「この解釈で問題ありません」と保証させることはできません。

2つ目は、AIが自社の過去を知らないことです。5年前にどんな運用をしていたか、前回の是正でどこを直したか、労使の関係がどうか。労務の判断はこれらの上に乗っています。顧問社労士が持っているのは、この文脈です。

むしろAIを使い始めると、「これは調べれば分かる」と「これは判断が要る」が分離されます。前者を自社で片づけられるようになれば、社労士への相談の中身が濃くなります。当社が労務のご支援でお伝えしているのは、社労士を減らす方向ではなく、相談の質を上げる方向です。

顧問社労士との役割分担

実務上の役割分担は、次の形が回りやすいと感じています。

  1. AI:規程と実態のズレの洗い出し、問い合わせの一次回答の下書き、勤怠の異常値抽出、原文を渡したうえでの法改正の要約
  2. 社内の担当者:出てきた候補の取捨選択、従業員への回答と記録、行政への届出、社労士への相談内容の整理
  3. 社労士:適用の判断、規程の最終確認、手続の設計、行政対応

この形にすると、社労士に渡す相談が「論点が整理された状態」で届きます。AIの最大の効果は、社労士との会話の準備が早く終わることかもしれません

労務のAI活用でよくある失敗

当社がご相談を受ける中で、実際に起きている、あるいは起きかけた失敗を挙げます。対策とセットでご覧ください。

失敗 起きること 防ぎ方
AIが書いた条文をそのまま規則に入れる 自社の実態と合わない条文が労働条件になる AIには指摘だけを出させ、書き換え案を禁止する
法改正をAIの記憶に聞く 古い内容を社内に周知してしまう 官公庁の原文を先に取り、それを貼って要約させる
個人情報を無設定のまま入力する 個人データが学習に使われる可能性がある 氏名を記号化し、番号類は渡さない。設定を確認して記録する
AIに労働時間かどうかを判定させる 根拠のない判定が記録として残る 抽出条件を明示し、判定を禁止する指示を入れる
有給残日数をAIに答えさせる 誤った日数を従業員に伝える 管理簿と勤怠システムの数字で人が回答する
相談窓口をAIに置き換える 相談しにくくなり、問題の発見が遅れる 制度説明はAI、相談は人という入口を分ける

規程の条文をAIに作らせる

最も多いのがこれです。「就業規則の休職の条文を作って」と頼むと、それらしい条文が返ってきます。休職期間、通算の扱い、復職の判断方法まで書かれています。

問題は、その数字と条件が、自社で1度も議論されていないことです。休職期間を6か月にするか1年にするかは、会社の体力と過去の事例で決まります。AIが選んだ数字が入った規則を周知すれば、それが労働条件になります。

防ぎ方は単純です。プロンプトに「条文の書き換え案は出さないでください。指摘だけにしてください」と書くことです。前掲のプロンプト例に入れてあるのは、この理由からです。

古い情報のまま社内に周知

2番目に多いのがこれです。特に、育児介護休業や労働条件明示のように短い期間に複数回の改正がある領域で起きます。

防ぎ方は前述の5段階の手順です。もう1つ実務的なコツを挙げると、社内周知文の末尾に「根拠:厚生労働省◯◯ページ(確認日:年月日)」を必ず書く運用にしてください。書けない内容は周知しない、というルールにすると、原文確認が習慣になります。

個人情報を無設定で入力

3番目は、悪意なく起きます。「この申請書の書き方を教えて」と、記入済みの用紙の写真を貼ってしまう。この1回で、氏名・生年月日・マイナンバー・住所が外部に渡ります。

前述のとおり、個人情報保護委員会は、あらかじめ本人の同意を得ずに個人データを含むプロンプトを入力し、それが応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合、個人情報保護法の規定に違反することとなる可能性があるとしています(出典:個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」)。労務でAIを使い始める前に、この1点だけは全員に共有してください

4週間で始める進め方

4週間の進め方を第1週から第4週まで並べたフロー図

最後に、実際に進めるときの手順を4週間に区切って示します。いきなりツールを選ばないことが要点です。

第1週|規程と問い合わせを棚卸し

まず現状を数えます。次の3つです。

  1. 自社にある規程の一覧と、それぞれの最終改定日、最新版の所在
  2. 直近1か月に受けた問い合わせの件数と、種類ごとの内訳
  3. 勤怠の締め作業にかかった時間と、確認が必要だった件数

この実測がすべての出発点です。問い合わせの内訳を数えると、上位3種類で全体の半分以上を占めることがほとんどです。そこがAIの対象になります。

第2週|使ってよい情報を決める

次に、AIに渡してよい情報と渡してはいけない情報を1枚の紙に書きます。労務では、この順番を飛ばしてはいけません。

  • 渡してよい:規程の本文、社内手順書、氏名を記号化した勤怠データ、官公庁の公開資料
  • 渡さない:マイナンバー、基礎年金番号、保険証の記号番号、傷病名、賃金の個人別データ、人事評価
  • 使うサービスの学習利用設定を確認し、確認日と設定内容を記録する

この紙の作り方は社内AIルールの作り方にひな型があります。1枚で足ります。

第3週|一次回答で試す

第1週で数えた問い合わせの上位3種類について、前掲のプロンプトで一次回答の下書きを試します。1か月分の実際の問い合わせで試し、次の2点を確認してください。

  1. 下書きをそのまま使えた割合はどれくらいか
  2. 下書きを直す時間と、ゼロから書く時間のどちらが短いか

2番目で「ゼロから書いたほうが早い」となる種類があれば、その種類にAIは使わないでください。すべてに使う必要はありません

第4週|勤怠の異常値で試す

1か月分の勤怠データで、異常値の洗い出しを試します。ここで確認するのは、AIが挙げた行のうち、実際に確認が必要だった割合です。

この割合が低い場合、原因はAIではなく抽出条件にあります。条件を自社の所定労働時間や勤務パターンに合わせて書き直してください。条件が具体的なほど、出力は使えるものになります。ここまでできたら、法改正の追随や規程の読み合わせに広げていきます。

よくある質問(FAQ)

Q. 労務のどこまでAIに任せてよいですか?

A. 調べる・下書きする・整理するまでです。適用の判断と、行政への提出は必ず人が行ってください。判断の基準は「その出力がそのまま従業員や行政に出るか」です。出るものは人、出ないものはAIと分けると、ほとんどの作業は仕分けできます。

Q. 就業規則をAIに作らせてもよいですか?

A. たたき台までは可能ですが、完成品として使ってはいけません。厚生労働省もモデル就業規則について、あくまでモデル例であり就業規則の内容は事業場の実態に合ったものとしなければならないとしています。AIは自社の実態を知らないため、議論されていない数字や条件が条文に入り込みます。

Q. 就業規則は何人から作成義務がありますか?

A. 常時10人以上の労働者を使用する事業場です。企業単位ではなく事業場単位で判断するため、複数の営業所や店舗がある場合は、それぞれで10人以上かどうかを見ます。過半数代表者の意見書を添えて所轄の労働基準監督署長に届け出ます。変更の場合も同様です。

Q. 法改正はAIに聞いても大丈夫ですか?

A. 記憶に頼らせる聞き方は危険です。生成AIは学習時点の情報を、古いとは言わずに答えます。官公庁のページやリーフレットの原文を自分で取ってきて、それを貼ったうえで要約させてください。渡した範囲で答えさせる質問は安全、記憶から引き出させる質問は危険と覚えてください。

Q. 勤怠の集計をAIに任せてよいですか?

A. 確認すべき行の抽出には使えますが、労働時間かどうかの判定には使えません。労働時間に該当するかは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるかで客観的に定まるとされており、これはデータに写らない事実認定です。抽出条件を書いて候補を出させ、判定は人が行ってください。

Q. 有給の残日数をAIに答えさせてもよいですか?

A. やめてください。理由は3つあります。残日数が個人データであること、AIが数値を推測で埋める性質があること、そして年次有給休暇管理簿という作成・保存が義務づけられた記録が別に存在することです。残日数の照会は勤怠システムか管理簿にもとづいて人が回答してください。

Q. 社会保険の電子申請は中小企業も義務ですか?

A. 義務化の対象は、資本金等の額が1億円を超える等の特定の法人です。多くの中小企業は対象外ですが、任意で利用できます。労務担当が1名の会社ほど、窓口や郵送の往復がなくなる効果が大きいため、AIより先に検討する価値があります。

Q. AIにマイナンバーを入力しても大丈夫ですか?

A. 外部の生成AIサービスには入力しないでください。個人情報保護委員会は、個人情報を含むプロンプトを入力する場合には利用目的の達成に必要な範囲内であることを十分に確認すること、本人の同意なく個人データを入力する場合には機械学習に利用されないこと等を十分に確認することを求めています。

Q. 36協定の管理をAIに任せられますか?

A. 月次の抽出を手伝わせることはできますが、上限に近づいているかの見張りは人が行ってください。時間外労働の上限規制には罰則があり、複数月平均や年間の累計の管理が必要です。記録に残る集計表として人が確認できる形にしてください。

Q. AIがあれば社労士は不要になりますか?

A. なりません。AIは責任を持てず、自社の過去の運用も知らないためです。むしろAIを使うと「調べれば分かること」と「判断が要ること」が分離され、社労士への相談の中身が濃くなります。当社は社労士を減らす方向ではなく、相談の質を上げる方向をお勧めしています。

Q. 社内チャットボットで労務の質問に答えさせたいのですが?

A. 制度の説明までなら可能ですが、個人の状況に関する回答と、個別事情の可否判断は人に残してください。また、相談窓口そのものをAIに置き換えると、相談しにくくなって問題の発見が遅れます。制度説明はAI、相談は人という入口の分け方をお勧めします。

Q. 何から手をつければよいですか?

A. 直近1か月の問い合わせ件数と種類、勤怠の締めにかかった時間を数えてください。問い合わせは上位3種類で半分以上を占めることがほとんどで、そこがAIの対象になります。そのうえで、規程をテキスト化して最新版を1か所にまとめる作業から始めると、AIを使う前から効果が出ます。

まとめ

  • 労務でAIに任せてよいのは調べる・下書きする・整理するまで。判断と提出は人が行う
  • 作業の仕分けは「その出力がそのまま従業員や行政に出るか」で決める
  • 就業規則は作らせるのではなく読み合わせる。モデル就業規則自体がそのまま使う前提ではない
  • 就業規則は事業場単位。過半数代表者の選び方にも要件がある
  • 不利益変更には合理性と周知が要る。ここは社労士に相談する領域
  • 法改正をAIの記憶に聞かない。原文を取ってから貼って要約させる5段階の手順で防ぐ
  • 勤怠は異常値の抽出まで。労働時間かどうかの判定はさせない
  • 社会保険手続きはAIでは減らない。電子申請のほうが先に効く会社が多い
  • マイナンバー等は外部の生成AIに入力しない。氏名は記号化する
  • モデルケースの試算では、削減の約半分が情報整備によるものだった

労務は、AIを入れれば楽になる領域ではありません。規程が整い、記録が探せる状態になって初めて、AIが効き始めます。逆に言えば、その整理はAIを使わなくても効果があります。まずは1か月分の問い合わせと勤怠確認を数えるところから始めてください。数えれば、どこにAIを使うべきかは自然に決まります。

自社の労務を見てほしい方へ

1か月分の問い合わせ内訳と勤怠の締め作業をもとに、AIに任せる範囲・人が判断する範囲・社労士に相談する範囲の切り分けからご相談いただけます。当社はAI導入支援の事業者であり、社労士業務は行いません。必要な場面では顧問社労士への相談内容の整理までをお手伝いします。当社の支援は初期費用0円・月額5万円で、範囲を決めるところから伴走します。

無料相談はこちら(初回のご相談・お見積りは無料です)

業務ごとのAI活用支援の内容は業務別のAI活用支援、採用側のAI活用は人事・採用のAI活用、給与計算・年末調整まわりは士業の記帳・給与のAI活用、バックオフィス全体はバックオフィス業務の効率化、社内の申請と承認の流れはワークフローの自動化にまとめています。

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