経費削減のアイデア|人件費を削らない進め方
業務効率化支援を行う「Ai-Raku(アイラク)」代表。国立大学でAIの研究を行い、ITコンサル・ウェブコンサルを経て独立。官公庁向けの業務効率化や上場企業の支援等を経て、中小企業の現場に定着するAI活用を企画から運用まで一気通貫で支援している。

- 経費削減は何から始めるべきですか
- 数えることから始めてください。具体的には、クレジットカード明細の12か月分を印刷して毎月の引き落としを書き出すことと、いちばん時間がかかっている業務を1つ選んで1週間だけ所要時間を記録することの2つです。どちらも今日始められて、費用がかかりません。削減案を考えるのは、この2つが終わってからで十分間に合います。
- 固定費はもう削り尽くしたと思うのですが
- 固定費を削り尽くしている会社でも、時間コストはほぼ手つかずです。時間コストは請求書が来ないため、削減の対象として認識されていないからです。誰も見ていない資料・二重入力・形式的な承認の3つを確認してみてください。この3つのどれも該当しない会社は、実務ではほとんど見かけません。
- 人件費を削らずに大きな削減はできますか
- 「大きな」の定義によります。人件費削減ほど一度に大きな額は動きませんが、時間コストの削減は毎月継続して効き、しかも品質と士気を落としません。そして重要なのは、時間コストを削減しないまま人を減らすと、仕事の総量が変わらないので残った人に負荷が寄り、削減額が残業代や離職で相殺されることです。順番として、時間コストが先です。
- AIを入れれば経費は下がりますか
- 下がるのは主に時間コストです。家賃や材料費はAIでは下がりません。加えて、AIツールの月額料金は新しい固定費として増えます。総務省「令和7年版 情報通信白書」でも、生成AI導入時の懸念事項として「ランニングコストがかかる」「初期コストがかかる」が上位に挙がっています。「業務時間を減らす取り組みであって、販管費がすぐ下がる話ではない」と、社内には最初に伝えておいてください。
- 経費精算のAIはどこまで自動化できますか
- 領収書の読み取り、申請内容と領収書の突合、過去の類似申請からの勘定科目の提案までは実用的です。一方で、読み取り精度は100%にはならず、確認工程は残ります。手書きの領収書や褪せた感熱紙のレシートは読み違えます。「確認をやめる」のではなく「入力をやめて確認に集中する」という設計にすると、無理なく効果が出ます。
- 電子帳簿保存法への対応はどうすればいいですか
- 国税庁が電子帳簿等保存制度特設サイトを設けており、制度の概要・法令・通達・Q&Aがまとまっています。同サイトは、取引情報を含む電子データをやり取りした場合の保存義務や保存方法も同法で定められているため、所得税法・法人税法上の保存義務者は特に「電子取引」を確認するよう案内しています。自社の該当関係と具体的な要件は、国税庁のサイトと顧問税理士に必ずご確認ください。AIツールが読み取れることと、保存要件を満たすことは別の話です。
- 少額の経費を細かく締めるのは有効ですか
- あまり勧めません。削減額に対して士気への影響が大きすぎるからです。備品を安いものに変える、細かい申請を厳しくする、といった打ち手は、金額が小さいわりに「この会社は余裕がない」というメッセージだけが強く伝わります。同じ労力をかけるなら、固定費を1つ大きく見直すか、時間コストを数えるほうが効きます。
- 承認を厳しくすれば無駄遣いは減りますか
- 減る場合もありますが、承認そのものの時間コストを計算してから決めてください。3万円の申請に3人が各10分かけているなら、時給2,500円換算で1件あたり1,250円の費用がかかっています。過去1年で実際に差し戻された件数を数えて、ゼロに近い承認段階があれば、その段階は判断していません。金額の閾値を上げるほうが合理的です。
- 他社のコスト削減事例は参考になりますか
- 前提条件を確認できるなら参考になります。確認すべきは従業員数・業種・削減の内訳・削減前の状態の4つです。とくに内訳が重要で、人員削減で達成した削減額を業務改善の目標に据えると、達成不可能な目標を追うことになります。また、削減の翌年に何が起きたかまで書かれている事例は少ないので、書かれていなければ「1年目の話」として読んでください。
- 効果があったかどうか、どう説明すればいいですか
- 導入前・1か月後・3か月後の3時点で、件数・1件あたり所要時間・手戻り件数の3項目を並べてください。この3つがそろっていれば、「件数は増えたのに総時間は減り、手戻りは増えていない」という形で説明できます。逆にこの3つがないと、どれだけ言葉を尽くしても「感覚」の域を出ません。そして最も重要なのは、導入前の1週間を飛ばさないことです。ここは後から取り返せません。
- 効果が出なかった場合はどうすればいいですか
- 出なかったと正直に記録し、なぜ出なかったかの仮説を1行添えてください。「入力時間は減ったが確認に時間がかかった」なら次は確認工程が対象ですし、「大半は書類を探す時間だった」なら対象の選び方が違っていたということです。指標をすり替えたり、比較する週を有利なほうに差し替えたりすると、次にどこへ手をつけるべきかが分からなくなります。やめる判断の考え方はAI導入をやめる判断にまとめています。
- 浮いた時間はどう扱えばいいですか
- 使い道を、測定を始める前に決めておいてください。残業を減らす、増員を見送る、営業活動に回す、教育に充てる。どれでも構いませんが、決めていないと空いた時間は自然に別の作業で埋まり、「結局忙しいまま」という結論になります。金額換算はあくまで規模を実感するための目安として使い、そのまま利益として計上しないでください。
- 小さな会社でも取り組めますか
- 取り組めます。むしろ意思決定が速い分、有利な面があります。総務省「令和7年版 情報通信白書」によると、日本の中小企業では生成AIの活用方針を明確に定めていない企業が約半数を占めており、大企業と比較して活用方針の決定が立ち遅れている状況が見て取れる、とされています。裏を返せば、手つかずの削減余地が残っているということです。まずは1業務・1週間の記録から始めてください。
- 削減の取り組みが毎回続きません
- 削減がイベントになっているのが原因です。「今期は経費削減月間」のような取り組みは、期間が終われば元に戻ります。仕組みに載せてください。「毎年4月にサブスクを棚卸しする」「新しいツールを契約するときは、やめる基準を同時に書く」といった形で、カレンダーとルールに組み込みます。誰かの気合いに依存する削減は続きません。
「今期は経費を見直してほしい」と言われて、まず何を開きますか。多くの会社では損益計算書の販管費を上から眺め、金額の大きい項目に赤ペンを入れていきます。そして最後に人件費という大きな塊が残り、「ここに触るしかないのか」という重い空気になります。
結論から言います。人件費を削るのは最後です。そして経費削減で最初に手をつけるべきなのは、損益計算書に一行も載っていない「時間コスト」です。誰も見ていない資料、同じ数字の二重入力、形式だけの承認待ち。これらは請求書が来ないので気づかれませんが、確実に人件費として毎月支払われています。
本記事では、経費を固定費・変動費・時間コストの3つに分けたうえで、それぞれに使える具体的なアイデアを整理します。あわせて、経費精算をAIで軽くする方法、削減しすぎて品質と士気が落ちる失敗パターン、そして効果を後から証明できるようにするための「導入前の記録」まで扱います。
- 経費削減の順番は「やめる・減らす・自動化する」であること
- 固定費・変動費・時間コストの分け方と、それぞれのアイデア
- 人件費を最後に回す3つの実務的な理由
- 最も見落とされる時間コストの正体(3つのムダ)
- 経費精算をAIで軽くする手順と、失敗する使い方
- コスト削減の事例を読むときの3つの注意点
- 月24時間を取り戻すモデルケース(当社の想定にもとづく試算)
- 削減しすぎて品質・士気が落ちる失敗パターン6つ
- 効果の測り方と、90日で進める手順
- 結論|削る順番は「やめる・減らす・自動化」
- 経費を3つに分ける|固定費・変動費・時間
- なぜ人件費を最後に回すのか
- 時間コストの正体|見えない3つ
- 固定費を減らすアイデア12
- 変動費を減らすアイデア10
- 時間コストを減らすアイデア12
- AIで減らせるのは時間コスト
- 経費精算をAIで軽くする方法
- 削減事例の読み方|3つの注意点
- モデルケース|月24時間を取り戻す
- 効果の測り方|先に記録する
- 経費削減の失敗パターン6つ
- 90日で進める経費削減の手順
- 補助金は「使えたら」で考える
- よくある質問|経費削減とAI
- Q. 経費削減は何から始めるべきですか
- Q. 固定費はもう削り尽くしたと思うのですが
- Q. 人件費を削らずに大きな削減はできますか
- Q. AIを入れれば経費は下がりますか
- Q. 経費精算のAIはどこまで自動化できますか
- Q. 電子帳簿保存法への対応はどうすればいいですか
- Q. 少額の経費を細かく締めるのは有効ですか
- Q. 承認を厳しくすれば無駄遣いは減りますか
- Q. 他社のコスト削減事例は参考になりますか
- Q. 効果があったかどうか、どう説明すればいいですか
- Q. 効果が出なかった場合はどうすればいいですか
- Q. 浮いた時間はどう扱えばいいですか
- Q. 小さな会社でも取り組めますか
- Q. 削減の取り組みが毎回続きません
- まとめ|削る順番を間違えない
結論|削る順番は「やめる・減らす・自動化」
経費削減で成果が出る会社と、出ない会社の差は、アイデアの数ではありません。手をつける順番です。順番を間違えると、削った額よりも失うものが大きくなります。
当社が中小企業の現場で一貫してお勧めしている順番は次の3ステップです。
- やめる……その業務・その支出を、そもそも無くせないかを問う
- 減らす……無くせないなら、頻度・単価・対象範囲を落とせないかを問う
- 自動化する……無くせず減らせないものだけを、道具に任せる
この順番が重要なのは、いきなり自動化から入ると、無くすべき仕事を高い精度で自動化してしまうからです。誰も読まない月次報告書を、AIで自動生成できるようにする。作業時間は減りますが、誰も読まない資料が毎月きれいに出続けます。本来やるべきは「その報告書をやめられないか」を先に聞くことでした。
そしてこの3ステップを回しきったあとに、はじめて人件費の話が出てきます。順番の最後です。理由は次章以降で詳しく説明します。
| ステップ | 問いかけ | 典型的な対象 |
|---|---|---|
| 1. やめる | やめたら誰が困るか。困らないなら止める | 閲覧されていない定例資料、形式的な承認、使っていないサブスク |
| 2. 減らす | 頻度・単価・対象を落とせないか | 会議の回数、印刷部数、契約プランの容量、月次を四半期に |
| 3. 自動化する | 人がやる必然性はあるか | 領収書の入力、転記、集計、定型メールの下書き |
| 4. 人件費 | 1〜3をやりきったか | 残業、体制、採用計画(ここは最後) |
経費を3つに分ける|固定費・変動費・時間
「経費削減のアイデア」を検索すると、数十個のリストが並んだ記事が出てきます。役に立たないわけではありませんが、そのまま上から試すと必ず途中で止まります。性質の違うものが混ざっているからです。
手をつける前に、削減の対象を次の3つに分けてください。分けるだけで、何が自社に効くのかが見えてきます。
固定費|契約と設備にかかる費用
売上や稼働量に関係なく、毎月同じ額が出ていく費用です。家賃、リース料、保険料、通信費、クラウドサービスの月額、保守契約などが該当します。
固定費の特徴は、一度見直すと効果がその後ずっと続くことです。月1万円下げれば、放っておいても年12万円が浮きます。一方で、見直しには契約先との交渉や解約手続きが必要で、思い立ってすぐには動けません。効果は大きいが、着手のハードルが高い領域です。
変動費|使った分だけ増える費用
稼働量に比例して増減する費用です。材料費、外注費、配送費、消耗品費、出張の交通費、広告費の一部などが該当します。
変動費は「単価」と「量」に分解して考えるのが鉄則です。単価だけを叩くと取引先との関係が悪化し、量だけを絞ると売上そのものが落ちます。「単価は据え置きで、発注ロットをまとめて回数を減らす」「同じ量でも急ぎ便をやめて通常便にする」といった、単価と量のどちらでもない第三の切り口を探せると、痛みが少なくて済みます。
時間コスト|請求書が来ない費用
そして最も見落とされるのが、この時間コストです。従業員が業務に費やしている時間そのものを費用として見る考え方です。
時間コストが見落とされる理由ははっきりしています。請求書が来ないからです。家賃は毎月請求書が届き、通信費は明細が届きます。しかし「月次報告書の作成に8時間かかっている」ことを知らせてくれる書類は、どこからも届きません。すでに払っている給与のなかに溶けていて、独立した費用として認識されないのです。
しかし実態としては、時給2,500円の人が月8時間かけているなら、その資料には毎月2万円の費用がかかっています。年間24万円です。それが「誰も読んでいない資料」だとしたら、コピー機のリース料を1,000円下げる交渉より、はるかに大きな削減余地がそこにあります。
| 区分 | 見え方 | 効果の持続 | 着手のしやすさ | AIの出番 |
|---|---|---|---|---|
| 固定費 | 請求書・契約書で見える | 長い(ずっと続く) | 低い(交渉・解約が必要) | ほぼ無い |
| 変動費 | 明細で見える | 中(稼働量次第) | 中 | 限定的(発注量の集計など) |
| 時間コスト | 見えない | 中〜長 | 高い(社内で完結) | 大きい |
この表で注目していただきたいのは、時間コストだけが「社内で完結する」点です。固定費を下げるには相手が要り、変動費を下げるにも取引先が絡みます。時間コストは、自社の判断だけで今日から動けます。経費削減の入口としてここを勧める最大の理由です。
なぜ人件費を最後に回すのか
人件費は多くの中小企業で最大の費用項目です。だからこそ「ここを削れば一番効く」と考えたくなります。しかし実務では、人件費への着手は最後に回すべきです。理由は3つあります。
削減額より失う額が大きい
人が1人抜けると、その人の給与は確かに減ります。しかし同時に、その人が持っていた取引先との関係、社内の手順の記憶、判断の勘所も一緒に消えます。これらは帳簿に載らないため、削減額だけが数字として残り、失った側は数字になりません。
とくに中小企業では、一人ひとりが複数の役割を兼ねています。「経理も総務も採用もやっている人」が抜けたとき、抜けた穴は給与の額面よりずっと大きくなります。
残った人に仕事が寄る
人員を減らしても、仕事の量が自動的に減るわけではありません。減らした人の分の仕事は、残った人に移るだけです。結果として残業が増え、残業代で削減額が相殺されるか、残業代を払わずに済ませようとして品質が落ちます。
この構造は、「やめる・減らす」を先にやっていないと必ず起きます。仕事の総量を減らさないまま人だけ減らすのは、水を減らさずにコップを小さくするようなものです。あふれます。
採用しなおすと元より高い
削減の翌年に業績が戻り、あらためて人を採ることになる。中小企業では珍しくない展開です。このとき、以前と同じ条件で同じ水準の人が採れることはまずありません。求人媒体費、面接にかかる時間、入社後に一人前になるまでの期間。これらをすべて含めると、削った額を上回る費用が数年かけて発生することがあります。
だからこそ、人件費に触る前に「やめる・減らす・自動化する」をやりきってください。3ステップをやりきったあとであれば、人件費の話も「削る」ではなく「配置を変える」という前向きな議論にできます。
時間コストの正体|見えない3つ
時間コストと言われてもピンとこない、という方のために、実務で繰り返し見かける3つの型を挙げます。この3つを潰すだけで、多くの会社は月に数十時間を取り戻せます。
誰も見ていない資料をつくる
いちばん多いのがこれです。数年前に「必要だ」と言われて作り始めた資料が、そのまま毎月作られ続けている。作っている本人も「これ誰が見てるんだろう」と思っているが、やめる決裁をとる手間のほうが大きいので作り続けている。
確認方法は簡単です。その資料を配布したあと、1か月間だけ配布を止めてみてください。誰からも「今月の資料は?」と聞かれなければ、それは止められる資料です。共有フォルダに置いているだけの資料なら、アクセスログを見れば一発で分かります。
ここで大事なのは、「作るのをやめる」と「見せ方を変える」を混同しないことです。必要な情報なら、10ページのPDFではなく3行のメッセージで足りるかもしれません。やめるか、軽くするか。どちらかの判断を必ずつけてください。
同じ数字を2回以上入力する
受注時に販売管理システムへ入力し、請求時に会計ソフトへ入力し、月次でExcelに転記する。同じ数字を3回打っています。この二重入力・三重入力は、時間を食うだけでなく入力ミスの発生源でもあり、ミスの発見と修正にさらに時間がかかります。
見つけ方は「同じ数字が2つ以上の場所に手入力で存在していないか」を洗い出すこと。1回の手入力に対して、あとの2回は転記です。転記は人がやる必然性がほぼありません。ここは自動化の効果が最も素直に出る領域です。書類からの入力そのものを軽くする方法はAI-OCRで書類入力を自動化する方法で詳しく扱っています。
形式だけの承認を待つ
3万円の備品を買うのに、課長・部長・役員の3段階の承認が必要。そして誰も差し戻したことがない。この承認は、判断のためではなく「何かあったときのため」に存在しています。
問題は承認そのものよりも待ち時間です。申請から購入までに5営業日かかるとして、その間、担当者は「まだ承認が下りないので着手できない」状態で止まっています。この待ち時間は誰の稼働時間にも計上されませんが、業務の進行は確実に遅れます。
対処はシンプルです。金額の閾値を上げるか、段階を減らすか。「5万円未満は課長承認のみ」と決めるだけで、大半の申請が1段階で終わります。過去1年の申請で、実際に差し戻された件数を数えてみてください。ゼロに近ければ、その承認段階は判断していません。
固定費を減らすアイデア12
ここから具体的なアイデアを挙げていきます。すべてを試す必要はありません。自社に当てはまるものを2〜3個選んで、期限を切って実行するほうが、20個をリストアップして何もしないより確実に効きます。
- 使っていないSaaSの棚卸し……クレジットカードの明細を12か月分並べ、毎月引き落とされているサービスを全部書き出す。「誰が何のために契約したか説明できない」ものは解約候補
- アカウント数の見直し……ユーザー課金のサービスは、退職者・異動者のアカウントが残っていることが多い。人数分の請求になっているか確認する
- プラン容量の見直し……ストレージや通信量の上位プランを、実際の使用量に合わせて下げる。上げるのは簡単だが下げる作業は誰もやらない
- 年払いへの切り替え……継続が確実なサービスは、月払いより年払いのほうが安いことが多い。逆に、続けるか迷っているものは月払いのままにする
- 重複機能の統合……チャットツールが2つ、オンライン会議ツールが3つ、といった状態を整理する。ツールが多いと切り替えの手間も時間コストになる
- 複合機・コピー機の契約見直し……印刷枚数が契約時より減っていないか。カウンター料金の単価と最低枚数を確認する
- 固定電話・FAX回線の整理……実際の着信件数を1か月数える。ほぼ営業電話しか来ていない回線は整理の対象
- 保険の重複確認……複数の保険で同じリスクを二重にカバーしていないか。増やすときは検討するが、減らす見直しは滅多に行われない
- 事務所スペースの再設計……在宅勤務が定着した会社では、席数と実出社人数が合っていないことがある。移転せずとも、フロアの一部を返却できる契約もある
- 保守契約の対象確認……すでに使っていない機器の保守契約が残っていないか。機器を入れ替えた際に旧契約が生き残るのはよくある
- 電力プランの確認……契約種別と使用実績が合っているか。使用量のピークが変わっていれば、プランも変わる余地がある
- 会費・購読料の棚卸し……業界団体の会費、新聞・雑誌の購読、有料メディア。誰も読んでいないものは止める
この12個のうち、1〜5はすべて「クレジットカードの明細を12か月分印刷する」だけで着手できます。今日できることから始めてください。
変動費を減らすアイデア10
変動費は「単価」と「量」に分解して考えます。単価交渉だけに頼らない打ち手を意識的に混ぜてください。
- 発注ロットをまとめる……同じ量でも発注回数を減らせば、送料・事務手数料・発注作業の時間が減る
- 急ぎ便をやめる……本当に急ぎなのかを都度確認する運用にする。「念のため急ぎ」が常態化していないか
- 在庫の持ちすぎを直す……過剰在庫は保管スペースと廃棄損に化ける。回転していない品目を洗い出す
- 相見積もりを定期化する……交渉するためではなく、相場を知るために取る。年1回でも十分に効果がある
- 外注と内製の線引きを見直す……単価が安いから外注しているが、指示書の作成と検収に時間がかかっている、というケースは多い
- 出張を減らす基準を決める……「初回訪問は対面、2回目以降はオンライン」のように、精神論ではなくルールで決める
- 広告の停止基準を先に決める……出稿前に「この数字を下回ったら止める」を決めておく。決めていない広告は止まらない
- 消耗品の購買先を集約する……分散していると単価も配送費も上がる。まとめると事務処理の件数も減る
- 廃棄・返品の原因を数える……変動費の一部は「作り直し」です。原因別に件数を数えると、単価交渉より効く打ち手が見つかる
- 「量」を売上と紐づけて見る……変動費が増えていても、それ以上に売上が増えているなら削る対象ではない。額ではなく比率で見る
10番目は、削減の議論で最も抜けやすい視点です。変動費は増えること自体が悪ではありません。売上に対する比率が悪化しているかどうかで判断してください。この考え方は生産性の指標の記事でも扱っています。
時間コストを減らすアイデア12
ここが本記事の中心です。時間コストの削減は社内で完結し、外部との交渉が不要で、今日から着手できます。
- 定例資料を1か月止めてみる……止めて誰も困らなければ廃止。困ったら「何が必要だったか」だけを残す
- 承認段階の閾値を上げる……過去1年で差し戻しゼロの承認段階は、判断していない段階
- 定例会議の頻度を半分にする……週次を隔週にして2か月試す。情報が滞れば戻せばよい
- 会議の参加者を絞る……「一応呼んでおく」をやめる。1時間の会議に8人なら8時間の費用
- 二重入力の経路を1本にする……同じ数字を打つ場所を洗い出し、転記側を自動化する
- 領収書・請求書の入力を自動化する……AI-OCRで読み取り、人は確認だけを行う
- 問い合わせの定型回答を用意する……社内から繰り返し来る質問を、回答テンプレートか社内FAQにまとめる
- ファイルの置き場所を1か所に決める……探す時間は記録されないが確実に発生している
- メールの下書きをAIに任せる……ゼロから書く時間を、直す時間に置き換える
- 議事録を録音から自動生成する……書記役の1名を会議から解放できる
- 月次を四半期に変える……毎月やる必然性のない集計・報告を見直す
- 紙の回覧をやめる……回覧は物理的な待ち時間が発生する。共有と承認を分けて考える
この12個の並び順には意味があります。1〜4は「やめる・減らす」、5〜12は「自動化する」です。順番どおりに、上から検討してください。バックオフィス全体での進め方はバックオフィスの効率化、部門を問わない一般的な打ち手は業務効率化のアイデアにまとめています。
AIで減らせるのは時間コスト
ここで、AIと経費削減の関係を正確にしておきます。AIで減らせるのは、原則として時間コストだけです。家賃も、材料費も、AIを入れたから安くなることはありません。
公的調査が示す中小企業の現在地
総務省「令和7年版 情報通信白書」は、日本・米国・ドイツ・中国の4か国を対象としたアンケート調査をもとに、企業における生成AI利用の現状を整理しています。
それによると、何らかの業務で生成AIを利用していると回答した割合は、日本で55.2%でした。一方で日本国内を企業規模別に見ると、中小企業では「方針を明確に定めていない」との回答が多く、約半数を占めています。同白書は、日本の中小企業では大企業と比較して生成AIの活用方針の決定が立ち遅れている状況が見て取れる、としています。
導入に際しての懸念事項では、日本は「効果的な活用方法がわからない」が最も多く、次いで「社内情報の漏えい等のセキュリティリスク」、そして「ランニングコストがかかる」「初期コストがかかる」が挙げられています。コストへの懸念が上位に来ている点は、経費削減の文脈でそのまま重要です。
そして活用推進による自社への影響については、日本では「業務効率化や人員不足の解消につながる」が最も多く挙げられています。他の3か国ではビジネスの拡大や新たな顧客獲得を多く挙げる傾向にあり、同白書は、4か国いずれも業務効率化やビジネス拡大等のポジティブな面を、セキュリティリスク拡大などネガティブな面よりも注目しているとまとめています。
(出典:総務省「令和7年版 情報通信白書」企業におけるAI利用の現状)
この調査から読み取れるのは、日本企業がAIに期待している方向が「業務効率化」と「人員不足の解消」、つまり本記事で言う時間コストの領域だということです。そして中小企業の約半数はまだ方針を決めていない。手をつけていない会社が多い領域だからこそ、削減余地が残っているとも読めます。
固定費削減と混同しない
経営会議で「AIを入れてコストを削減します」と言うと、聞いた側は固定費が下がると受け取ります。しかし実際に下がるのは時間コストであり、損益計算書の販管費の行がすぐに小さくなるわけではありません。
ここでボタンを掛け違えると、半年後に「言っていたほどコストが下がっていない」という評価になります。最初に伝えるべきは「販管費ではなく、業務時間を減らす取り組みです」という一言です。そのうえで、浮いた時間を何に使うか(残業削減か、増員の見送りか、他業務への配分か)を先に決めておいてください。
AI自体が固定費になる点に注意
忘れられがちですが、AIツールの月額料金は新しい固定費です。前掲の情報通信白書でも「ランニングコストがかかる」「初期コストがかかる」が懸念事項の上位に挙がっていました。この懸念は的外れではありません。
だからこそ、導入するときは次の2点を先に決めておいてください。
- やめる基準を先に決める……「3か月後に月◯時間削減できていなければ解約する」と書いておく
- アカウント数を絞って始める……全社一斉ではなく、いちばん困っている業務の担当者数名から
導入後にやめる判断をどう下すかはAI導入をやめる判断に整理しています。やめられる状態で始めることが、結果的にいちばん安く済みます。
経費精算をAIで軽くする方法
時間コスト削減の入口として、経費精算は非常に相性が良い領域です。件数が多く、手順が決まっており、判断の余地が小さいためです。「経費精算 AI」で検索される方が多いのも、ここに手応えを感じている方が多いからでしょう。
領収書の入力を自動で読み取る
経費精算でいちばん時間を食うのは、申請者による入力です。日付、金額、支払先、勘定科目、目的。これを1件ずつ手で打っています。1件3分としても、月200件なら10時間です。
ここはAI-OCRの得意分野です。領収書をスマートフォンで撮影し、日付・金額・支払先を自動で読み取らせ、人は確認と修正だけを行う。この形にすると、1件あたりの入力時間は大きく短縮できます。
ただし注意点があります。読み取り精度は100%にはなりません。手書きの領収書、感熱紙の褪せたレシート、外国語の請求書。これらは読み違えます。したがって「確認をやめる」のではなく「入力をやめて確認に集中する」という設計にしてください。詳しくはAI-OCRで書類入力を自動化する方法で扱っています。
電子帳簿保存法との関係
経費精算の電子化を検討すると、必ず電子帳簿保存法の話が出てきます。国税庁は電子帳簿等保存制度特設サイトで、電子帳簿保存法を「税務関係帳簿書類のデータ保存を可能とする法律」と説明し、同法に基づく各種制度を利用することで経理のデジタル化が図れるとしています。
あわせて同サイトは、取引に関する書類に通常記載される情報(取引情報)を含む電子データをやり取りした場合について、当該データに関する保存義務や保存方法等も同法により定められているため、所得税法・法人税法上の保存義務者となる方は特に「電子取引」について確認するよう案内しています。
(出典:国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」)
実務上のポイントは、「AIで読み取ること」と「法令に沿って保存すること」は別の話だという点です。読み取り精度が高いツールでも、保存要件を満たしているかは別途確認が必要です。要件の詳細や自社の該当関係は、国税庁の特設サイトと顧問税理士に必ず確認してください。本記事ではこれ以上踏み込みません。
差し戻しを減らす仕組み
経費精算で見落とされがちな時間コストが差し戻しです。経理が申請内容を確認し、不備を見つけ、申請者に戻し、申請者が直し、また経理が確認する。1件の差し戻しで、2人分の時間が3往復します。
差し戻しを減らす打ち手は、AI以前の設計の話です。
- 差し戻し理由を3か月分数える……「領収書の添付漏れ」「勘定科目の誤り」「上長承認の欠落」など、理由別に件数を数える
- 上位2つの理由だけ潰す……全部を潰そうとせず、件数の多い2つに絞る
- 入力時点でチェックする……提出後に気づくのではなく、提出時に必須項目を止める
そのうえで、AIには「申請内容と領収書の突合」や「過去の類似申請からの科目提案」を任せます。判断が必要な部分は人が持ち、突合と提案は道具に任せる。この線引きが実務では効きます。
経費精算AIで失敗する使い方
逆に、うまくいかない使い方も挙げておきます。
- 全社一斉に切り替える……慣れない操作で問い合わせが殺到し、経理が対応に追われて逆に時間が増える。1部署から始める
- 紙の運用を残したまま並走させる……二重運用は最悪の状態。移行期間を区切り、期日で切り替える
- 確認工程をゼロにする……読み取り誤りが後工程で発覚すると、修正のコストが跳ね上がる
- 導入前の時間を測らずに始める……効果を説明できなくなる。これが最も多い失敗
削減事例の読み方|3つの注意点
「コスト削減 事例」で検索して、他社の成功事例を集めている方も多いと思います。事例から学ぶこと自体は有効ですが、そのまま自社に持ち込むと失敗します。読むときの注意点を3つ挙げます。
注意点1:前提条件を確認する。「経費を年間◯百万円削減」という数字は、元の規模が分からないと意味を持ちません。従業員500人の会社の削減額と、20人の会社の削減額は、同じ金額でも全く違う意味です。従業員数、業種、削減前の状態が書かれていない事例は、参考程度にとどめてください。
注意点2:削減の内訳を見る。同じ「経費削減」でも、固定費を切ったのか、時間コストを減らしたのか、人を減らしたのかで再現性が全く違います。人員削減で達成した削減額を、自社の業務改善の目標に据えると、達成不可能な目標を追うことになります。
注意点3:その後を見る。削減した翌年に何が起きたかまで書かれている事例は多くありません。しかし実務で知りたいのはそこです。品質は保てたか、離職は増えなかったか、削減は続いたか。書かれていない場合は「1年目の話」として読んでください。
なお本記事では、実在の企業事例は掲載していません。検証できない数字を並べるより、自社で今日から数えられる項目をお伝えするほうが役に立つと考えているためです。次章のモデルケースも、実在の企業ではなく当社が想定する典型的な状況にもとづく試算として提示します。
モデルケース|月24時間を取り戻す
時間コストの規模を実感していただくために、試算を示します。
以下の数値は実在の企業ではなく、当社が想定する典型的な状況にもとづく試算です。実際の削減幅は、業務量・体制・現在のやり方によって変わります。自社の数字に置き換えてご覧ください。
前提:従業員20名の会社/人件費単価時給2,500円/月20営業日
| 業務 | 現在(月) | 見直し後(月) | 差 | 主な手段 |
|---|---|---|---|---|
| 経費精算の申請入力(従業員20名分) | 6.7時間 | 2.7時間 | △4.0時間 | 自動化(領収書の読み取り) |
| 経理側の突合・確認 | 15.0時間 | 9.0時間 | △6.0時間 | 自動化(突合の補助) |
| 差し戻しのやりとり | 5.0時間 | 2.0時間 | △3.0時間 | 減らす(入力時チェック) |
| 月次報告資料の作成 | 8.0時間 | 3.0時間 | △5.0時間 | やめる+自動化 |
| 受注データの二重入力・転記 | 12.0時間 | 6.0時間 | △6.0時間 | 自動化(転記の廃止) |
| 合計 | 46.7時間 | 22.7時間 | △24.0時間 | — |
月24時間の削減です。前提の時給2,500円で金額に換算すると月60,000円、年間720,000円にあたります。
ここで、あえて申し上げておきたいことが2つあります。
1つめ。この金額換算は、規模を実感するための目安であって、そのまま利益になる数字ではありません。浮いた24時間で誰かの給与が減るわけではないからです。浮いた時間を残業削減に充てれば残業代が減り、増員の見送りに充てれば採用費が発生せず、営業活動に充てれば売上の機会が増えます。どこに充てるかを先に決めていないと、24時間は自然に別の作業で埋まります。
2つめ。ここで投資回収の計算はしません。当社の支援は初期費用0円・月額5万円ですが、「月6万円浮くから月5万円の支援で元が取れる」という計算の立て方は、実務でおすすめしていません。削減時間は状況によって上下しますし、その計算に合わせて数字を作りたくなる力学が働くからです。見るべきは金額ではなく、3か月後に業務時間が実際に減っているかという一点です。
効果の測り方|先に記録する
経費削減の取り組みで最も多い失敗は、効果を説明できないことです。現場は「楽になった」と言い、経営は「本当に減ったのか」と問い、答えが出ない。原因はひとつで、導入前の数字を取っていないことです。
記録するのは3項目だけ
手をつける前に、1週間だけ記録してください。項目は3つで足ります。
- 件数……その週に何件処理したか(経費精算なら申請件数)
- 1件あたりの所要時間……開始と終了の時刻を書くだけ。分単位で構わない
- 手戻り件数……差し戻し・やり直し・修正の件数
これだけです。専用のツールは要りません。紙1枚とボールペンで十分です。ここで凝ったフォーマットを作ると、記録すること自体が新しい時間コストになります。
そして導入から1か月後、3か月後に同じ3項目を取ります。3時点が並べば、「件数は増えたのに総時間は減り、手戻りは増えていない」という形で説明できます。この3項目の意味は生産性の指標で詳しく解説しています。
記録を人事評価に使わない
記録を始める前に、必ず全員に伝えてください。「この記録は評価には一切使いません」と。
この一言がないと、記録された時間は必ず短めに書かれます。「自分は遅い」と思われたくないからです。そして短めに書かれた導入前の数字と比較するので、導入後の削減効果が小さく見えます。測定の目的は、人ではなく業務の状態を知ることです。ここを曖昧にしたまま始めた測定は、まず信用できる数字になりません。
出なかったときの扱い方
3か月後、時間が減っていなかった。この結果も十分に価値があります。正直に「減らなかった」と記録し、なぜ減らなかったかの仮説を1行添えてください。
たとえば「入力時間は減ったが、読み取り結果の確認に時間がかかり、合計では変わらなかった」なら、次に手をつけるのは確認工程です。「業務時間の大半は入力ではなく、書類を探す時間だった」なら、対象を選び間違えていたということです。
やってはいけないのは、指標をすり替えることと、比較する週を有利なほうに差し替えることです。それをやると、次にどこへ手をつけるべきかが分からなくなります。
経費削減の失敗パターン6つ
削減はやりすぎると逆効果になります。実務でよく見る失敗の型を挙げます。
品質が落ちて後で高くつく
検査工程を減らす、検収を簡略化する、外注先を単価だけで切り替える。短期的には費用が下がりますが、不良やクレームが増えると、対応工数・再作業・信用の毀損という形で、削減額を上回る費用が後から来ます。
削減案を出したら、必ず「これで品質が落ちる可能性はどこか」を1行書く習慣をつけてください。書けない削減案は、まだ検討が浅いということです。
士気が下がって人が抜ける
備品を安いものに変える、お茶を止める、細かい経費の申請を厳しくする。1件あたりの削減額は小さいのに、従業員が受け取るメッセージは「この会社は余裕がない」です。
金額の小さい削減ほど、削減額に対して士気への影響が大きくなります。少額の削減を数多く積み上げる方針は、コストパフォーマンスが悪いと考えてください。それより固定費を1つ大きく見直すほうが、金額も大きく、現場への影響も小さく済みます。
一律カットで現場が壊れる
「全部門一律10%削減」は、公平に見えて実は不公平です。すでに絞りきっている部門はこれ以上削れず、余裕のある部門はまだ削れる。結果として、真面目にやってきた部門ほど苦しくなります。
一律カットは、どこに余地があるか分からないときの逃げ道です。逃げる前に、時間コストを数えてください。数えれば、余地のある場所は具体的に見えます。
削減額の計算が甘い
「これで月10万円削減」と報告したが、実は代替手段に月3万円かかっていた。移行作業に20時間かかっていた。この2つを引くと、実際の削減はずっと小さくなります。
削減額を出すときは、代替コストと移行コストを必ず引いてください。引いた後の数字が小さくても構いません。小さいと分かっていれば、次はもっと効く場所を選べます。
削減が目的になって続かない
「今期は経費削減月間」といった取り組みは、期間が終わると元に戻ります。理由は、削減がイベントになっているからです。
続けるためには、仕組みに組み込む必要があります。「毎年4月にサブスクの棚卸しをする」「新しいツールを契約するときは、やめる基準を同時に書く」。誰かの気合いではなく、カレンダーとルールに乗せてください。
決裁を厳しくして時間が増える
これは意外に多い失敗です。無駄遣いを防ぐために承認段階を増やした結果、承認にかかる時間コストが、防いだ無駄遣いの額を上回る。
3万円の申請に、3人が各10分かけて承認しているなら、時給2,500円換算で1,250円の費用がかかっています。申請1件あたりの承認コストを一度計算してみてください。金額の閾値を上げる根拠になります。
90日で進める経費削減の手順
ここまでの内容を、実行順に並べます。90日を3つに区切ります。
1〜30日|数える
- クレジットカード明細を12か月分印刷し、毎月の引き落としを全部書き出す
- いちばん時間がかかっていると感じる業務を1つ選び、1週間だけ「件数・1件あたり時間・手戻り件数」を記録する
- 過去1年の申請で、実際に差し戻された件数を承認段階ごとに数える
- 定例で作成している資料を全部リストアップする
この30日間は、何も削りません。数えるだけです。ここを飛ばすと、後で効果を説明できなくなります。
31〜60日|やめる・減らす
- 説明できないサブスクを解約する(3件以上を目標にする)
- 定例資料を1つ選び、1か月配布を止める
- 承認の金額閾値を上げる(差し戻しゼロだった段階を外す)
- 会議の頻度か参加者のどちらかを減らす
この期間で、費用も時間もかけずに減らせる分を先に取り切ります。自動化はまだ考えません。
61〜90日|自動化して測る
- 残った業務のうち、件数が多く手順が決まっているものを1つ選ぶ
- 1部署・数名から試す(全社一斉にしない)
- 「3か月後に月◯時間減らなければやめる」を先に書いておく
- 1〜30日で取った3項目を、同じ方法でもう一度取る
この順番の要点は、自動化を最後に置いていることです。31〜60日で仕事の総量を減らしてから自動化すると、自動化する対象そのものが小さくなり、導入も検証も軽くなります。
補助金は「使えたら」で考える
設備やシステムの導入を検討すると、補助金の話が出てきます。中小企業庁・中小企業基盤整備機構が実施している「中小企業省力化投資補助金」は、公式サイトで中小企業等の売上拡大や生産性向上を後押しするために、人手不足に悩む中小企業等に対して省力化投資を支援し、付加価値額や生産性向上を図り賃上げにつなげることを目的とすると説明されています。
同補助金は「カタログ注文型」と「一般型」の2類型で申請でき、カタログ注文型はカタログに掲載された省力化効果のある汎用製品が対象、一般型は個別現場の設備や事業内容に合わせた設備導入・システム構築が対象とされています。公式サイトでは補助上限として、カタログ注文型が最大1,500万円、一般型が最大1億円と示されています(2026年8月時点。要件・上限は類型や公募回によって異なります)。また申請にはGビズIDプライムアカウントの取得が必要で、取得には一定の期間を要するとの案内が出ています。
(出典:中小企業省力化投資補助金 公式サイト)
そのうえで、当社の立場を明確にしておきます。補助金は「使えたらありがたい」で考えてください。補助金ありきで計画を立てると、次の3つが起きがちです。
- 採択されるかどうかが分かるまで、着手が数か月止まる
- 補助対象に合わせて、必要のない機能まで買ってしまう
- 不採択だった場合に、取り組み自体が消える
本記事で挙げた「やめる・減らす」の打ち手は、ほぼ費用がかかりません。補助金の結果を待たずに動ける部分から動いてください。AI導入と補助金の関係はAI導入で使える補助金にまとめています。公募回や要件は変わりますので、申請を検討される場合は必ず公式サイトで最新情報をご確認ください。
よくある質問|経費削減とAI
Q. 経費削減は何から始めるべきですか
A. 数えることから始めてください。具体的には、クレジットカード明細の12か月分を印刷して毎月の引き落としを書き出すことと、いちばん時間がかかっている業務を1つ選んで1週間だけ所要時間を記録することの2つです。どちらも今日始められて、費用がかかりません。削減案を考えるのは、この2つが終わってからで十分間に合います。
Q. 固定費はもう削り尽くしたと思うのですが
A. 固定費を削り尽くしている会社でも、時間コストはほぼ手つかずです。時間コストは請求書が来ないため、削減の対象として認識されていないからです。誰も見ていない資料・二重入力・形式的な承認の3つを確認してみてください。この3つのどれも該当しない会社は、実務ではほとんど見かけません。
Q. 人件費を削らずに大きな削減はできますか
A. 「大きな」の定義によります。人件費削減ほど一度に大きな額は動きませんが、時間コストの削減は毎月継続して効き、しかも品質と士気を落としません。そして重要なのは、時間コストを削減しないまま人を減らすと、仕事の総量が変わらないので残った人に負荷が寄り、削減額が残業代や離職で相殺されることです。順番として、時間コストが先です。
Q. AIを入れれば経費は下がりますか
A. 下がるのは主に時間コストです。家賃や材料費はAIでは下がりません。加えて、AIツールの月額料金は新しい固定費として増えます。総務省「令和7年版 情報通信白書」でも、生成AI導入時の懸念事項として「ランニングコストがかかる」「初期コストがかかる」が上位に挙がっています。「業務時間を減らす取り組みであって、販管費がすぐ下がる話ではない」と、社内には最初に伝えておいてください。
Q. 経費精算のAIはどこまで自動化できますか
A. 領収書の読み取り、申請内容と領収書の突合、過去の類似申請からの勘定科目の提案までは実用的です。一方で、読み取り精度は100%にはならず、確認工程は残ります。手書きの領収書や褪せた感熱紙のレシートは読み違えます。「確認をやめる」のではなく「入力をやめて確認に集中する」という設計にすると、無理なく効果が出ます。
Q. 電子帳簿保存法への対応はどうすればいいですか
A. 国税庁が電子帳簿等保存制度特設サイトを設けており、制度の概要・法令・通達・Q&Aがまとまっています。同サイトは、取引情報を含む電子データをやり取りした場合の保存義務や保存方法も同法で定められているため、所得税法・法人税法上の保存義務者は特に「電子取引」を確認するよう案内しています。自社の該当関係と具体的な要件は、国税庁のサイトと顧問税理士に必ずご確認ください。AIツールが読み取れることと、保存要件を満たすことは別の話です。
Q. 少額の経費を細かく締めるのは有効ですか
A. あまり勧めません。削減額に対して士気への影響が大きすぎるからです。備品を安いものに変える、細かい申請を厳しくする、といった打ち手は、金額が小さいわりに「この会社は余裕がない」というメッセージだけが強く伝わります。同じ労力をかけるなら、固定費を1つ大きく見直すか、時間コストを数えるほうが効きます。
Q. 承認を厳しくすれば無駄遣いは減りますか
A. 減る場合もありますが、承認そのものの時間コストを計算してから決めてください。3万円の申請に3人が各10分かけているなら、時給2,500円換算で1件あたり1,250円の費用がかかっています。過去1年で実際に差し戻された件数を数えて、ゼロに近い承認段階があれば、その段階は判断していません。金額の閾値を上げるほうが合理的です。
Q. 他社のコスト削減事例は参考になりますか
A. 前提条件を確認できるなら参考になります。確認すべきは従業員数・業種・削減の内訳・削減前の状態の4つです。とくに内訳が重要で、人員削減で達成した削減額を業務改善の目標に据えると、達成不可能な目標を追うことになります。また、削減の翌年に何が起きたかまで書かれている事例は少ないので、書かれていなければ「1年目の話」として読んでください。
Q. 効果があったかどうか、どう説明すればいいですか
A. 導入前・1か月後・3か月後の3時点で、件数・1件あたり所要時間・手戻り件数の3項目を並べてください。この3つがそろっていれば、「件数は増えたのに総時間は減り、手戻りは増えていない」という形で説明できます。逆にこの3つがないと、どれだけ言葉を尽くしても「感覚」の域を出ません。そして最も重要なのは、導入前の1週間を飛ばさないことです。ここは後から取り返せません。
Q. 効果が出なかった場合はどうすればいいですか
A. 出なかったと正直に記録し、なぜ出なかったかの仮説を1行添えてください。「入力時間は減ったが確認に時間がかかった」なら次は確認工程が対象ですし、「大半は書類を探す時間だった」なら対象の選び方が違っていたということです。指標をすり替えたり、比較する週を有利なほうに差し替えたりすると、次にどこへ手をつけるべきかが分からなくなります。やめる判断の考え方はAI導入をやめる判断にまとめています。
Q. 浮いた時間はどう扱えばいいですか
A. 使い道を、測定を始める前に決めておいてください。残業を減らす、増員を見送る、営業活動に回す、教育に充てる。どれでも構いませんが、決めていないと空いた時間は自然に別の作業で埋まり、「結局忙しいまま」という結論になります。金額換算はあくまで規模を実感するための目安として使い、そのまま利益として計上しないでください。
Q. 小さな会社でも取り組めますか
A. 取り組めます。むしろ意思決定が速い分、有利な面があります。総務省「令和7年版 情報通信白書」によると、日本の中小企業では生成AIの活用方針を明確に定めていない企業が約半数を占めており、大企業と比較して活用方針の決定が立ち遅れている状況が見て取れる、とされています。裏を返せば、手つかずの削減余地が残っているということです。まずは1業務・1週間の記録から始めてください。
Q. 削減の取り組みが毎回続きません
A. 削減がイベントになっているのが原因です。「今期は経費削減月間」のような取り組みは、期間が終われば元に戻ります。仕組みに載せてください。「毎年4月にサブスクを棚卸しする」「新しいツールを契約するときは、やめる基準を同時に書く」といった形で、カレンダーとルールに組み込みます。誰かの気合いに依存する削減は続きません。
まとめ|削る順番を間違えない
本記事の要点を整理します。
- 順番は「やめる・減らす・自動化する」。人件費は最後に回す。
- 経費は固定費・変動費・時間コストの3つに分ける。混ぜたまま考えると途中で止まる。
- 時間コストは請求書が来ないので見落とされる。しかし社内で完結し、今日から着手できる。
- 時間コストの正体は3つ。誰も見ていない資料、二重入力、形式だけの承認。
- AIで減らせるのは主に時間コスト。固定費削減とは別の話であり、AI自体が新しい固定費になる。
- 経費精算は入力ではなく確認に人を配置する。差し戻し理由を3か月数え、上位2つだけ潰す。
- 削減しすぎると品質と士気が落ちる。金額の小さい削減ほど、割に合わない。
- 効果は導入前の1週間で決まる。件数・1件あたり時間・手戻り件数の3項目を先に取る。
- 記録は評価に使わないと先に明言する。言わないと数字が信用できなくなる。
- 補助金は「使えたら」で考える。結果を待たずに動ける部分から動く。
経費削減がうまくいかない会社は、努力が足りないのではありません。見えている費用(固定費・変動費)だけを見て、見えていない費用(時間コスト)を数えていないだけです。損益計算書に載っていない場所に、まだ手つかずの削減余地が残っています。
まずは1業務を選んで、1週間だけ時間を記録してみてください。その数字が出た時点で、次にどこへ手をつけるかは自然に決まります。バックオフィス全体の進め方はバックオフィスの効率化、部門を問わない打ち手は業務効率化のアイデア、測り方は生産性の指標、書類入力の自動化はAI-OCRで書類入力を自動化する方法、引き際の決め方はAI導入をやめる判断、費用の補助はAI導入で使える補助金をあわせてご覧ください。
Ai-Rakuでは、中小企業向けに1業務から始めるAI導入・業務効率化を支援しています。どの業務を対象にするか、何を記録するか、やめられる仕事とやめられない仕事をどう線引きするか、そして3か月後にどう振り返るかまで、御社の業務の流れに合わせて設計します。費用は初期費用0円・月額5万円です。
まずは、今いちばん時間がかかっている業務を1つ教えていただくところから始められます。


