AIチャットボットの作り方|社内向けから始める
業務効率化支援を行う「Ai-Raku(アイラク)」代表。国立大学でAIの研究を行い、ITコンサル・ウェブコンサルを経て独立。官公庁向けの業務効率化や上場企業の支援等を経て、中小企業の現場に定着するAI活用を企画から運用まで一気通貫で支援している。

- プログラミングができなくても作れますか
- 作れます。この記事で示した手順のうち、時間がかかるのは記録と答えの作成で、どちらもプログラミングとは関係ありません。一問一答型なら、共有ドキュメントとチャットツールだけで成立します。技術的な設定は、選んだ方式によっては必要になりますが、それは全体の1割ほどの作業です。むしろ、技術から入ると「何を答えさせるか」が空のまま作り始めることになるので、順番としては不利です。
- 何問くらい用意すればよいですか
- 最初は20〜30問です。2週間の記録で3回以上聞かれたものだけを選べば、自然にその程度に収まります。100問を目指すと公開が遅れ、そのうち古くなる項目も増えます。運用に入ってから月5問ずつ足せば、1年で80問前後になります。そのペースで足りるかどうかも、未回答ログを見れば分かります。
- 2週間の記録は本当に必要ですか
- 必要です。省いた場合、ほぼ確実に「作った人が答えたかったこと」が並びます。実際に多いのは、答えるのが簡単すぎて記憶に残らない質問です。記録を取ると、その簡単な質問が件数の大半を占めていることが分かります。どうしても2週間取れない場合は、最低1週間、締め日をまたぐ期間で取ってください。時期によって質問の中身が大きく変わるためです。
- 間違った答えを返すのが心配です
- その心配は正しいので、「答えられないときの設計」を先に作ってください。根拠となる社内情報にない内容は答えない方針にし、答えるときは根拠の資料名を併記します。そのうえで、金額・期限・法令に関わる質問は必ず人へ渡す扱いにします。誤答の減らし方はAIのハルシネーション対策にまとめています。
- 社内文書を読ませるやり方が気になります
- 言い換えに強くなるのが最大の利点で、聞き方が人によってばらつく職場では効果的です。ただし、参照させる資料が古い・矛盾しているとそのまま誤答になります。導入前に、規程やマニュアルの最新版がどれか整理できているか確認してください。仕組みと向き不向きはRAGとは何かで解説しています。
- どこに置くのがよいですか
- 社員が毎日すでに開いている場所です。新しいアプリやURLを覚えてもらう設計にすると、公開直後だけ使われて終わります。チャットツールを日常的に使っているならその中に、グループウェアを使っているならそのトップに置いてください。「置き場所が分かりにくい」は、答えの質より先に効いてくる要因です。
- 誰が運用担当になるべきですか
- 質問を最も多く受けている人です。総務や経理の担当者であることが多いでしょう。その人にとっては、運用が自分の負担を減らす作業になるので続きます。情報システム担当に任せると、質問の中身が分からないため未回答ログを判断できず、止まります。名前で1人決めて、月30分を業務時間として確保してください。
- 顧客名や個人名を入力されたらどうしますか
- 完全には防げないので、3つの手で抑えます。入力欄の近くに「顧客名・個人名は入力しないでください」と表示する、やり取りの保存期間を短く決めておく、入力内容が外部の学習に使われない設定かを契約前に確認する、の3点です。加えて、そもそも顧客情報を含む資料をボット側に入れないことが最も確実な防御になります。
- 費用はどのくらいかかりますか
- 方式によって幅があるため、金額の目安はここでは出しません。代わりに先に決めるべきは「人の時間」です。この記事の試算では、初期に約14時間、運用に月30分を見込んでいます。ツールの利用料を検討するのは、この時間を出せるかどうかを確認してからで十分です。時間が出せない会社では、どんな価格でも運用が止まります。
- 電話で来る問い合わせにも使えますか
- 文字で答えるチャットボットと、電話の受け答えは別の設計になります。電話は「待たせない」「聞き返す」といった要素が加わるためです。ただし、2週間の記録と、答えるべき20〜30問という土台は共通で使えます。電話側の考え方はAI電話対応を参照してください。
- 作ったのに誰も使ってくれません
- 原因は多くの場合3つのどれかです。置き場所が遠い/答えられる範囲が伝わっていない/最初に使ったとき答えられなかった。まず未回答ログを見てください。ログに何も残っていないなら、そもそも開かれていないので、置き場所の問題です。ログはあるのに答えられていないなら、質問文を利用者の言葉に書き換える作業が足りていません。
- 中小企業でも本当に意味がありますか
- 規模が小さいほど、質問が特定の1〜2人に集中しているので、その人の時間が空く効果は分かりやすく出ます。ただし、質問件数がもともと少ない会社では作る手間のほうが上回ります。2週間の記録で件数を数えれば、その判断ができます。なお総務省「令和7年版 情報通信白書」では、日本の企業規模別で見ると中小企業では「方針を明確に定めていない」との回答が約半数を占めています。方針から入ると止まりやすいので、1業務から始めて記録で判断するほうが現実的です。
- 社内で反対が出たときはどうしますか
- 反対の中身が「情報漏えいが心配」なら、扱わせない情報の一覧を示すことで、多くは解けます。「どうせ使わない」なら、2週間の記録を見せてください。実際の質問件数と、そこに使われている時間が数字で出ていれば、議論は具体的になります。反対そのものより、感想で話すか記録で話すかのほうが結論を左右します。
「経費精算の締め日っていつでしたっけ」「このシステム、パスワードどこから変えるんですか」「あの備品、どこに発注したらいいですか」。一日に何度も同じ質問が飛んできて、そのたびに手を止める。答えるのは1分で済むのに、中断された作業に戻るまでには数分かかる。気づけば午後の予定が丸ごと溶けている。チャットボットを作りたいと思う人のほとんどは、この状態から抜け出したいだけです。
ところが「AIチャットボットの作り方」を調べると、いきなりツールの比較や設定画面の話が出てきます。実際に中小企業でうまくいくかどうかを分けているのは、ツール選びではありません。作る前に何を調べたかと、答えられないときにどうするかを決めてあるかの2点です。この記事では、そこを含めた手順を、実際に手を動かす順番のまま並べます。
- 社外向けではなく社内向けから始めるべき理由
- 作る前の2週間でやる「質問の記録」のやり方と記録シートの形
- 記録から最初の20〜30問を選ぶ基準と、載せてはいけない質問
- 最重要である「答えられない」ときの設計と、人へつなぐ導線
- 作り方の3つの型(一問一答/社内文書を読ませる/既存ツールの機能)の使い分け
- 顧客情報・個人情報を扱わせない線引きと、公開後の育て方
- 3か月で見る2つの指標と、やめる判断の出し方
結論|社内向けから小さく作る
先に結論を書きます。中小企業がAIチャットボットを作るなら、次の順番です。
- 社内向けから始める。社外向けは後回しでよい
- 作る前に2週間、実際に来た質問を記録する
- 記録から最初の20〜30問だけ選ぶ
- 答えより先に「答えられないとき何をするか」を決める
- 身内10人で2週間試してから、全社に出す
- 月1回30分、未回答ログを見て5問足す
この順番のうち、飛ばされやすいのが2番と4番です。そして、うまくいかなかった事例のほとんどが、この2つを飛ばしています。質問を記録せずに作ると、誰も聞かないことに丁寧に答えるボットができあがります。答えられないときの設計を決めずに作ると、それらしい嘘を返すボットになります。どちらも、一度信用を失うと二度と使われません。
総務省「令和7年版 情報通信白書」によれば、生成AI導入に際しての懸念として日本で最も多く挙げられたのは「効果的な活用方法がわからない」で、次いで「社内情報の漏えい等のセキュリティリスク」でした(出典:総務省「令和7年版 情報通信白書」企業におけるAI利用の現状)。チャットボットは、この2つの懸念がそのまま形になる題材です。だからこそ、使い道を先に確定させ、扱わせる情報の範囲を先に狭めるという順番が効きます。
なぜ社外向けから作ると失敗するか
チャットボットと聞くと、多くの人はまずWebサイトの右下に出てくる吹き出しを思い浮かべます。しかし、そこから作り始めるのは、初めて包丁を持つ人がいきなり客に出す刺身を引くようなものです。
相手を選べない場所に置く怖さ
社外向けは、誰が来るか分かりません。想定していない聞き方をされ、想定していない前提で読まれます。そして、間違った答えを返したときの相手はお客様です。「料金は税込ですか」に誤って答えれば、その場で商談が壊れます。「対応エリアに入っていますか」に誤って答えれば、断るための連絡をこちらからすることになります。
社内向けなら、間違えた相手は同僚です。「これ違うよ」とすぐ言ってもらえます。間違いが苦情ではなく改善の材料として返ってくるのは、社内向けだけの利点です。
効果が測れないと続かない
社外向けチャットボットの効果は、測るのが難しいものです。問い合わせが減ったのか、そもそも訪問者が減ったのか、判断がつきません。売上への影響となると、さらに切り分けられません。
社内向けなら話は単純です。「バックオフィス担当に飛んでくる質問の件数」という、その場で数えられる数字があります。導入前の2週間で数え、導入後の2週間で数える。それだけで、続けるかやめるかを判断できます。効果が見える取り組みは続きますが、見えない取り組みは、担当者が異動した瞬間に消えます。
社内向けなら失敗が財産になる
社内向けで2か月運用すると、「どんな聞き方をされるか」の実データが手元に貯まります。社外向けに広げるとき、この実データがそのまま設計図になります。逆に社外向けから始めた場合、失敗しても手元に残るのは「うまくいかなかった」という感想だけです。
なお、問い合わせ対応全体をどうAIで組み替えるかという総論は、カスタマーサポートのAI活用で扱っています。この記事は、そのうち「実際に作る手順」だけに絞ります。
作る前の2週間|質問を記録する
ここが、この記事でいちばん伝えたい部分です。作り始める前に、2週間、実際に来た質問をそのまま記録してください。これをやらないと、ほぼ確実に的外れなものができます。
理由は単純です。人は自分に来る質問を正しく覚えていないからです。「よく聞かれること」を頭で思い出して書き出すと、印象の強かった質問や、答えるのが面倒だった質問ばかりが並びます。実際に多いのは、答えるのが簡単すぎて記憶に残らない質問です。そして、チャットボットに向いているのは、まさにその「簡単すぎて記憶に残らない質問」です。
何を記録するか
記録するのは次の6項目だけです。凝ると続きません。
| 項目 | 書き方 | なぜ必要か |
|---|---|---|
| 日付 | 月日だけ | 締め日前後など、時期の偏りを見るため |
| 質問文 | 言われたそのままの言葉 | 言い換えずに残すことで、実際の聞き方が分かる |
| 誰から | 部署名だけ(氏名は不要) | 特定の部署に偏るなら、原因は別にある |
| 手段 | 口頭/チャット/電話/メール | 口頭が多いなら、置き場所を考え直す |
| かかった時間 | 1分・5分・15分・それ以上の4段階 | 件数だけでは重さが分からない |
| 調べたか | 即答/資料を見た/人に聞いた | 「調べた」ものほど自動化の価値が高い |
この6列を、共有スプレッドシート1枚に用意します。列が多いほど記録されなくなるので、増やさないでください。
記録の集め方
記録係を1人に決めるのが確実です。バックオフィス担当が2人いるなら、2人とも記録します。ポイントは「答えたあとすぐ、10秒で書く」ことです。まとめて夕方に書こうとすると、必ず抜けます。
チャットツールで質問が来ている場合は、専用のチャンネルを1つ作り、質問はそこに書いてもらう運用に2週間だけ切り替える方法もあります。この場合、質問文をあとから機械的に拾えるので記録の手間がほぼゼロになります。電話が多い職場では、AI電話対応のように音声側で受ける設計も選択肢になりますが、まずは紙のメモでも構いません。
2週間で見えてくること
2週間分の記録を眺めると、たいていの会社で次のことが分かります。
- 質問の種類は思ったより少ない。上位20問前後で、件数の大半を占めることが多い
- 同じ内容が、まったく違う言葉で聞かれている(「経費」「立替」「精算」「領収書」)
- 月初・月末・締め日の前に、質問が集中している
- 「即答できた質問」と「資料を見た質問」で、実際の負担がまるで違う
- そもそも社内資料のどこに書いてあるか誰も知らない項目がある
最後の項目は特に重要です。チャットボット以前に、資料の置き場所を直せば解決する質問が混ざっています。それはボットに入れず、案内の1行を貼り替えるだけで済ませてください。作らずに済ませるのも立派な解決です。
記録から答える質問を選ぶ
2週間の記録がそろったら、そこから最初に載せる問いを選びます。全部載せてはいけません。
頻度と手間の2軸で並べる
記録した質問を、「頻度(多い/少ない)」と「1件あたりの手間(重い/軽い)」の2軸で分けます。
| 手間が軽い | 手間が重い | |
|---|---|---|
| 頻度が高い | 最優先で入れる。効果が最も大きい | 2番目に入れる。ただし答えが長くなるので分割する |
| 頻度が低い | 入れない。放っておいてよい | 入れない。人が対応する前提で、担当者名だけ案内する |
「頻度が低く手間が重い質問」を入れたくなりますが、我慢してください。手間が重い質問は答えの作成にも時間がかかるうえ、めったに使われないので更新されず、真っ先に古くなります。古い答えを返すボットは、答えないボットより有害です。
最初は20〜30問に絞る
初回に用意するのは20〜30問で十分です。100問用意しようとすると、作るのに数週間かかり、その間に熱が冷めます。20問なら数日で作れます。足りなければ後から足せますが、作りすぎたものは減らせません(誰も「この質問を消していいか」を判断できなくなるため)。
選ぶ基準は次のとおりです。
- 2週間で3回以上聞かれた
- 答えが3〜5行で書ける
- 答えが今後3か月は変わらない
- 答えるのに個人の判断が要らない
- 間違えても取り返しがつく
載せてはいけない質問
逆に、記録に何度出てきても載せてはいけないものがあります。
- 人事評価・給与・処遇に関する個別の質問。制度の説明はよいが、個人の話は必ず人が答える
- 労務や法令の解釈が絡む質問。「この残業は認められますか」の類い
- 取引先や顧客の個別情報。単価、契約条件、担当者の連絡先
- 例外対応の可否。「今回だけ何とかなりませんか」は必ず人へ
- まだ社内で決まっていないこと。決まっていないものに答えを作ると、それが既成事実になる
この線引きは、社内のAI利用ルールと連動させておくと迷いません。ルール側の考え方は社内のAI利用ルールの作り方で整理しています。
答えの書き方|1問1答の型
選んだ20〜30問に、答えを書いていきます。ここは単純作業ですが、型を決めておくと後の運用が楽になります。
1問につき答えは1つに
「Aの場合は◯◯、Bの場合は△△、ただしCなら□□」と書きたくなりますが、これをやると読まれません。条件が分かれるなら、質問そのものを分けてください。「経費精算の締め日は」ではなく「【正社員】経費精算の締め日は」「【業務委託】請求書の提出期限は」のように分けます。質問が増えることを恐れないでください。増えて困るのは答えが重複したときだけです。
更新日と担当を必ず書く
答えの末尾に、「最終更新:◯年◯月/担当:総務」の1行を必ず付けます。これがないと、半年後に誰もその答えを直せなくなります。読む側にとっても、更新日が新しいかどうかは信用の判断材料になります。
例外は条件つきで書く
例外がある質問では、例外の中身を書くのではなく、「例外があるので総務に確認してください」と書くのが正解です。例外を全部書こうとすると答えが長くなり、しかも必ず書き漏れが出ます。書き漏れた例外に当たった人は、「このボットは嘘をつく」と判断します。
答えの型を決めたら、次の並びで書き揃えます。
- 結論(1行)
- 手順または条件(3行以内)
- 関係する資料の場所(1行)
- 判断が必要な場合の連絡先(1行)
- 最終更新日と担当(1行)
答えられないの設計が最重要
ここが、チャットボット作りで最も大事な部分です。多くの人は「どれだけ多くの質問に答えられるか」を考えますが、実務で信用を左右するのは「答えられないときにどう振る舞うか」です。
迷ったら答えないを既定に
生成AIを使う場合、はっきり指示しないと、AIは知らないことにも自然な文章で答えます。もっともらしい嘘が返ってくる現象です。これを防ぐには、参照できる社内の情報に書かれていないことは答えないという指示を、明確に設定しておく必要があります。
具体的には、次のような方針を組み込みます。
- 用意した社内情報に根拠がない場合は、推測で答えず「分かりません」と返す
- 答えるときは、どの資料に基づくかを併記する
- 金額・期限・法令に関わる内容は、必ず確認先を添える
- 複数の解釈がある質問は、答えを選ばず人へ渡す
誤った答えを減らすための考え方は、AIのハルシネーション対策で詳しく扱っています。チャットボットを作る前に、この考え方だけは押さえておいてください。
人へつなぐ導線の作り方
「分かりません」で終わるボットは、やはり使われません。大事なのはその次の1行です。次の3つを必ず入れてください。
| 入れるもの | 具体例 | 効果 |
|---|---|---|
| 渡す先 | 「総務チャンネルへどうぞ」(リンク付き) | 利用者が探す手間をゼロにする |
| 渡し方 | 質問文をそのまま貼れる形で表示する | 2度説明させない |
| 戻ってくる目安 | 「平日9〜17時、おおむね当日中に返答」 | 待てるかどうかを利用者が判断できる |
この3つがそろっていると、「答えられなかった」が「取り次いでくれた」に変わります。利用者の体験としては成功です。逆に、これがないと「使えないボット」という評価だけが残ります。
未回答は必ず記録する
答えられなかった質問は、必ずログに残す設計にしてください。この未回答ログが、運用フェーズでの唯一の改善材料になります。ここを設計に入れ忘れると、公開後に「何を足せばいいのか」が分からなくなり、更新が止まります。
作り方の選択肢|3つの型
ここまで決まって、ようやく「どう作るか」です。中小企業が現実的に取れる型は3つあります。
一問一答をそのまま並べる型
用意した20〜30問を、そのまま検索できる形で並べる方法です。社内Wiki、共有ドキュメント、チャットツールの固定投稿でも成立します。厳密にはチャットボットではありませんが、多くの職場ではこれで足ります。
利点は、間違った答えが返ってくる余地がゼロなこと、作成が数日で終わること、更新が誰でもできることです。欠点は、聞き方が違うと見つからないこと。「立替」で書いた項目は「経費」では探せません。
社内文書を読ませて答えさせる型
生成AIに社内の規程やマニュアルを参照させ、その範囲で答えさせる方法です。仕組みとしてはRAGと呼ばれるもので、言い換えに強いのが最大の利点です。「立替」でも「経費」でも「領収書」でも、同じ答えにたどり着きます。
一方で、参照させる資料が古かったり、同じ内容が複数の資料に矛盾して書かれていたりすると、そのまま誤答になります。資料を整理せずに導入すると、社内の資料が散らかっている事実が可視化されるだけで終わります。仕組みの中身と、向き不向きはRAGとは何かで解説しています。
既存ツールの機能を使う型
すでに使っているチャットツールやグループウェアに、質問応答の機能が付いていることがあります。新しい契約を増やさずに済み、社員が新しい場所を覚えなくてよいのが利点です。「どこにあるか分からないから使われない」という失敗を、構造的に防げます。
制約は、できることが提供元の仕様に縛られることです。細かい制御はできませんが、最初の1本としては十分な場合が多いでしょう。
| 一問一答型 | 社内文書を読ませる型 | 既存ツールの機能 | |
|---|---|---|---|
| 作る手間 | 小さい | 中〜大 | 小さい |
| 言い換えへの強さ | 弱い | 強い | ツールによる |
| 誤答の危険 | ほぼない | 設計次第で出る | 設計次第で出る |
| 更新のしやすさ | 誰でもできる | 資料の整備が要る | 比較的容易 |
| 向いている場面 | 質問が20〜30問で固定 | 資料が多く聞き方が多様 | まず1本試したい |
迷ったら、一問一答型で始めて、言い換えで見つけられない不満が実際に出てから2番目に移るのが安全です。最初から2番目を選ぶと、資料整理という別の大仕事が同時に発生し、たいてい止まります。
具体的な手順|6ステップ
ここまでの内容を、実際の作業順に並べます。所要は、記録の2週間を含めて約1か月です。
ステップ1と2:記録と選定
- 2週間、質問を記録する(1日あたり5分程度)。記録係を決め、6列のシートに書き込む
- 頻度と手間で並べ、20〜30問を選ぶ(半日)。同時に「載せない質問」も明文化する
ステップ3と4:試作と身内テスト
- 答えを書く(1問15分、30問で約7〜8時間)。型に沿って結論から書く。同時に「答えられないときの導線」を先に決める
- 身内10人で2週間試す。ここで見るのは正答率ではなく、「聞かれ方の実態」と「未回答の中身」。この期間に出た未回答から、追加すべき問いを拾う
身内テストで最も多い発見は、「想定した言葉で誰も聞いてこない」ことです。作った側は制度の名前で書きますが、利用者は自分の困りごとの言葉で聞きます。「就業規則第◯条」ではなく「半休って午前だけ取れる?」です。質問文のほうを、利用者の言葉に書き換えてください。
ステップ5と6:公開と運用
- 全社に出す。このとき、「何に答えられて、何に答えられないか」を明示する。期待値を先に下げておくと、評価が安定する
- 月1回30分の運用に入る。未回答ログを見て5問足し、古くなった答えを直す
「◯月◯日から、社内の質問に答える窓口を作りました。いまは【経費精算・勤怠・備品・システムのログイン】の4分野、約30問に答えられます。それ以外や、個別の判断が必要な内容には答えられないので、その場合は総務チャンネルへどうぞ。答えられなかった質問は記録して、毎月足していきます。」
この「いまは何に答えられるか」を書くかどうかで、初月の評価がまったく変わります。万能だと思わせないことが、使い続けてもらう条件です。
顧客情報を扱わせない線引き
情報通信白書でも、生成AI導入の懸念として2番目に多く挙げられたのが「社内情報の漏えい等のセキュリティリスク」でした。チャットボットでは、この線引きを作る前に決めておきます。あとから狭めるのは、ほぼ不可能だからです。
入れてはいけない情報
- 顧客の氏名・連絡先・住所を含む一覧やファイル
- 個別の取引条件(単価表、値引きの経緯、与信の情報)
- 従業員の個人情報(給与、評価、健康、家族の情報)
- 未公開の経営情報(資金繰り、人事異動、提携の交渉)
- 他社から秘密保持の約束で預かった情報
判断に迷ったら、「この情報が全社員に見えても困らないか」を基準にしてください。社内向けチャットボットは、実質的に「全社員が見られる場所」です。アクセス権を細かく分ける設計もできますが、最初からそこに手を出すと構築が止まります。分けるのではなく、最初は入れないのが現実的です。
入力させない工夫
情報は、こちらが入れなくても利用者が打ち込みます。「山田様の件で」と入力される可能性は常にあります。次の3つで抑えます。
- 入力欄の近くに「顧客名・個人名は入力しないでください」と表示する
- やり取りの保存期間を短く決めておく(例:30日で削除)
- 入力内容が外部の学習に使われない設定になっているかを、契約前に確認する
社内ルールとの接続
チャットボット単体でルールを作ると、他のAI利用と食い違います。すでに社内でAIを使っているなら、既存のルールに「チャットボットの場合」という項を足す形にしてください。ルールの作り方そのものは社内のAI利用ルールの作り方にまとめています。
モデルケース|社内問い合わせの試算
作る手間と、減る手間を数字で並べます。
- 以下は実在の企業ではなく、当社が想定する典型的な状況にもとづく試算です。
- 社員30名、バックオフィス2名で総務・経理を兼務する会社を想定しています。
- 金額換算は時給2,500円・月20営業日を前提としています。
- 自己解決の割合は実績値ではなく、仮に置いた数字です。実際の値は各社で必ず異なります。この表は「自社の記録から同じ計算をするための型」として使ってください。
まず、記録した2週間から現状を出します。社内からの質問が1日20件、1件あたり回答と作業復帰で平均6分かかっていたとすると、1日120分、月20営業日で月40時間。時給2,500円で換算すると月10万円相当です。
| 自己解決の割合(仮定) | 減る時間(月) | 金額換算(月) |
|---|---|---|
| 3割 | 12時間 | 30,000円相当 |
| 5割 | 20時間 | 50,000円相当 |
| 7割 | 28時間 | 70,000円相当 |
一方、作る側の手間です。
| 作業 | 時間 | 金額換算 |
|---|---|---|
| 2週間の記録(1日5分×10日) | 約1時間 | 2,500円相当 |
| 問いの選定 | 約2時間 | 5,000円相当 |
| 答えの作成(30問×15分) | 約8時間 | 20,000円相当 |
| 身内テストと修正 | 約3時間 | 7,500円相当 |
| 初期の合計 | 約14時間 | 35,000円相当 |
| 運用(月30分) | 月0.5時間 | 月1,250円相当 |
この2つを並べると、判断の材料が見えます。仮に自己解決が3割にとどまっても、初期の14時間は数か月で戻る計算になります。逆に、もともと社内からの質問が1日5件しかない会社では、作る手間のほうが大きくなります。だからこそ、2週間の記録が必要なのです。記録を取らずに作れば、この判断ができません。
なお、ツールの利用料は選ぶ方式によって幅があるため、この試算には含めていません。ここで示したのは、あくまで人の時間の増減だけです。
公開後の育て方|月30分の運用
チャットボットは作って終わりではありません。ただし、毎日面倒を見る必要もありません。月30分で十分です。
見るのは未回答ログだけ
運用で見るのは、答えられなかった質問の一覧だけにしてください。利用回数や満足度を追い始めると、時間だけかかって改善につながりません。未回答ログには「利用者が本当に知りたかったこと」が、そのままの言葉で並んでいます。
未回答は3つに分けます。
- 答えを足すべきもの(複数回出ていて、答えが決まっている)
- 言い換えを足すべきもの(答えはあるのに見つけられていない)
- 人が答えるべきもの(個別判断が必要。足さない)
3つ目を足したくなるのが、運用でいちばんの落とし穴です。「人が答えるべきもの」を足し始めると、線引きが崩れます。
月1回、5問だけ足す
足すのは月5問までと決めてください。上限を決めておくと、優先順位を考えるようになります。上限がないと、その月に時間があるかどうかで作業量が変わり、結局続きません。
古い答えを消す勇気
運用で最も忘れられるのが、削除です。制度が変わった、システムが変わった、担当が変わった。そのたびに古い答えが残ります。月30分の運用のうち、10分は「更新日が古い順に5件見て、まだ正しいか確認する」に使ってください。正しいか分からない答えは、直すのではなく消す。消した項目は人に渡す扱いに戻せばよいだけです。
うまくいかない5つのパターン
| パターン | 何が起きるか | 先回りの手 |
|---|---|---|
| 記録せずに作った | 誰も聞かない質問に丁寧に答えるものができる | 2週間の記録を必ず先に置く |
| 最初から100問入れた | 公開まで数か月かかり、その間に熱が冷める | 20〜30問で公開し、月5問ずつ足す |
| 答えられない設計がない | もっともらしい嘘を返し、一度で信用を失う | 根拠がなければ答えない方針を先に組み込む |
| 置き場所が分かりにくい | 存在を忘れられ、結局人に聞かれる | 既に毎日開いている場所に置く |
| 担当が決まっていない | 3か月で更新が止まり、古い答えだけが残る | 月30分の担当を1人、名前で決める |
5つ目は軽く見られがちですが、実際にはこれが最も多い終わり方です。「みんなで更新する」は、誰も更新しないという意味です。月30分なら、専任でなくても担えます。名前を決めてください。
やめる判断も選択肢
作ったものを続けるかどうかは、3か月で判断します。続ける前提で走り続けるより、やめる基準を先に決めておくほうが、着手のハードルが下がります。
3か月で見る2つの指標
- バックオフィスに来る質問の件数が、記録した2週間と比べて減ったか
- 未回答ログに新しい質問が出てくるか(=そもそも使われているか)
1つ目が減っていないのに2つ目が動いているなら、答えの中身が足りていないだけです。改善の余地があります。逆に2つ目が止まっているなら、使われていないということです。この場合、答えを足しても状況は変わりません。置き場所を変えるか、やめるかの2択です。
やめても記録は残る
やめる決断をしても、2週間の記録と、選んだ20〜30問の答えは残ります。これは業務マニュアルとしてそのまま使えますし、新人教育の資料にもなります。チャットボットという形が合わなかっただけで、作った中身は無駄になりません。
やめる判断の出し方全般は、AI導入をやめる判断で整理しています。他の取り組みにも同じ考え方が使えます。
社外向けに広げるときの条件
社内向けが3か月安定して回ったら、社外向けを検討できます。移すときの条件は3つです。
- 未回答ログが月10件を下回っている。社内で答えきれていないなら、社外では確実に答えきれない
- 金額・納期・契約に触れる質問を、確実に人へ渡せている。ここが漏れると商談が壊れる
- 営業時間外の受け答えと、翌営業日の引き継ぎが決まっている。夜間に来た質問が朝に消えないこと
社外向けで難しいのは、答えの精度よりも「渡したあと」です。ボットが受けた内容が営業に届かない、届いても誰が対応するか決まっていない、という詰まりが起きます。社内向けで人へ渡す運用を回しておくと、この部分が先に鍛えられます。これが、社内から始めるべき最も実務的な理由です。
問い合わせ対応全体の設計や、電話・メールを含めた受け口の組み方はカスタマーサポートのAI活用を、社内業務のどこから手をつけるかは業務効率化のアイデアをあわせてご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q. プログラミングができなくても作れますか
A. 作れます。この記事で示した手順のうち、時間がかかるのは記録と答えの作成で、どちらもプログラミングとは関係ありません。一問一答型なら、共有ドキュメントとチャットツールだけで成立します。技術的な設定は、選んだ方式によっては必要になりますが、それは全体の1割ほどの作業です。むしろ、技術から入ると「何を答えさせるか」が空のまま作り始めることになるので、順番としては不利です。
Q. 何問くらい用意すればよいですか
A. 最初は20〜30問です。2週間の記録で3回以上聞かれたものだけを選べば、自然にその程度に収まります。100問を目指すと公開が遅れ、そのうち古くなる項目も増えます。運用に入ってから月5問ずつ足せば、1年で80問前後になります。そのペースで足りるかどうかも、未回答ログを見れば分かります。
Q. 2週間の記録は本当に必要ですか
A. 必要です。省いた場合、ほぼ確実に「作った人が答えたかったこと」が並びます。実際に多いのは、答えるのが簡単すぎて記憶に残らない質問です。記録を取ると、その簡単な質問が件数の大半を占めていることが分かります。どうしても2週間取れない場合は、最低1週間、締め日をまたぐ期間で取ってください。時期によって質問の中身が大きく変わるためです。
Q. 間違った答えを返すのが心配です
A. その心配は正しいので、「答えられないときの設計」を先に作ってください。根拠となる社内情報にない内容は答えない方針にし、答えるときは根拠の資料名を併記します。そのうえで、金額・期限・法令に関わる質問は必ず人へ渡す扱いにします。誤答の減らし方はAIのハルシネーション対策にまとめています。
Q. 社内文書を読ませるやり方が気になります
A. 言い換えに強くなるのが最大の利点で、聞き方が人によってばらつく職場では効果的です。ただし、参照させる資料が古い・矛盾しているとそのまま誤答になります。導入前に、規程やマニュアルの最新版がどれか整理できているか確認してください。仕組みと向き不向きはRAGとは何かで解説しています。
Q. どこに置くのがよいですか
A. 社員が毎日すでに開いている場所です。新しいアプリやURLを覚えてもらう設計にすると、公開直後だけ使われて終わります。チャットツールを日常的に使っているならその中に、グループウェアを使っているならそのトップに置いてください。「置き場所が分かりにくい」は、答えの質より先に効いてくる要因です。
Q. 誰が運用担当になるべきですか
A. 質問を最も多く受けている人です。総務や経理の担当者であることが多いでしょう。その人にとっては、運用が自分の負担を減らす作業になるので続きます。情報システム担当に任せると、質問の中身が分からないため未回答ログを判断できず、止まります。名前で1人決めて、月30分を業務時間として確保してください。
Q. 顧客名や個人名を入力されたらどうしますか
A. 完全には防げないので、3つの手で抑えます。入力欄の近くに「顧客名・個人名は入力しないでください」と表示する、やり取りの保存期間を短く決めておく、入力内容が外部の学習に使われない設定かを契約前に確認する、の3点です。加えて、そもそも顧客情報を含む資料をボット側に入れないことが最も確実な防御になります。
Q. 費用はどのくらいかかりますか
A. 方式によって幅があるため、金額の目安はここでは出しません。代わりに先に決めるべきは「人の時間」です。この記事の試算では、初期に約14時間、運用に月30分を見込んでいます。ツールの利用料を検討するのは、この時間を出せるかどうかを確認してからで十分です。時間が出せない会社では、どんな価格でも運用が止まります。
Q. 電話で来る問い合わせにも使えますか
A. 文字で答えるチャットボットと、電話の受け答えは別の設計になります。電話は「待たせない」「聞き返す」といった要素が加わるためです。ただし、2週間の記録と、答えるべき20〜30問という土台は共通で使えます。電話側の考え方はAI電話対応を参照してください。
Q. 作ったのに誰も使ってくれません
A. 原因は多くの場合3つのどれかです。置き場所が遠い/答えられる範囲が伝わっていない/最初に使ったとき答えられなかった。まず未回答ログを見てください。ログに何も残っていないなら、そもそも開かれていないので、置き場所の問題です。ログはあるのに答えられていないなら、質問文を利用者の言葉に書き換える作業が足りていません。
Q. 中小企業でも本当に意味がありますか
A. 規模が小さいほど、質問が特定の1〜2人に集中しているので、その人の時間が空く効果は分かりやすく出ます。ただし、質問件数がもともと少ない会社では作る手間のほうが上回ります。2週間の記録で件数を数えれば、その判断ができます。なお総務省「令和7年版 情報通信白書」では、日本の企業規模別で見ると中小企業では「方針を明確に定めていない」との回答が約半数を占めています。方針から入ると止まりやすいので、1業務から始めて記録で判断するほうが現実的です。
Q. 社内で反対が出たときはどうしますか
A. 反対の中身が「情報漏えいが心配」なら、扱わせない情報の一覧を示すことで、多くは解けます。「どうせ使わない」なら、2週間の記録を見せてください。実際の質問件数と、そこに使われている時間が数字で出ていれば、議論は具体的になります。反対そのものより、感想で話すか記録で話すかのほうが結論を左右します。
まとめ|順番を間違えないこと
本記事の要点を整理します。
- 社内向けから始める。間違えても改善材料として返ってきて、効果を件数で測れる
- 作る前に2週間、実際に来た質問を記録する。頭で思い出した質問は当てにならない
- 最初は20〜30問。頻度が高く手間が軽いものから入れ、頻度が低いものは入れない
- 「答えられない」の設計が最重要。根拠がなければ答えず、渡す先・渡し方・戻る目安の3点を必ず添える
- 顧客情報・個人情報は入れない。アクセス権で分けるより、最初から入れないほうが確実
- 月30分、未回答ログだけ見て5問足す。古い答えは直すより消す
- 3か月でやめる判断もする。やめても記録と答えはマニュアルとして残る
チャットボット作りでつまずく会社は、技術で失敗しているのではありません。作る前に調べるべきことを調べず、答えられないときのことを決めないまま作り始めているだけです。逆に言えば、2週間の記録と、人へつなぐ導線。この2つさえ押さえれば、最初の1本は数日で形になります。
情報通信白書によれば、業務で生成AIを利用していると回答した割合は日本で55.2%、用途としては「メールや議事録、資料作成等の補助」が47.3%でした。また、活用推進による自社への影響について、日本では「業務効率化や人員不足の解消につながる」が最も多く挙げられています。社内問い合わせへの対応は、まさにその期待に直結する題材です。まずは記録用のシートを1枚作るところから始めてください。
Ai-Rakuでは、業務を見ながら1業務から始めるAI導入・業務効率化を支援しています。2週間の記録の取り方、答えるべき問いの選び方、答えられないときに人へ渡す導線の設計、公開後に続く運用の形まで、御社の質問の量と体制に合わせて設計します。まずは、いま誰にどんな質問が集まっているかを整理するところから始められます。
チャットボットを作る前に、そもそも問い合わせがどこから来ているかを揃える必要があります。問い合わせ管理の仕組みで経路の統一から解説しています。
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