飲食店のAI電話対応|予約の取りこぼしを減らす方法
業務効率化支援を行う「Ai-Raku(アイラク)」代表。国立大学でAIの研究を行い、ITコンサル・ウェブコンサルを経て独立。官公庁向けの業務効率化や上場企業の支援等を経て、中小企業の現場に定着するAI活用を企画から運用まで一気通貫で支援している。著書に『中小企業のAI定着の教科書 — 入れた後に、何をするか』(2026年)。

- 飲食店の電話問題は本数ではなく「鳴るタイミング」。ピークに集中する
- 全部をAIにしない。出られない時間帯だけAIに回すのが現実的
- いちばん効くのは受電ではなく「かけ直しをなくすこと」
- クレームと当日キャンセルは人が出る。この2つは転送設定を必ず作る
結論:時間帯を切って渡す
飲食店のAI電話対応で失敗する店には、共通点があります。全部の電話をAIに回そうとしていることです。
うまくいっている店の設定はこうです。
- 11:30〜13:30、18:00〜20:30(ピーク帯)はAIが受ける
- それ以外の時間は、これまでどおり人が出る
- AIが受けた内容のうち、予約と席の空き確認だけはAIが完結させる
- クレーム、当日のキャンセル、団体の相談は店の携帯に転送する
この形なら、AIが担当するのは1日4時間ぶんだけです。設定する項目が減り、確認する内容も減り、事故が起きにくくなります。
逆に24時間すべてをAIに任せると、想定していない質問への対応まで設計する必要が出て、準備が終わらなくなります。
営業中の電話が現場を止める
電話の本数自体は、1日10本や20本かもしれません。問題は本数ではなく、鳴る時間帯です。
ランチのピークにホールが1人しかいない状態で電話が鳴ると、こうなります。
- 配膳の手を止めて電話に出る
- 予約の希望日を聞き、台帳を見に行く
- その間、料理が上がったまま止まる
- 電話を切ってから、止まっていた作業に戻る
通話が2分でも、元の作業に戻るまでを含めると5分近く止まります。これが1回のピークで3回起きると、15分です。
人が増えない構造
厚生労働省の令和6年 雇用動向調査結果の概況を見ると、「宿泊業,飲食サービス業」の数字は次のとおりです。
| 区分 | 入職率 | 離職率 |
|---|---|---|
| 一般労働者 | 21.2%(産業別で最も高い) | 18.1% |
| パートタイム労働者 | 33.3%(最も高い) | 29.9%(最も高い) |
1年間の離職者数は1,070.8千人です。入職率も離職率も産業別で最も高い水準にあり、人は入ってくるが、同じくらい出ていくという状態が数字に出ています。
この前提で「電話番を1人置く」という解決策は取りにくい。だから電話の受け方そのものを変える、という話になります。
本当の損失は「出られなかった電話」
出た電話の時間より、出られなかった電話のほうが損失が大きいケースがあります。
予約の電話をかけて出なかったとき、客は次の店にかけます。折り返しを待つ人は多くありません。この失注は記録にも残らないため、店側は気づきません。
まず自店の不在着信を1週間数えてください。それが、この取り組みで取り返せる可能性のある数です。
AI電話でできること・できないこと
| できること | できないこと |
|---|---|
| 予約を受ける(日時・人数・名前・連絡先) | 席のレイアウトを見て「この組み合わせなら入る」と判断する |
| 営業時間・定休日・場所を答える | その日の仕入れ状況で提供可否を答える |
| 今日の空席状況を答える(台帳と連携している場合) | 常連客だと気づいて対応を変える |
| 用件を聞いて要約を店に通知する | 怒っている相手をなだめる |
| 受けた内容を全部テキストで残す | あいまいな依頼の意図をくみ取る |
特に注意すべきは、いちばん上の「できないこと」です。4名の予約が入るかどうかは、席のレイアウトと当日の入り方で変わります。ここをAIに判断させると、入らない予約を取ってしまいます。
対策は単純で、AIが受けられる人数の上限を決めておくことです。「4名まではAIが確定してよい。5名以上は用件だけ聞いて折り返し」と設定します。
予約と問い合わせの振り分け方
電話の中身を3つに分けて、それぞれの扱いを決めます。ここが設計の中心です。
| 種類 | 扱い | 理由 |
|---|---|---|
| 予約(4名まで・翌日以降) | AIが確定する | 聞く項目が決まっている。判断が要らない |
| 予約(5名以上・当日・貸切) | 用件を聞いて折り返し | 席の判断が要る |
| 営業時間・場所・駐車場 | AIが答える | 答えが固定されている |
| 当日のキャンセル・遅れる連絡 | 店の携帯へ転送 | その場で席の扱いを変える必要がある |
| クレーム | 店の携帯へ転送 | 初動が遅れると大きくなる |
| 営業電話 | AIが受けて通知だけ残す | 折り返す必要がない |
転送の条件を言葉で決める
「クレームなら転送」という設定は、そのままでは動きません。どういう言葉が出たら転送するかを具体的に列挙します。
- 今日/これから/今から(=当日の用件)
- キャンセル/遅れる/間に合わない
- 髪の毛/異物/体調/お腹(=食品に関する申し出)
- 責任者/店長を出して
- 返金/お金
食品に関する申し出は、必ず人が出てください。ここを機械で受けると、初動の記録が不十分になり、あとの対応が難しくなります。
導入手順と設定の勘所
手順1:1週間、電話の中身を記録する
紙に「時刻/用件/所要時間/出られたか」を書くだけです。これをやらずに製品を選ぶと、必要のない機能に費用を払うことになります。
この1週間で分かるのは、次の3つです。
- 電話が集中する時間帯(AIに渡す時間の決定に使う)
- 用件の内訳(振り分けルールの設計に使う)
- 不在着信の数(取り返せる可能性のある数)
手順2:AIに渡す時間帯を決める
記録を見て、いちばん出られていない2時間から始めます。最初から全時間帯にしないでください。
手順3:応答の言い回しを作る
最初の一言が印象を決めます。人のふりをさせないでください。
【最初の応答の例】 お電話ありがとうございます。〇〇でございます。 ただいま混み合っておりますため、自動音声で承ります。 ご予約は、ご希望の日時と人数をお話しください。 当日のご連絡やお急ぎのご用件は、そのまま 「店長」とおっしゃってください。担当者におつなぎします。
「自動音声で承ります」と先に言うことが大事です。人だと思って話していた相手が途中で機械だと気づくと、そこで不快になります。最初に伝えれば、多くの客は普通に用件を話します。
手順4:通話の録音と利用目的を告知する
AI電話は通話内容を録音・文字化して処理します。録音していることと、その目的を、通話の冒頭で伝えてください。
予約時に取得する氏名と電話番号は個人情報です。何に使うのか(予約の管理と当日の連絡)を、店頭の掲示やウェブサイトのプライバシーポリシーにも書いておきます。
手順5:2週間ごとに文字起こしを読む
AIが受けた通話は、全部テキストで残ります。2週間に1回、全部読んでください。読むと、想定していなかった質問が必ず見つかります。
見つかった質問を、答えの一覧に足します。これを2〜3回繰り返すと、答えられない電話がほとんどなくなります。
予約台帳との連携をどうするか
ここで多くの店が迷います。結論から書くと、最初は連携させないほうが早いです。
連携しない場合の運用
- AIが予約を受け、内容をチャットやメールで店に通知する
- 手が空いたときに、店の人が予約台帳へ転記する
- 転記は1件30秒程度
二重管理に見えますが、「ピーク中に手を止めない」という目的は達成できています。転記はピークが終わってからまとめてやればよいためです。
連携する場合の注意
予約台帳と連携させると転記はなくなりますが、ダブルブッキングの危険が出ます。グルメサイト経由の予約、店頭での予約、電話予約が同じ枠を取り合うためです。
連携を検討するのは、次の条件がそろってからにしてください。
- 予約の入口が予約台帳に一本化されている
- AIが受けられる人数の上限を決めてある
- 連携が止まったときに気づく手順がある
費用と体制のモデルケース
30席の個人店を想定したモデルケース(試算)です。実測値ではなく、下の前提を置いた場合の計算です。
- 客席30席、ホール2名・キッチン2名
- 1日の着信15本。うちピーク帯が9本
- ピーク帯の不在着信が1日3本
- AIに渡すのは11:30〜13:30と18:00〜20:30の4.5時間
- 予約台帳との連携はせず、通知を見て転記する
| 項目 | 導入前 | 導入後(試算) |
|---|---|---|
| ピーク帯の電話対応(1日) | 6本×5分=30分 | 0分 |
| 通知の確認と台帳への転記(1日) | 0分 | 6件×30秒=3分 |
| ピーク帯の不在着信(1日) | 3本 | 0本 |
| ピーク帯に手を止める時間 | 30分 | 3分 |
1日27分、月25日営業で約11時間です。ただし、この試算のいちばんの価値は時間ではありません。不在着信3本のうち何本が予約だったかで、売上への影響が決まります。
ここは推定で書きません。1週間の記録を取れば、自店の数字で計算できます。不在着信の数に、自店の客単価と平均人数を掛けてください。
費用の内訳
| 項目 | 費用 | 備考 |
|---|---|---|
| AI電話サービス | 月額制が中心 | 受電数や時間で段階が分かれることが多い。公開している会社と非公開の会社があるため、自店の着信数を伝えて相見積もりを取る |
| 電話番号の追加・転送設定 | 契約回線により異なる | 今の番号を残したまま切り替えられるか、契約先に先に確認する |
| 初期設定(応答内容・振り分け) | 自社工数 3〜5時間 | 1週間の記録があれば早い |
| 導入支援(Ai-Raku) | 初期費用0円・月額5万円〜 | 用件の分類設計、応答文の作成、運用の見直しまで |
金額の相場はこの記事では書きません。料金体系が公開されていない会社が多く、受電数によって段階が変わるためです。自店の着信数を1週間分の記録として渡して、同じ条件で複数社から見積もりを取るのが確実です。
AIに任せない電話の線引き
| 電話の種類 | 理由 |
|---|---|
| 食品に関する申し出(異物・体調) | 初動の記録が保健所への報告や保険の対応に直結する |
| クレーム全般 | 機械が受けると、それ自体が二次的な不満になる |
| 当日のキャンセル・人数変更 | その場で席を組み替える判断が要る |
| 貸切・大人数の相談 | レイアウト、料理、時間の調整が同時に発生する |
| 取引先・仕入れ先からの連絡 | 納品や欠品の話は当日の営業に影響する |
| アレルギーに関する問い合わせ | 誤った回答が健康被害につながる。厨房の確認が必要 |
特にアレルギーの問い合わせは、AIに答えさせないでください。メニューの原材料は仕入れ状況で変わることがあり、固定の答えを持たせると事故につながります。「アレルギー」という言葉が出たら、必ず人に転送する設定にします。
失敗する3つのパターン
1. 記録を取らずに製品を選ぶ
いちばん多い失敗です。着信数も、用件の内訳も、不在着信の数も分からないまま契約すると、そもそも効果があったのかを判定できません。
紙1枚で1週間。これを飛ばさないでください。
2. 人のふりをさせる
自然な音声にこだわって、機械であることを言わない設定にする店があります。途中で気づかれたときの不快感は、電話に出られなかったときより大きくなります。
最初に「自動音声で承ります」と言ってください。そのうえで、人につなぐ言葉(「店長」など)を必ず案内します。
3. 文字起こしを読まない
導入直後の設定のまま放置すると、答えられない電話が毎日発生し続けます。しかも店側は気づきません。AIは「答えられなかった」とは報告しないためです。
2週間に1回、全部読む。読む時間は15分程度です。ここを続けた店だけが定着します。
よくある質問
今の電話番号のまま使えますか
契約している回線と、選ぶサービスによります。番号が変わると、グルメサイトや看板の表記をすべて直すことになります。問い合わせの最初に「今の番号を残せるか」を必ず聞いてください。ここで条件が合わないサービスは、その時点で候補から外せます。
常連さんが不快に思いませんか
ピーク帯だけに限定すれば、常連客の多くはむしろ状況を理解します。導入前に、店内の掲示とSNSで先に伝えてください。「混雑時はご迷惑をおかけしていたため」という理由を添えると、受け止められ方が変わります。
外国語の予約にも対応できますか
対応するサービスもありますが、予約の確定まで任せるのは慎重に判断してください。日時と人数の聞き間違いが起きたとき、確認の手段が限られます。インバウンド対応の全体については飲食店の多言語・インバウンド接客をAIでで扱っています。
スマートフォンだけでも始められますか
店の携帯への転送設定と、通知を受け取るアプリがあれば始められます。パソコンは必須ではありません。ただし文字起こしを読む作業は画面が大きいほうが楽なので、2週間に1回の確認だけはパソコンかタブレットをおすすめします。
効果はどう測ればいいですか
測る数字は2つだけにしてください。ピーク帯の不在着信数と、AIが受けた予約のうち実際に来店した件数です。前者はゼロになっているはずで、後者が売上への貢献そのものです。通話時間の合計などは、判断に使えません。
電話をやめてネット予約だけにするのではだめですか
客層によります。ただ、電話をやめると年配の客と当日の来店客を失います。ネット予約への誘導とAI電話は、対立するものではありません。ネット予約を主にしつつ、残った電話をAIで受ける、という組み合わせが現実的です。
まとめ
飲食店のAI電話対応は、電話をなくす取り組みではありません。ピーク中に手を止めないための取り組みです。
- まず1週間、時刻・用件・所要時間・出られたかを紙に記録する
- AIに渡すのはいちばん出られていない2時間から。全時間帯にしない
- AIが確定してよいのは4名まで・翌日以降の予約に限る
- 当日・キャンセル・クレーム・アレルギーは必ず人に転送
- 最初に「自動音声で承ります」と伝える。人のふりをさせない
- 録音していることと利用目的を告知する
- 予約台帳との連携は後回し。まず通知を見て転記する運用で足りる
- 2週間に1回、文字起こしを全部読む。ここを続けた店だけが定着する
今日からできるのは、レジ横に紙を1枚置いて、電話が鳴るたびに時刻と用件を書くことです。1週間後、その紙が見積もりを取るための資料になります。
どの時間帯から切り出すか、応答内容の設計から含めてご一緒することもできます。お問い合わせからお気軽にご相談ください。初期費用0円・月額5万円から、業務の切り分けと定着まで伴走します。
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