AIエージェントの作り方|業務で使う手順と限界
業務効率化支援を行う「Ai-Raku(アイラク)」代表。国立大学でAIの研究を行い、ITコンサル・ウェブコンサルを経て独立。官公庁向けの業務効率化や上場企業の支援等を経て、中小企業の現場に定着するAI活用を企画から運用まで一気通貫で支援している。

- プログラミングができなくても作れますか?
- 作れます。段階1から段階3までは、チャット型AIの機能やノーコードの自動化ツールで実現できます。プログラミングが必要になるのは、既存ツールでは扱えない処理を組み込む段階からです。多くの中小企業では、そこまで進まなくても十分な効果が出ます。
- 何から作るのが正解ですか?
- 「毎週以上発生し、手順が言葉で説明でき、間違いに人が気づけて、やり直しが効く業務」から選んでください。この4条件を満たすものが複数あるなら、担当者がいちばん面倒だと感じている作業を選ぶのが確実です。使い続けてもらえます。
- 作るのにどれくらい時間がかかりますか?
- 段階0の計測に1週間、段階1の手順書作成に2〜4時間、段階2・3の構築と調整に10〜20時間程度が目安です。カレンダー上では1か月ほどを見込んでください。ただし、対象業務の選定に迷っている期間が最も長くなりがちです。
- 費用はどれくらいかかりますか?
- 自社の担当者だけで進める場合、AIサービスの利用料として月額数千円から2万円程度が中心です。自動化ツールを追加で契約する場合は、それに月額数千円が加わります。外部に構築支援を依頼する場合、当社の料金は初期費用0円・月額5万円です。
- AIエージェントとRPAはどちらがよいですか?
- 処理する対象で決まります。書式が完全に固定されている定型処理はRPAが安定します。書式がばらばらで、文章の意味を読み取る必要がある処理はAIエージェントが向きます。実務では併用も有効で、意味の読み取りをAIに、確定した処理をRPAに任せる構成が現実的です。
- 自律的に動かすのはいつからですか?
- 提案までの形で20件並走し、19件以上で人の判断と一致してからです。それでも「自律的に動かす」のは、取り消せる処理に限定してください。送信、確定、支払いといった取り消せない操作は、精度が高くても人が押す形を維持することをお勧めします。
- 途中で止まったらどうなりますか?
- 止まること自体は正常な動作です。問題は、止まったことに気づかない場合です。必ず通知が飛ぶ設計にし、「止まったら従来どおり手作業で処理する」という代替手順を紙で残してください。この代替手順があるかどうかで、業務が止まるかどうかが決まります。
- 間違った処理をした場合の責任は?
- 責任は導入した企業側にあります。AIサービスの提供元が業務上の損害を負う形にはなっていないのが一般的です。だからこそ、金銭に直結する処理と、取り消せない処理を対象から外す設計が重要になります。
- 社内の情報を渡しても大丈夫ですか?
- サービスの契約形態によります。法人向けプランでは入力内容を学習に使わない設定が標準の場合が多いですが、必ず公式の規約で確認してください。そのうえで「渡してよい情報」を許可リストの形で先に決め、個人情報と価格交渉の経緯は外すことをお勧めします。
- 作った人が辞めたらどうなりますか?
- 対策をしていなければ、誰も触れなくなります。作り始めた時点で2人体制にし、A4で1枚の取扱説明書(何をするものか/読んでいる情報/指示文の保存場所/代替手順/止め方)を残してください。この1枚があるだけで、引き継ぎの可否が変わります。
- 効果が出ているか、どう測りますか?
- 導入前に作業時間を実測しておくことが唯一の方法です。1回あたりの所要時間、週あたりの発生回数、担当者数の3項目を1週間記録してください。導入後に同じ項目を記録し、差を出します。導入前の数字がないと、効果は永久に測れません。
- 複数の業務をまとめて任せてよいですか?
- 最初は避けてください。複数を同時に任せると、うまくいかなかったときに原因が特定できません。1業務が4週間の判断基準を満たしてから、次に進んでください。順番は「同じ担当者の、隣の業務」からが確実です。
- MCPは必要ですか?
- 最初は不要です。段階2・段階3の検証は、ファイルを人が渡す形でも成立します。必要になるのは、社内システムと常時つないで定期実行に乗せる段階からです。検証が終わってから検討して間に合います。
- うまくいかないときはやめるべきですか?
- 2回作り直しても判断基準を満たさない場合は、その業務が対象として適切でなかったと考えてください。やめることは失敗ではなく、「この業務は人がやるべきだと分かった」という結論です。別の業務に切り替えたほうが、結果的に早く効果が出ます。
「AIエージェントを作ってみたい」と思ったとき、多くの方が最初に探すのはツールの使い方です。しかし実際に業務で使えるものを作った現場から見ると、成否を分けているのは道具ではありません。
分かれ目は「どこまでをAIに任せ、どこから人が判断するか」を先に決めたかどうかです。ここを決めずに作り始めると、動くものはできても業務には乗りません。数週間で誰も使わなくなります。
本記事では、中小企業が実際に手を動かせるレベルまで落として、作る前の決めごと、段階的な作り方、権限の設計、正しく動いているかの検証方法、そしてやめる判断まで含めた運用の乗せ方を整理します。技術的に高度なものを作る記事ではありません。むしろ小さく作って、確実に使い続けるための記事です。
- 作り始める前に決めるべき3つのこと
- 任せてよい業務・任せてはいけない業務の線引き
- 読み取りから実行まで、段階を踏んだ作り方
- 権限をどこまで渡し、どこで承認を挟むか
- 「正しく動いている」を確かめる検証手順
- よくある失敗パターンと、その回避策
- 運用に乗せるか、やめるかの判断基準
結論|作る前に「任せる範囲」を決める
先に結論からお伝えします。
作り方は3行に集約できる
AIエージェントの作り方を最短で言うと、次の3行になります。
- 今やっている作業の手順を、文章で書き出す
- その手順のうち「調べる・まとめる・下書きする」だけをAIに渡す
- 「送る・登録する・支払う」は人が押す
これだけです。技術的な話は、この3行を実現する手段にすぎません。逆に言えば、この3行が決まっていない状態でツールをいじっても、何も業務は変わりません。
最初に作るのは「提案まで」の型
いきなり全自動を作ろうとすると、ほぼ確実に失敗します。最初に作るべきものは「AIが調べて、まとめて、案を出す。人が確認して、実行する」という形です。
この形は地味に見えますが、実務での効果が最も安定します。理由は単純で、AIが間違えても被害が出ないからです。間違いは人が気づいて直せます。そして「どのくらい間違えるのか」を安全に観測できるので、次に自動化の範囲を広げるかどうかを、感覚ではなくデータで判断できます。
止まると困るものは対象にしない
もうひとつ、最初に決めておくべき原則があります。
- 止まると業務が止まるもの(受発注の基幹処理、生産指示など)は対象外
- 金銭に直結するもの(振込、発注確定、価格変更、返金)は対象外
- 顧客の個人情報を外に出すものは対象外
この3つを外すと「作れるものが減るのでは」と感じるかもしれません。実際には減りません。中小企業の現場で時間を食っているのは、この3つの手前にある準備作業だからです。転記、集計、下書き、確認のための情報集め。ここに十分な余地があります。
前提|AIエージェントとは何か
本題に入る前に、言葉の整理だけ簡単にしておきます。
AIエージェントとは、目標を与えると、必要な手順を自分で組み立てて、複数の作業を続けて実行するAIのことです。「この文章を要約して」と一往復で終わるチャット型AIと違い、「情報を探す→読む→まとめる→次の行動を決める」を自分で回します。この、外部のツールやデータを操作できる点が従来との違いです。
概念の詳細、従来のRPAやチャット型AIとの違い、種類の分類についてはAIエージェントとは|中小企業向けにわかりやすく解説で扱っています。本記事は、その先の「では実際にどう作るか」に絞ります。
作る前に決める3つのこと
作業に入る前に、紙1枚で決めておくことがあります。この3つが埋まらないうちは、ツールを触らないでください。
1. 対象業務と「終わり」の定義
まず、どの業務を対象にするかを1つだけ選びます。複数を同時に狙わないでください。
そして、その業務の「終わり」を明確に定義します。ここが最も抜けやすい部分です。「メール対応をAIにやらせたい」では、終わりが定義されていません。
- 悪い例:メールの対応を自動化する
- 良い例:受注メールから、品番・数量・希望納期を抜き出して、確認用の一覧表を作るところまで
良い例は、できあがったものが正しいかどうかを人が5秒で判断できます。悪い例は判断できません。終わりの定義とは、成果物の形を決めることです。
2. 権限の範囲と、実行の可否
次に、そのAIに何を触らせるかを決めます。判断すべきは2軸です。
- 読み取り:どのフォルダ、どのメール、どのシートまで見せるか
- 書き込み・実行:作らせるか、更新させるか、送らせるか
最初の答えは「読み取りだけ、書き込みは新規ファイルの作成のみ、送信と更新は禁止」で構いません。ここから広げるかどうかは、後述する検証の結果で決めます。
3. 間違えたときの戻し方
3つ目が、実務上いちばん大事です。AIが間違った結果を出したとき、どうやって気づき、どうやって元に戻すかを先に決めます。
戻し方が決まらない作業は、そもそも対象にしないでください。判断のための問いは1つです。
「これが間違っていたとき、社外に迷惑がかかる前に、社内で気づいて直せるか?」
答えが「はい」なら着手してよい業務です。「いいえ」または「分からない」なら、まだ対象にしないでください。
3つを1枚にまとめる
| 決める項目 | 書く内容 | 記入例 |
|---|---|---|
| 対象業務 | 1つだけ選ぶ | 受注メールの内容確認と転記の準備 |
| 終わりの定義 | 成果物の形 | 品番・数量・納期の一覧表(確認用) |
| 読み取り範囲 | 見せる場所 | 受注専用メールアドレスの受信箱のみ |
| 実行の可否 | させないこと | 返信送信・システム登録は人が行う |
| 気づき方 | 誰がいつ確認するか | 担当者が転記前に一覧を目視確認 |
| 戻し方 | 間違い時の手順 | 一覧を破棄し、従来どおり手作業で処理 |
向く業務・向かない業務
次に、どの業務を選ぶかです。ここを外すと、あとの工程がすべて無駄になります。
向く業務の4つの条件
次の4条件をすべて満たす業務が、最初の対象として適しています。
- 毎週以上の頻度で発生する(月1回では効果を実感できません)
- 手順が言葉で説明できる(「勘」の部分が主役なら向きません)
- 間違いに人が気づける(成果物を見れば正誤が判断できる)
- やり直しが効く(間違えても取り返しがつく)
向かない業務は3種類
逆に、次の3種類は最初の対象から外してください。技術的に不可能だからではなく、失敗したときの損失が、得られる効率化を上回るからです。
- 止まると業務が止まるもの:AIが動かない日、代わりに人が回せる体制がないなら危険です
- 金銭に直結するもの:発注確定、振込、価格変更、返金処理。1件の間違いが信用を壊します
- 顧客情報を社外に出すもの:個人情報や取引条件を、外部サービスに渡す設計は慎重に
業務の向き不向き一覧
| 業務 | 向き | 理由 |
|---|---|---|
| 問い合わせメールの分類・要約 | 向く | 頻度が高く、間違いに気づける |
| 複数ファイルからの数値集計 | 向く | 手順が明確で、元データと照合できる |
| 議事録の要約と課題抽出 | 向く | 成果物を人が確認する前提で回せる |
| 定型的な報告資料の下書き | 向く | 下書きの段階で止められる |
| 社内文書からの回答案作成 | 向く | 参照元を示せば検証できる |
| 受注データの基幹システム登録 | 要注意 | 誤登録の影響が大きい。登録は人が行う |
| 顧客への返信の自動送信 | 向かない | 取り消せない。下書きまでに留める |
| 発注・支払いの確定処理 | 向かない | 金銭に直結し、やり直しが効かない |
| 採用や人事評価の判定 | 向かない | 人の判断が必要。参考情報の整理まで |
作り方の手順|段階を踏んで進める
ここから実際の作り方です。段階0から段階5まで、順番に進めてください。飛ばすと、あとで必ず戻ることになります。
段階0:今の作業時間を計測する
いちばん飛ばされやすく、いちばん重要な工程です。作り始める前に、対象業務に今どれだけ時間がかかっているかを実測してください。
記録するのは3項目だけで足ります。
- 1回あたりの所要時間(分)
- 1週間あたりの発生回数
- 担当者の人数
1週間分でも構いません。この数字がないと、作ったあとで「効果があったのか」を誰も答えられなくなります。感覚で「楽になった気がする」と言い合うだけになり、経営判断の材料になりません。
段階1:手順を文章に書き出す
次に、その作業の手順を文章にします。ここでAIに渡す「指示書」の原型ができます。
書き方のコツは、新入社員に説明するつもりで書くことです。次の要素を必ず含めてください。
- どこから情報を取るか(フォルダ名、ファイル名、メールの条件)
- 何を判断するか(判断の基準を言葉で)
- どういう形で出すか(表の列、文書の構成)
- 迷ったらどうするか(「判断できない場合は保留として印をつける」など)
最後の「迷ったらどうするか」が抜けると、AIは迷っても止まらず、それらしい答えを作ってしまいます。これが後述する「動いているが正しくない」の主因です。指示書の書き方そのものについてはAIへの指示文の書き方も参考になります。
段階2:読み取りだけで動かす
ここで初めてツールを触ります。まず読み取りだけで動かします。ファイルの作成も更新も送信もさせません。「読んで、画面に結果を表示する」だけです。
この段階の目的は、AIが対象の情報を正しく読めているかの確認です。ここでつまずくケースは少なくありません。ファイル形式が読めない、表の見出しが認識されない、スキャンした書類の文字が取れない。こうした問題は、この段階で判明します。
段階3:提案までを作らせる
読めることを確認したら、成果物の下書きまで作らせます。一覧表、要約、返信文案。ここまでが「提案」です。
出力先は、既存のデータを上書きしない場所にしてください。新規ファイル、あるいは専用のフォルダです。この段階では既存データに一切触らせないのが原則です。
多くの中小企業にとって、実はここが最終形で十分です。無理に次へ進む必要はありません。
段階4:承認つきで実行させる
提案の精度が安定してから、初めて実行を検討します。ただし必ず人の承認を1か所挟みます。
具体的には「AIが下書きを作る→担当者が画面で確認する→担当者がボタンを押す→処理が走る」という流れです。承認を挟む場所は、取り消せなくなる直前に置きます。送信の直前、登録の直前です。
段階5:定期実行に乗せる
最後に、毎日決まった時刻に動かす、といった定期実行に乗せます。ここまで来て初めて「運用」です。
定期実行にする際は、必ず結果の通知をセットにしてください。「何件処理した」「何件を保留にした」「エラーが何件あった」が担当者に届く形にします。通知がないと、動かなくなったことに数週間気づきません。
- 段階0を飛ばす → 効果が測れず、続けるか判断できない
- 段階1を飛ばす → 例外への対処が決まっておらず、誤答が混ざる
- 段階2を飛ばす → 読めていないデータに気づかず、空欄が量産される
- 段階3を飛ばす → 誤りが業務に流出してから発覚する
- 段階4を飛ばす → 取り消せない処理が誤って走る
何を使って作るか|道具の選び方
作る道具は4つの選択肢があります。いきなり高機能なものを選ぶ必要はありません。
チャット型AIの機能で作る
ChatGPTやClaudeなどには、手順や役割を保存して繰り返し使える機能があります。ファイルをアップロードして処理させることもできます。最も手軽で、費用も月額数千円からです。段階1から段階3までなら、これで十分に検証できます。
制約は、社内システムと自動でつながらない点です。ファイルを人が渡す必要があります。
ノーコードの自動化ツール
画面上で処理の流れを組み立てるタイプのツールです。「メールが届いたら→内容をAIに渡して→結果を表に書き込む」といった流れを、コードを書かずに作れます。
すでに使っているグループウェアや業務ソフトに、この種の自動化機能が付いていることも珍しくありません。新しく契約する前に、既存ツールの機能を確認してください。
コードを書ける環境で作る
自由度は最も高い選択肢です。近年は、自然言語で指示すればAI自身がコードを書いてくれる開発環境も一般的になりました。この作り方についてはバイブコーディングとはで詳しく扱っています。
ただし作った人以外が中身を理解できなくなるリスクが最も高いのもこの選択肢です。後述する「属人化」の対策を必ずセットにしてください。
外部データにつなぐならMCP
AIを社内のファイル置き場や業務システムにつなぐための共通の仕組みとして、MCP(Model Context Protocol)があります。これは2024年11月にAnthropic社がオープンな標準として公開したもので、接続先ごとに個別の作り込みをせずに済むよう設計されています(出典:Anthropic「Introducing the Model Context Protocol」)。
ただし、最初からMCPを前提にする必要はありません。段階2・段階3の検証はファイルを手で渡す形でも成立します。仕組みの詳細はMCPとは|AIと自社データをつなぐ仕組みにまとめています。
道具の比較
| 選択肢 | 着手の速さ | 自由度 | 向く段階 |
|---|---|---|---|
| チャット型AIの機能 | その日から | 低い | 段階1〜3の検証 |
| ノーコード自動化 | 数日〜2週間 | 中程度 | 段階3〜5の定型処理 |
| コードを書く環境 | 2週間〜 | 高い | 既存ツールで無理な処理 |
| MCPで接続 | 設定作業が必要 | 高い | 社内データと常時つなぐ段階 |
権限と承認の設計
ここが、実務でいちばん差がつく部分です。
権限は「読み取りだけ」から始める
AIに渡す権限は、最初は読み取りのみにしてください。そして読み取る範囲も、業務に必要な最小限に絞ります。
よくあるのは「とりあえず共有フォルダ全体を見せる」という設定です。これは避けてください。対象業務に必要なフォルダだけを、専用に切り出すのが正しい手順です。手間はかかりますが、この一手間が事故を防ぎます。
承認を挟む場所は1か所に決める
承認は、多ければよいものではありません。工程ごとに承認を入れると、確認作業が増えて、かえって時間が増えます。
正しい置き方は「取り消せなくなる直前に1か所」です。
| 処理 | 承認を置く場所 |
|---|---|
| メール返信 | 送信ボタンの直前(下書きまでは自動) |
| データ登録 | 登録実行の直前(一覧の目視確認) |
| 資料作成 | 社外提出の直前(社内共有までは自動) |
| 集計・分析 | 数値を意思決定に使う直前 |
やってはいけない権限の渡し方
- 管理者権限をそのまま渡す:設定変更や削除まで可能になります
- 削除権限を含める:復元できない操作は最後まで人の手に残します
- 本番環境で最初の検証をする:まずコピーしたデータで試します
- 個人アカウントを共用する:誰が何をしたか記録が追えなくなります
承認が形骸化する条件
承認を設計しても、ほぼ確実に形骸化する条件があります。次の3つです。
- 確認に元の作業と同じ時間がかかる:それなら手作業のほうが早いと判断されます
- 確認すべき点が明示されていない:何を見ればよいか分からず、素通りになります
- これまで一度も間違いがなかった:慣れが確認を省略させます
対策は、AI側に「自信がない箇所」を明示させることです。判断に迷った項目に印をつけさせ、確認者はその印だけを見る。この形にすると、確認時間が短くなり、承認が機能し続けます。
検証の仕方|正しさの確かめ方
「動いた」と「正しい」は別のことです。ここを混同すると、静かに間違いが広がります。
過去のデータで答え合わせをする
最初の検証は、すでに答えが分かっている過去のデータで行います。先月処理した20件を用意して、AIに同じ処理をさせ、人が出した結果と突き合わせます。
この方法の利点は、業務を止めずに精度を測れることです。そして、どういう種類の間違いをするのかが分かります。単純な読み取りミスなのか、判断そのものが違うのか。前者は指示の書き方で直りますが、後者は業務の選定から見直しが必要です。
20件の並走で判断する
次に、実際の業務でしばらく並走させます。人の作業とAIの作業を両方行い、結果を比べます。件数は20件を目安にしてください。少なすぎると偶然に左右され、多すぎると並走の負担が重くなります。
判断の目安は次のとおりです。
| 20件中の一致件数 | 判断 |
|---|---|
| 19〜20件 | 段階4(承認つき実行)に進んでよい |
| 16〜18件 | 指示を直して再検証。提案までの運用は可 |
| 15件以下 | 業務の選び方から見直す |
例外を先に集めておく
検証で最も見落とされるのが例外パターンです。通常の依頼だけで試すと高い精度が出ますが、本番では例外が必ず来ます。
そこで、検証用のデータに意図的に例外を混ぜてください。過去に処理に困った案件、書式が違うもの、情報が欠けているもの。担当者に「変わったやつ、ありましたよね」と聞けば、たいてい出てきます。
そして重要なのは、例外でAIが正解を出すことを期待しないことです。期待すべきは「例外だと気づいて、保留にすること」です。これができれば実務に乗ります。
記録するのは3項目でよい
検証中に記録するのは、次の3項目だけで足ります。日付、処理件数、修正が必要だった件数。表計算ソフト1枚で管理できます。
なお、AIが事実と異なる内容をもっともらしく出力する問題についてはAIのハルシネーション対策で具体的な手当てを扱っています。
よくある失敗パターン5つ
ここからは、実際に起きる失敗です。どれも技術的な難しさではなく、設計と運用の抜けから生じます。
1. 動いているが、正しくない
最も多く、最も厄介な失敗です。エラーも出ず、処理は完了し、それらしい結果が出ている。しかし中身が間違っている。
原因は、AIが「分からない」と言わずに埋めてしまう性質にあります。データが欠けていても、それらしい数値を入れます。
対策は3つです。指示書に「判断できない場合は空欄にして印をつける」と明記すること。出力に参照元を必ず付けさせること。そして、抜き取り検査を続けることです。1か月に一度、10件だけ元データと突き合わせる。これを続けている会社は、静かな誤りに気づけます。
2. 例外が来ると止まる
いつもと違う書式のファイル、想定外の依頼文。ここでAIが処理を止めます。止まること自体は正しい動作ですが、問題は止まったことに誰も気づかない場合です。
対策は、止まったら通知が飛ぶ設計にすること。そして、例外時の対処を担当者が知っていることです。「止まったら従来どおり手作業で処理する」という代替手順を、必ず紙で残してください。
3. 作った人以外が直せない
作った本人は動かせますが、他の人には中身が分かりません。指示文がどこに保存されているのか、設定をどう変えるのか、誰も知らない状態です。
対策は作った直後に行います。A4で1枚の「取扱説明書」を作ってください。内容は次の5項目だけで構いません。
- 何をするものか(1行)
- どこの情報を読んでいるか
- 指示文がどこに保存されているか
- 止まったときの代替手順
- 止め方(どこで停止させるか)
4. 属人化して引き継げない
3の延長ですが、より深刻な形です。導入を推進した担当者が異動・退職して、誰も触れなくなります。
対策は作り始めた時点で2人体制にすることです。1人が作り、もう1人が「説明を聞いて理解する役」を担います。理解する側が説明を再現できなければ、その作りは複雑すぎるという合図です。
5. 気づかないうちに範囲が広がる
最初は1業務だったものが、便利だからと隣の業務にも使われ始めます。承認の範囲を超えた使われ方が、報告されないまま広がります。
対策は、使ってよい範囲を明文化して掲示すること。そして、月1回「今どこまで使っているか」を確認する場を設けることです。社内ルールの作り方は社内のAI利用ルールの作り方にひな形の考え方をまとめています。
運用に乗せるかの判断基準
作ったものを本格運用するかどうかは、4週間後に数字で判断します。
4週間後に見る3つの数字
| 数字 | 合格の目安 | 不合格なら |
|---|---|---|
| 作業時間の削減率 | 30%以上 | 対象業務の選定を見直す |
| 修正が必要だった割合 | 10%以下 | 指示書を書き直す |
| 担当者が使い続けているか | 週4日以上使用 | 使わない理由を聞き取る |
3つ目が最も正直な指標です。担当者が自発的に使い続けているなら、それは業務に合っているということです。逆に「上から言われたから使っている」状態は、遠からず止まります。
やめる判断も先に決めておく
始める前に「どうなったらやめるか」を決めてください。決めていないと、うまくいっていないものを惰性で続けることになります。目安は「2回作り直しても合格しなければ、その業務は対象外だったと判断する」です。
やめることは失敗ではありません。その業務がAIに向かないと分かったこと自体が成果です。判断の詳しい基準はAI導入をやめる判断基準で扱っています。
広げるときの順番
1つ目が軌道に乗ったら、次に進みます。順番の原則は「同じ担当者の、隣の業務」です。別部署に横展開するのは、社内に2〜3件の成功例が溜まってからにしてください。他部署では前提が違い、そのままでは動きません。
モデルケース|削減時間の試算
ここでは、導入した場合にどのくらいの効果が見込めるかを試算します。
以下は実在の企業の事例ではなく、当社が想定する典型的な状況にもとづく試算です。実際の効果は業務内容・データの整い方・担当者の習熟度によって変動します。
- 人件費:時給2,500円で計算
- 稼働:月20営業日
- 想定:従業員30名の卸売業/営業事務1名
- 対象業務:受注メールの内容確認と、社内システムへの転記準備
導入前の作業内容
営業事務の担当者が、毎日届く受注メール15〜20件を1件ずつ開き、品番・数量・希望納期を読み取り、確認用の一覧に書き写します。書式は取引先ごとにばらばらで、本文に書かれている場合も、添付ファイルの場合もあります。この作業に1日あたり60分かかっています。
導入後(段階3|提案まで)
AIエージェントが受注専用アドレスの受信箱を読み、品番・数量・納期を抜き出して確認用の一覧を作ります。判断できなかった項目には印がつきます。担当者は一覧を見て、印のついた箇所だけを元メールで確認し、社内システムへの登録は従来どおり自分で行います。
試算の内訳
| 項目 | 導入前 | 導入後 |
|---|---|---|
| 1日あたりの作業時間 | 60分 | 25分 |
| 1日あたりの削減 | — | 35分 |
| 月あたりの削減(20日) | — | 700分(約11.7時間) |
| 時給2,500円換算 | — | 約29,000円/月 |
| 新たに増える点検作業 | — | 週15分(月約1時間・約2,500円) |
| 差引の削減 | — | 約10.7時間/月(約26,500円相当) |
この試算で見落としがちな点
- 削減時間はそのまま人件費削減にはなりません。浮いた時間を何に使うかを決めておかないと、効果が可視化されません
- 点検の時間はなくなりません。抜き取り検査は運用が続く限り必要です
- 作る側の時間がかかります。段階0から段階3まで、社内担当者の作業時間として合計15〜25時間程度を見込んでください
- 取引先の書式が変わると精度が落ちます。年に数回は指示の見直しが必要です
なお、外部に構築支援を依頼する場合、当社の料金は初期費用0円・月額5万円です。自社の担当者だけで進める場合は、この費用はかかりません。
業種別|最初に作るならこれ
業種によって、最初に着手しやすい業務は変わります。いずれも「提案まで」の形を想定しています。
| 業種 | 最初に作るもの | 人が押す部分 |
|---|---|---|
| 卸売・小売 | 受注内容の抽出と一覧化 | システムへの登録 |
| 製造 | 図面・仕様書からの項目抽出 | 製造指示の確定 |
| 建設 | 見積書の項目整理と比較表 | 発注先の決定 |
| 運送・物流 | 日報の集計と異常値の抽出 | 是正指示の判断 |
| 不動産 | 物件情報の整形と原稿下書き | 掲載内容の最終確認 |
| 士業事務所 | 受領資料の不足チェック | 顧客への連絡 |
| 介護・医療 | 記録からの申し送り要約 | ケア内容の判断 |
| 飲食 | 売上データの集計と傾向整理 | 仕入れ・メニューの決定 |
| 人材・士業以外の専門サービス | 問い合わせの分類と回答案 | 返信の送信 |
業種を問わず共通する着手点
どの業種でも、最初に着手すべきなのは「情報を集めて、決まった形にまとめる」作業です。判断そのものではありません。判断の材料を揃える部分に、どの会社にも時間が眠っています。
他の業務も含めた着手候補の一覧は業務効率化のアイデア20選にまとめています。
情報の扱いと社内ルール
作る段階で、情報の扱いも同時に決めておきます。あとから決めると、すでに渡してしまった情報の扱いに困ります。
学習に使われるかを確認する
使うサービスの利用規約で、入力した内容がモデルの学習に使われるかどうかを確認してください。法人向けプランでは学習に使わない設定が標準の場合が多いですが、無料版・個人向けプランでは扱いが異なることがあります。契約前に必ず一次情報である公式の規約を確認してください。
渡してよい情報を先に決める
「何を渡してはいけないか」より、「何なら渡してよいか」を決めるほうが運用しやすいです。禁止リストは抜け漏れますが、許可リストは明確です。
| 区分 | 例 | 扱い |
|---|---|---|
| 渡してよい | 公開済みの商品情報、社内の手順書 | 制限なし |
| 条件付き | 取引先名を含む業務データ | 法人契約のサービスに限定 |
| 渡さない | 個人情報、価格交渉の経緯、人事情報 | 人が手作業で処理 |
取り込んだ文章に指示が混ざる場合がある
AIエージェントは外部の文章を読んで動きます。ここで注意が必要なのは、読み込んだ文章の中に、AIへの指示のような文が書かれていた場合です。AIがそれを命令として受け取ってしまう可能性があります。
対策の基本は、読み込む先を信頼できる範囲に限定すること、そして実行系の権限を渡さないことです。読み取りと提案までに留めていれば、仮に妙な指示が混ざっても、実害のある動作にはつながりません。ここでも「最初は提案まで」の原則が効いてきます。
記録を残す
誰が、いつ、どの設定を変えたか。この記録が残る形にしてください。表計算ソフト1枚で構いません。トラブルが起きたときに、原因を特定できるかどうかがここで決まります。
参考|国内企業の現状
最後に、判断の背景として国内の状況を確認しておきます。
総務省「令和7年版 情報通信白書」によると、何らかの業務で生成AIを利用していると回答した企業の割合は、日本で55.2%でした。一方で中国95.8%、米国90.6%、ドイツ90.3%といずれも9割を超えており、差が開いています(出典:総務省「令和7年版 情報通信白書」企業におけるAI利用の現状)。
同白書では、生成AIの活用方針を定めている企業の割合が49.7%(前年度42.7%)と上昇している一方、中小企業では「方針を明確に定めていない」との回答が約半数を占めることも示されています。
そして課題として挙げられた項目の1位は「効果的な活用方法がわからない」、2位が「社内情報の漏えい等のセキュリティリスク」でした。活用推進による影響としては「業務効率化や人員不足の解消につながる」が最多となっています。
この結果は、本記事で述べてきた進め方と重なります。活用方法が分からないという課題は、対象業務を1つに絞り、終わりを定義することで解けるものです。そしてセキュリティの不安は、権限を読み取りに絞り、渡す情報を許可リストで管理することで大部分が抑えられます。
よくある質問(FAQ)
Q. プログラミングができなくても作れますか?
A. 作れます。段階1から段階3までは、チャット型AIの機能やノーコードの自動化ツールで実現できます。プログラミングが必要になるのは、既存ツールでは扱えない処理を組み込む段階からです。多くの中小企業では、そこまで進まなくても十分な効果が出ます。
Q. 何から作るのが正解ですか?
A. 「毎週以上発生し、手順が言葉で説明でき、間違いに人が気づけて、やり直しが効く業務」から選んでください。この4条件を満たすものが複数あるなら、担当者がいちばん面倒だと感じている作業を選ぶのが確実です。使い続けてもらえます。
Q. 作るのにどれくらい時間がかかりますか?
A. 段階0の計測に1週間、段階1の手順書作成に2〜4時間、段階2・3の構築と調整に10〜20時間程度が目安です。カレンダー上では1か月ほどを見込んでください。ただし、対象業務の選定に迷っている期間が最も長くなりがちです。
Q. 費用はどれくらいかかりますか?
A. 自社の担当者だけで進める場合、AIサービスの利用料として月額数千円から2万円程度が中心です。自動化ツールを追加で契約する場合は、それに月額数千円が加わります。外部に構築支援を依頼する場合、当社の料金は初期費用0円・月額5万円です。
Q. AIエージェントとRPAはどちらがよいですか?
A. 処理する対象で決まります。書式が完全に固定されている定型処理はRPAが安定します。書式がばらばらで、文章の意味を読み取る必要がある処理はAIエージェントが向きます。実務では併用も有効で、意味の読み取りをAIに、確定した処理をRPAに任せる構成が現実的です。
Q. 自律的に動かすのはいつからですか?
A. 提案までの形で20件並走し、19件以上で人の判断と一致してからです。それでも「自律的に動かす」のは、取り消せる処理に限定してください。送信、確定、支払いといった取り消せない操作は、精度が高くても人が押す形を維持することをお勧めします。
Q. 途中で止まったらどうなりますか?
A. 止まること自体は正常な動作です。問題は、止まったことに気づかない場合です。必ず通知が飛ぶ設計にし、「止まったら従来どおり手作業で処理する」という代替手順を紙で残してください。この代替手順があるかどうかで、業務が止まるかどうかが決まります。
Q. 間違った処理をした場合の責任は?
A. 責任は導入した企業側にあります。AIサービスの提供元が業務上の損害を負う形にはなっていないのが一般的です。だからこそ、金銭に直結する処理と、取り消せない処理を対象から外す設計が重要になります。
Q. 社内の情報を渡しても大丈夫ですか?
A. サービスの契約形態によります。法人向けプランでは入力内容を学習に使わない設定が標準の場合が多いですが、必ず公式の規約で確認してください。そのうえで「渡してよい情報」を許可リストの形で先に決め、個人情報と価格交渉の経緯は外すことをお勧めします。
Q. 作った人が辞めたらどうなりますか?
A. 対策をしていなければ、誰も触れなくなります。作り始めた時点で2人体制にし、A4で1枚の取扱説明書(何をするものか/読んでいる情報/指示文の保存場所/代替手順/止め方)を残してください。この1枚があるだけで、引き継ぎの可否が変わります。
Q. 効果が出ているか、どう測りますか?
A. 導入前に作業時間を実測しておくことが唯一の方法です。1回あたりの所要時間、週あたりの発生回数、担当者数の3項目を1週間記録してください。導入後に同じ項目を記録し、差を出します。導入前の数字がないと、効果は永久に測れません。
Q. 複数の業務をまとめて任せてよいですか?
A. 最初は避けてください。複数を同時に任せると、うまくいかなかったときに原因が特定できません。1業務が4週間の判断基準を満たしてから、次に進んでください。順番は「同じ担当者の、隣の業務」からが確実です。
Q. MCPは必要ですか?
A. 最初は不要です。段階2・段階3の検証は、ファイルを人が渡す形でも成立します。必要になるのは、社内システムと常時つないで定期実行に乗せる段階からです。検証が終わってから検討して間に合います。
Q. うまくいかないときはやめるべきですか?
A. 2回作り直しても判断基準を満たさない場合は、その業務が対象として適切でなかったと考えてください。やめることは失敗ではなく、「この業務は人がやるべきだと分かった」という結論です。別の業務に切り替えたほうが、結果的に早く効果が出ます。
まとめ
- 作り方の本質は「任せる範囲を決めること」。技術はその手段にすぎない
- 最初に作るのは「AIが提案し、人が実行する」型。全自動は狙わない
- 止まると業務が止まるもの、金銭に直結するもの、顧客情報を扱うものは対象外
- 着手前に作業時間を実測する。これがないと効果を判断できない
- 段階0から段階5まで順番に進める。飛ばすと必ず戻ることになる
- 権限は読み取りから。承認は取り消せなくなる直前に1か所
- 検証は過去データで答え合わせ→20件の並走。例外を意図的に混ぜる
- 失敗は「動いているが正しくない」が最多。抜き取り検査を続ける
- 作った直後にA4で1枚の取扱説明書を残し、2人体制にする
- やめる基準も先に決める。向かないと分かることも成果のひとつ
AIエージェントは、うまく作れば毎日の準備作業を確実に減らします。しかしそれは、任せる範囲を絞り、人の判断を残した設計にした場合に限られます。範囲を欲張った瞬間に、確認の手間が効率化を上回ります。小さく作って、確実に使い続けてください。
概念の整理はAIエージェントとは、社内データとの接続はMCPとは、運用ルールは社内のAI利用ルールの作り方にまとめています。
作り方が分かった次は、増えたエージェントをどう管理するかです。台帳に残す12項目、権限の3段階、止める判断の基準はAIエージェント導入の管理|台帳12項目と止める基準で解説しています。


