文字起こしAI無料7選|精度を上げる3条件と限界
業務効率化支援を行う「Ai-Raku(アイラク)」代表。国立大学でAIの研究を行い、ITコンサル・ウェブコンサルを経て独立。官公庁向けの業務効率化や上場企業の支援等を経て、中小企業の現場に定着するAI活用を企画から運用まで一気通貫で支援している。著書に『中小企業のAI定着の教科書 — 入れた後に、何をするか』(2026年)。

- 完全無料で長い会議を起こせますか?
- 可能です。Microsoft 365契約者ならWordのトランスクリプトで月300分まで、NotebookLMなら1ファイル200MBまでの音声を無料枠で処理できます。ただしNottaの無料プランは連続録音3分の制限があるため、その場での長時間録音には向きません。スマートフォンで録音してからファイルを取り込む運用にしてください。
- 無料の文字起こしの精度はどれくらいですか?
- 具体的な精度の数値は、測定条件(音質・話者数・専門用語の量)によって大きく変わるため、一律の数字はお出しできません。実務では「静かな環境で1人ずつ話せば下書きとして十分、雑音や同時発話があると使いものにならない」という差の出方をします。精度はツールより録音条件で決まる、と考えてください。
- 無料版と有料版で精度は変わりますか?
- 同じサービス内では、認識エンジンが共通のことが多く、精度そのものより使える時間・辞書登録数・ダウンロード可否で差がつきます。たとえばNottaの単語登録は無料で3語、プレミアムで200語です。専門用語が多い業種ほど、この差が精度の体感につながります。
- 録音ファイルをそのまま起こせますか?
- ツールによります。Wordのトランスクリプトは.wav、.mp4、.m4a、.mp3に対応、NotebookLMはmp3やwavなど幅広い形式に対応しています。一方、Googleドキュメントの音声入力はリアルタイム入力専用で、録音ファイルの読み込みはできません。
- スマホだけで文字起こしできますか?
- できます。スマートフォンで録音し、ブラウザからNotebookLMにアップロードすれば、スマートフォン1台で完結します。ただし修正作業はパソコンのほうが圧倒的に速いため、確定作業はパソコンで行うことをおすすめします。
- 誰が話したかの区別はできますか?
- できるツールとできないツールがあります。Wordのトランスクリプトは話者ごとに区切って出力し、Teamsのライブトランスクリプトは発言者名とタイムスタンプが付きます。Nottaは無料プランでも話者識別に対応しています。精度を上げるには、発言前に名前を言う運用が効果的です。
- 文字起こしデータは保存できますか?
- サービスによって異なります。Nottaの公式プラン比較では、文字起こしデータのダウンロードはプレミアム以上の機能です。一方、WordとTeamsは無料枠(契約内)でも文書ファイルとして保存できます。記録の保管が必要な業務では、この点を最初に確認してください。
- 専門用語が毎回間違うときは?
- 2つの対策があります。1つは辞書登録ですが、無料プランは登録数が少ないため限界があります(Nottaは3語)。もう1つは文字起こし後の一括置換で、こちらは費用0円で確実です。誤変換のパターンを表に蓄積してください。ただし金額・日付・数量は一括置換せず、必ず人が音源で確認します。
- 議事録の要約まで無料でできますか?
- できます。NotebookLMは音声を取り込むと文字起こしがソースとして保存され、そのままチャットで要約や質問ができます。無料版はチャット50回/日の上限があります。本記事に掲載した議事録生成プロンプトをそのままお使いください。
- 商用利用しても問題ありませんか?
- 各サービスの利用規約の確認が必要です。WhisperはMITライセンスで公開されており、商用利用の判断がしやすい選択肢です。クラウドサービスの場合は、商用利用の可否に加えて入力データが学習に使われるかを必ず確認してください。
- 個人情報を含む会議に使えますか?
- 慎重な判断が必要です。個人情報保護委員会は、本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入力し、それが応答以外の目的で扱われる場合に法違反となる可能性を指摘し、事業者が機械学習に利用しないことの確認を求めています。学習不使用が確認できない無料枠には、個人情報を含む音声を入れないでください。ローカル処理のWhisperか、法人向けの有料契約を検討してください。
- 有料に切り替える目安はありますか?
- 「月の途中で枠を使い切る月が2か月続いた」「枠の管理に月30分以上使っている」「データをダウンロードできず不便」「個人情報を含む音声を扱う必要が出た」のうち2つ以上に当てはまったら切り替え時です。特に最後の1つは、量ではなくリスクの問題なので、単独でも移行の理由になります。
「文字起こしのAIを無料で使いたい。でも、どれが本当に無料で、どこから課金なのかが分からない」——これは中小企業の総務・事務・現場責任者の方から、最も多くいただく質問のひとつです。
検索して出てくるまとめ記事の多くは、無料枠の数値が古いままです。実際、多くの記事が今も「無料で使える定番」として紹介しているCLOVA Note(ベータ版)は、2025年7月31日でサービスを終了しています(CLOVA Note公式サイトの告知)。古い情報のまま検討を進めると、時間だけが溶けていきます。
本記事では、中小企業のAI導入を支援するAi-Rakuが、2026年8月時点で実際に公式ページを確認した無料枠の数値だけを使って、無料の文字起こしAIを7つ整理します。有料ツールも含めた網羅的な比較を探している方はAI議事録ツールのおすすめ比較を、議事録運用そのものの精度と漏えい対策は議事録AIの精度と情報漏洩をご覧ください。この記事は「無料でどこまでできるか」だけに徹底して絞ります。
- 無料で足りる範囲と、無料では届かない2つの場面
- 無料の文字起こしAI7つと、公式で確認した無料枠の実数値
- 精度を左右する3条件と、専門用語を正しく出す具体的な直し方
- 無料ツールだけで議事録を作る手順と、そのまま使えるプロンプト例
- 無料枠に会議音声を入れてよいかの判断基準(公的機関の注意喚起つき)
- 【モデルケース試算】15名の設計事務所が月19時間を削減するまで
結論|無料で足りる範囲がある
先に結論を書きます。中小企業の日常業務の文字起こしは、その多くが無料の範囲で回せます。ただし「全部が無料で済む」わけではありません。無料で足りるかどうかは、感覚ではなく3つの条件で機械的に判断できます。
総務省の令和7年版情報通信白書によると、日本の企業で「メールや議事録、資料作成等の補助」に生成AIを使用していると回答した割合は47.3%でした(総務省「令和7年版 情報通信白書」企業におけるAI利用の現状)。議事録や資料作成は、生成AIの入口として最も使われている領域です。だからこそ、いきなり有料契約から入る必要はありません。
無料で足りる3つの条件
次の3つをすべて満たすなら、無料の文字起こしAIで実用に足ります。逆に、1つでも外れると無料版では苦しくなります。
- 1回の音声が60分以内で、月の合計が数時間に収まる
- 録音環境をこちらで整えられる(静かな会議室、1人ずつ話す進行ができる)
- 出てきたテキストを人が読んで直す前提で運用できる
3つ目が特に重要です。無料・有料を問わず、文字起こしAIの出力をそのまま配布できる状態にはなりません。「AIが8割まで作り、人が2割を直す」という前提を置けるかどうかが、無料で足りるかどうかの実質的な分かれ目になります。
無料で足りない2つの場面
反対に、次の2つの場面では無料版に固執しないほうが早いです。
1つ目は、月に10時間を超える音声を扱う場合です。後述するとおり、無料枠の上限は「月120分」「月300分」といった水準に設定されています。月10時間(600分)を超えると、複数の無料ツールを併用してもすぐに枠を使い切ります。枠の管理に人の時間を使うくらいなら、月1,000円台の有料プランのほうが安く済みます。
2つ目は、個人情報や取引先の機微な情報を含む音声です。無料枠は、入力内容がサービス改善やモデルの学習に使われる設計になっているものがあります。この点は「無料で使うときの漏洩対策」の章で、公的機関の注意喚起とあわせて詳しく扱います。
まず試す順番はこの3つ
「結局どれから触ればいいのか」という問いには、次の順番で答えています。すでに社内にあるものから使うのが、最も速く、最も安全だからです。
- Microsoft 365を契約しているなら、WordとTeamsの文字起こしから。追加費用は0円で、社内のセキュリティ設定の範囲内で使えます
- Googleアカウントがあるなら、NotebookLMに音声ファイルを入れる。文字起こしと要約が一度に終わります
- 上の2つが使えないなら、Nottaの無料プランでまず1回試す。使用感を確かめるには十分です
この順番を守るだけで、「ツール選定に2週間かける」という中小企業でよくある停滞を避けられます。
無料の文字起こしAI7選
ここからが本題です。以下の無料枠の数値は、すべて2026年8月時点で公式ページを実際に開いて確認したものです。記憶や他サイトの引き写しではありません。仕様は変わるため、導入判断の前には各公式ページをご自身でも確認してください。
7つを1枚の表で比較
| ツール | 無料でできること | 無料枠の上限(公式確認値) | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| ①Googleドキュメント 音声入力 | マイクからのリアルタイム入力 | 時間制限なし。ただし録音ファイルの読み込みは不可 | 1人での口述、メモの下書き |
| ②Notta フリープラン | 録音・ファイル取込・話者識別・AI要約 | 文字起こし120分/月、連続録音3分、取込50個/月、AI要約10回/月、単語登録3語 | 短い打合せ、試用 |
| ③Microsoft Word トランスクリプト | 音声ファイルを話者ごとに分けて文字起こし | Microsoft 365契約者はアップロード音声を月300分まで | 録音済みファイルの処理 |
| ④Microsoft Teams ライブトランスクリプト | 会議中の自動文字起こし、終了後にダウンロード | Microsoft 365 Business Basic以上のライセンスで利用可 | オンライン会議の議事録 |
| ⑤NotebookLM | 音声ファイルを取り込み文字起こし+要約・質問 | 1ファイル200MB、1ソース50万語、無料は50ソース/ノートブック、チャット50回/日 | 要約まで一気に作りたいとき |
| ⑥Whisper(オープンソース) | 自分のPC上で完全ローカル処理 | MITライセンスで無料。上限なし(PC性能に依存) | 外部に出せない音声 |
| ⑦YouTube 自動字幕 | 限定公開でアップし自動字幕を取得 | 無料。日本語対応。長尺・雑音では生成されないことがある | 長時間のセミナー音声 |
表を見て気づくのは、「無料」と一口に言っても中身が3種類に分かれるということです。完全に無料のもの(①⑥⑦)、無料枠つきのもの(②⑤)、すでに払っている契約の中で追加費用0円のもの(③④)。自社がどれに当てはまるかで、選ぶべきツールは変わります。
①〜③ブラウザで完結する3つ
①Googleドキュメントの音声入力は、最も手軽な選択肢です。Googleドキュメントを開き、「ツール」から音声入力を選ぶだけで、話した内容がその場でテキストになります。対応ブラウザはChrome、Edge、Safariの最新版で、パソコンのマイクが正常に動作している必要があります(Googleドキュメント ヘルプ「音声で入力する」)。
注意点が1つあります。「句読点」「改行」などの音声コマンドは英語でのみ利用でき、アカウントの言語とドキュメントの言語の両方を英語にする必要があります(同ヘルプ)。日本語では読点が入らない、べた書きのテキストが出てきます。また、録音済みの音声ファイルを読み込む機能はありません。あくまで「今、目の前で話す」用途に限られます。
②Nottaのフリープランは、日本語の文字起こしサービスとして最も名前を見かけるものの1つです。公式の料金ページで確認できる無料枠は、文字起こし時間120分/月、1回につき3分まで、ファイルインポート50個/月、AI要約10回/月、1アカウントのみです(Notta公式 料金プラン)。
ここで見落としがちなのが「連続録音3分」という制限です。月120分あっても、1回3分ずつしか録音できません。60分の会議をその場で録音する用途には使えず、実質的には「録音済みファイルを取り込む」か「3分の短いメモ」に使い道が限られます。さらに、公式のプラン比較表を見ると文字起こしデータのダウンロードはプレミアム以上の機能で、単語登録(辞書)は無料プランで3語までです。この2点は後の章で効いてきます。
③Microsoft Wordのトランスクリプトは、Microsoft 365を契約している企業にとって、追加費用なしで始められる選択肢です。公式サポートによると、Microsoft 365サブスクリプションを持つユーザーはアップロードした音声を1か月あたり最大300分までトランスクリプト化できます。対応形式は.wav、.mp4、.m4a、.mp3で、動作するブラウザはMicrosoft EdgeとChromeのみです(Microsoftサポート「録音を文字起こしする」)。話者ごとに区切って出力されるため、議事録の下書きとしてそのまま使いやすいのが利点です。
④〜⑤会議録と要約に強い2つ
④Microsoft Teamsのライブトランスクリプトは、オンライン会議をしている企業なら真っ先に検討すべき機能です。会議中に「その他のオプション」から文字起こしを開始すると、発言がリアルタイムで話者名とタイムスタンプつきに変換されます。会議終了後は、カレンダーの会議イベントから開催者・共同開催者が.docxまたは.vttファイルとしてダウンロードできます(Microsoftサポート「Teams会議でライブトランスクリプトを開始、停止、ダウンロードする」)。
この機能はMicrosoft 365 Business Basic、Business Standard、Business Premiumなどのライセンスで利用できます(同サポート)。つまり、多くの中小企業がすでに払っている契約の中に含まれています。「無料の文字起こしAIを探す前に、自社のTeamsで文字起こしボタンが出るか確認する」——これが最も見落とされている一手です。
⑤NotebookLMは、Googleが提供する資料整理AIです。文字起こし専用ツールではありませんが、公式ヘルプに「音声ファイルはインポート時に文字起こしされ、そのテキストが保存されて新しいソースとして使用されます」と明記されています。対応形式はmp3、wav、m4a、mp4など幅広く、アップロードできるファイルサイズは200MBまで、1つのソースには最大50万語を含めることができます(NotebookLMヘルプ「新しいソースを追加または検索する」)。
無料版の上限は公式のアップグレード案内に記載があり、ノートブック100件/ユーザー、ソース50件/ノートブック、チャット50回/日、音声解説3件/日です(NotebookLMヘルプ「NotebookLMをアップグレードする」)。文字起こしと要約・質問応答が1つの画面で完結する点が、他のツールにない強みです。「決定事項だけ抜き出して」「〇〇さんの宿題は何か」といった質問を、音声を取り込んだ直後に投げられます。
⑥Whisperと⑦YouTube字幕
⑥Whisperは、OpenAIが公開している音声認識モデルです。公式リポジトリに「Whisperのコードとモデルの重みはMITライセンスで公開されています」と記載されており、商用を含めて無料で利用できます。モデルはtiny(39M)からlarge(1550M)まであり、largeは約10GBのVRAMを必要とします(OpenAI Whisper公式リポジトリ)。
Whisperの最大の価値は「音声が社外に出ない」ことです。自社のPC上で処理が完結するため、外部サービスへの送信が発生しません。後述する情報漏えいの懸念を、技術的に根本から消せます。一方でセットアップにコマンド操作が必要で、社内に触れる人がいないと運用が止まります。導入のハードルは低くありません。
⑦YouTubeの自動字幕は、意外に使える裏技です。音声を動画化して「限定公開」でアップロードすると、自動字幕が生成されます。日本語は対応言語に含まれています。ただし公式ヘルプは、「動画の音質が悪い」「動画が長すぎる」「動画の冒頭で無音状態が長く続いている」「複数の人が同時に話していて音声が重なっている」場合に字幕が生成されないことがある、と明記しています(YouTubeヘルプ「自動字幕起こしを使用する」)。
なお、限定公開であってもURLを知っていれば誰でも閲覧できます。社外秘の会議音声をYouTubeにアップするのは避けてください。使うなら、公開前提のセミナーや社外向け説明会の音声に限定するのが安全です。
無料版の制限を先に知る
無料ツールで失敗する人の共通点は、「制限を知る前に使い始める」ことです。60分の会議を録音してから「無料枠は3分まででした」と気づくのが典型例です。ここでは、無料版に共通する4種類の制限を先に押さえます。
時間・回数の上限
最も分かりやすい制限が、時間と回数です。前章で確認した公式値を、制限の種類ごとに並べ直します。
| 制限の種類 | 具体例(公式確認値) | ぶつかりやすい場面 |
|---|---|---|
| 月間の合計時間 | Notta 120分/月、Word 300分/月 | 週次会議が2本あると1か月でほぼ消費 |
| 1回あたりの長さ | Notta 連続録音3分 | その場での会議録音に使えない |
| ファイル数・サイズ | Notta 取込50個/月、NotebookLM 200MB/ファイル | 長時間の非圧縮wavが入らない |
| AI機能の回数 | Notta AI要約10回/月、NotebookLM チャット50回/日 | 要約を作り直すと枠を消費 |
ここから導ける実務上のコツは1つです。「録音は自前で、文字起こしだけAIに渡す」。スマートフォンの標準ボイスレコーダーで録音し、そのファイルをツールに取り込む形にすれば、連続録音時間の制限を回避できます。無料枠は「録音時間」ではなく「文字起こし時間」で消費されるためです。
出力形式と保存の制限
時間の次に多いつまずきが、「文字起こしはできたのに、テキストを取り出せない」というものです。Nottaの公式プラン比較表では、「文字起こしデータのダウンロード」はプレミアム以上の機能として整理されています(Notta公式 料金プラン)。無料プランでは画面上で見ることはできても、ファイルとして書き出す導線が用意されていません。
回避策としては、画面からのコピー&ペーストで運用するか、最初からダウンロード可能なツールを選ぶことになります。WordとTeamsは、無料枠(契約内)でも文書ファイルとして手元に残せます。この違いは、月次で議事録を保管する必要がある企業にとって決定的です。
保存期間にも注意が必要です。サービス側にデータが残る期間は各社で異なり、退会や仕様変更で消える可能性があります。「重要な記録は必ず自社のストレージに落とす」を運用ルールに入れてください。
終了・仕様変更のリスク
無料サービスで最も軽視されているリスクが、サービスそのものの終了です。冒頭でも触れたとおり、日本語の無料文字起こしとして広く紹介されてきたCLOVA Note(ベータ版)は、公式サイトに「2025年7月31日(木)をもってサービスを終了いたしました」と掲示されています(CLOVA Note公式サイト)。
それにもかかわらず、検索上位のまとめ記事には今も「無料で使える定番ツール」として掲載され続けています。無料ツールを選ぶときは、記事の情報ではなく必ず公式サイトを開いて、サービスが現存することと無料枠の数値を自分で確認してください。この5分を惜しむと、使えないツールを前提に段取りを組むことになります。
対策として実務では、「無料ツールは業務フローの中心に置かない」という設計を勧めています。文字起こしの出力先を自社のGoogleドライブやSharePointに固定しておけば、ツールが1つ消えても差し替えるだけで済みます。
商用利用と規約の確認
「無料=何に使ってもよい」ではありません。社内業務で使う場合でも、次の3点は事前に確認してください。
- 商用利用が許可されているか。Whisperのようにライセンスが明示されているもの(MITライセンス)は判断が容易です
- 入力したデータの扱い。学習に使われるか、人によるレビューがあるかは規約とプライバシーポリシーに書かれています
- アカウントの帰属。個人のGoogleアカウントで業務データを扱うと、退職時に会社の記録が持ち出される状態になります
3つ目は特に見落とされがちです。無料ツールは個人アカウントで始められてしまうため、気づいたら業務記録が社員の個人アカウントの中にあるという状態が生まれます。無料であっても「どのアカウントで使うか」は最初に決めてください。
精度を左右する3つの条件
「無料だから精度が悪い」と思われがちですが、実務で見ている限り精度の差の大半は、ツールではなく入力側の条件で決まります。同じツール、同じ会議でも、録り方を変えるだけで修正時間が半分以下になることは珍しくありません。
この裏づけはYouTubeの公式ヘルプにあります。自動字幕の精度を落とす要因として「間違った発音、アクセント、方言、雑音」が挙げられ、字幕が生成されない条件として「音質が悪い」「冒頭で無音状態が長く続いている」「複数の人が同時に話していて音声が重なっている」が明記されています(YouTubeヘルプ「自動字幕起こしを使用する」)。原因は、ツールの優劣ではなく音声そのものにあるということです。
条件1 録音環境とマイク
最も効くのが録音環境です。次の4点を変えるだけで、体感の精度が大きく変わります。
- マイクを口から30cm以内に置く。会議室の中央に置いたスマートフォン1台では、遠い席の声が拾えません
- 空調・プロジェクターの真下を避ける。連続する低い雑音は認識を確実に落とします
- オンライン会議は各自の端末で録音する。スピーカーから出た音を再録音すると音質が二重に劣化します
- 会議室のドアを閉め、廊下の音を遮る。単純ですが効果は大きいです
Ai-Rakuで支援先にお願いしているのは、「3,000円台のUSBコンデンサーマイクを1本、会議室に置く」という一点です。ツールを有料化するより先に、この1本を入れたほうが修正時間は減ります。無料の範囲で精度を上げたいなら、まずハードウェアです。
条件2 話し方と進行ルール
次に効くのが、会議の進め方です。AIは「同時に話している声」を分離できません。次の3つを会議のルールにしてください。
- 発言の前に名前を言う。「設計の田中です」と言ってから話すと、話者識別の精度が上がります
- 相づちを声に出さない。「はい、はい」が全部テキストに入り、後の削除作業が増えます
- 冒頭30秒は無音にしない。録音を開始したらすぐ「〇月〇日の定例を始めます」と一言入れます
3つ目は、前述のYouTube公式ヘルプが挙げる「冒頭の長い無音」への直接的な対策です。録音開始ボタンを押してから全員が着席するまでの2分間の無音が、字幕生成の失敗を招くことがあります。
条件3 音声ファイルの形式
ファイル形式も精度と成否に影響します。各サービスの対応形式から外れると、そもそも取り込めません。Wordのトランスクリプトが対応するのは.wav、.mp4、.m4a、.mp3の4形式です(Microsoftサポート「録音を文字起こしする」)。
また、ファイルサイズの上限にも注意が必要です。OpenAIの音声認識APIの公式ドキュメントではファイルは最大25MBまでとされ、超える場合は分割が必要で、そのとき「文の途中で分割すると文脈が失われ精度が下がるため避けること」と説明されています(OpenAI公式ドキュメント Speech to text)。長時間の音声を分割するときは、必ず発言の切れ目で切ってください。
実務的な推奨は「mp3・モノラル・16kHz以上で録る」です。非圧縮のwavは音質は高いものの、1時間で数百MBになり、NotebookLMの200MB上限にぶつかります。mp3にしておけば、ほとんどのサービスの上限内に収まります。
精度が落ちる典型パターン
支援の現場で実際に起きた、精度が落ちる失敗パターンと対策を3つ挙げます。
| 失敗パターン | 何が起きるか | 対策 |
|---|---|---|
| 会議室の中央にスマホ1台 | 遠い席の発言が丸ごと欠落する | マイクを話者側へ寄せる。難しければ2台で録り、後で良いほうを使う |
| 複数人が同時に話す議論 | 音声が重なり、その区間が丸ごと崩れる | 司会が発言者を指名する。重要な結論は必ず1人で言い直す |
| 社名・製品名がカタカナで崩れる | 「〇〇工業」が別の語に化け、検索できなくなる | 用語リストを先に渡す、または後で一括置換する(次章) |
この3つは、無料か有料かに関係なく起きます。有料ツールに乗り換えても、録り方が同じなら結果は大きく変わりません。まず入力側を直してください。
専門用語を正しく出す方法
無料ツールで最も相談が多いのが、「社名・製品名・専門用語が毎回間違う」という悩みです。前章で触れたとおり、Nottaの無料プランで登録できる単語は3語までです(Notta公式 料金プラン)。辞書機能に頼れない以上、別の方法で解決する必要があります。
用語リストを先に渡す
1つ目の方法は、文字起こしの前に用語リストを渡すやり方です。OpenAIの公式ドキュメントは、promptパラメータに固有名詞や専門用語の正しい表記を与えることで認識を改善できると説明しています。ただし「promptには224トークンの制限がある」ため、長い用語リストには向きません(OpenAI公式ドキュメント Speech to text)。
この制限があるため、公式ドキュメント自身が「文字起こしの後にテキストモデルで修正するほうが、長い用語リストに対応できる」という後処理方式を推奨しています。無料の範囲で実行するなら、後処理のほうが現実的です。
文字起こし後に一括置換
2つ目は、最も確実で、費用も0円の方法です。自社の用語がどう誤変換されるかは、毎回ほぼ同じパターンになります。そこで、1回目の文字起こしで出た誤変換を記録し、次回から一括置換する表を作ります。
| 正しい表記 | よくある誤変換 | 置換の可否 |
|---|---|---|
| 意匠図 | 衣装図/異常図 | 可(一括置換で安全) |
| 躯体 | 駆体/区体 | 可 |
| 実施設計 | 実施設計/実子設計 | 可 |
| 〇〇工務店 | 〇〇候補店/〇〇工務典 | 可 |
| 1,200万円 | 千二百万円/12,000万円 | 不可(人が音源で確認) |
ポイントは最後の行です。金額・日付・数量は一括置換してはいけません。桁を1つ間違えたまま置換すると、誤りが確定した文書として残ります。数字だけは人が音源に戻って確認する、と決めてください。
修正用プロンプトの例
後処理をAIにやらせる場合の、そのまま使えるプロンプトを置きます。無料の対話型AIやNotebookLMのチャットに貼り付けて使えます。
あなたは建築設計事務所の議事録担当です。 以下は会議音声の自動文字起こしです。次のルールで整えてください。 【用語辞書】以下の表記に統一してください。 意匠図 / 躯体 / 実施設計 / 基本設計 / 確認申請 / 〇〇工務店 / 〇〇邸 【ルール】 1. 明らかな誤変換を、上の辞書に沿って直す 2. 「えー」「あのー」などのフィラーと相づちを削除する 3. 話し言葉を、意味を変えずに書き言葉へ整える 4. 金額・日付・数量・人名は、絶対に推測で補完しない。 聞き取れていないと判断した箇所は【要確認】と記載する 5. 発言の順序と内容は変えない。要約もしない 【出力】整えた全文のみ。前置きと後書きは不要。 --- ここから文字起こし --- (ここに貼り付け)
4つ目のルールが最も重要です。「推測で補完しない、分からない箇所は【要確認】と書かせる」と明示しないと、AIはもっともらしい数字を埋めてしまいます。この一文があるかないかで、議事録の信頼性は決定的に変わります。
AIと人の線引きを決める
ここが本記事で最もお伝えしたい部分です。文字起こしAIを業務に入れるとき、必ず「どこまでAI、どこから人」を先に決めてください。Ai-Rakuで支援先に提示している線引きは次のとおりです。
| 工程 | 担当 | 理由 |
|---|---|---|
| 音声のテキスト化 | AI | 人がやる価値がない単純作業 |
| フィラー削除・語尾整形 | AI | ルール化でき、間違えても実害が小さい |
| 要約・論点整理の下書き | AI | 下書きとしては十分な品質が出る |
| 固有名詞と数字の確定 | 人 | 誤りが契約・見積の事故に直結する |
| 決定事項と担当者の確定 | 人 | 「誰が何をいつまでに」は責任の所在そのもの |
| 社外への配布可否の判断 | 人 | 機密区分の判断はAIに委ねられない |
覚え方は1つです。「固有名詞と数字は人が直す」。この一線さえ守れば、無料ツールでも実務に耐える議事録が作れます。逆に、この一線を引かないまま自動化を進めると、AIが埋めた誤った金額が社内に流通します。
「自社の業務のどこまでをAIに任せてよいか、線引きを一緒に整理してほしい」という段階の方は、Ai-Rakuの無料相談をご利用ください。文字起こしに限らず、議事録作成業務のAI活用として、録音から共有までの流れを設計します。導入支援は初期費用0円・月額5万円〜で、まず現状の棚卸しから始めます。
議事録まで自動化する手順
ここまでの内容を、実際の作業手順に落とします。すべて無料の範囲で完結する4ステップです。使うのはスマートフォンのボイスレコーダーとNotebookLM(またはWord)だけです。
手順1 録音と文字起こし
- 会議開始時、司会が「〇月〇日の定例会議を始めます」と一言入れてから録音を開始する
- スマートフォンの標準ボイスレコーダーで録音する(連続録音の制限を回避できます)
- 会議後、録音ファイルをmp3で書き出す。1時間の会議でおおむね30MB前後に収まります
- NotebookLMに新しいノートブックを作り、ソースとして音声ファイルをアップロードする
- 取り込みが完了すると、文字起こしされたテキストがソースとして保存されます
NotebookLMは1ファイル200MBまで対応するため、長時間の会議でもmp3であればほぼ問題なく入ります(NotebookLMヘルプ)。Microsoft 365を契約している場合は、この工程をWordのトランスクリプト(月300分まで)に置き換えても構いません。
手順2 要約プロンプト
文字起こしができたら、要約に進みます。次のプロンプトをそのまま使ってください。
このソース(会議の文字起こし)から、社内配布用の議事録を作ってください。 【出力フォーマット】 ■ 会議名 / 日時 / 出席者 ■ 決定事項(箇条書き。決まったことだけ) ■ 保留・持ち帰り(誰が判断するかも書く) ■ ToDo(「担当者 / 内容 / 期限」の3点セットで) ■ 議論の要旨(400字以内) ■ 要確認リスト(下記ルール参照) 【ルール】 ・文字起こしに書かれていないことは、一切書かない ・金額、日付、数量、人名、社名は、音声から読み取れた表記のまま残す ・聞き取りが不確かで判断できない箇所は「要確認リスト」に列挙する ・「〜と思われる」といった推測表現は使わない ・担当者が特定できないToDoは、担当欄を「未定」とする
このプロンプトの肝は「要確認リスト」を必ず出させる点です。AIに「分からなかったことを申告させる」設計にしておくと、人が確認すべき箇所が自動で一覧になります。これがないと、担当者が全文を読み直すことになり、自動化の意味が薄れます。
手順3 人による確定
出てきた議事録を、人が5分で確定させます。確認するのは次の4点だけです。
- 要確認リストの各項目を、音源の該当箇所を聞いて埋める
- 金額・日付・数量が正しいかを、資料と突き合わせる
- ToDoの担当者と期限が全部埋まっているかを見る
- 社外に出せない情報が含まれていないかを確認する
この4点だけに絞ることが重要です。全文を読み直すのをやめることが、自動化で時間を生む最大のポイントになります。全文を読み直す運用のままだと、削減時間はほとんど生まれません。
週次で回す運用の型
1回できても、続かなければ意味がありません。定着させるための型を示します。
| タイミング | やること | 所要時間の目安 |
|---|---|---|
| 会議開始時 | 司会が冒頭アナウンスを入れて録音開始 | 10秒 |
| 会議終了直後 | 音声ファイルを共有ドライブの所定フォルダに置く | 2分 |
| 当日中 | 文字起こし→要約プロンプト→人が4点確認 | 10〜15分 |
| 週末 | 誤変換された用語を「置換表」に追記する | 5分 |
最後の「置換表への追記」を続けると、3か月ほどで自社の誤変換パターンがほぼ出尽くします。そこから先は修正時間が目に見えて減ります。無料ツールで精度を上げる唯一の王道が、この地道な蓄積です。
無料で使うときの漏洩対策
無料の文字起こしAIを検討するとき、最後に必ずぶつかるのが情報漏えいの不安です。総務省の調査でも、生成AI導入の懸念事項として「効果的な活用方法がわからない」に次いで「社内情報の漏えい等のセキュリティリスク」が挙げられています(総務省「令和7年版 情報通信白書」)。この不安は正当です。
より詳しい議事録運用における漏えい対策は議事録AIの精度と情報漏洩で扱っています。ここでは「無料枠に特有の論点」だけを整理します。
無料枠は学習に使われる
最も重要な事実がこれです。無料のサービスは、入力内容がサービス改善や人によるレビューの対象になる設計になっていることがあります。Googleの公式ヘルプは、Geminiアプリについて「人間のレビュアー(トレーニングを受けたGoogleのサービスプロバイダのレビュアーを含む)が収集したデータの一部をレビューすることがあります」と説明し、さらに「レビュアーに見られたくない機密情報や、Googleのサービスの改良のために使用されたくない機密情報は入力しないでください」と明記しています(Googleヘルプ「Geminiアプリとプライバシー」)。
これは法令上も無視できません。個人情報保護委員会は令和5年6月2日の注意喚起で、個人情報取扱事業者に対し「あらかじめ本人の同意を得ることなく生成AIサービスに個人データを含むプロンプトを入力し、当該個人データが応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合、個人情報保護法の規定に違反することとなる可能性がある」とし、「当該生成AIサービスを提供する事業者が、当該個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認すること」を求めています(個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」)。
つまり、個人情報を含む音声を無料枠に入れる前に、「学習に使われないこと」を規約で確認する義務があるということです。確認できないなら入れない、が正しい判断になります。
入れてよい音声の基準
抽象論では現場が動かないので、そのまま使える判定表を置きます。
| 音声の内容 | 無料枠(クラウド) | 推奨する扱い |
|---|---|---|
| 社内の定例会議、進捗共有 | △ | 個人名・取引先名を伏せれば可。学習不使用が確認できれば可 |
| 社外セミナー、公開説明会 | ○ | 公開情報のため制限は緩い |
| 顧客との商談、面談 | × | 相手の同意と、学習不使用の確認が取れるまで入れない |
| 採用面接、人事評価面談 | × | 要配慮個人情報を含みうる。ローカル処理(Whisper)か有料の法人契約へ |
| 医療・介護の記録、相談内容 | × | 専門の法人向けサービスを使う。無料枠では扱わない |
×の行に該当する音声を扱いたい場合の現実的な解は2つです。1つは⑥Whisperによるローカル処理(音声が社外に一切出ない)、もう1つは学習不使用が契約で担保された有料プランです。無料にこだわって法令リスクを取る判断は、費用の話ではなく経営判断として合いません。
社内ルールの雛形
最後に、そのままコピーして社内周知できるルールの雛形を置きます。A4半ページで十分です。
- 業務での文字起こしは、会社が指定したツールのみを使用する(個人契約の無料ツールを勝手に使わない)
- 使用するアカウントは会社発行のアカウントに限る。個人アカウントの使用を禁止する
- 顧客名・個人名・金額を含む音声は、指定ツール以外にアップロードしない
- 採用面接・人事評価・健康に関する音声は、クラウドの文字起こしツールに入れない
- 生成された議事録は、必ず作成者が固有名詞と数字を確認してから配布する
- 音声ファイルと文字起こしデータは、会社の共有ドライブの所定フォルダに保存する
- ツールの仕様変更・サービス終了に備え、重要な記録は必ず自社ストレージに残す
この7項目を朝礼で共有し、共有ドライブの所定フォルダに1枚置いておくだけで、無料ツール利用の事故はほとんど防げます。ルールがないまま各自が無料ツールを使い始める状態が、最も危険です。
有料に切り替える判断基準
無料で始めることを勧めてきましたが、無料に固執することは勧めません。ここでは、有料へ切り替えるべきタイミングを判断できる基準を示します。網羅的なツール比較はAI議事録ツールのおすすめ比較で扱っていますので、あわせてご覧ください。
切り替える4つのサイン
次のうち2つ以上に当てはまったら、有料プランの検討時期です。
- 月の途中で無料枠を使い切る月が、2か月続いた
- 枠を管理するために、担当者が毎月手を止めている(枠の残量確認、ツールの使い分け)
- 文字起こしデータをダウンロードできず、コピー&ペーストで運用している
- 顧客・個人情報を含む音声を扱う必要が出てきた
4つ目は、他の3つと性質が異なります。これは量の問題ではなく、リスクの問題です。該当した時点で、枠が余っていても有料の法人プラン、またはローカル処理へ移行してください。
無料と有料の分岐点
金額で見ると、分岐点は分かりやすい位置にあります。Nottaのプレミアムプランは年間契約で月額1,185円(税込)、文字起こし1,800分/月です(Notta公式 料金プラン)。無料枠は120分/月ですから、差は15倍です。
ここで判断材料になるのは、「枠の管理に使っている時間」です。時給2,500円で計算すると、月額1,185円は約28分の人件費に相当します。枠の残量確認やツールの使い分けに月30分以上を使っているなら、有料に切り替えたほうが時間は増えます。この計算は、どのツールでも同じ考え方で使えます。
併用という選択肢
「無料か有料か」の二択で考える必要はありません。実際に多くの企業が採っているのは併用です。
- 日常の社内会議:Microsoft 365の範囲内(Teams・Word)で処理する。追加費用0円
- 要約まで必要な会議:NotebookLMの無料枠で処理する
- 顧客との商談:学習不使用が担保された有料プラン、または社内サーバー上のWhisper
- 採用面接など機微な音声:ローカル処理に限定する
この使い分けを最初に決めておけば、有料化するのは全体の一部で済みます。全社一律で有料契約を結ぶ前に、業務ごとに切り分けてください。中小企業のAI導入全体の考え方は中小企業のAI導入で解説しています。
モデルケース|15名の設計事務所
ここまでの内容を、具体的な会社に当てはめて試算します。以下は実在の企業ではなく、Ai-Rakuが支援の現場で得た数値をもとに作成したモデルケース(試算)です。実際の効果は業務内容と会議の頻度によって変わります。
導入前の状況と課題
モデル企業の設定は次のとおりです。
- 業種:建築設計事務所(住宅・小規模施設が中心)
- 従業員数:15名(設計8名、施工管理3名、事務2名、役員2名)
- 会議の頻度:社内定例が週1回90分、施主との打合せが週2回60分、現場ヒアリングが週1回程度
- 課題:施主打合せの記録を設計担当が手作業で起こしており、1回の打合せに対し記録作成だけで1.5時間かかっていた
- 失注リスク:「言った・言わない」の行き違いが年に数回発生し、仕様変更の負担を自社が被ることがあった
この事務所はMicrosoft 365 Business Standardをすでに契約していました。つまりWordとTeamsの文字起こしが追加費用0円で使える状態にありながら、その事実を誰も把握していませんでした。中小企業では非常によくある状況です。
無料ツールでの運用設計
導入したのは次の組み合わせです。新たに支払った月額費用は0円です。
| 業務 | 使ったツール | 追加費用 |
|---|---|---|
| 社内定例(オンライン併用) | Teams ライブトランスクリプト | 0円(契約内) |
| 施主打合せ(対面) | スマホ録音 → Word トランスクリプト | 0円(契約内) |
| 現場ヒアリング | スマホ録音 → NotebookLM | 0円(無料枠) |
| 週報の口述 | Googleドキュメント 音声入力 | 0円 |
| ハード面 | USBマイク1本(会議室設置) | 初期3,200円のみ |
Wordの月300分という枠に対し、施主打合せは週2回×60分=月480分。そのままでは足りません。そこで「打合せのうち、仕様と金額を決める後半30分だけを文字起こしに回す」という運用にしました。全部を起こす必要はない、という割り切りが枠内に収めるコツです。
削減時間の試算表
前提条件:時給2,500円・月20営業日で試算。導入後の時間には、人による確認・修正の時間を含みます。
| 業務 | 導入前(月) | 導入後(月) | 削減時間 | 月間削減額 |
|---|---|---|---|---|
| 社内定例の議事録 | 6時間 | 1.5時間 | 4.5時間 | 11,250円 |
| 施主打合せの記録 | 12時間 | 4時間 | 8時間 | 20,000円 |
| 現場ヒアリングのメモ起こし | 5時間 | 2時間 | 3時間 | 7,500円 |
| 週報・日報の作成 | 6時間 | 2.5時間 | 3.5時間 | 8,750円 |
| 合計 | 29時間 | 10時間 | 19時間 | 47,500円 |
月19時間、金額に換算して約4.7万円分の作業時間が空く計算です。ツールの追加費用は0円、初期投資はUSBマイク1本の3,200円のみです。ただし、この数値は「全文を読み直す運用をやめ、要確認リストの4点だけをチェックする」に切り替えたことが前提です。全文確認を続けた場合、削減時間は半分以下になります。
金額よりも重要なのは、施主打合せの記録が当日中に共有されるようになったことです。従来は記録作成が翌々日にずれ込み、その間の仕様変更が口頭のまま流れていました。「言った・言わない」の行き違いは、時間ではなく記録が残る速さで減ります。
つまずいた3つの点
うまくいった話だけでは参考になりません。実際につまずいた点を3つ挙げます。
- 最初の1か月はWordの300分枠を月半ばで使い切った。全打合せを丸ごと起こそうとしたためです。「後半30分だけ」に絞ってから枠内に収まりました
- 建築用語の誤変換が多く、修正に時間がかかった。「躯体」「意匠図」などが崩れます。置換表を作って一括置換する運用にして、2か月目から修正時間が半減しました
- 設計担当が全文を読み直す癖が抜けなかった。これが最大の障壁でした。「要確認リストの項目と、金額・日付・期限だけを見る」とチェック項目を紙に書いて配り、ようやく定着しました
3つ目に象徴されるとおり、文字起こしAIの導入で難しいのはツールではなく、確認のやり方を変えることです。ここを設計せずにツールだけ入れると、削減時間はほとんど生まれません。
よくある質問
Q. 完全無料で長い会議を起こせますか?
A. 可能です。Microsoft 365契約者ならWordのトランスクリプトで月300分まで、NotebookLMなら1ファイル200MBまでの音声を無料枠で処理できます。ただしNottaの無料プランは連続録音3分の制限があるため、その場での長時間録音には向きません。スマートフォンで録音してからファイルを取り込む運用にしてください。
Q. 無料の文字起こしの精度はどれくらいですか?
A. 具体的な精度の数値は、測定条件(音質・話者数・専門用語の量)によって大きく変わるため、一律の数字はお出しできません。実務では「静かな環境で1人ずつ話せば下書きとして十分、雑音や同時発話があると使いものにならない」という差の出方をします。精度はツールより録音条件で決まる、と考えてください。
Q. 無料版と有料版で精度は変わりますか?
A. 同じサービス内では、認識エンジンが共通のことが多く、精度そのものより使える時間・辞書登録数・ダウンロード可否で差がつきます。たとえばNottaの単語登録は無料で3語、プレミアムで200語です。専門用語が多い業種ほど、この差が精度の体感につながります。
Q. 録音ファイルをそのまま起こせますか?
A. ツールによります。Wordのトランスクリプトは.wav、.mp4、.m4a、.mp3に対応、NotebookLMはmp3やwavなど幅広い形式に対応しています。一方、Googleドキュメントの音声入力はリアルタイム入力専用で、録音ファイルの読み込みはできません。
Q. スマホだけで文字起こしできますか?
A. できます。スマートフォンで録音し、ブラウザからNotebookLMにアップロードすれば、スマートフォン1台で完結します。ただし修正作業はパソコンのほうが圧倒的に速いため、確定作業はパソコンで行うことをおすすめします。
Q. 誰が話したかの区別はできますか?
A. できるツールとできないツールがあります。Wordのトランスクリプトは話者ごとに区切って出力し、Teamsのライブトランスクリプトは発言者名とタイムスタンプが付きます。Nottaは無料プランでも話者識別に対応しています。精度を上げるには、発言前に名前を言う運用が効果的です。
Q. 文字起こしデータは保存できますか?
A. サービスによって異なります。Nottaの公式プラン比較では、文字起こしデータのダウンロードはプレミアム以上の機能です。一方、WordとTeamsは無料枠(契約内)でも文書ファイルとして保存できます。記録の保管が必要な業務では、この点を最初に確認してください。
Q. 専門用語が毎回間違うときは?
A. 2つの対策があります。1つは辞書登録ですが、無料プランは登録数が少ないため限界があります(Nottaは3語)。もう1つは文字起こし後の一括置換で、こちらは費用0円で確実です。誤変換のパターンを表に蓄積してください。ただし金額・日付・数量は一括置換せず、必ず人が音源で確認します。
Q. 議事録の要約まで無料でできますか?
A. できます。NotebookLMは音声を取り込むと文字起こしがソースとして保存され、そのままチャットで要約や質問ができます。無料版はチャット50回/日の上限があります。本記事に掲載した議事録生成プロンプトをそのままお使いください。
Q. 商用利用しても問題ありませんか?
A. 各サービスの利用規約の確認が必要です。WhisperはMITライセンスで公開されており、商用利用の判断がしやすい選択肢です。クラウドサービスの場合は、商用利用の可否に加えて入力データが学習に使われるかを必ず確認してください。
Q. 個人情報を含む会議に使えますか?
A. 慎重な判断が必要です。個人情報保護委員会は、本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入力し、それが応答以外の目的で扱われる場合に法違反となる可能性を指摘し、事業者が機械学習に利用しないことの確認を求めています。学習不使用が確認できない無料枠には、個人情報を含む音声を入れないでください。ローカル処理のWhisperか、法人向けの有料契約を検討してください。
Q. 有料に切り替える目安はありますか?
A. 「月の途中で枠を使い切る月が2か月続いた」「枠の管理に月30分以上使っている」「データをダウンロードできず不便」「個人情報を含む音声を扱う必要が出た」のうち2つ以上に当てはまったら切り替え時です。特に最後の1つは、量ではなくリスクの問題なので、単独でも移行の理由になります。
- 無料で足りる条件は「1回60分以内」「録音環境を整えられる」「人が直す前提」の3つ
- Microsoft 365契約者は、Word(月300分)とTeamsを追加費用0円で使える。まずここを確認する
- Nottaの無料枠は月120分・連続録音3分・単語登録3語・ダウンロード不可。制限を先に知る
- 精度はツールより録音条件で決まる。マイク1本と進行ルールのほうが効果が大きい
- 固有名詞と数字は人が直す。この線引きだけは絶対に崩さない
- 無料枠は入力が学習・レビューの対象になりうる。個人情報を含む音声は入れない
「自社の会議を、どこまで無料の範囲で回せるか判断してほしい」という方は、Ai-Rakuの無料相談をご利用ください。すでに契約済みのツールの棚卸しから始めるため、多くの場合、追加費用をかけずに着手できます。導入支援が必要な場合も初期費用0円・月額5万円〜です。議事録業務そのものの改善は議事録作成業務のAI活用、有料も含めたツール比較はAI議事録ツールのおすすめ比較、漏えい対策の詳細は議事録AIの精度と情報漏洩、全体像は中小企業のAI導入もあわせてご覧ください。
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