ワークフロー自動化の順番|まず承認者を減らす
業務効率化支援を行う「Ai-Raku(アイラク)」代表。国立大学でAIの研究を行い、ITコンサル・ウェブコンサルを経て独立。官公庁向けの業務効率化や上場企業の支援等を経て、中小企業の現場に定着するAI活用を企画から運用まで一気通貫で支援している。

- まず何から始めればよいですか
- 自社にある申請書の種類を全部書き出すことからです。所要は30分程度です。稟議・経費・休暇・発注・備品・出張・押印依頼など、想像より多いはずです。書き出したら、それぞれの承認者の人数を横に書いてください。この2つの数字だけで、着手すべき順番はほぼ決まります。
- ワークフローシステムは必要ですか
- 申請の種類が3種類以下で、月の件数が30件未満なら、まずは入力フォームと共有シートで足ります。5種類以上あって組織図に連動したルートが必要なら、既製品を買ったほうが確実に早いです。当社はAI導入支援の会社ですが、この判断で無理にAIを勧めることはしません。
- ハンコを廃止しても法律上問題ありませんか
- 社内の稟議書や申請書について、書式や押印を定めた法令は基本的にありません。取引先との契約書についても、内閣府・法務省・経済産業省の「押印についてのQ&A」は、書面への押印は特段の定めがある場合を除き必要な要件とはされていない、と整理しています。ただし法律が書面を要求する契約類型はあるので、該当しそうなものは個別に確認してください。
- 電子契約サービスは法的に有効ですか
- 電子署名法により、本人による一定の要件を満たす電子署名が行われた電子文書は真正に成立したものと推定されます。いわゆる立会人型のサービスについても、総務省・法務省・経済産業省のQ&Aが、利用者の意思のみに基づいて機械的に暗号化されたことが担保される場合には利用者が措置を行った者と評価し得る、としています。契約の性質に応じて本人確認レベルを選ぶことが適当とも書かれています。
- 紙の請求書を全部スキャンすべきですか
- 急ぐ必要はありません。スキャナ保存は「保存に代えることができる」制度で、任意です。むしろ優先度が高いのは、メールやWebで受け取った請求書などの電子取引データを、電子のまま保存することです。こちらは義務です。順番を間違えている会社が多い部分です。
- 電子取引データの保存は専用システムが要りますか
- 必要ありません。国税庁の資料でも、改ざん防止の措置として事務処理規程を策定・運用・備付けする方法が認められており、専用システムを導入しない方法があると明記されています。検索要件も、表計算ソフトの索引簿や、日付・金額・取引先を並べたファイル名で対応できます。
- 承認者を減らすと統制が緩みませんか
- 減らし方によります。過去1年で1度も差し戻していない承認者を外し、その人には決裁後の一覧を届ける形にすれば、情報は共有されたままです。むしろ承認者が多いほど「誰かが見ているだろう」で読まずに押される率が上がるので、人数を減らして責任を明確にするほうが、実質的な統制は強くなることがあります。
- AIで承認を自動化できますか
- 承認そのものの判断は任せないでください。任せられるのは、申請文の要約、記載漏れのチェック、過去案件の検索、差戻し理由の下書き、月次の傾向まとめまでです。可否の決定、与信の判断、人事上の判断、例外の許可、最終的な送信操作は人が行います。この線引きを最初に決めておかないと、誰が決めたのか説明できない案件が生まれます。
- 稟議のリードタイムはどこまで縮みますか
- 縮む幅は承認者の人数でほぼ決まります。1人あたりの滞留が1.5営業日なら、4人を2人にするだけで3営業日短くなる計算です。ここに並列承認とスマートフォンでの承認が加わると、さらに半分程度になります。逆に、承認者を減らさずに電子化だけした場合の短縮は限定的です。
- 社内の反対をどう乗り越えますか
- 5営業日の記録を先に取ってください。「決裁に平均6.5営業日かかっている」「承認者4人のうち3人は過去1年で1度も差し戻していない」という事実が出ると、感覚論での反対は起きにくくなります。反対の多くは「知らされなくなること」への不安なので、決裁後の一覧配信をセットで提案すると通りやすくなります。
- 何種類の申請書があれば多すぎますか
- 10種類を超えたら統合を検討してください。実際に並べてみると、記入項目が8割同じ申請書が2〜3組見つかることが多いです。統合すると、電子化の設定量も、社員が覚える手順も一気に減ります。統合は電子化の前にやるのが鉄則です。
- 差戻しが多いのは申請者の問題ですか
- ほとんどの場合は様式の問題です。差戻し理由を3か月集計すると、記入漏れと添付漏れが上位を占めることが多く、これは申請書のガイドや必須項目の設定で防げます。個人の注意不足として処理すると、同じことが翌月も起きます。
- どの申請から電子化すると失敗しにくいですか
- 休暇申請です。件数が多く、金額の判断がなく、承認者が1人で足りるためです。ここで運用の作法(申請・承認・記録の3点)を全員が体験してから、稟議に進むと定着が早くなります。逆に、いきなり稟議から始めると規程の改定と重なって止まりがちです。
- 何か月で変化を感じられますか
- 承認者を減らす効果は、規程を改定した翌月から出ます。電子化の効果は運用開始から1か月、AIによる差戻し削減の効果は3か月分の記録がたまってからです。最も早く実感できるのは「今どこで止まっているか、聞かなくても分かる」という状態で、これは電子化した週から変わります。
- 生成AIの活用方針が社内で決まっていません
- 珍しいことではありません。日本の中小企業では生成AIの活用方針を「方針を明確に定めていない」との回答が多く、約半数を占めると報告されています(出典:総務省「令和7年版 情報通信白書」企業におけるAI利用の現状)。方針が決まっていない状態でも、この記事の段階1(減らす)と段階2(電子化)は先に進められます。AIの利用範囲は、段階3に入る前に決めれば間に合います。
「稟議を出してから決裁が下りるまで1週間かかる」「今どこで止まっているのか、聞いて回らないと分からない」。申請と承認の流れについて相談をいただくとき、最初に出てくる症状はだいたいこの2つです。そして次に必ず出てくるのが、「ワークフローシステムを入れれば解決しますか」という質問です。
結論から書くと、多くの場合は解決しません。理由は単純で、承認者が4人いる稟議は、電子化しても承認者が4人のままだからです。紙を回す時間はなくなりますが、4人が中身を読んで判断する時間と、4人の手が空くまでの待ち時間は残ります。電子化で消えるのは移動と紛失であって、判断の量ではありません。
だからこの記事は、ツールの比較から始めません。「減らす」「電子化する」「自動化する」の3つを、この順番で考えるための材料を並べます。あわせて、多くの会社がつまずく「紙とハンコをやめてよいのか」という法律面の切り分けも、国税庁・法務省・公正取引委員会などの一次情報にもとづいて整理します。社員10〜100名規模で、専任の情報システム担当がいない会社を想定しています。
- 「減らす・電子化する・自動化する」のどれをやるべきかを決める判定表
- 承認者を1人減らすと何が起きるか(待ち時間と作業時間の分解)
- 紙と押印を残すべきか、法令上の要請なのか慣習なのかを切り分ける表
- 電子帳簿保存法で「電子のまま保存が義務」になるものと、そうでないもの
- 稟議・経費精算・休暇申請・発注、それぞれで違う論点
- AIに任せてよい範囲と、承認の判断を任せてはいけない理由
- 電子化して失敗する5つの型(最も多いのは紙の流れをそのまま写すこと)
- 専用のワークフローシステムを買ったほうが早い場面(正直に書きます)
- 稟議のモデルケース(試算)と、30日で始める順番
- 結論|減らす・電子化・自動化の順
- 承認者を1人減らす効果
- 判定表|減らす・電子化・自動化
- 紙とハンコが残る本当の理由
- 紙と押印の要否を判断する表
- 電子帳簿保存法の最低限
- 申請の種類ごとの注意点
- 現状を5営業日で測る
- 承認を減らす4つの型
- AIにできること・できないこと
- 電子化で失敗する5つの型
- 専用システムが早い場面
- モデルケース|稟議の試算
- 30日で始める順番
- よくある質問(FAQ)
- Q. まず何から始めればよいですか
- Q. ワークフローシステムは必要ですか
- Q. ハンコを廃止しても法律上問題ありませんか
- Q. 電子契約サービスは法的に有効ですか
- Q. 紙の請求書を全部スキャンすべきですか
- Q. 電子取引データの保存は専用システムが要りますか
- Q. 承認者を減らすと統制が緩みませんか
- Q. AIで承認を自動化できますか
- Q. 稟議のリードタイムはどこまで縮みますか
- Q. 社内の反対をどう乗り越えますか
- Q. 何種類の申請書があれば多すぎますか
- Q. 差戻しが多いのは申請者の問題ですか
- Q. どの申請から電子化すると失敗しにくいですか
- Q. 何か月で変化を感じられますか
- Q. 生成AIの活用方針が社内で決まっていません
- まとめ
結論|減らす・電子化・自動化の順
先に全体の結論を書きます。申請と承認の流れを改善するときは、次の順番で考えてください。
- 減らす。承認者の人数、申請の種類、申請書の記入項目、そもそも申請が必要な案件の範囲を減らす
- 電子化する。減らしたあとの流れを、紙と押印から画面に移す
- 自動化する。電子化して初めてデータが貯まるので、そこから転記・集計・下書きを機械に渡す
この順番が重要なのは、後ろの工程ほど費用と手間がかかり、前の工程ほど効果が大きいことが多いからです。承認者を4人から2人にするのは、稟議規程を1行変えるだけで済み、費用は0円です。それでもリードタイム(申請から決裁までの日数)は、人数に比例して縮みます。一方でシステムの導入は、選定に数か月、費用は年間数十万円、社内への周知に数週間かかることも珍しくありません。
順番を逆にした会社が実際に何を言うかというと、「システムを入れたのに、結局早くなっていない」です。これはシステムが悪いのではなく、遅い原因が承認者の数と、判断に必要な情報の不足にあったからです。原因を残したまま器だけ替えても、症状は残ります。
もう1つ、期待値の話をしておきます。この記事の手順で減るのは主に3つです。「書類が机の上で止まっている時間」「同じことを何度も書く時間」「今どこにあるか探す時間」。逆に、難しい1件を判断する時間はほとんど変わりません。そこは人が考える部分だからです。ここを混同したまま導入すると、期待外れという評価になります。
承認者を1人減らす効果
待ち時間の正体は判断ではない
稟議に1週間かかるとき、その1週間の中で「承認者が中身を読んでいる時間」は、合計しても数十分しかないことがほとんどです。残りは全部、待ち時間です。承認者の机に置かれてから、その人が書類の山に手をつけるまでの時間が、リードタイムの正体です。
そして待ち時間は、承認者の人数に対しておおむね比例して増えます。1人あたりの滞留が平均1.5営業日なら、4人で6営業日、2人なら3営業日です。書類を電子にしても、通知が届いてから開くまでの滞留はゼロにはなりません。減るのは「机から机へ運ぶ時間」だけで、「開くまでの時間」は人数分だけ残ります。
だから、リードタイムを縮める最短の手は、承認者を減らすことです。これは費用が発生しません。決裁権限規程を改定して、翌月から運用を変えるだけです。
承認者が増えていく理由
承認者が4人も5人もいる会社に理由を聞くと、ほぼ全社で同じ答えが返ってきます。「昔、事故があったから増やした」です。誰かが見落とした、金額を間違えた、聞いていない人がいた。そのたびに承認欄が1つ増え、増えた欄が減らされることはありません。
ここに構造的な問題があります。承認者が増えるほど、1人あたりの責任感は薄まります。「4人も見ているのだから、誰かが見ているだろう」と全員が思うためです。実際、承認欄が多い稟議ほど、中身を読まずに押される率が上がります。承認者を増やすことは、チェックの強化ではなく、チェックの希薄化になりやすいという点は、減らす判断をするときの後押しになります。
減らせる承認の見分け方
とはいえ、闇雲に減らすわけにはいきません。次の3つの質問で仕分けてください。
- この人は、否認したことがあるか。過去1年で1度も差し戻していない承認者は、判断ではなく報告のために並んでいます
- この人しか持っていない情報があるか。予算残高、契約上の制約、他部署との重複。情報を持つ人だけが判断者です
- 金額や内容にかかわらず全件通っているか。全件通るなら、承認ではなく通知で足ります
「否認したことがなく、固有の情報も持たず、全件通している」承認者は、承認から外して通知(あとで一覧で見る)に変えられます。この置き換えだけで、決裁の速度は目に見えて変わります。なお、承認から外すことと、情報を共有しないことは別です。外した人には、決裁後に一覧が自動で届くようにしてください。
判定表|減らす・電子化・自動化
ここが本記事の中心です。自社の症状から、いま手を付けるべきものを1つだけ選んでください。3つを同時に始めると、どれも中途半端に終わります。
| 今の状態(症状) | まずやること | やっても効きにくいこと |
|---|---|---|
| 承認者が3人以上いる/決裁まで5営業日以上かかる | 減らす(承認者の人数と申請の種類) | 電子化。人数が同じなら待ち時間はほぼ残る |
| 申請書の種類が10種類以上あり、似た書式が並んでいる | 減らす(統合して3〜5種類にする) | 自動化。種類が多いままだと設定が終わらない |
| 承認者は2人だが、書類が机や引き出しで行方不明になる | 電子化(申請と履歴を1か所に集める) | 減らす。これ以上減らすと統制が緩む |
| 押印のために出社している/承認者が外出がちで捕まらない | 電子化(押印を廃止し画面での承認に) | 自動化。まず場所の制約を外すのが先 |
| 電子化済みだが、経理や総務が台帳へ手で転記している | 自動化(転記・集計・突合) | 減らす。承認の数は問題ではない |
| 差戻しが多く、その理由がいつも記入漏れ・添付漏れ | 自動化(提出前のチェックをAIに) | 承認者を増やすこと。差戻しは増える |
| 申請が月10件未満の書類がある | 減らす(申請そのものを廃止するか統合) | 電子化も自動化も。件数が少なく回収できない |
| 紙で届いた請求書を見ながら手入力している | 自動化(読み取りと入力補助) | 減らす。相手先の都合なので自社では減らせない |
この表の使い方には1つコツがあります。複数の行に当てはまったら、上の行を優先してください。表は上から順に、費用が小さく効果が出るのが早い順に並べています。「承認者が4人いて、経理も手で転記している」会社は、転記の自動化より先に承認者を減らすほうが、結果的に早く終わります。承認ルートが変われば、転記する項目そのものが変わることがあるからです。
- 減らす:承認者・申請種類・記入項目・申請が必要な案件の範囲を小さくすること。費用は0円、担当は経営と総務
- 電子化:紙と押印でやっていた同じことを、画面上でやること。速さより「場所と紛失の制約を外すこと」が目的
- 自動化:人がやらなくても進む状態にすること。転記・集計・通知・下書きが対象。判断は含まない
紙とハンコが残る本当の理由
「うちは紙とハンコが必要なので電子化できない」という説明を、私たちは何度も聞いてきました。詳しく聞くと、その理由は次の3つに分かれます。この3つを混ぜて考えているうちは、判断がつきません。
- 法令上の要請(法律や省令が、書面や押印を求めている)
- 取引先の要請(相手が紙を求める、相手のシステムが対応していない)
- 社内の慣習(誰も決めていないが、昔からそうしている)
実際に切り分けてみると、3のほうが圧倒的に多いというのが実感です。とくに社内向けの稟議書・申請書は、法令が書式や押印を定めているものはほとんどありません。自社の規程で決めているだけなので、自社の判断で変えられます。
契約書の押印は必須ではない
取引先とやりとりする契約書についても、国は明確な見解を出しています。内閣府・法務省・経済産業省が連名で公表した「押印についてのQ&A」は、問1で次のように整理しています。私法上、契約は当事者の意思の合致により成立するものであり、書面の作成およびその書面への押印は、特段の定めがある場合を除き、必要な要件とはされていない。したがって特段の定めがある場合を除き、押印をしなくても契約の効力に影響は生じない、という内容です(出典:内閣府・法務省・経済産業省「押印についてのQ&A」(令和2年6月19日))。
同じ資料は、押印の効果についても踏み込んでいます。民事訴訟法第228条第4項により、本人の押印がある私文書は真正に成立したものと推定されますが、この推定は相手方の反証によって破られ得るものであり、その効果は限定的であると明記されています。そのうえで、テレワーク推進の観点からは、必ずしも本人による押印を得ることにこだわらず、不要な押印を省略したり、押印以外の手段で代替したりすることが有意義である、と結んでいます。
つまり「重要な書類だからハンコが必要」という理由づけは、法律上の裏づけとしては弱いということです。ここは社内を説得するときに、そのまま使える材料になります。
電子署名で何が変わるか
押印の代わりに使えるのが電子署名です。電子署名法は平成13年(2001年)4月1日に施行され、本人による一定の要件を満たす電子署名が行われた電子文書等は、真正に成立したものと推定されるとされています(出典:法務省「電子署名法の概要と認定制度について」)。押印と同じ働きを、電子の世界で確保するための仕組みです。
ここで実務上よく問題になるのが、いわゆる立会人型(事業者署名型)の電子契約サービスです。利用者本人の鍵ではなく、サービス提供事業者の鍵で署名する方式ですが、これが電子署名法上の「電子署名」に当たるのかという論点があります。総務省・法務省・経済産業省は連名のQ&Aで、技術的・機能的に見てサービス提供事業者の意思が介在する余地がなく、利用者の意思のみに基づいて機械的に暗号化されたものであることが担保されていると認められる場合には、「当該措置を行った者」は利用者であると評価し得る、と整理しています(出典:総務省・法務省・経済産業省「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A」(令和2年7月17日))。
同じQ&Aは、どのサービスを選ぶべきかについても触れています。電子契約サービスにおける本人確認の方法やなりすまし等の防御レベルは様々であることから、締結する契約の性質や、必要とする本人確認レベルに応じて適切なサービスを選択することが適当としています。全社一律で1つの方式に決めるのではなく、金額や重要度で使い分ける、という設計が国の見解に沿った形になります。
社内書類には法令の縛りが少ない
社内の申請書については、そもそも法令が形式を定めていないものが大半です。ただし例外もあります。たとえば年次有給休暇管理簿は、労働基準法施行規則第24条の7により、時季・日数・基準日を労働者ごとに明らかにした書類として作成・保管が義務づけられています(出典:厚生労働省「年休取得管理簿を作成・保管することを義務化。留意点は?」)。
ここで効いてくるのがe-文書法です。e-文書法は、民間事業者が行う文書の保存・作成・閲覧等について、原則として電磁的記録によることを可能とする法律で、平成17年4月1日に施行されました。厚生労働省の省令では、電磁的記録による作成をした場合、書面に記載すべきとされている記名押印に代わるものは電子署名とすると定められています(出典:厚生労働省「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う省令の整備について」)。「保存義務がある書類だから紙で残さなければならない」という理解は、多くの場合、正確ではありません。
紙と押印の要否を判断する表
ここまでを、書類の種類ごとに一覧にします。自社の申請書を1枚ずつこの表に当てはめて、どの行に入るかを決めてください。行が決まれば、やってよいことが決まります。
| 書類 | 法令上、紙や押印が要るか | 根拠となる考え方 | 実務上の判断 |
|---|---|---|---|
| 社内の稟議書・購買申請書 | 法令上の定めなし | 形式を定めた法令がない。自社の規程の問題 | 押印廃止・電子化に法的な障害はない。規程を直せばよい |
| 休暇申請書・時間外の事前申請 | 法令上の定めなし(管理簿の作成義務は別) | 年次有給休暇管理簿は労基則24条の7で作成・保管が義務 | 申請自体は電子で可。管理簿は電磁的記録で作成・保管する |
| 取引先との一般的な契約書 | 押印は必要な要件ではない(特段の定めがある場合を除く) | 押印Q&A問1。契約は意思の合致で成立する | 電子契約に切替可。証拠力の確保手段は別途用意する |
| 法律が書面を要求する類型の契約 | 個別に確認が必要 | 押印Q&Aのいう「特段の定めがある場合」に当たり得る | 該当しそうなものは弁護士等に確認。全社一律で決めない |
| メールやWebで受け取った請求書・注文書・領収書 | 電子データのまま保存が義務 | 電子帳簿保存法第7条の電子取引の保存制度 | 印刷して紙だけで保存する運用は取れない。最優先で対応 |
| 紙で受け取った請求書・領収書 | 紙のままでよい(電子化は任意) | スキャナ保存は「代えることができる」制度 | 急がなくてよい。件数が多い会社だけ検討する |
| 自社で作成する帳簿・決算関係書類 | 電子保存は任意 | 電帳法第4条の「代えることができる」制度 | 会計ソフトの都合で決めてよい。法令が急かしてはいない |
| 取適法の対象取引での発注内容の明示 | 書面または電磁的方法 | 取適法第4条。2026年1月1日施行 | 相手の承諾がなくても電磁的方法が可能。ただし書面を求められたら交付 |
最後の行は2026年に変わった点なので補足します。公正取引委員会は、2026年1月1日施行の改正法(下請法から取適法へ)について、書面交付義務について中小受託事業者の承諾の有無にかかわらず、電子メールなどの電磁的方法による方法とすることが可能になると説明しています(出典:公正取引委員会「2026年1月から『下請法』は『取適法』へ!」(令和7年8月))。従来は相手方の承諾を得る手順が電子化の足かせになっていましたが、そこが外れました。
ただし条文には続きがあります。取適法第4条第2項は、電磁的方法により明示した場合においても、中小受託事業者から当該事項を記載した書面の交付を求められたときは、遅滞なくこれを交付しなければならない(公正取引委員会規則で定める場合を除く)と定めています。「電子で送ったので終わり」ではなく、求められたら紙を出す運用は残しておく必要があります。
電子帳簿保存法の最低限
電子で受け取ったら電子で保存
ワークフローの電子化を検討すると、必ず電子帳簿保存法(電帳法)の話に行き当たります。ここは誤解が多いので、条文の建て付けから確認します。
国税庁の解説によると、帳簿や書類を電磁的記録で保存することは「その帳簿の備付け及び保存に代えることができる」制度であり、スキャナ保存も同様に「代えることができる」制度です。一方で、電子取引の取引情報については、保存義務者は「その電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならない」とされています(出典:国税庁「電子帳簿保存法の概要」)。
語尾の違いがすべてです。紙を電子にするのは任意、電子で受け取ったものを電子のまま残すのは義務。ここを逆に理解している会社が非常に多く、「電帳法対応のためにスキャナを買う」という判断につながっています。優先度は逆です。
なお電子取引には、メールに添付された請求書だけでなく、EDI取引、インターネット上のサイトを通じた取引情報の授受なども含まれます。取引に関して書面でやりとりしていた場合に保存が必要な書類、つまり注文書・契約書・送り状・領収書・見積書・請求書などに相当する電子取引データを受領または交付した場合が対象です(出典:国税庁「電子帳簿保存法対応!令和6年1月以降の電子取引データの保存方法について」(令和6年11月))。申請・承認の流れを電子にすると、その添付ファイルの多くがここに該当します。
保存の3ルール
国税庁が示す原則的な保存ルールは3つだけです。
| ルール | 具体的にやること |
|---|---|
| 改ざん防止の措置をとる | タイムスタンプ、訂正削除の履歴が残るシステム、または事務処理規程の策定・運用・備付けのいずれか |
| 確認用の機器を備え付ける | ディスプレイやプリンタ等。通常の業務用パソコンがあれば足りる |
| 日付・金額・取引先で検索できる | 索引簿を表計算ソフトで作る、または規則性のあるファイル名で特定フォルダに集約する方法でも可 |
注目してほしいのは1つ目です。専用システムを導入しなくても、事務処理規程を作れば改ざん防止の措置として認められます。国税庁の資料にも「専用のシステムを導入しない方法もあります」と明記されています。3つ目の検索要件も、表計算ソフトの索引簿や、日付・金額・取引先の順に並べたファイル名という簡易な方法で対応できます。
さらに、原則的なルールへの対応が間に合わない場合の猶予措置もあります。所轄税務署長が相当の理由があると認め、かつ税務調査の際にデータのダウンロードの求めと出力書面の提示・提出の求めに応じられる場合は、電子取引データを保存しておくだけでよいとされています。事前届出は不要で、人手不足、システム整備の資金不足、システム整備が間に合わないことも相当の理由として認められると説明されています。「制度が難しいから電子化に踏み切れない」という判断は、ここを読んでいないことが原因になっている場合があります。
紙のスキャナ保存は後回しでよい
紙で受け取った請求書や領収書のスキャナ保存は任意なので、いま無理に着手する必要はありません。判断の目安は件数です。月に数十枚なら、紙のまま保管して原本を捨てない運用のほうが手間が少ないことが多く、月に数百枚を超えるあたりから電子化の効果が出てきます。
経理まわりの整理の全体像はバックオフィス業務の効率化で扱っています。本記事は申請と承認の流れに絞るので、証憑の保存そのものはそちらを参照してください。
申請の種類ごとの注意点
「ワークフロー」とひとくくりにされますが、稟議・経費・休暇・発注は性質がまったく違います。同じやり方で一斉に電子化しようとすると、必ずどれかが破綻します。
稟議・購買の承認
最も効果が大きく、最も難易度が高いのが稟議です。効果が大きいのは金額と件数が大きいから、難易度が高いのは決裁権限規程に手を入れる必要があるからです。
着手のポイントは金額の階段を作ることです。多くの会社は「稟議は一律この5人」という設計になっていますが、3万円の備品と500万円の設備投資が同じルートを通る必然性はありません。たとえば10万円未満は上長のみ、10万円以上100万円未満は上長と部門長、100万円以上は役員まで、と3段階に切るだけで、件数の大半を占める小額案件が一気に速くなります。
もう1つ、稟議で見落とされるのが「差戻しの理由」です。差し戻すときに理由が口頭で伝わると、同じ差戻しが翌月も起きます。理由を選択式(金額根拠が不足・相見積が不足・時期が不適切・予算超過)にして記録すると、3か月で最も多い理由が見え、申請書の様式かガイドを直せば件数そのものが減ります。
経費精算
経費精算は、承認の重さより入力と証憑の手間が問題になる領域です。ここは減らす余地が大きく、たとえば1件1,000円未満の少額精算を月次でまとめて1申請にする、交通費を定期区間の自動控除で処理する、といった変更で件数が半分以下になることがあります。
注意点は前述の電帳法です。領収書をメールやWebサイトからダウンロードした場合は電子取引に該当するので、そのデータを消さずに保存する必要があります。紙のレシートを撮影して提出させる運用と、電子で受け取った領収書の保存は別の話なので、混ぜないでください。
休暇・勤怠の申請
休暇申請は、電子化の効果が最も早く出ます。理由は3つあります。件数が多い、金額の判断がない、承認者が1人で足りる。最初に手を付ける対象として最も向いています。
ここでの注意点は、申請の電子化と管理簿の整備をセットで考えることです。年次有給休暇管理簿は作成と保管が義務なので、申請をフォーム化するなら、そのデータがそのまま管理簿の形で出力できるところまで設計してください。申請だけ電子にして、管理簿は別途手作業で作る状態になると、仕事が増えます。
発注書と取適法
発注は、相手がいる分だけ自社の都合だけでは決められません。ただし前述のとおり、2026年1月1日施行の取適法により、対象取引での発注内容の明示は相手方の承諾がなくても電磁的方法で行えるようになりました。これは電子化の追い風です。
実務上は、取引先ごとに「電子で送れる先」「紙を求められる先」を一覧にして、電子で送れる先から順に切り替えるのが現実的です。全社一斉切替は、必ずどこかで止まります。
現状を5営業日で測る
ここまでの判断は、すべて自社の数字がないとできません。ツールの資料請求より先に、5営業日の記録を取ってください。所要はひとり1日3分です。
記録する5項目
| 項目 | 書き方 | これで何が分かるか |
|---|---|---|
| 申請の種類 | 稟議/経費/休暇/発注/その他 | どの種類に件数が集中しているか |
| 申請日と決裁日 | 日付を2つ | リードタイム(待ち時間を含む全体の日数) |
| 承認者の人数 | 実際に印を押した人数 | 減らす余地の大きさ |
| 作成と回付にかかった時間 | 申請者の実作業を分単位で | 電子化で消える時間の上限 |
| 差戻しの有無と理由 | あり/なし+一言 | 自動化(事前チェック)の効き目 |
待ち時間と作業時間を分ける
この5項目の要は、リードタイムと作業時間を別々に記録することです。ここを分けないと、打ち手を間違えます。
リードタイムが長く、作業時間が短い場合は、原因は待ちです。承認者を減らすか、督促の仕組みを作るのが効きます。逆にリードタイムは短いのに作業時間が長い場合は、原因は書式と転記です。ここは電子化と自動化が効きます。両方長い会社は、必ず「減らす」から入ってください。作業時間の削減から入ると、承認ルートを変えたときに作り直しになります。
記録の取り方そのものは、問い合わせ対応の記録と同じ考え方です。1週間の記録から改善点を読み取る手順は問い合わせ管理の仕組みで詳しく扱っているので、あわせて読むと進めやすくなります。
承認を減らす4つの型
金額で承認者を切る
最も効果が確実で、社内の合意も取りやすい方法です。金額の階段を作り、小額案件の承認者を減らします。件数の8割は小額案件という会社が多いので、ここを速くすると全体の体感が変わります。
階段の設計で迷ったら、過去1年の稟議を金額順に並べて、件数が半分になる金額を境目にしてください。理屈で決めるより、自社の分布で決めるほうが実態に合います。
事後承認に変える
やり直しが利く案件、金額が小さい案件、緊急性が高い案件は、事前承認をやめて事後報告に変えられます。「止められないなら、止める仕組みを置く意味は薄い」という考え方です。
ただし無条件ではありません。事後承認に変えるときは、月次で一覧を確認する場と、逸脱があった場合の扱いをセットで決めてください。ここを決めずに事後承認だけ導入すると、統制が緩んだだけの状態になります。
並列にする
直列の承認を並列に変えるだけで、リードタイムは大きく縮みます。AさんとBさんの承認に前後関係がないなら、同時に依頼して構いません。紙の時代は物理的に1枚しかないので直列にせざるを得なかったのであって、電子化するなら並列が自然です。
ここは電子化の効果が最も分かりやすく出る部分でもあります。承認者を減らせない事情がある会社でも、並列化なら合意が取りやすいことが多いです。
承認そのものをやめる
最後に、いちばん強い手です。全件通っている承認は、承認ではありません。前述の3つの質問(否認したことがあるか、固有の情報を持つか、全件通しているか)で全部が該当したら、その承認欄は廃止して通知に変えてください。
実際にやってみると、廃止に反対する人はあまりいません。押す側も、内容が分からないまま押し続けることに負担を感じているからです。反対が出るとしたら、それは「知らされないこと」への反対なので、決裁後の一覧配信で解消します。
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AIにできること・できないこと
ここで生成AIの話に入ります。順番として、ここが最後になるのは意図的です。減らしていない流れ、電子化していない流れに、AIを足しても効きません。AIは文字になっている情報しか扱えないので、紙の上でしか存在しない申請には手が届きません。
AIに任せてよい範囲
| やらせること | 具体的な内容 | 人がやること |
|---|---|---|
| 申請内容の要約 | 長い稟議理由を3行に。承認者が読む時間を短くする | 要約が原文と食い違っていないかの確認 |
| 記載漏れのチェック | 金額根拠・相見積・納期・予算科目の抜けを指摘 | 指摘を受けての修正判断 |
| 過去案件の検索と比較 | 似た稟議を探して、前回いくらで通ったかを提示 | 今回に当てはめてよいかの判断 |
| 差戻し理由の下書き | 「相見積が1社のため再取得を」といった定型文の作成 | 送る前の確認と、送信そのもの |
| 申請文の下書き | 箇条書きのメモから稟議書の本文を起こす | 数字と事実関係の確認 |
| 月次の傾向まとめ | 差戻し理由の集計、リードタイムが伸びた工程の指摘 | 対策の決定 |
共通しているのは、すべて「下書き」か「気づき」で止まっていることです。AIが出したものがそのまま確定になる工程は、1つもありません。
承認の判断は任せない
反対に、AIに任せてはいけないものをはっきりさせます。承認そのものの判断は、AIに任せません。これは技術的にできるかどうかの話ではなく、責任の所在の話です。
- 可否の決定。金額の妥当性、時期の適否、戦略上の判断は人が決める
- 与信や取引可否の判断。相手先の信用に関わる判断を機械に委ねない
- 人事上の判断。休暇の承認可否、評価に関わる判断は人が行う
- 例外の許可。規程から外れた案件を通すかどうかは、必ず人が判断する
- 最終的な送信・確定操作。相手に届く操作は人が押す
この線引きを最初に決めておかないと、「AIが通したことになっている案件」が生まれ、後から誰も説明できなくなります。ワークフローの価値は速さではなく、誰が決めたかが後から分かることにあります。そこを崩す自動化は、たとえ速くなっても導入すべきではありません。
なお、契約書の中身のチェックをAIに手伝わせる話は、承認フローとは別の論点として整理しています。詳しくは契約書のAIチェックを参照してください。
使えるプロンプト例
そのまま使える形で3つ出します。社名や取引先名は必ず伏せてから貼り付けてください。
以下は社内の購買稟議の申請文です。次の6点が書かれているかを確認し、書かれていない項目だけを箇条書きで指摘してください。追加の提案や感想は書かないでください。(1)購入の目的 (2)金額と算出根拠 (3)相見積の有無と社数 (4)導入時期 (5)予算科目と残高 (6)導入しない場合に生じる支障。— 申請文:
以下の稟議文を、承認者が30秒で読める3行に要約してください。1行目に「何を、いくらで、いつ」、2行目に「なぜ必要か」、3行目に「判断が必要な論点」を書いてください。原文にない情報は絶対に足さないでください。— 稟議文:
以下は3か月分の差戻し記録です。理由を5つ以内のカテゴリに分類し、件数の多い順に並べてください。そのうえで、申請書の様式か記入ガイドを直すことで防げそうなものはどれかを、理由つきで指摘してください。— 記録:
3つ目のように「様式で防げるか」を聞くのがコツです。AIに個別の差戻しを判断させるのではなく、仕組みの改善点を探させる使い方が、いちばん外れません。この考え方は表計算での集計作業にも応用できます。手順はExcelのAI自動化にまとめています。
電子化で失敗する5つの型
紙の流れをそのまま写す
圧倒的に多い失敗です。今ある紙の稟議書のレイアウトをそのまま画面に再現し、承認欄も4つそのまま作る。これをやると、紙のときの不便さを全部引き継いだうえで、操作の手間だけが増えます。
中小企業白書に掲載された事例で、生産管理ソフトを共同開発した経営者が語った言葉が、この点を的確に表しています。DXを進める肝は、今の会社の仕組みに合わせてデジタル化を進めるのではなく、既存のデジタルツールに合わせて仕組みを変えていくことだ、というものです(出典:中小企業庁「2025年版 中小企業白書」第1部第1章第5節 デジタル化・DX)。順序が逆になっている会社が多い、という指摘だと読めます。
承認者を減らさずに電子化する
2番目に多い失敗です。この記事の主題そのものですが、実際にはこれが最も起きます。減らす作業は社内の政治が絡むので後回しにされ、システム導入だけが先に進むからです。
結果として何が起きるか。承認者4人分の滞留は残ったまま、申請者の操作だけが増えます。押印のために席を回っていた頃は、ついでに口頭で説明できていたのに、電子化するとその説明の場がなくなり、差戻しが増えることさえあります。
入力項目を増やしてしまう
電子にすると集計できるので、「ついでにこれも取ろう」と項目が増えます。導入時に20項目の申請フォームができあがり、半年後には誰も正確に入力しなくなります。
対策は単純で、紙のときの項目より1つでも増やさないことを導入の条件にしてください。増やしたい項目は、運用が定着して3か月経ってから、1つずつ足します。
例外ルートを作りすぎる
「急ぎのときは別ルート」「役員案件は別フォーム」「この部署だけ承認者が違う」。導入時の合意を取るために例外を認めていくと、設定が終わらなくなり、運用も覚えられなくなります。
例外は2つまでと決めてください。3つ目が必要になったら、それは例外ではなく本来のルートの設計が間違っているサインです。
差戻しの理由が残らない
電子化しても、差し戻しのときに「ちょっとこれ直して」と口頭やチャットで伝えていると、記録が残りません。差戻しの理由は、改善のための最も価値の高いデータです。
選択式で構いません。むしろ自由記述だけにすると集計できないので、選択式と自由記述を併用してください。3か月分たまれば、様式を直すべきか、教育で直すべきかが判断できます。
専用システムが早い場面
当社はAI導入支援の会社ですが、専用のワークフローシステムを買ったほうが早い場面は確実にあります。そこを曖昧にすると、読者が損をするので正直に書きます。
買ったほうが早い条件
| 条件 | なぜ買ったほうが早いか |
|---|---|
| 申請の種類が5種類以上ある | 種類ごとにルートを作るのは、既製品のほうが圧倒的に速い |
| 承認ルートが組織図に連動する | 異動のたびにルートを手で直す運用は、必ず破綻する |
| 月の申請件数が100件を超える | 件数が多いと、検索・一覧・督促の機能差がそのまま工数差になる |
| 電子契約や電子署名が必要 | 証拠力の確保は自作の対象ではない。専用サービスを使う |
| 会計・人事システムと連携させたい | 連携は既製品の得意分野。自作すると保守が終わらない |
| 監査対応で操作ログが求められる | 誰がいつ何をしたかの記録は、後から足せない |
表計算や既存ツールで足りる条件
| 条件 | まず試すもの |
|---|---|
| 申請の種類が3種類以下 | 入力フォームと共有シート。1日で作れる |
| 月の申請件数が30件未満 | チャットツールの1チャンネルと定型文でも回る |
| 承認者が1〜2人で固定 | フォームの回答通知をメールで受けるだけで足りる |
| まず何が起きているか測りたい段階 | 5営業日の記録。ツールを選ぶ前の材料になる |
選ぶときの確認項目
仕組みが決まってから、ようやくツールの話になります。機能一覧を比較するのではなく、ここまでで決めた運用がそのまま動くかだけを見てください。
| 確認すること | なぜ見るか |
|---|---|
| 金額による承認ルートの分岐ができるか | 金額の階段が本記事の中心的な打ち手のため |
| 並列承認ができるか | 直列のままだとリードタイムが縮まない |
| 組織変更にルートが追随するか | 異動のたびの手直しは運用が止まる最大の原因 |
| 差戻し理由を選択式で残せるか | 改善の材料が残らないと二度目が防げない |
| スマートフォンで承認できるか | 承認者の滞留は移動中に解消されることが多い |
| 添付ファイルを検索できるか | 電子取引データの検索要件と、探す時間の両方に効く |
| 操作ログが残り、後から追えるか | 誰が決めたかを説明できることがワークフローの本質 |
特定の製品を推奨することはしません。会社の規模、既に使っているツール、社内の慣れで最適解が変わるためです。ただし原則は共通で、使わない機能が多いツールほど、使われなくなります。手段そのものの選び分け(RPAで組むのか、AIに任せるのか、既製品を買うのか)で迷っている場合は、RPAとAIの違いで判断基準を整理しています。要件の書き出し方は要件定義の進め方が参考になります。
参考までに、企業のクラウド利用は既に一般的な状態になっています。総務省の調査では、クラウドサービスを利用している企業は8割を超え、利用の効果があったと回答した企業は88.2%でした。また利用用途では「給与、財務会計、人事」「スケジュール共有」が前年から増加し、5割を超えています(出典:総務省「令和6年通信利用動向調査の結果」(令和7年5月30日公表))。
同じ調査では、テレワークを導入している企業の割合は47.3%で前年に続き減少している一方、導入目的としては「勤務者のワークライフバランスの向上」と「業務の効率性(生産性)の向上」が増加しています(出典:総務省「令和6年通信利用動向調査の結果」(令和7年5月30日公表))。場所の制約を外すためだけでなく、効率のために電子化を選ぶ会社が増えているという読み方ができます。承認のために出社するかどうかという論点は、テレワークの実施率とは別に、平時の速度の問題として残ります。
モデルケース|稟議の試算
- 以下は実在の企業ではなく、当社が想定する典型的な状況にもとづく試算です。
- 従業員45名の設備工事会社を想定。購買と外注の稟議が月40件あります。
- 金額換算は時給2,500円・月20営業日を前提としています。
- 件数・所要時間・削減率はいずれも実績値ではなく仮に置いた数字です。実際の値は各社で必ず異なります。この表は「自社の記録から同じ計算をするための型」として使ってください。
まず現状です。5営業日の記録を取った結果、稟議1件あたりの内訳は次のようになったとします。承認者は一律4人で、金額による分岐はありません。
| 工程 | 1件あたりの時間 | 誰の時間か |
|---|---|---|
| 紙の稟議書を作成する | 15分 | 申請者 |
| 4人に押印を求めて回る(不在時の再訪を含む) | 20分 | 申請者 |
| 承認者の確認(1人5分で4人分) | 20分 | 承認者 |
| 決裁後の台帳転記とファイリング | 10分 | 総務・経理 |
| 合計(純作業時間) | 65分 | ー |
月40件なので、65分を40件分で月43.3時間、時給2,500円換算で月108,000円相当です。これとは別に、申請から決裁までのリードタイムは平均6.5営業日でした。差戻しは月8件発生し、再申請に1件20分かかっていました。
ここに3つの打ち手を、この記事の順番で当てていきます。
| 段階 | やったこと | 減る時間(月) | 金額換算(月) |
|---|---|---|---|
| 1. 減らす | 30万円未満は承認者を4人から2人に(該当28件) | 9.3時間 | 23,300円相当 |
| 2. 電子化 | 申請フォーム化。作成短縮・押印回り廃止・転記廃止 | 16.7時間 | 41,700円相当 |
| 3. 自動化 | AIによる3行要約と記載漏れチェック(承認1件5分が3分に) | 3.5時間 | 8,700円相当 |
| 3. 自動化 | 差戻しが月8件から3件に減少(1件20分の再申請) | 1.7時間 | 4,200円相当 |
| 合計 | ー | 月31.2時間 | 月77,900円相当 |
削減時間だけを見ると、電子化(16.7時間)が「減らす」(9.3時間)を上回っています。それでも順番を逆にしてはいけない理由が2つあります。
1つ目はリードタイムです。次の表のとおり、待ち時間は「減らす」でしか縮みません。
| 段階 | リードタイム(平均) | 変化の理由 |
|---|---|---|
| 現状 | 6.5営業日 | 承認者4人分の滞留 |
| 1. 減らす | 3.5営業日 | 小額案件の承認者が2人に |
| 2. 電子化 | 1.8営業日 | 並列承認とスマートフォンでの承認 |
| 3. 自動化 | 1.5営業日 | 差戻しの減少による再申請の消滅 |
2つ目は費用です。段階1は費用0円で、規程を1行変えるだけで来月から効きます。段階2以降は、ツールの費用と設定の手間が発生します。0円で効く手を後回しにする理由はありません。
そして重要なのは、順番を逆にした場合に何が失われるかです。承認者4人のまま電子化すると、上の表の「承認者の確認20分」がそのまま残ります。月40件で13.3時間、年間160時間です。電子化したあとで承認者を減らすのは、いったん作ったルート設定を作り直す作業になるため、心理的にも実務的にも重くなります。
仕組みを作る側の手間も並べておきます。同じ前提です。
| 作業 | 時間 | 金額換算 |
|---|---|---|
| 5営業日の記録(申請者と承認者12名が1日3分を5日) | 約3時間 | 7,500円相当 |
| 承認ルートの見直しと決裁権限規程の改定 | 約8時間 | 20,000円相当 |
| 申請フォームの作成(稟議・経費・休暇・発注の4種類) | 約6時間 | 15,000円相当 |
| 電子取引データの保存方法の決定と事務処理規程の作成 | 約4時間 | 10,000円相当 |
| AIの使い方の整備と社内への周知 | 約4時間 | 10,000円相当 |
| 初期の合計 | 約25時間 | 62,500円相当 |
| 運用(月次の差戻し集計と一覧確認) | 月約2時間 | 月5,000円相当 |
この2つの表を並べる目的は、元が取れるかを計算することではありません。自社の記録に自社の数字を入れたとき、どの打ち手が一番効くかを比べるためです。上の想定では承認者が4人もいたので「減らす」が効きましたが、もともと2人の会社なら段階1の効果はほぼゼロになります。逆に、申請件数が月10件しかない会社では、段階2の16.7時間が2時間程度にしかならず、システム導入の判断は変わります。
だからこそ5営業日の記録が必要です。記録がないと、この表の数字を自社の値に置き換えられません。置き換えられないまま導入すると、効果があったのかどうかも分からないまま終わります。なお、ツールの利用料はこの試算に含めていません。当社の支援は初期費用0円・月額5万円ですが、「月◯円浮くから元が取れる」という形の説明は行っていません。削減時間は状況で上下しますし、その計算に合わせて数字を作りたくなる力学が働くからです。見るべきは金額ではなく、決裁が何日で下りるようになったかです。
30日で始める順番
ここまでの内容を、4週間の作業に落とします。1週目にツールを選ばないことが最大のポイントです。
| 時期 | やること | 目安の時間 |
|---|---|---|
| 1週目 | 申請の種類を全部書き出す。5営業日の記録を取る | 合計3時間 |
| 2週目前半 | 各申請を「紙と押印の要否を判断する表」に当てはめる | 2時間 |
| 2週目後半 | 承認者を3つの質問で仕分け、廃止できる承認欄を決める | 3時間 |
| 3週目前半 | 金額の階段を決め、決裁権限規程の改定案を作る | 4時間 |
| 3週目後半 | 改定案を経営会議にかけ、翌月からの運用を決める | 2時間 |
| 4週目前半 | 件数の多い1種類だけをフォーム化して試す(まず休暇申請) | 3時間 |
| 4週目後半 | 電子取引データの保存方法を決め、事務処理規程を用意する | 4時間 |
4週目まで、システムの契約は発生しません。ここまでで決まった運用が、そのままツール選定の要件になります。逆に言えば、ここが決まっていない状態で資料請求をしても、比較の軸が作れないので選べません。
全社展開は5週目以降です。1種類、1部署で4週間試してから広げてください。全社一斉に始めると、うまくいかなかったときに原因が特定できません。他の業務も含めて何から着手するか迷っている場合は、業務効率化のアイデアで優先順位の付け方を扱っています。全社のデジタル化の順序として整理したい場合はDXの進め方もあわせてご覧ください。
当社では、申請と承認の流れを対象にした支援も行っています。承認ルートの棚卸しから、AIに任せる範囲の設計、定着までを一緒に進める形です。具体的な進め方は業務タスクの自動化支援にまとめています。
よくある質問(FAQ)
Q. まず何から始めればよいですか
A. 自社にある申請書の種類を全部書き出すことからです。所要は30分程度です。稟議・経費・休暇・発注・備品・出張・押印依頼など、想像より多いはずです。書き出したら、それぞれの承認者の人数を横に書いてください。この2つの数字だけで、着手すべき順番はほぼ決まります。
Q. ワークフローシステムは必要ですか
A. 申請の種類が3種類以下で、月の件数が30件未満なら、まずは入力フォームと共有シートで足ります。5種類以上あって組織図に連動したルートが必要なら、既製品を買ったほうが確実に早いです。当社はAI導入支援の会社ですが、この判断で無理にAIを勧めることはしません。
Q. ハンコを廃止しても法律上問題ありませんか
A. 社内の稟議書や申請書について、書式や押印を定めた法令は基本的にありません。取引先との契約書についても、内閣府・法務省・経済産業省の「押印についてのQ&A」は、書面への押印は特段の定めがある場合を除き必要な要件とはされていない、と整理しています。ただし法律が書面を要求する契約類型はあるので、該当しそうなものは個別に確認してください。
Q. 電子契約サービスは法的に有効ですか
A. 電子署名法により、本人による一定の要件を満たす電子署名が行われた電子文書は真正に成立したものと推定されます。いわゆる立会人型のサービスについても、総務省・法務省・経済産業省のQ&Aが、利用者の意思のみに基づいて機械的に暗号化されたことが担保される場合には利用者が措置を行った者と評価し得る、としています。契約の性質に応じて本人確認レベルを選ぶことが適当とも書かれています。
Q. 紙の請求書を全部スキャンすべきですか
A. 急ぐ必要はありません。スキャナ保存は「保存に代えることができる」制度で、任意です。むしろ優先度が高いのは、メールやWebで受け取った請求書などの電子取引データを、電子のまま保存することです。こちらは義務です。順番を間違えている会社が多い部分です。
Q. 電子取引データの保存は専用システムが要りますか
A. 必要ありません。国税庁の資料でも、改ざん防止の措置として事務処理規程を策定・運用・備付けする方法が認められており、専用システムを導入しない方法があると明記されています。検索要件も、表計算ソフトの索引簿や、日付・金額・取引先を並べたファイル名で対応できます。
Q. 承認者を減らすと統制が緩みませんか
A. 減らし方によります。過去1年で1度も差し戻していない承認者を外し、その人には決裁後の一覧を届ける形にすれば、情報は共有されたままです。むしろ承認者が多いほど「誰かが見ているだろう」で読まずに押される率が上がるので、人数を減らして責任を明確にするほうが、実質的な統制は強くなることがあります。
Q. AIで承認を自動化できますか
A. 承認そのものの判断は任せないでください。任せられるのは、申請文の要約、記載漏れのチェック、過去案件の検索、差戻し理由の下書き、月次の傾向まとめまでです。可否の決定、与信の判断、人事上の判断、例外の許可、最終的な送信操作は人が行います。この線引きを最初に決めておかないと、誰が決めたのか説明できない案件が生まれます。
Q. 稟議のリードタイムはどこまで縮みますか
A. 縮む幅は承認者の人数でほぼ決まります。1人あたりの滞留が1.5営業日なら、4人を2人にするだけで3営業日短くなる計算です。ここに並列承認とスマートフォンでの承認が加わると、さらに半分程度になります。逆に、承認者を減らさずに電子化だけした場合の短縮は限定的です。
Q. 社内の反対をどう乗り越えますか
A. 5営業日の記録を先に取ってください。「決裁に平均6.5営業日かかっている」「承認者4人のうち3人は過去1年で1度も差し戻していない」という事実が出ると、感覚論での反対は起きにくくなります。反対の多くは「知らされなくなること」への不安なので、決裁後の一覧配信をセットで提案すると通りやすくなります。
Q. 何種類の申請書があれば多すぎますか
A. 10種類を超えたら統合を検討してください。実際に並べてみると、記入項目が8割同じ申請書が2〜3組見つかることが多いです。統合すると、電子化の設定量も、社員が覚える手順も一気に減ります。統合は電子化の前にやるのが鉄則です。
Q. 差戻しが多いのは申請者の問題ですか
A. ほとんどの場合は様式の問題です。差戻し理由を3か月集計すると、記入漏れと添付漏れが上位を占めることが多く、これは申請書のガイドや必須項目の設定で防げます。個人の注意不足として処理すると、同じことが翌月も起きます。
Q. どの申請から電子化すると失敗しにくいですか
A. 休暇申請です。件数が多く、金額の判断がなく、承認者が1人で足りるためです。ここで運用の作法(申請・承認・記録の3点)を全員が体験してから、稟議に進むと定着が早くなります。逆に、いきなり稟議から始めると規程の改定と重なって止まりがちです。
Q. 何か月で変化を感じられますか
A. 承認者を減らす効果は、規程を改定した翌月から出ます。電子化の効果は運用開始から1か月、AIによる差戻し削減の効果は3か月分の記録がたまってからです。最も早く実感できるのは「今どこで止まっているか、聞かなくても分かる」という状態で、これは電子化した週から変わります。
Q. 生成AIの活用方針が社内で決まっていません
A. 珍しいことではありません。日本の中小企業では生成AIの活用方針を「方針を明確に定めていない」との回答が多く、約半数を占めると報告されています(出典:総務省「令和7年版 情報通信白書」企業におけるAI利用の現状)。方針が決まっていない状態でも、この記事の段階1(減らす)と段階2(電子化)は先に進められます。AIの利用範囲は、段階3に入る前に決めれば間に合います。
まとめ
- 順番は減らす、電子化する、自動化する。後ろほど費用がかかり、前ほど効果が早い
- リードタイムの正体は判断時間ではなく承認者の机での滞留。人数に比例する
- 承認者は否認歴・固有情報・全件通過の3つの質問で仕分ける
- 費用0円で効くのは金額の階段・事後承認・並列化・承認の廃止の4つ
- 紙とハンコが残る理由は法令・取引先・慣習の3つ。実際は慣習が最も多い
- 契約書への押印は、特段の定めがある場合を除き必要な要件とはされていない
- 電帳法は紙を電子にするのは任意、電子で受けたものを電子で残すのは義務
- 電子取引データの保存は事務処理規程と索引簿でも要件を満たせる
- AIに任せるのは要約・チェック・検索・下書きまで。承認の判断は人が行う
- 最も多い失敗は紙の流れをそのまま画面に写すこと
- 申請が5種類以上・組織図連動・月100件超なら、専用システムを買うほうが早い
ワークフローの改善は、決裁を速くするためだけのものではありません。誰が、いつ、何を根拠に決めたのかが後から分かる状態を作るためのものです。速さだけを目的にすると、記録も差戻し理由も省略され、結局は元の「聞いて回らないと分からない」状態に戻ります。
まずは申請書の書き出しと、5営業日の記録から始めてください。ここまでなら、新しい契約も予算もいりません。そのうえで承認者を仕分ければ、来月から決裁の速度は変わります。
手段の選び分けはRPAとAIの違い、問い合わせ対応の属人化は問い合わせ管理の仕組み、経理まわりの整理はバックオフィス業務の効率化、集計作業の効率化はExcelのAI自動化にまとめています。
労務の申請・届出を流れに乗せるときは、AIに任せてよい範囲を先に決めておく必要があります。判断の線引きは労務のAI活用|任せる範囲と社労士に頼む線引きにまとめています。


