中小企業のセキュリティ対策|AI利用で増える論点
業務効率化支援を行う「Ai-Raku(アイラク)」代表。国立大学でAIの研究を行い、ITコンサル・ウェブコンサルを経て独立。官公庁向けの業務効率化や上場企業の支援等を経て、中小企業の現場に定着するAI活用を企画から運用まで一気通貫で支援している。

「AIを業務で使わせたい。でもセキュリティが心配で踏み切れない」——中小企業の経営者や情報システム担当の方から、この相談が本当に増えました。生成AIの話題が出るたびに情報漏洩の不安がセットで語られるので、「うちにはとても無理だ」と結論づけてしまう会社も少なくありません。
ただ、実際に調べていくと、多くの会社が抱いている不安と、実際に起きている被害の中身には、かなりのズレがあります。そして、AIを使うことで新しく増えるセキュリティの論点は、実はそれほど多くありません。大半は、AIがあってもなくても必要だった、これまでのセキュリティ対策の延長線上にあります。
この記事では、AI導入支援を行う立場から、中小企業のセキュリティ対策の全体像の中でAI利用がどこに位置づくのかを整理します。公的機関が公表している一次情報にもとづき、「AIで新しく増える論点は4つ」「それ以外は既存対策の延長」という切り分けを示し、限られた人員と予算で何から手を付けるべきかまで落とし込みます。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の企業の状況に対する助言ではありません。当社はAI導入支援を行う事業者であり、情報セキュリティの専門会社ではありません。自社に必要な対策の判断や、実際に事故が発生した場合の対応については、セキュリティの専門家や専門機関にご相談ください。
また、本記事に「これをやれば安全になる」という趣旨の記述はありません。セキュリティ対策に絶対はなく、できることは被害の可能性と大きさを下げることです。網羅的な対策項目については、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公開している中小企業の情報セキュリティ対策ガイドラインを必ずご参照ください。
- ランサムウェア被害の約6割が中小企業という現実と、その侵入経路
- IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」でAIが初めて3位に入った意味
- AI利用で新しく増える論点は「線引き・シャドーAI・外部接続・ログ」の4つだけ
- IPAが公表している土台(情報セキュリティ6か条・3原則・自社診断)の使い方
- 人員も予算も限られる中で、やることを絞る優先順位の付け方
- 事故が起きたときの初動と、相談・通報先の一覧
- 結論:AIで増える論点は4つに絞れる
- 中小企業が実際に狙われている現状
- IPA10大脅威2026でAIが初の3位に
- AI利用で新しく増える論点は4つ
- 増えない論点は既存対策の延長で足りる
- 土台はIPAの情報セキュリティ6か条
- AI利用で参照すべき公的ガイドライン
- やることを絞る優先順位の付け方
- 事故が起きたときの初動を決める
- 【モデルケース】従業員30名の会社の進め方
- よくある質問(FAQ)
- Q. 中小企業でもセキュリティ対策は必要ですか?
- Q. 何から手を付ければいいですか?
- Q. AIを使うと情報漏洩のリスクは上がりますか?
- Q. 生成AIの利用を全面禁止すれば安全ですか?
- Q. AI用のセキュリティ規程を新しく作るべきですか?
- Q. 無料のAIサービスを業務で使ってはいけませんか?
- Q. シャドーAIが起きているか確認する方法はありますか?
- Q. ランサムウェアの被害額はどのくらいですか?
- Q. バックアップさえあれば大丈夫ですか?
- Q. 情報システムの専任担当がいない場合は?
- Q. AIが社内データを読む仕組みは危険ですか?
- Q. 従業員教育は何をどこまでやればいいですか?
- Q. 取引先に体制を聞かれたら何を答える?
- Q. AI導入と対策はどちらが先ですか?
- まとめ:基本を固めてからAIを足す
結論:AIで増える論点は4つに絞れる
先に結論を書きます。中小企業がAIを業務で使い始めるときに、セキュリティ上「新しく」考える必要がある論点は、大きく次の4つです。
- 入力してよい情報の線引きを決めること
- シャドーAI(会社が把握していないAI利用)を防ぐこと
- AIと外部システムをつなぐときの管理
- 誰が何を入力したかのログが残らない問題
逆に言えば、これ以外の論点——ウイルス対策、パスワード管理、バックアップ、脆弱性への対応、退職者のアカウント削除、取引先経由のリスクなど——は、AIを使うかどうかに関係なく必要だったものです。AIの登場によって難易度が上がった部分はありますが、対策の種類が新しく増えたわけではありません。
この切り分けは、当社の独自見解ではありません。IPAが2026年1月29日に公表した「情報セキュリティ10大脅威 2026」の解説書[組織編]には、AIとサイバーセキュリティに関するコラムがあり、そこで次のような趣旨の整理が示されています。AI固有の弱点を狙う新しい攻撃手法(間接プロンプトインジェクション)は確かに存在するが、それ以外の事例の大部分は、従来と変わらないサイバー攻撃がAIによって半自動化・高速化されたものにとどまる。したがって、従来のサイバーセキュリティ対策が有効である——という整理です(出典:IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026 解説書[組織編]」2026年3月、https://www.ipa.go.jp/security/10threats/10threats2026.html)。
公的機関が「従来の対策が有効」と明記している以上、AIのために特別なセキュリティ体制を一から作る必要はありません。むしろ順番が逆で、基本的な対策が抜けている状態でAIだけ厳しく管理しても、被害の実態には対応できません。この記事では、その「基本」と「AIで増える分」を分けて説明していきます。
中小企業が実際に狙われている現状
AIの話に入る前に、いま実際に何が起きているのかを数字で確認しておきます。ここを飛ばすと、対策の優先順位を間違えます。
ランサムウェア被害の約6割は中小企業
警察庁が公表した「令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」によると、令和7年(2025年)のランサムウェアの被害報告件数は226件で、依然として高水準で推移しています。そして、被害企業を組織の規模別に見ると、前年と同様に中小企業が約6割を占めています。業種別では製造業が約4割を占め、続いて卸売・小売業、サービス業、情報通信業が上位ですが、さまざまな業種で被害が確認されています(出典:警察庁「令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」https://www.npa.go.jp/publications/statistics/cybersecurity/index.html)。
「うちのような小さい会社は狙われない」という感覚は、統計とは合いません。同資料では、ランサムウェアの開発・運営を行うグループが攻撃実行者に攻撃環境を提供するRaaS(Ransomware as a Service)の存在が指摘されており、高度な技術的専門知識を持たない者でも攻撃が可能になったことで、攻撃者の裾野が広がっているとされています。狙って中小企業を選んでいるというより、機械的に探して入れるところに入る、という構図に近い状況です。
侵入経路の6割以上はVPN機器
ここが最も重要な点です。同じ警察庁の資料によると、被害組織へのアンケート結果では、侵入経路はVPN機器が6割以上を占めています。攻撃者は、未修正の脆弱性、漏えいした認証情報や簡易なパスワード、設定不備などを悪用してネットワークに侵入します。近年は、インターネットに露出した箇所から遠隔操作で内部に侵入する手口が多くを占め、標的型攻撃メールなどの添付ファイルによる感染は少なくなっている、とも記載されています。
つまり、実際の被害の主要な入り口は「社員が生成AIに情報を入力したこと」ではなく、「インターネットに面した機器の脆弱性や認証情報」です。AIの利用ルールをどれだけ厳しくしても、VPN機器のファームウェアが数年前のまま放置されていれば、そちらから入られます。優先順位を考えるうえで、この事実は外せません。
復旧費用と期間の現実
被害に遭った後のコストも公表されています。警察庁の同資料によると、令和7年にランサムウェア被害に遭った企業・団体等へのアンケートでは、調査費用・復旧費用が高額化しており、復旧に総額1,000万円以上を要した組織の割合は全体の5割を超えています。また、1か月未満で復旧した組織の割合は全体の5割強にとどまり、被害が長期化する傾向にあるとされています。
中小企業にとって、1,000万円以上の突発費用と1か月以上の業務停止は、事業継続そのものに関わります。セキュリティ対策の費用を「保険料」として考えるとき、比較対象になるのはこの規模の損失です。
中小企業が現実に直面している最大級の脅威はランサムウェアであり、その主な入り口はインターネットに面した機器と認証情報です。AI利用は重要な論点ですが、これを最優先に置くと、被害の実態と対策がズレます。まずは足元の基本、次にAI固有の論点、という順番が現実的です。
IPA10大脅威2026でAIが初の3位に
とはいえ、AIが無関係というわけではありません。2026年、AIはついに公的な脅威ランキングに入りました。
組織編トップ10の顔ぶれ
IPAが2026年1月29日に公表した「情報セキュリティ10大脅威 2026」の組織編は、次のような順位です。なおIPAは、順位が危険度の高さをそのまま表すものではない、という趣旨の注意書きを付しています。自社にとってどれが重いかは、業種や業務内容によって変わります。
| 順位 | 脅威 | 備考 |
|---|---|---|
| 1位 | ランサム攻撃による被害 | 4年連続1位 |
| 2位 | サプライチェーンや委託先を狙った攻撃 | 4年連続2位 |
| 3位 | AIの利用をめぐるサイバーリスク | 初選出 |
| 4位 | システムの脆弱性を悪用した攻撃 | — |
| 5位 | 機密情報を狙った標的型攻撃 | — |
| 6位 | 地政学的リスクに起因するサイバー攻撃(情報戦を含む) | — |
| 7位 | 内部不正による情報漏えい等 | — |
| 8位 | リモートワーク等の環境や仕組みを狙った攻撃 | — |
| 9位 | DDoS攻撃(分散型サービス妨害攻撃) | — |
| 10位 | ビジネスメール詐欺 | — |
出典:IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」(2026年1月29日公表)https://www.ipa.go.jp/security/10threats/10threats2026.html
注目すべきは、1位と2位が4年連続で変わっていないことです。AIが3位に初選出されたことは大きなニュースですが、それでも上位2つは従来型の脅威が占めています。この構図自体が、「基本が先、AIが後」という優先順位を裏づけています。
AIの利用をめぐるリスクの中身
3位に入った「AIの利用をめぐるサイバーリスク」について、IPAの解説書[組織編]では、リスクとして次のような内容が挙げられています。
- 職場に許可なくAIを業務利用し、情報漏えいにつながる可能性(シャドーAI)。従業員が個人的に利用しているAIサービスを業務に使い、本来持ち出しが禁止されている業務データを入力してしまうケース。会社が個人アカウントによる業務利用を認識できないこと自体もリスクとされています
- 実在しない情報を対話型AIが生成する可能性(ハルシネーション)。手軽さから過剰に依存し、誤った生成結果を鵜呑みにしてしまう問題
- AIを助力に得たサイバー脅威の増長。翻訳能力の向上により、攻撃者が標的の母国語で違和感のないフィッシング文面を作れるようになり、多言語での攻撃が容易になっていること
また事例・傾向として、IPAは米国のAI企業による調査を引用し、業務において生成AIにデータをコピー&ペーストしてプロンプトとして入力している利用者が77パーセントおり、そのうち82パーセントが組織に管理されていないアカウントによるものであった、という数字を紹介しています。会社が把握できない形で情報が外に出ていくリスクが高まる、という文脈です(出典:IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026 解説書[組織編]」2026年3月)。
この「組織に管理されていないアカウント」という部分が、中小企業にとっては最も現実的な論点です。詳しくは後述します。
IPAが示した重要な但し書き
解説書のコラムには、経営判断に直結する記述があります。前述のとおり、AI固有の弱点を狙う間接プロンプトインジェクションという手法は新しいものの、それ以外の事例の大部分は従来型の攻撃がAIによって半自動化・高速化されたものであり、従来のサイバーセキュリティ対策が有効である、という整理です。同時に、AI技術の発展速度は速く、数か月のうちに状況が変わる可能性が常にあるため、基本を押さえつつ最新の状況を注視する姿勢が求められる、とも述べられています。
この2つはセットで読む必要があります。「従来対策が有効だから何もしなくてよい」ではなく、「従来対策を土台にしたうえで、変化を見続ける」ということです。
AI利用で新しく増える論点は4つ
ここからが本題です。既存のセキュリティ対策に対して、AIを使うことで「新しく」追加される論点を4つに整理します。
| 論点 | 何が新しいのか | 最初にやること |
|---|---|---|
| 1. 入力してよい情報の線引き | 従来は「外部に送らない」で済んだが、AIは業務のために外部へ送る前提のツール | 入力してよい情報を1枚にまとめる |
| 2. シャドーAI | 会社が契約していなくても、個人アカウントで無料で使えてしまう | 会社として使ってよいツールを1つ決めて周知する |
| 3. 外部接続の管理 | AIが社内データや外部サービスに直接つながる構成が普及してきた | 接続してよい範囲と承認者を決める |
| 4. ログが残らない | 個人アカウント利用では、誰が何を入力したか会社側に記録が残らない | 法人向けプランに寄せて記録を残す |
論点1 入力してよい情報の線引き
従来の情報管理は、大まかに言えば「社外に出さない」という原則で運用できました。しかし生成AIは、業務で使う以上、何らかの情報を社外のサービスに送ることが前提になります。だからこそ、「出さない」ではなく「どこまでなら出してよいか」を決める必要が出てきます。これが、AI利用で最初に増える論点です。
この線引きの根拠となる公的な文書があります。個人情報保護委員会は令和5年6月2日に「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」を公表しており、そこでは個人情報取扱事業者における注意点として、次の2点が示されています。
- 生成AIサービスに個人情報を含むプロンプトを入力する場合には、特定された当該個人情報の利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認すること
- あらかじめ本人の同意を得ることなく個人データを含むプロンプトを入力し、その個人データが応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合、個人情報保護法の規定に違反することとなる可能性がある。そのため、こうした入力を行う場合には、当該サービスを提供する事業者が、その個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認すること
出典:個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(令和5年6月2日)https://www.ppc.go.jp/news/press/2023/230602kouhou/
実務に翻訳すると、「顧客の個人情報をAIに入れるなら、そのサービスが入力内容を学習に使わない設定・契約になっているかを確認しておく必要がある」ということになります。無料版か法人向けプランかで扱いが変わるため、ここは必ず利用規約とプライバシーポリシーで確認してください。同注意喚起では、一般の利用者における留意点としても、利用規約やプライバシーポリシー等を十分に確認し、入力する情報の内容等を踏まえて適切に判断することが挙げられています。
なお、具体的にどの情報を禁止し、どう文書化するかについては、別記事で詳しく解説しています。ルール文書の作り方、盛り込むべき項目、社内への定着のさせ方まで扱っているので、実際に文書を作る段階に入る方はそちらをご覧ください。社内AIルールの作り方|情報漏洩を防ぐ生成AIガイドライン8項目
また、議事録をAIで作成する場面は、この線引きが最も具体的に問われる場面のひとつです。会議の音声には、人事情報や取引条件、未公開の経営判断が含まれることが少なくありません。議事録AIに関する情報の扱いについては、議事録AIの精度と情報漏洩の注意点で個別に整理しています。
論点2 シャドーAI(勝手に使われる)
2つ目が、中小企業で最も見落とされやすい論点です。IPAが「シャドーAI」と呼んでいる問題で、会社が許可していないAIサービスを、従業員が個人のアカウントで業務に使ってしまう状態を指します。
なぜこれが中小企業で起きやすいかというと、生成AIの多くが無料で、ブラウザさえあれば数秒で使い始められるからです。ソフトウェアの導入申請も、経費精算も要りません。しかも、使う本人には悪意がないどころか、むしろ「早く仕事を終わらせたい」という善意で使っています。だから止まりません。
ここで重要なのは、「禁止すればなくなる」わけではないという点です。全面禁止にした会社ほど、水面下での利用が見えなくなる、というのが現場でよく見る構図です。IPAの解説書でも、経営者層の対策として「シャドーAI回避のため、AIサービス利用の検討」が挙げられており、未許可のサービス利用の禁止と並んで、会社として使えるサービスを用意する方向性が示されています。
当社が中小企業に対して最初にお勧めしているのは、次の順番です。
- 会社として使ってよいAIツールを1つ決める(複数にしない)
- そのツールを希望者に配る。申請の手間はできるだけ小さくする
- 「これ以外は業務で使わない」と1行で伝える
- 使いたいツールが他にあるときの相談先を明示する
禁止だけを増やすのではなく、正規のルートを先に用意することが、シャドーAI対策としては現実的です。相談先が明示されていない会社では、社員は相談する代わりに黙って使います。
なお、情報システム担当が1人、あるいは兼任という会社では、この管理自体が負担になります。担当者が1人しかいない体制で何を捨てて何を残すかについては、ひとり情シスの業務をAIで軽くする方法で扱っています。
論点3 外部接続の管理
3つ目は、やや技術寄りですが、今後重要になる論点です。従来のAI利用は「人が画面に入力して、人が結果を受け取る」だけでした。しかし現在は、AIが社内のファイルサーバーや業務システム、外部のWebサービスに直接接続して動く構成が普及してきています。
この構成では、AIが参照するデータの中に、外部から混入した不正な指示が含まれる可能性が出てきます。IPAの解説書では、これを間接プロンプトインジェクションと呼んで解説しています。AIが動作の過程で自ら参照したデータに不正な指示が含まれており、それを取り込むことで攻撃が成立してしまうものです。同解説書では、技術的対策で完璧なものは知られていないため、AIが参照するデータが外部由来の危険かもしれないデータで汚染されないようにする配慮が必要である、という趣旨が述べられています。
中小企業で今すぐ全社的に問題になる話ではありませんが、AIに社内データを読ませる仕組みを検討し始めた会社は、この論点を避けて通れません。実装の前に、接続してよい範囲、承認する人、外部から取り込む情報の扱いを決めておく必要があります。AIと外部システムをつなぐ仕組みの基本については、MCPサーバーとは|AIと社内システムをつなぐ仕組みで解説しています。
論点4 ログが残らない
4つ目は、事故が起きた後に効いてくる論点です。従業員が個人のアカウントで無料のAIサービスを使っていた場合、会社側には「誰が、いつ、何を入力したか」の記録が一切残りません。
これが問題になるのは、情報漏洩が疑われたときです。何が外に出たのか分からなければ、取引先への説明も、影響範囲の特定も、再発防止策の立案もできません。前述のIPAが引用した調査で、AIへのコピー&ペースト入力の82パーセントが組織に管理されていないアカウントによるものだった、という数字の意味はここにあります。
IPAの解説書では、システム管理者や従業員向けの対策として、IT資産管理および構成管理を行い、通信ログやCASB等の活用によりAIサービスの利用状況を把握すること、管理されていないAIサービスの利用を把握することが挙げられています。ただ、CASBのような仕組みの導入は、中小企業には費用面でも運用面でも重い選択です。
現実的な代替として当社がお勧めしているのは、法人向けプランに寄せることです。会社が契約した法人アカウントに利用を集約すれば、少なくとも「誰がそのサービスを使っているか」は会社側で把握できます。全社員分でなくても構いません。業務でAIを使う人にだけ配れば十分です。何も導入せずに個人アカウントを黙認している状態から、一歩進むことに意味があります。
増えない論点は既存対策の延長で足りる
ここまで4つの論点を挙げましたが、逆に「AIを使っても新しく増えない」ものを確認しておきます。ここを新規課題として扱ってしまうと、対策が無限に増えて手が止まります。
- ウイルス・マルウェア対策:AIの有無に関係なく必要。10大脅威1位のランサムウェアへの備えそのもの
- OS・ソフトウェアの更新:VPN機器を含む。前述のとおり侵入経路の主役
- パスワード管理と多要素認証:AI利用時のアカウント保護も、結局はここに帰着する
- バックアップ:ランサムウェア被害からの復旧手段。AIとは無関係に必須
- 退職者・異動者のアカウント削除:AIサービスのアカウントも同じ手順に乗せるだけ
- 委託先・取引先経由のリスク:10大脅威2位。AIが絡んでも管理の考え方は変わらない
- 従業員への教育:入力してよい情報の話が1項目増えるだけで、実施の枠組みは同じ
つまり、AI導入にあたって作るべきものは「AIセキュリティ規程」という独立した分厚い文書ではありません。既存のルールに、前述の4論点を追記するのが正しい形です。既存のルールが存在しない会社は、AIの前にそちらを作ることになります。
土台はIPAの情報セキュリティ6か条
では、その「既存の対策」は何を基準にすればよいのか。中小企業にとっての標準的な出発点は、IPAが公開している資料です。
6か条の中身と、5か条からの変更
IPAは2026年3月27日に「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」第4.0版を公開しました。この改訂で、従来「情報セキュリティ5か条」だったものに「バックアップを取ろう!」が追加され、6か条になっています。
| No | 項目 |
|---|---|
| 1 | OSやソフトウェアは常に最新の状態にしよう! |
| 2 | ウイルス対策ソフトを導入しよう! |
| 3 | パスワードを強化しよう! |
| 4 | 共有設定を見直そう! |
| 5 | バックアップを取ろう! |
| 6 | 脅威や攻撃の手口を知ろう! |
出典:IPA「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」第4.0版(2026年3月27日公開)https://www.ipa.go.jp/security/guide/sme/about.html
バックアップが独立項目に格上げされた背景は、ランサムウェア被害の実態を考えれば理解しやすいはずです。同ガイドラインには、バックアップの取得・保管・復旧について、対象の選定、取得方法や日時・間隔の検討、保管場所と世代管理、保管期間、復旧計画、そして正しく復旧できることの確認、というポイントが示されています。取っているつもりのバックアップが、いざというときに戻せないというのは、実際によくある話です。
なお、IPAには「SECURITY ACTION」という、中小企業自らが情報セキュリティ対策に取り組むことを自己宣言する制度があります。一つ星は、この6か条に取り組むことを宣言するものです。同ガイドラインでは、この宣言が公的支援制度の要件になる場合があることにも触れられています。取引先への説明材料としても使えるため、まだ何もしていない会社の最初の一歩として現実的です。
経営者が認識すべき3原則
同ガイドラインの経営者編では、経営者が認識すべき「3原則」が示されています。
- 原則1 情報セキュリティ対策は経営者のリーダーシップで進める
- 原則2 委託先の情報セキュリティ対策まで考慮する
- 原則3 関係者とは常に情報セキュリティに関するコミュニケーションをとる
AI導入の文脈で特に効くのは原則1です。AI利用のルールは、現場の担当者だけでは決められません。「この情報は入れてよいのか」という判断は、最終的には経営判断だからです。担当者に丸投げすると、責任を取れない人が判断を避け、結果としてルールが曖昧なまま利用だけが広がります。
同ガイドラインの経営者編には、実行すべき「重要7項目の取組」も示されています。方針を定める、予算や人材を確保する、対策を検討させて実行を指示する、適宜見直しを指示する、緊急時の対応や復旧のための体制を整備する、委託や外部サービス利用時の責任を明確にする、最新動向を収集する、という7つです。AI導入は、このうち「外部サービス利用時の責任を明確にする」に自然に収まります。新しい枠組みではなく、既存の枠組みの中で扱えるということです。
自社診断から始めるのが早い
いきなりガイドライン本体を読み込むのは、担当者が兼任の会社にはつらい作業です。同ガイドラインには付録が用意されており、その中に「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」があります。自社の現在地を把握するには、まずこれを実施するのが早道です。
第4.0版では、この自社診断に「外部から内部ネットワークへの不要な通信を遮断する」「ウェブサイトを安全に運用する」といった項目が追加されています。前述のVPN機器経由の侵入という実態を踏まえると、この追加の意味も読み取りやすいはずです。
その他の付録には、情報セキュリティ基本方針のサンプル、情報セキュリティ関連規程のサンプル、資産管理台帳のサンプル、クラウドサービス安全利用の手引き、セキュリティインシデント対応の手引きなどが含まれています。ゼロから文書を作る必要はありません。
当社はAI導入支援を行う事業者であり、情報セキュリティの専門会社ではありません。上記の一般的なセキュリティ対策については、IPAの資料をそのままご活用ください。当社がお手伝いできるのは、AI利用に関する4つの論点の設計と、既存ルールへの落とし込み、そして現場で実際に運用が回るようにする部分です。ネットワーク機器の設定や脆弱性診断などが必要な場合は、専門の事業者をご検討ください。
AI利用で参照すべき公的ガイドライン
セキュリティの基本がIPAの資料だとすると、AIの使い方そのものについては、別の公的文書が参照先になります。
ひとつが「AI事業者ガイドライン」です。IPAの10大脅威の解説書でも、AIガバナンスおよびサービス利用規定の整備の項目で、AI事業者ガイドライン等の参照・準拠が挙げられています。法的拘束力のある規制ではありませんが、自社が「AI利用者」としてどう振る舞うべきかの整理に使えます。中小企業が優先すべき項目に絞った解説をAI事業者ガイドラインとは?中小企業が優先すべき4項目にまとめています。
もうひとつ、経営判断の材料として押さえておきたいのが、AI利用の広がりを示すデータです。総務省「令和7年版 情報通信白書」によると、業務で生成AIを利用していると回答した割合は、日本では55.2パーセントでした。また、生成AIの活用方針について「積極的に活用する方針」「利用範囲を限定して利用する方針」を定めているとの回答の比率は、2024年度調査で49.7パーセントとなり、2023年度調査の42.7パーセントと比較して増加しています。一方で、企業規模別に見ると、中小企業では「方針を明確に定めていない」との回答が多く、およそ半数を占めています(出典:総務省「令和7年版 情報通信白書」企業におけるAI利用の動向 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/html/nd112220.html)。
同白書では、生成AI導入に際しての懸念事項について、日本では「効果的な活用方法がわからない」が最も多く、次いで「社内情報の漏えい等のセキュリティリスク」「導入前コストがかかる」「運用コストがかかる」などが挙げられている、とされています。
この2つの数字を並べると、中小企業の実像が見えてきます。方針が決まっていない会社が約半数ある一方で、業務での利用自体はすでに広がっている。つまり、多くの中小企業では「会社が方針を決める前に、現場が使い始めている」状態です。これはまさに、論点2で挙げたシャドーAIの温床です。方針を決めることは、それ自体がセキュリティ対策になります。
やることを絞る優先順位の付け方
中小企業に、大企業と同じセキュリティ体制は作れません。専任の担当者も、監視の仕組みも、予算もありません。だからこそ、やることを絞る必要があります。
費用対効果が最も高いのは人的対策
当社の経験上、最も費用対効果が高いのは、ツールの導入ではなく人的対策です。理由は単純で、費用がほとんどかからないのに、事故の確率を目に見えて下げるからです。
具体的には、次の2つです。
- ルールを1枚にまとめて全員に配る(分厚い規程ではなく、A4で1枚)
- 迷ったときの相談先を明示する(部署と担当者名まで書く)
特に2つ目が効きます。事故の多くは「これは入力していいのか分からなかったが、聞く相手がいなかったので、たぶん大丈夫だろうと判断した」という経路で起きます。相談先が1行書いてあるだけで、この経路が塞がります。IPAの解説書でも、経営者層の対策として「トラブルの発生に備えた専門家、相談窓口の確保」が挙げられています。
逆に、費用対効果が読みにくいのは、中小企業がいきなり監視ツールや高度な管理製品を導入するケースです。運用する人がいなければ、アラートは放置され、費用だけが残ります。導入するなら、運用する人と時間をセットで確保できるかを先に確認してください。
優先順位の目安
限られた時間で何から手を付けるか、目安を示します。ただし自社の業種や取引先の要求によって順序は変わるため、あくまで一般的な考え方としてご覧ください。
| 優先度 | やること | 目安の負担 |
|---|---|---|
| 最優先 | インターネットに面した機器(VPN・ルーター等)の更新状況を確認する | 専門業者への確認が必要な場合あり |
| 最優先 | バックアップを取り、実際に復旧できるか一度試す | 半日〜1日 |
| 高 | IPAの「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」を実施する | 30分程度 |
| 高 | 会社として使ってよいAIツールを1つ決めて配る | 1〜2週間 |
| 高 | 入力してよい情報の線引きを1枚にまとめる | 2〜3時間 |
| 中 | 相談先を明示し、社内に周知する | 1時間 |
| 中 | 事故発生時の初動を決めて紙にする | 2〜3時間 |
| 中 | 多要素認証を主要なサービスで有効にする | 数時間 |
| 低 | AIと社内システムの接続方針を決める | 接続を検討する段階で |
やらなくてよいことを決める
絞るというのは、やらないことを決めるということです。中小企業の段階では、次のようなものは後回しにして構わない、というのが当社の見解です(業種によって例外はあります)。
- 分厚いセキュリティ規程一式をいきなり作る。読まれない文書は運用されません
- AI利用の全ログを監視する仕組みを最初から構築する。運用する人がいません
- 複数のAIツールを部署ごとに使い分ける。管理対象が増えるだけです
- 認証取得を最初の目標に置く。必要になる取引先要求が出てから検討で間に合う場合が多いです
やることを絞れば、AI活用そのものに使える時間が残ります。何から効率化するかの候補は業務効率化のアイデア集にまとめています。
事故が起きたときの初動を決める
対策をどれだけ積んでも、事故が起きる可能性はゼロになりません。だからこそ、起きたときに何をするかを、起きる前に決めておく価値があります。IPAのガイドラインの重要7項目にも「緊急時の対応や復旧のための体制を整備する」が含まれています。
初動で決めておく5つのこと
- 第一報を誰に上げるか(役職名と氏名。不在時の代理も決める)
- 連絡を受けた人が最初にやること(機器をネットワークから切り離すかどうかの判断基準を含む)
- 外部のどこに相談するか(後述の窓口。事前に電話番号を控えておく)
- 取引先や顧客への連絡を誰が判断するか
- 記録を誰が取るか(時系列のメモ。後の説明で必ず必要になります)
特に1つ目が重要です。従業員が「AIに顧客名簿を貼り付けてしまったかもしれない」と気づいたとき、報告して怒られるくらいなら黙っていよう、と考えさせないことが、被害を小さくする最大の要因です。報告した人を責めない、という方針を先に明示しておいてください。
相談・通報先の一覧
いざというときに調べる時間はありません。事前に控えておく先を挙げます。
| 状況 | 相談先 |
|---|---|
| ウイルス感染・不正アクセスなど全般 | IPA 情報セキュリティ安心相談窓口 |
| 犯罪被害の可能性がある場合 | 都道府県警察のサイバー犯罪相談窓口 |
| 個人データの漏えい等が発生した場合 | 個人情報保護委員会(漏えい等報告の要否を確認) |
| 契約中のAIサービスに関する事象 | 各サービス提供事業者のサポート窓口 |
| 技術的な復旧対応 | 取引のあるIT事業者、またはセキュリティ専門事業者 |
個人データの漏えいについては、一定の場合に個人情報保護委員会への報告と本人への通知が義務づけられています。該当するかどうかの判断は個別性が高いため、発生時には必ず個人情報保護委員会の公表情報を確認するか、専門家にご相談ください。
警察庁の資料でも、VPN機器等の脆弱性対策や認証情報の適切な管理、バックアップやログの適切な取得、サイバー攻撃を想定した業務継続計画(BCP)の策定、被害発生時における速やかな警察への通報・相談等について、特に被害が増加傾向にある中小企業を主な対象として周知・啓発に取り組んでいるとされています。通報のハードルを、社内で下げておいてください。
【モデルケース】従業員30名の会社の進め方
以下は実在の企業の事例ではなく、当社が想定する典型的な状況にもとづく試算です。実際に必要な期間や費用は、既存のIT環境、業務内容、社内の体制によって変わります。
想定する状況
従業員30名の卸売業。情報システムの専任担当はおらず、総務の方が兼任。パソコンは各自1台、ファイルサーバーが1台、拠点間の接続にVPN機器を使用。生成AIについては会社としての方針はなく、営業の何人かが個人のアカウントで文章作成に使っているらしい、という状態。経営者は「AIを活用したいが、情報漏洩が怖い」と考えている。
この状況は、前述の総務省の白書が示す「中小企業では活用方針を明確に定めていないとの回答が約半数」というデータと整合します。決して珍しいケースではありません。
3か月の進め方
| 時期 | やること | 担当 |
|---|---|---|
| 1か月目 | IPAの自社診断を実施し、現在地を把握。VPN機器の更新状況を保守業者に確認。バックアップの復旧テストを1回実施 | 総務兼任者+保守業者 |
| 1か月目 | 会社として使ってよいAIツールを1つ決定。法人向けプランで契約し、まず営業10名に配布 | 経営者が決裁 |
| 2か月目 | 入力してよい情報の線引きをA4で1枚作成。相談先(総務の担当者名)を明記して全員に配布 | 総務兼任者 |
| 2か月目 | 30分の説明会を実施。個人アカウントでの業務利用をやめてもらい、法人アカウントに移行 | 総務兼任者 |
| 3か月目 | 事故発生時の初動を決めて紙にする。相談窓口の連絡先を控える | 経営者+総務兼任者 |
| 3か月目 | 実際の利用状況を確認し、線引きの1枚を1回だけ見直す | 総務兼任者 |
費用の考え方
当社の支援を利用する場合、初期費用0円、月額5万円が標準です。この中で、線引きの1枚の作成、説明会の実施、初動フローの整備、ツール選定の相談までを行います。3か月で一区切りとし、その後は運用の相談と、必要に応じた見直しに使っていただく形が一般的です。
これとは別に、AIツール自体の利用料(1人あたり月額数千円程度が目安。サービスにより異なります)と、VPN機器の更新や保守が必要な場合はその費用がかかります。ネットワーク機器の対応は当社の範囲外のため、保守業者や専門事業者にご依頼ください。
重要なのは、この3か月で「絶対に安全な状態」が手に入るわけではない、という点です。手に入るのは、会社が把握できていなかった利用が把握できるようになること、事故の起点になりやすい判断の迷いが減ること、そして起きたときに動ける準備があること。この3つです。
よくある質問(FAQ)
Q. 中小企業でもセキュリティ対策は必要ですか?
警察庁「令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」によると、令和7年のランサムウェア被害企業を組織の規模別に見ると、中小企業が約6割を占めています。攻撃者の裾野を広げるRaaSの存在も指摘されており、規模の小ささが安全につながるという根拠は見当たりません。まずはIPAの「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」で現在地を確認することをお勧めします。
Q. 何から手を付ければいいですか?
一般論としては、インターネットに面した機器(VPN機器やルーター)の更新状況の確認と、バックアップから実際に復旧できるかの確認が優先されます。警察庁の資料では、ランサムウェアの侵入経路のうちVPN機器が6割以上を占めるとされているためです。そのうえで、IPAの「情報セキュリティ6か条」を土台にし、AI利用の線引きを追加していく流れが現実的です。ただし自社に必要な優先順位は専門家にご確認ください。
Q. AIを使うと情報漏洩のリスクは上がりますか?
使い方によります。個人アカウントで無料サービスに機密情報を入力する運用であれば、リスクは上がります。一方で、会社が法人向けプランを契約し、入力してよい情報を決め、利用状況を把握できる状態であれば、管理下に置くことができます。IPAの解説書では、シャドーAI(会社が把握していないAI利用)が具体的なリスクとして挙げられており、問題はAIそのものというより、把握できていない利用にあります。
Q. 生成AIの利用を全面禁止すれば安全ですか?
「安全になる」とは言えません。禁止しても、無料で使えるツールを個人のアカウントで使う行為を技術的に完全に防ぐことは困難です。むしろ会社が把握できない利用が増え、事故が起きたときに何が漏れたのか分からない状態になりやすくなります。IPAの解説書でも、未許可サービス利用の禁止と並んで、AIサービス利用の検討そのものが経営者層の対策として挙げられています。禁止だけを設けるのではなく、正規のルートを用意することが現実的です。
Q. AI用のセキュリティ規程を新しく作るべきですか?
多くの中小企業では、独立した規程を新設するより、既存のルールに追記するほうが運用が続きます。本記事で挙げた4つの論点(入力してよい情報の線引き、シャドーAI、外部接続の管理、ログ)を追記する形です。ルール文書の作り方については社内AIルールの作り方で詳しく解説しています。
Q. 無料のAIサービスを業務で使ってはいけませんか?
一律に禁止すべきとは言えませんが、入力する情報の内容によって判断が変わります。個人情報保護委員会は令和5年6月2日の注意喚起で、個人データを含むプロンプトを入力する場合には、その事業者が当該データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認するよう求めています。まずは利用するサービスの利用規約とプライバシーポリシーを確認し、個人情報や機密情報を扱う業務では法人向けプランを検討してください。
Q. シャドーAIが起きているか確認する方法はありますか?
技術的には、IT資産管理や通信ログの活用によって把握する方法がIPAの解説書で挙げられていますが、中小企業では導入負担が大きい場合があります。より簡便な方法として、責任を問わない前提で「業務でAIを使ったことがあるか」を無記名でアンケートする方法があります。正確な把握はできませんが、規模感をつかむには十分なことが多いです。
Q. ランサムウェアの被害額はどのくらいですか?
警察庁が令和7年に被害企業・団体等へ実施したアンケートによると、復旧に総額1,000万円以上を要した組織の割合は全体の5割を超えています。また、1か月未満で復旧した組織は5割強にとどまり、被害が長期化する傾向にあるとされています。金額だけでなく、業務停止期間の影響も併せて考える必要があります。
Q. バックアップさえあれば大丈夫ですか?
「大丈夫」とは言えません。ランサムウェア攻撃では、復旧を妨害するためにバックアップも一緒に暗号化される場合が多いことが警察庁の資料で指摘されています。また、近年の攻撃はデータを窃取したうえで公開を予告する二重恐喝が被害の多くを占めるため、復旧できても情報が公開されるリスクは残ります。IPAのガイドラインでは、保管場所の検討や世代管理、そして正しく復旧できることの確認が挙げられています。取得だけでなく復元テストまで行ってください。
Q. 情報システムの専任担当がいない場合は?
専任担当がいない会社では、やることを絞ることが必須です。本記事の優先順位表を参考に、まず機器の更新確認とバックアップの復旧テスト、次にAIツールの一本化と線引きの1枚、という順で進めるのが現実的です。ネットワーク機器の設定などは、保守を依頼している事業者や専門事業者に任せる判断も必要です。兼任担当の負担の減らし方はひとり情シスの業務をAIで軽くする方法で扱っています。
Q. AIが社内データを読む仕組みは危険ですか?
危険と決めつけるものではありませんが、新しい論点が加わります。IPAの解説書では、AIが参照したデータに不正な指示が含まれることで攻撃が成立する間接プロンプトインジェクションについて、技術的対策で完璧なものは知られていないとされ、AIが参照するデータが外部由来の危険かもしれないデータで汚染されないようにする配慮が必要とされています。導入前に接続範囲と承認者を決めてください。仕組みの基本はMCPサーバーとはをご覧ください。
Q. 従業員教育は何をどこまでやればいいですか?
中小企業では、まず30分程度の説明会で「入力してよい情報の線引き」と「迷ったときの相談先」の2点を伝えることから始めるのが現実的です。IPAの解説書でも、AI利用における教育として、社内の秘密情報等を安易に入力しないこと、ハルシネーションが存在することの理解、AIへの過剰な依存への留意が挙げられています。年1回程度の再周知と、ルールの見直しをセットにしてください。
Q. 取引先に体制を聞かれたら何を答える?
IPAの「SECURITY ACTION」の自己宣言は、取り組みを対外的に示す材料のひとつになります。一つ星は情報セキュリティ6か条に取り組むことを宣言するものです。ただし、取引先が求める水準は個別に異なるため、具体的な要求内容を確認したうえで対応を検討してください。10大脅威2026でも「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」が4年連続2位であり、取引先からの確認が増えているのは自然な流れです。
Q. AI導入と対策はどちらが先ですか?
並行して進めるのが現実的です。セキュリティが完璧になるまでAIを使わない、という方針は、いつまでも始められないうえ、その間もシャドーAIは進みます。逆に、機器の更新やバックアップが放置された状態でAIだけ導入するのも順序として不自然です。本記事の優先順位表のように、最優先の2項目を確認しながら、同時にAIツールの一本化を進める形をお勧めします。
まとめ:基本を固めてからAIを足す
最後に、要点を整理します。
- 中小企業が直面する最大級の脅威はランサムウェアで、被害企業の約6割が中小企業。主な侵入経路はVPN機器(警察庁・令和7年)
- IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」でAIが初めて3位に入ったが、1位と2位は4年連続で従来型の脅威
- IPAは、AI固有の攻撃を除けば大部分は従来型攻撃の半自動化・高速化であり、従来の対策が有効という趣旨を示している
- AI利用で新しく増える論点は、線引き・シャドーAI・外部接続・ログの4つ
- 土台はIPAの「情報セキュリティ6か条」と「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」。ゼロから作る必要はない
- 中小企業は、やることを絞る。費用対効果が最も高いのはルール1枚と相談先の明示という人的対策
- 事故が起きたときの初動を、起きる前に紙にしておく
セキュリティを理由にAI活用を止めてしまうと、方針が決まらないまま現場の利用だけが進み、かえって把握できない状態が続きます。基本を固めたうえで、AIで増える4つの論点に手当てをする。この順番であれば、中小企業の体力でも十分に進められます。
本記事は一般的な情報提供であり、特定の企業に対する助言ではありません。また、記載した対策を実施すれば安全になるという趣旨のものでもありません。自社に必要な対策の判断、実際の設定作業、事故発生時の対応については、セキュリティの専門家や専門機関にご相談ください。網羅的な対策項目はIPA「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」をご確認ください。
当社は、AI導入支援の立場から、AI利用に関する4つの論点の設計と、現場で運用が回る形への落とし込みをお手伝いしています。「何から手を付ければいいか分からない」「ルールを作ったが守られていない」といった段階でも構いません。お問い合わせはこちらからご相談ください。


