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小売・EC

ECサイト構築の費用|見積もりの内訳と膨らむ5つの原因

📅 公開日 2026.08.30 ⏱ 読了 約35分
前田 大輔
監修者
前田 大輔Ai-Raku(アイラク) 代表

業務効率化支援を行う「Ai-Raku(アイラク)」代表。国立大学でAIの研究を行い、ITコンサル・ウェブコンサルを経て独立。官公庁向けの業務効率化や上場企業の支援等を経て、中小企業の現場に定着するAI活用を企画から運用まで一気通貫で支援している。著書に『中小企業のAI定着の教科書 — 入れた後に、何をするか』(2026年)。

ECの費用は運用で決まる
Qこの記事のポイント
ECサイト構築の相場はいくらですか
制作会社に外注した場合の相場について、出典を示せる公的な調査データは確認できません。そのため本記事では金額を書いていません。相場を探すより、本記事の「変動要因6つ」で目の前の見積もりを分解するほうが実用的です。一方、ASP・SaaS型の月額料金は各社が公開しています。Shopify、BASE、STORES、カラーミーショップなどの公式料金ページで確認してください。
無料で始めることはできますか
月額0円のプランは実在します。BASEのスタンダードプランは月額0円、STORESのフリープランも月額0円です(各社公式料金ページ)。ただし売れたときの手数料は発生します。BASEスタンダードは決済手数料3.6%+40円にサービス利用料3%が加わり、STORESフリーは決済手数料5.5%〜です。月額0円は「固定費0円」であって「無料」ではありません。
商品点数が多いと費用は上がりますか
上がります。理由は2つあり、1つは商品点数でプランが分かれるサービスがあること(futureshopは商品50点から10,000点までプランが分かれています)、もう1つは登録・原稿・撮影の作業量が点数に比例することです。後者のほうが金額としては大きくなります。
決済手数料は何%が目安ですか
サービスとプランによって幅があります。本記事で確認した範囲では、月額0円のプランで5.5%〜、月額を払うプランで2.9%〜3.6%程度の水準です。決済手数料と別にサービス利用料がかかる場合があるため、必ず両方を足した負担率で比べてください。詳細は各社の公式料金ページをご確認ください。
見積もりが会社で違う理由は
含まれている工程が違うためです。とくに商品登録・説明文作成・写真加工といったコンテンツ作業が含まれているかどうかで、金額は大きく変わります。同じ内容のRFPを各社に渡し、「この見積もりに含まれない作業」を1行ずつ書かせると理由が見えます。
デザインはテンプレートで十分ですか
立ち上げ時はテンプレートで問題ありません。売れない理由がデザインであることは、実際にはあまり多くないためです。まずは商品情報の充実と写真の質に予算を配分し、売れ筋が見えてからデザインに投資する順序をおすすめします。
販売管理システムと連携できますか
連携の頻度によって難易度と金額が大きく変わります。1日1回のファイル連携であれば多くのサービスで対応可能ですが、注文の瞬間に在庫を引き当てるリアルタイム連携は要件が跳ね上がります。「どのデータを、どちらからどちらへ、どの頻度で」の3点を先に決めてから相談してください。
公開後の維持費の目安は
システムの月額、決済手数料、オプション料金、そして社内の作業時間の4つを合算してください。とくに4つ目は見積書に載りません。本記事の「忘れられがちな人の費用」の表を自社の数字で埋め、月の合計時間に時給を掛けて算出してください。
自社で作るか外注か迷います
商品点数が少なく、社内に手を動かせる人がいるなら、ASP型を自社で立ち上げる選択は十分に現実的です。判断基準は「作れるか」ではなく「公開後に更新し続けられるか」です。更新を担当できる人がいない場合、自社構築は最初だけ安く、その後で高くつきます。
AIで商品説明文を作ってよいか
下書きの生成には有効です。ただし公開前に必ず人が事実確認をしてください。入力していない産地や効能が混ざることがあります。指示文に「入力した事実以外は書かない」と明記し、原材料表示と突き合わせる工程を手順に入れることをおすすめします。
法令の表記はどこを見ればよいですか
通信販売の広告表示義務は特定商取引法に定めがあります(e-Gov法令検索)。実務的な整理は消費者庁のページが分かりやすくまとまっています。制作会社に任せきりにせず、自社の商品と返品条件に合っているかは必ず自社で確認してください。
補助金は使えますか
中小企業向けにはIT導入補助金などの制度があります。対象経費や要件は年度ごとに変わり、発注先が支援事業者として登録されている必要がある枠もあります。商談の初回に必ず確認してください。
モールへの出店とどちらが先ですか
目的が違うため、比較よりも役割分担で考えてください。モールは集客力がある代わりに手数料と競合が厳しく、自社ECは集客を自力で行う代わりに顧客との関係を自社に残せます。まず自社ECで商品情報と写真を整え、その資産をモール出店にも使い回す順序が、作業量としては効率的です。
既存サイトから移行する際の注意点は
3つあります。①旧URLから新URLへの転送設定を必ず行うこと ②会員データの移行方法を事前に確認すること ③公開直後は注文が正しく通るかを実際に自分で買って確かめることです。とくに①を忘れると、検索からの流入を大きく失います。

「自社の商品をネットで売りたい。でも、ECサイトの構築にいくらかかるのかが分からない」——小売業・卸売業・メーカーの経営者から、非常に多くいただくご相談です。検索すると「30万円〜」「500万円〜」と幅のある金額が並び、かえって判断がつかなくなります。

金額の幅が大きいのには理由があります。ECサイト構築の費用は「サイトを作る作業の値段」ではなく、「どの方式を選び、どこまでを自社で回すか」で決まるからです。同じ商品数・同じ売上規模でも、方式と運用体制が違えば費用は何倍にも変わります。

本記事では、中小企業のAI導入を支援するAi-Raku(アイラク)の視点で、発注する側が見積もりを読み解くための材料を整理します。ASP・SaaS型の料金は各社の公式料金ページを実際に開いて確認し、出典リンクを添えました。一方で、制作会社に外注した場合の「相場」は書きません。公的な調査データが確認できないためです。根拠のない相場は、発注判断をかえって誤らせます。代わりに「見積もりが何で動くか」の構造と、そのまま使える比較表・チェックリストをお渡しします。

AI導入全体の進め方は中小企業のAI導入は何から始める?、発注そのものの考え方はAI受託開発の発注ガイドもあわせてご覧ください。

この記事でわかること

  • ECサイト構築の費用を決めているのは初期費用ではなく運用であること
  • 構築方法4つの違いと、ASP各社の公式料金(実際に確認した数値・出典リンクつき)
  • 見積書を5層に分解して読む方法と、そのまま使える比較項目表
  • 費用が膨らむ5つの原因と、それぞれの防ぎ方
  • AIで圧縮できる工程と、AIに任せてはいけない工程の線引き
  • 公開後に毎月・毎年かかる費用の一覧
  • 発注前に決めておく7項目のチェックリスト
  • 【モデルケース試算】商品80点の食品卸が立ち上げた場合の工数内訳
  1. 結論|費用は運用で決まる
    1. 初期費用より続く費用が効く
    2. 方式選びは商品点数で決まる
    3. 金額差の正体は3つ
  2. 構築方法4つと費用の幅
    1. ASP・SaaS型の料金を実測
    2. オープンソース型の費用構造
    3. パッケージ・クラウドECの位置
    4. フルスクラッチを選ぶ条件
    5. 判断の分かれ目3つ
  3. 見積もりの内訳を分解する
    1. 見積書は5層に分けて読む
    2. 変動要因6つで金額は動く
    3. 見積もり比較の項目表
    4. 「一式」の見積もりは差し戻す
  4. 費用が膨らむ5つの原因
    1. 原因1|商品データが未整備
    2. 原因2|決済・配送の要件後出し
    3. 原因3|基幹システム連携
    4. 原因4|デザインの作り込み
    5. 原因5|運用担当を決めていない
  5. AIで圧縮できる工程
    1. 商品説明文の下書き
    2. 商品データの整形と分類
    3. 問い合わせの一次対応
    4. 写真の背景処理と型づくり
    5. 要件定義のたたき台
  6. AIに任せない工程
    1. 価格と送料の決定
    2. 法令表記の最終確認
    3. 商品写真の最終判断
    4. 個人情報と決済の設計
    5. 線引きの一覧表
  7. 公開後にかかる費用
    1. 毎月必ず出る費用
    2. 年に一度出る費用
    3. 忘れられがちな人の費用
    4. セキュリティ対応の費用
  8. 発注前に決める7項目
    1. 7項目チェックリスト
    2. RFPに書き写す形にする
    3. 決めずに相談するとどうなるか
  9. モデルケース|商品80点の卸
    1. 前提と課題
    2. 方式の選び方と初期の内訳
    3. 試算|削減時間の内訳
    4. つまずいた点と直し方
  10. よくある質問(FAQ)
    1. Q. ECサイト構築の相場はいくらですか
    2. Q. 無料で始めることはできますか
    3. Q. 商品点数が多いと費用は上がりますか
    4. Q. 決済手数料は何%が目安ですか
    5. Q. 見積もりが会社で違う理由は
    6. Q. デザインはテンプレートで十分ですか
    7. Q. 販売管理システムと連携できますか
    8. Q. 公開後の維持費の目安は
    9. Q. 自社で作るか外注か迷います
    10. Q. AIで商品説明文を作ってよいか
    11. Q. 法令の表記はどこを見ればよいですか
    12. Q. 補助金は使えますか
    13. Q. モールへの出店とどちらが先ですか
    14. Q. 既存サイトから移行する際の注意点は
  11. まとめ

結論|費用は運用で決まる

結論から書きます。ECサイト構築の費用を最終的に決めているのは、制作会社の見積書ではなく、公開後に誰がどれだけ手を動かすかです。初期費用を半分に抑えても、運用が回らずに人を増やせば、1年で逆転します。

初期費用より続く費用が効く

ECサイトの費用は、大きく3つに分かれます。初期構築費・毎月の固定費・売れるたびに発生する変動費の3つです。検索でよく目にする「◯◯万円」は1つ目だけを指しています。

ところが実際に事業を圧迫するのは、2つ目と3つ目です。とくに決済手数料は売上に比例して増え続けるため、月商が伸びるほど効いてきます。たとえば決済手数料が3.6%と2.9%では0.7ポイントの差ですが、月商300万円なら月2万1,000円、年間で25万2,000円の差になります。プランの月額料金だけを比べても意味がないのは、このためです。

そしてもう1つ、見積書に絶対に載らない費用があります。自社の社員がECに使う時間です。商品登録、説明文の作成、写真の加工、問い合わせ返信、受注処理。この人件費を数えていない計画は、ほぼ確実に破綻します。本記事のモデルケースでは、この社内工数を時間で見える化しています。

方式選びは商品点数で決まる

「どの方式を選ぶべきか」で最初に効く変数は、商品点数と、その商品が持つバリエーションの数です。

商品が10点なら、月額0円のサービスでも十分に成立します。商品が3,000点あり、サイズと色の組み合わせがそれぞれにあり、在庫を店舗と共有しているなら、話はまったく別です。後者で月額0円のサービスを選ぶと、登録作業と在庫のずれで現場が止まります。

費用の話をする前に、次の3つを数えてください。この3つが決まらないうちは、どの見積もりも比較できません。

  • 商品点数(SKUベース。色・サイズ違いを別に数える)
  • 月の受注件数の見込み(1日あたり何件か)
  • 在庫を他とつないでいるか(実店舗・卸・他モールとの共有の有無)

金額差の正体は3つ

相見積もりで金額が2倍3倍と違うとき、その差はほぼ次の3つのどれかです。値引き交渉の前に、まずどれに当たるかを見分けてください。

差の正体 見積書での見え方 確認する質問
含む工程が違う 片方に「商品登録」「原稿作成」の行がない 「この見積もりに含まれない作業を1行ずつ挙げてください」
作り込みの深さが違う デザイン費・カスタマイズ費の桁が違う 「テンプレートのどこを、どの理由で変えますか」
誰が作業するかが違う 安いほうは自社作業が前提になっている 「弊社側で発生する作業と、その想定時間を教えてください」

安い見積もりが「安い」のではなく、「含まれていない」だけであることが大半です。差額の理由を1行ずつ言語化させると、比較が一気に楽になります。

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構築方法4つと費用の幅

ECサイトの作り方は、大きく4つに分かれます。それぞれ費用の構造がまったく違うため、まず自社がどの土俵にいるかを決めます。

なお、ここから挙げる料金は2026年8月時点で各社の公式料金ページを実際に開いて確認した数値です。税込・税抜の表記や適用条件は各社で異なりますので、契約前には必ずリンク先の公式ページをご確認ください。

ASP・SaaS型の料金を実測

ASP・SaaS型とは、事業者が提供するECの仕組みを月額で借りる方式です。サーバーもシステム更新も提供元が持つため、初期費用が最も小さく、立ち上げが最も速いのが特徴です。中小企業がECを始める場合、まずここを検討して問題ありません。

主要サービスの公式料金は次のとおりです。

サービス 初期費用 月額 カード決済手数料 出典
Shopify ベーシック 記載なし 3,650円(年払い)/4,850円(月払い) 3.55% 公式料金
Shopify Grow 記載なし 10,100円(年払い)/13,500円(月払い) 3.4% 公式料金
Shopify Advanced 記載なし 44,000円(年払い)/58,500円(月払い) 3.25% 公式料金
BASE スタンダード 0円 0円 3.6%+40円(別途サービス利用料3%) 公式料金
BASE グロース 0円 16,580円(年払い)/19,980円(月払い) 2.9%(サービス利用料0円) 公式料金
STORES フリー 0円 0円 5.5%〜 公式料金
STORES スタンダード 0円 3,300円(年払い)/3,960円(月払い) 3.6%〜 公式料金
カラーミー レギュラー 3,300円 4,950円 3.4%〜 公式料金
カラーミー ラージ 3,300円 9,595円 3.19%〜 公式料金
makeshop プレミアム 11,000円 13,750円(長期契約で割引) 3.19%〜3.14% 公式料金
futureshop 50 22,000円 27,000円 要問い合わせ 公式料金
futureshop 10000 52,000円 64,000円 要問い合わせ 公式料金

この表から読み取ってほしいのは、金額の大小ではありません。「月額が上がるほど決済手数料が下がる」という構造です。

BASEを例にすると分かりやすくなります。スタンダードプランは月額0円ですが、決済手数料3.6%+40円に加えてサービス利用料3%がかかります。グロースプランは月額がかかる代わりに決済手数料2.9%でサービス利用料は0円です(BASE公式料金ページ)。売上が小さいうちは月額0円が有利で、売上が伸びると月額を払うほうが有利になるという設計になっています。

つまり、プラン選びは「どのプランが安いか」ではなく「自社の月商だと、どこで有利不利が入れ替わるか」の計算です。月商の見込みを入れて、両方のプランで年間の支払総額を出してから決めてください。

なお、futureshopのように商品点数でプランが分かれる料金体系もあります。公式料金ページによると、商品50点のプランと10,000点のプランでは初期費用も月額も大きく変わります。さらに定期購入・ポイント・クーポン・カート離脱対策などは月額オプションとして別建てです(futureshop公式料金ページ)。「基本料金+必要なオプション」で合計を出さないと、実際の支払額とずれます。

オープンソース型の費用構造

オープンソース型は、公開されているECの仕組みを無償で入手し、自社で用意したサーバーに設置して使う方式です。ソフトウェア自体の利用料はかかりませんが、「無料で作れる」わけではありません。

この方式で実際にかかるのは、次の費用です。

  • サーバー費用(毎月)
  • SSL証明書・ドメイン費用(毎年)
  • 設置・初期設定の作業費
  • 決済モジュールなど拡張機能の購入費
  • 更新・脆弱性対応の作業費(これが最も見落とされる)

最後の項目が重要です。オープンソース型では、システムの更新を自社の責任で行います。更新を止めると、時間の経過とともに攻撃を受けるリスクが上がります。社内に更新を担当できる人がいないなら、この方式は選ばないほうが安全です。費用ではなく体制の問題として判断してください。

パッケージ・クラウドECの位置

パッケージ型・クラウドEC型は、EC専業のベンダーが提供する基盤を導入し、自社の業務に合わせて設定・改修する方式です。ASP型では届かない要件——複雑な会員別価格、基幹システムとの在庫連携、卸と小売の両立など——がある場合に選択肢に入ります。

費用の性質はASP型と大きく異なります。要件を詰める工程(要件定義)そのものに費用が発生するのが特徴です。ここを軽く見て「とりあえず相談」で入ると、要件定義だけで想定外の金額が出ます。この点はシステム開発の発注と共通ですので、AI受託開発の発注ガイドの考え方がそのまま使えます。

フルスクラッチを選ぶ条件

フルスクラッチは、既存の製品を使わずに一から開発する方式です。中小企業がECを始めるにあたって、この方式が正解になる場面はほとんどありません。

選ぶ条件を1つだけ挙げるなら、「売り方そのものが自社の競争力であり、既存のどの製品でも表現できない」場合です。裏を返せば、商品を並べて買ってもらう普通のECであれば、フルスクラッチを選ぶ理由はありません。作る費用より、その後10年間の維持費のほうが大きくなるためです。

判断の分かれ目3つ

どの方式にするかは、次の3つの質問で8割が決まります。

質問 答えがNoなら 答えがYesなら
基幹システムと在庫をリアルタイムで合わせる必要があるか ASP・SaaS型で十分 パッケージ・クラウドEC型を検討
取引先ごとに価格や掛け率を変える必要があるか ASP・SaaS型で十分 BtoB対応の基盤を検討
システムの更新を自社で担当できる人がいるか オープンソース型は避ける オープンソース型も選択肢

市場そのものは伸び続けています。日本通信販売協会の調査では、2025年度(2025年4月〜2026年3月)の通信販売市場の売上高は15兆4,085億円で、前年比5.9%増と発表されています(JADMA 通信販売売上高調査)。参入自体は追い風ですが、追い風だからこそ最初の方式選びで無理をしないことが大切です。

見積もりの内訳を分解する

制作会社から出てきた見積書を、金額の合計だけで比べてはいけません。合計金額は「何が含まれているか」の関数であり、含まれる範囲が違えば比較そのものが成立しないためです。

見積書は5層に分けて読む

ECサイトの見積書は、次の5層に分解できます。この5層に分けて並べ直すと、各社の違いが一目で分かります。

含まれる作業 抜けていたときに起きること
①設計 要件の整理、サイト構成、カテゴリ設計、業務フローの確認 作り直しが発生し、追加費用の交渉になる
②デザイン トップ・商品ページ・カート画面の見た目づくり テンプレートのまま公開することになる
③構築 システム設定、決済・配送の設定、テスト 公開日に注文が通らない事故が起きる
④コンテンツ 商品登録、説明文の作成、写真の加工、法令表記の作成 全部が自社の作業として降ってくる
⑤移行・公開 既存データの移行、ドメイン切替、旧サイトの転送設定 公開直後に検索順位と既存顧客を失う

この5層のうち、見積書から最も高い頻度で抜け落ちるのが④コンテンツです。商品80点のECなら、説明文と写真の準備だけで数十時間の作業になります。ここを誰がやるのかが書かれていない見積もりは、金額が安いのではなく、作業が発注側に残っているだけです。

変動要因6つで金額は動く

見積もりの金額を動かしているのは、次の6つの変数です。安くしたいときは、この6つのどれかを下げる以外に方法はありません。

  1. 商品点数とバリエーション数/登録・撮影・原稿の作業量に直結する
  2. 決済と配送の要件/後払い、代引き、定期購入、複数配送先、ギフト対応の有無
  3. 既存システムとの連携/在庫・受注・会員データをどこまで自動で合わせるか
  4. デザインの作り込み/テンプレート利用か、独自にゼロから設計するか
  5. 移行データの量と状態/既存サイトからの商品・会員・注文履歴の引き継ぎ
  6. 運用体制/公開後の更新を自社で行うか、継続して依頼するか

この6つは、それぞれ独立していません。とくに①商品点数と⑤移行データは掛け算で効きます。商品3,000点を旧サイトから移す場合、データの形式が揃っていないだけで作業量が倍増します。

見積もり比較の項目表

複数社から見積もりを取る際は、同じ表に転記して並べるのが最も確実です。次の表をそのままコピーして、各社の回答を埋めてください。金額欄だけでなく、「含む/含まない/自社作業」の3択で埋めさせるのがポイントです。

確認項目 A社 B社 C社
要件整理・サイト構成の設計
デザイン(何ページ分か)
商品登録(何点まで含むか)
商品説明文の作成(何点分か)
商品写真の撮影・加工
決済の設定(対応する決済手段)
配送・送料設定(地域別・条件別)
特定商取引法・返品特約の表記作成
既存データの移行(商品・会員・履歴)
旧URLからの転送設定
公開前のテスト注文(何件・誰が)
操作説明・マニュアル提供
公開後の保守(範囲と月額)
公開後の修正依頼(回数と単価)
この見積もりに含まれない作業

最後の行が最も重要です。「含まれない作業を1行ずつ挙げてください」と依頼すると、金額の差の理由がほぼ判明します。ここを書けない、あるいは書きたがらない会社は、その時点で候補から外して構いません。

「一式」の見積もりは差し戻す

「ECサイト構築一式」で1行の見積書が出てきた場合は、その場で差し戻してください。比較ができないだけでなく、公開後に「それは含まれていません」という会話が必ず発生します。

差し戻すときの依頼文は、次のように具体的にします。「詳細を出してください」では動きません。

お見積もりを、①設計 ②デザイン ③構築 ④商品登録・原稿作成 ⑤データ移行・公開作業の5つに分けてご提示ください。あわせて、本お見積もりに含まれない作業と、弊社側で発生する作業の想定時間も1行ずつご記載ください。

この一文を送るだけで、見積書の精度が変わります。発注側が分解の枠を渡すと、受注側もその枠で答えざるを得なくなるためです。

費用が膨らむ5つの原因

当初の見積もりから金額が膨らむ理由は、ほぼ決まった5つのパターンに集約されます。それぞれ「なぜ起きるか」と「どう防ぐか」をセットで書きます。

原因1|商品データが未整備

何が起きるか。商品情報がExcel・紙のカタログ・担当者の頭の中に分散していて、ECに載せられる形になっていない。制作が始まってから「商品データをください」と言われ、そこから整備が始まります。この整備期間中もプロジェクトは動いているため、期間が延びた分の費用が発生します。

なぜ起きるか。発注側が「商品データはある」と思っているためです。しかし実際には、規格・容量・原材料・アレルギー表記・画像の有無が商品ごとにバラバラで、そのままでは登録できません。

防ぎ方。相談を始める前に、商品を10点だけ選んで、ECに載せる項目をすべて埋めてみてください。10点で詰まった項目は、全商品で詰まります。この10点の作業に何時間かかったかを測れば、全商品分の工数も見積もれます。

原因2|決済・配送の要件後出し

何が起きるか。構築が進んだ段階で「後払いも入れたい」「クール便と常温便で送料を分けたい」「北海道と沖縄は別料金にしたい」といった要件が出てきます。決済と配送はECの中核であり、後から足すと設定だけでなくテストもやり直しになります。

なぜ起きるか。決済・配送は現場が毎日やっている業務のため、発注側にとって「当たり前すぎて言語化されない」のです。

防ぎ方。相談前に「過去3か月の出荷伝票を20枚めくり、出てきた配送パターンをすべて書き出す」作業をしてください。頭で考えるより、伝票を見るほうが確実に漏れが減ります。決済も同様に、実際に受けている支払方法を全部書き出します。

原因3|基幹システム連携

何が起きるか。「在庫は販売管理システムと自動で合わせたい」という要件が、見積もりを一気に押し上げます。連携先のシステムがデータの出し入れに対応していない場合、追加の仕組みが必要になります。

なぜ起きるか。「連携」という言葉が幅広いためです。1日1回のファイル連携と、注文の瞬間に在庫を引き当てるリアルタイム連携では、費用が桁違いになります。

防ぎ方。「連携したい」ではなく、「どのデータを、どちらからどちらへ、どの頻度で」の3点で書いてください。多くの中小企業では、1日1回のファイル連携で実務上まったく問題ありません。リアルタイム連携が本当に必要か、在庫の動き方から逆算して判断してください。

原因4|デザインの作り込み

何が起きるか。デザイン案の修正が何往復も続き、その分の費用が積み上がります。あるいは「イメージと違う」で作り直しになります。

なぜ起きるか。社内で「良し悪しを誰が決めるか」が決まっていないためです。関係者が増えるほど意見は割れ、往復回数は増えます。

防ぎ方。2つあります。1つはデザインの決裁者を1人に決めること。もう1つは、参考にしたいサイトを3つ挙げ、「どこが良いと思ったか」を1行ずつ書いて渡すことです。この2つで往復回数は目に見えて減ります。

原因5|運用担当を決めていない

何が起きるか。公開後に更新が止まります。そして「社内では回らない」と判断し、運用を外部に依頼することになります。ここで月額の固定費が新たに発生します。

なぜ起きるか。「作ること」がゴールになっており、公開後の作業量が見積もられていないためです。ECは公開してからが本番であり、商品追加・価格改定・問い合わせ対応・受注処理が毎日発生します。

防ぎ方。構築を発注する前に、「公開後の週あたり作業時間を見積もり、担当者と代理担当者の名前を決める」ところまでやってください。名前が出てこないなら、その時点で運用の外注費を予算に入れておく必要があります。

ここまでで見積もりの読み方が整理できたら、次は「どこを社内で回すか」です。Ai-Rakuでは、初期費用0円・月額5万円〜で、EC運用のどの作業を自社で持ち、どこをAIに任せるかの仕分けから伴走しています。方式選びの段階でも構いません。無料相談はこちらから、現在の商品点数と体制をお聞かせください。

AIで圧縮できる工程

ECの立ち上げと運用には、「時間はかかるが判断は要らない作業」が大量にあります。この部分は生成AIで圧縮でき、そのぶん外注する範囲を減らせます。ここでは、実際に効果が出やすい工程を具体的に挙げます。

商品説明文の下書き

最も効くのがここです。商品80点分の説明文をゼロから書くと、1点20分でも約27時間かかります。

AIに任せるのは「型に沿った下書きの生成」です。仕様や原材料といった事実を入力し、決めた構成で出力させます。たとえば次のような指示にします。

以下の商品情報から、ECサイトの商品説明文を作ってください。構成は「①どんな人向けか(1文)②味・特徴(3文)③使い方の例(2文)④内容量・保存方法」の順で、全体400字以内。誇張表現は使わず、入力した事実以外は書かないでください。【商品情報】(ここに仕様を貼る)

「入力した事実以外は書かない」の一文を必ず入れてください。これがないと、もっともらしい産地や効能が混ざります。生成された文は必ず人が確認します。

商品データの整形と分類

Excelに散らばった商品情報を、ECの登録形式に整える作業も圧縮できます。表記ゆれの統一(「500g」「500グラム」「0.5kg」)、カテゴリの割り振り、タグ付けなどは、AIが得意とする範囲です。

ただし価格・在庫数・アレルギー表記の列は、AIの処理対象から外してください。この3つは間違うと直接の損害につながります。整形するのは、あくまで文章と分類の列だけにします。

問い合わせの一次対応

ECを始めると、問い合わせが確実に増えます。「いつ届きますか」「送料はいくらですか」「まだ届きません」——内容の大半は定型です。

ここは、よくある質問への回答文をあらかじめ整備し、AIに「回答の下書き」を作らせて人が送信する形が現実的です。いきなり自動返信にせず、下書き段階を人が通す運用から始めてください。詳しくは問い合わせ対応のソリューションもご覧ください。

写真の背景処理と型づくり

商品写真は、背景の切り抜き・サイズ統一・明るさ調整といった処理に時間を取られます。この定型処理はAIツールで大幅に短縮できます。

一方で「どのカットを主画像にするか」「この色味で商品の実物が伝わるか」の判断は人がやります。実物と印象が違う写真は、返品とクレームの直接の原因になります。

要件定義のたたき台

制作会社に渡す要件書を、ゼロから書ける中小企業は多くありません。ここもAIが役に立ちます。自社の業務を口頭で説明したメモを渡し、「制作会社に渡す要件書の目次と、埋めるべき項目」を出させる使い方です。

できあがったたたき台を社内で埋めれば、相談の初回から話が具体的になります。要件が具体的になるほど、見積もりの精度は上がり、後からの追加費用は減ります。ECに限らないAI活用の全体像は通販・ECのAI活用で整理しています。

AIに任せない工程

ここが本記事で最も重要な章です。ECには、AIに任せると事業が止まる工程があります。効率化の話をする前に、この線引きを先に決めてください。

価格と送料の決定

価格は、原価・競合・利益率・取引先との関係を踏まえた経営判断です。AIは価格の「候補」は出せますが、その価格で売って自社が成り立つかは判断できません。

送料も同様です。無料ラインの設定は利益に直結します。価格と送料の決定は、必ず人が行い、決めた根拠を残してください。

法令表記の最終確認

通信販売では、特定商取引法により広告への表示義務が定められています。販売価格、送料その他の負担、代金の支払時期と方法、商品の引渡時期、返品特約を含む申込みの撤回・解除に関する事項、事業者の氏名・住所・電話番号などです(e-Gov法令検索「特定商取引に関する法律」消費者庁 通信販売の表示義務)。

さらに、申込みの最終確認画面についても表示すべき事項が定められています。分量、価格、支払時期と方法、引渡時期、申込期間、撤回・解除に関する事項です。「カートの最終画面に何を出すか」は、デザインの問題ではなく法令の問題です。

表示に関しては景品表示法も関わります。事業者の広告であることを消費者が判別しにくい表示は、令和5年10月1日施行の指定告示により規制対象です(消費者庁 ステルスマーケティング規制)。レビュー施策やインフルエンサー施策を行う場合は、この点を先に確認してください。

これらの表記をAIの出力そのままで公開してはいけません。AIは条文の趣旨をもっともらしく要約しますが、自社の商品・返品条件に合っているかは判断できません。原文にあたるか、必要に応じて専門家に確認してください。

商品写真の最終判断

写真の加工はAIで効率化できますが、「この写真を主画像として出してよいか」の最終判断は人が行います。

理由は2つあります。1つは、実物と印象が違えば返品につながること。もう1つは、加工が行き過ぎた画像は、表示の適正さの観点で問題になり得ることです。加工後の写真と実物を並べて確認する工程を、必ず社内の手順に入れてください。

個人情報と決済の設計

ECは、氏名・住所・電話番号・購入履歴という個人情報を必ず扱います。取得・利用目的・委託・安全管理措置の設計は、個人情報保護法の枠組みで判断が必要です(個人情報保護委員会 法令・ガイドライン)。

決済についても、EC加盟店には不正利用対策が求められています。クレジット取引セキュリティ対策協議会がまとめる「クレジットカード・セキュリティガイドライン」では、EC加盟店にEMV 3-Dセキュアの導入が求められており、原則としてすべてのEC加盟店が2025年3月末までに導入することとされました(日本クレジット協会 関連資料)。決済まわりは「安く済ませる」対象ではありません。

あわせて、注文書や領収書を電子でやり取りした場合の保存についても確認が必要です。電子帳簿保存法の電子取引の区分にあたるため、要件を満たした保存が求められます(国税庁 電子帳簿保存法 特設サイト)。

線引きの一覧表

ここまでの線引きを1枚にまとめます。この表を印刷して、EC担当者と共有してください。

工程 AIに任せる範囲 人が必ず行うこと
商品説明文 型に沿った下書きの生成 事実確認と最終文面の決定
商品データ整形 表記ゆれ統一・カテゴリ分類 価格・在庫・アレルギー表記の入力と確認
問い合わせ対応 定型質問への回答の下書き 返金・クレーム・例外対応の判断と送信
商品写真 背景処理・サイズ統一 主画像の選定と実物との突き合わせ
価格・送料 他社事例の整理 金額の決定(全面的に人)
法令表記 チェック観点の洗い出し 原文照合と掲載可否の判断
個人情報・決済 設計と運用(AIに任せない)

公開後にかかる費用

ECサイトは公開してからのほうが長く費用がかかります。ここを見込んでいない予算は、公開から半年で足りなくなります。

毎月必ず出る費用

方式にかかわらず毎月発生するのは、次の項目です。

  • システムの月額利用料(ASP型ならプラン料金、オープンソース型ならサーバー費)
  • 決済手数料(売上に比例。プランによって料率が変わる)
  • サービス利用料(サービスによっては決済手数料と別に発生する)
  • オプション機能の月額(定期購入、ポイント、クーポン、カート離脱対策など)
  • 保守・運用の委託料(外部に任せる場合)

とくに決済手数料とサービス利用料が別建てになっているケースに注意してください。BASEのスタンダードプランでは、決済手数料3.6%+40円に加えてサービス利用料3%がかかります(BASE公式料金ページ)。売上に対する負担率は、両方を足して計算してください。

年に一度出る費用

年単位で発生する費用も忘れられがちです。金額としては大きくありませんが、更新を忘れるとサイトが止まります。

  • ドメインの更新料
  • SSL証明書の更新料(サービスに含まれる場合もある)
  • 写真の撮り直し(季節商品・パッケージ変更時)
  • 特定商取引法の表記や規約の見直し

ドメインの更新忘れは、実際に起きる事故です。担当者の個人メールで登録していたために更新通知に気づかず、サイトが停止したという話は珍しくありません。登録先のアカウントと支払方法は、必ず会社として管理してください。

忘れられがちな人の費用

最も大きく、最も見積書に載らないのが、社内の作業時間です。ECを運用すると、次の作業が毎週発生します。

作業 発生頻度 1回あたりの目安
受注確認・出荷指示 毎営業日 件数に比例
問い合わせ返信 毎営業日 1件5〜15分
商品の追加・改訂 週1回程度 1点15〜30分
在庫数の更新 週数回 点数に比例
売上の確認と入金消込 月1回 1〜3時間
キャンペーン・特集ページ更新 月1回程度 2〜4時間

この表の「1回あたりの目安」を自社の数字で埋め、月の合計時間を出してください。その時間に時給を掛けた額が、見積書に載っていない毎月の費用です。ここが大きすぎる場合、圧縮する候補が前章の「AIで圧縮できる工程」になります。

セキュリティ対応の費用

公開後に発生する費用として、セキュリティ対応も見込んでください。ASP・SaaS型であれば提供元が対応しますが、オープンソース型やパッケージ型では自社の責任範囲になります。

また方式にかかわらず、決済の不正利用対策は加盟店側の課題です。前述のとおり、EC加盟店にはEMV 3-Dセキュアの導入が求められています(日本クレジット協会 関連資料)。導入や設定に費用が発生する場合があるため、契約前に決済代行会社へ確認してください。

発注前に決める7項目

ここまでの内容を、発注前のチェックリストにまとめます。この7項目が決まっていれば、見積もりの精度は大きく変わります。

7項目チェックリスト

# 決めること 決まっている状態の例
1 商品点数とバリエーション数 「商品80点、色・サイズ違いを含めて142SKU」
2 誰に売るか(BtoC/BtoB/両方) 「BtoCのみ。取引先別の価格設定は不要」
3 受ける決済手段 「カード、代引き、コンビニ後払いの3つ」
4 配送のパターン 「常温とクール便。北海道・沖縄は別料金」
5 既存システムとの連携の要否と頻度 「販売管理から在庫を1日1回ファイルで反映」
6 公開希望日と、その理由 「11月1日。年末商戦に間に合わせるため」
7 公開後の運用担当者と代理担当者 「主担当は営業事務のAさん、代理は物流のBさん」

7項目のうち、とくに7番目が抜けると公開後に必ず問題になります。担当者の名前が出てこない場合は、運用の外注費を最初から予算に入れてください。

RFPに書き写す形にする

上の7項目が埋まったら、そのままA4用紙1枚のRFP(提案依頼書)にします。体裁は不要です。次の順で並べるだけで機能します。

  1. 自社と商品の概要(3行)
  2. ECを始める目的(1行)
  3. 上の7項目(そのまま転記)
  4. 今回の相談で見積もってほしい範囲(5層のどこまでか)
  5. 回答期限と、提示してほしい形式(本記事の比較項目表を添付)

この1枚を複数社に同じ内容で渡すことが重要です。各社にバラバラの前提を伝えると、金額の差が前提の差なのか実力の差なのか分からなくなります。

決めずに相談するとどうなるか

「何も決まっていませんが相談だけでも」という形で始めると、多くの場合、最初に「何を作るかを決める作業」が有償の工程として発生します。これ自体は正当な費用です。要件を整理する作業には確かに時間がかかります。

ただし、7項目のうち5つは自社にしか答えられない情報です。商品点数も、配送パターンも、運用担当者も、制作会社が調べて決められるものではありません。自社で答えられる部分を先に埋めておくほど、有償の整理工程は短くなります。

モデルケース|商品80点の卸

ここからはモデルケース(試算)です。実在の企業ではありません。数値は前提条件をもとにした試算であり、実際の効果を保証するものではありません。

試算の前提:時給2,500円・月20営業日で計算しています。

前提と課題

従業員18名の業務用食品卸F社を想定します。長年、飲食店向けのBtoB取引を中心に事業を行ってきましたが、取引先の減少を受けて、一般消費者向けのECを新たに立ち上げることにしました。

  • 取り扱う商品:80点(うち冷蔵・冷凍が32点)
  • EC担当:営業事務2名の兼務(専任は置けない)
  • 既存の商品情報:Excelと紙のカタログに分散、写真は業務用の白背景のみ
  • 販売管理システムあり。在庫は1日1回の締めで管理

F社の悩みは3つでした。①いくらかかるか見当がつかない ②専任がいない状態で運用が回るか不安 ③冷蔵・冷凍があるため送料設定が複雑——この3つです。

方式の選び方と初期の内訳

F社が最初に行ったのは、本記事の「判断の分かれ目3つ」に答えることでした。

質問 F社の答え 導かれた判断
在庫をリアルタイムで合わせる必要があるか 不要(1日1回で足りる) ASP・SaaS型で対応可能
取引先ごとに価格を変える必要があるか 不要(BtoCのみで開始) ASP・SaaS型で対応可能
システム更新を担当できる人がいるか いない オープンソース型は除外

結果として、ASP・SaaS型からスタートする方針が決まりました。BtoB向けの機能は、BtoCが軌道に乗ってから検討する順序にしています。

そのうえで、初期に発生する「社内の作業時間」を先に洗い出しました。これは見積書に載らない費用です。時給2,500円で換算しています。

立ち上げ作業 想定工数 時給2,500円換算
商品データの整備(80点) 40時間 100,000円
商品説明文の作成(80点) 24時間 60,000円
商品写真の撮影・加工 30時間 75,000円
特商法表記・返品特約の整備 8時間 20,000円
決済・送料設定(冷蔵冷凍の分岐) 10時間 25,000円
テスト注文と修正 12時間 30,000円
合計 124時間 310,000円

この表がF社にとって最大の発見でした。「システムの費用は月1万円以下なのに、立ち上げの社内工数は124時間ある」という事実です。ここを見ずに「月額が安いから大丈夫」と判断していたら、営業事務2名の通常業務が確実に破綻していました。

試算|削減時間の内訳

F社は、この124時間のうち圧縮できる部分と、圧縮してはいけない部分を仕分けました。そのうえで、公開後の月間工数についても試算しています。

業務 導入前(時間/月) 導入後(時間/月) 削減時間(時間/月) 時給換算(円/月)
商品説明文の作成・改訂 24 9 15 37,500
商品データの整形・登録 20 7 13 32,500
問い合わせの一次対応 26 12 14 35,000
受注・出荷連絡の定型メール 18 6 12 30,000
写真の背景処理・サイズ調整 12 4 8 20,000
合計 100 38 62 155,000

合計で月62時間の作業が減る試算になりました。営業事務2名の兼務でも運用が成立する水準です。

重要なのは、この62時間は「システムを高いものに変えた」結果ではないという点です。ASPの月額料金は変えず、社内の作業のうち判断を伴わない部分をAIに寄せた結果です。ECの費用を下げる最も現実的な方法は、システムを安くすることではなく、社内工数を減らすことだとF社は判断しています。

つまずいた点と直し方

順調な話だけでは参考になりませんので、F社がつまずいた点も書きます。

1つ目は、AIが生成した商品説明文に、入力していない産地情報が混ざったこと。公開前のチェックで発見されましたが、そのまま出していれば表示上の問題になっていました。対処として、指示文に「入力した事実以外は書かない」の一文を追加し、さらに公開前に必ず原材料表示と突き合わせる工程を手順に入れています。

2つ目は、冷蔵・冷凍と常温の同梱ルールを決めていなかったこと。公開後、常温商品と冷凍商品を一緒に注文されたときの送料計算で現場が混乱しました。出荷伝票を20枚めくるという事前準備をしていれば防げた種類の問題です。ルールを文書化し、カート画面にも注意文を追加して解決しています。

3つ目は、公開2か月目に商品追加が止まったこと。原因は、通常業務が忙しい時期に「後回しにしてよい仕事」として扱われたためでした。F社は毎週金曜の30分をEC更新の時間として固定し、その時間だけは他の業務を入れない運用に変更しています。時間を確保するのではなく、時間を先に予約するのが定着の分かれ目でした。

よくある質問(FAQ)

Q. ECサイト構築の相場はいくらですか

A. 制作会社に外注した場合の相場について、出典を示せる公的な調査データは確認できません。そのため本記事では金額を書いていません。相場を探すより、本記事の「変動要因6つ」で目の前の見積もりを分解するほうが実用的です。一方、ASP・SaaS型の月額料金は各社が公開しています。ShopifyBASESTORESカラーミーショップなどの公式料金ページで確認してください。

Q. 無料で始めることはできますか

A. 月額0円のプランは実在します。BASEのスタンダードプランは月額0円、STORESのフリープランも月額0円です(各社公式料金ページ)。ただし売れたときの手数料は発生します。BASEスタンダードは決済手数料3.6%+40円にサービス利用料3%が加わり、STORESフリーは決済手数料5.5%〜です。月額0円は「固定費0円」であって「無料」ではありません。

Q. 商品点数が多いと費用は上がりますか

A. 上がります。理由は2つあり、1つは商品点数でプランが分かれるサービスがあること(futureshopは商品50点から10,000点までプランが分かれています)、もう1つは登録・原稿・撮影の作業量が点数に比例することです。後者のほうが金額としては大きくなります。

Q. 決済手数料は何%が目安ですか

A. サービスとプランによって幅があります。本記事で確認した範囲では、月額0円のプランで5.5%〜、月額を払うプランで2.9%〜3.6%程度の水準です。決済手数料と別にサービス利用料がかかる場合があるため、必ず両方を足した負担率で比べてください。詳細は各社の公式料金ページをご確認ください。

Q. 見積もりが会社で違う理由は

A. 含まれている工程が違うためです。とくに商品登録・説明文作成・写真加工といったコンテンツ作業が含まれているかどうかで、金額は大きく変わります。同じ内容のRFPを各社に渡し、「この見積もりに含まれない作業」を1行ずつ書かせると理由が見えます。

Q. デザインはテンプレートで十分ですか

A. 立ち上げ時はテンプレートで問題ありません。売れない理由がデザインであることは、実際にはあまり多くないためです。まずは商品情報の充実と写真の質に予算を配分し、売れ筋が見えてからデザインに投資する順序をおすすめします。

Q. 販売管理システムと連携できますか

A. 連携の頻度によって難易度と金額が大きく変わります。1日1回のファイル連携であれば多くのサービスで対応可能ですが、注文の瞬間に在庫を引き当てるリアルタイム連携は要件が跳ね上がります。「どのデータを、どちらからどちらへ、どの頻度で」の3点を先に決めてから相談してください。

Q. 公開後の維持費の目安は

A. システムの月額、決済手数料、オプション料金、そして社内の作業時間の4つを合算してください。とくに4つ目は見積書に載りません。本記事の「忘れられがちな人の費用」の表を自社の数字で埋め、月の合計時間に時給を掛けて算出してください。

Q. 自社で作るか外注か迷います

A. 商品点数が少なく、社内に手を動かせる人がいるなら、ASP型を自社で立ち上げる選択は十分に現実的です。判断基準は「作れるか」ではなく「公開後に更新し続けられるか」です。更新を担当できる人がいない場合、自社構築は最初だけ安く、その後で高くつきます。

Q. AIで商品説明文を作ってよいか

A. 下書きの生成には有効です。ただし公開前に必ず人が事実確認をしてください。入力していない産地や効能が混ざることがあります。指示文に「入力した事実以外は書かない」と明記し、原材料表示と突き合わせる工程を手順に入れることをおすすめします。

Q. 法令の表記はどこを見ればよいですか

A. 通信販売の広告表示義務は特定商取引法に定めがあります(e-Gov法令検索)。実務的な整理は消費者庁のページが分かりやすくまとまっています。制作会社に任せきりにせず、自社の商品と返品条件に合っているかは必ず自社で確認してください。

Q. 補助金は使えますか

A. 中小企業向けにはIT導入補助金などの制度があります。対象経費や要件は年度ごとに変わり、発注先が支援事業者として登録されている必要がある枠もあります。商談の初回に必ず確認してください。

Q. モールへの出店とどちらが先ですか

A. 目的が違うため、比較よりも役割分担で考えてください。モールは集客力がある代わりに手数料と競合が厳しく、自社ECは集客を自力で行う代わりに顧客との関係を自社に残せます。まず自社ECで商品情報と写真を整え、その資産をモール出店にも使い回す順序が、作業量としては効率的です。

Q. 既存サイトから移行する際の注意点は

A. 3つあります。①旧URLから新URLへの転送設定を必ず行うこと ②会員データの移行方法を事前に確認すること ③公開直後は注文が正しく通るかを実際に自分で買って確かめることです。とくに①を忘れると、検索からの流入を大きく失います。

まとめ

  • ECサイト構築の費用は初期費用ではなく、月額・決済手数料・社内工数の合計で決まる
  • 方式は4つ。商品点数・在庫連携の要否・更新担当者の有無の3つで8割が決まる
  • ASP各社の料金は公開されている。月額が上がるほど決済手数料が下がる構造になっている
  • 制作会社の相場は公的データが確認できない。金額は変動要因6つで読み解く
  • 見積書は5層に分解し、「含まれない作業」を1行ずつ書かせて比較する
  • 費用が膨らむ原因は、商品データ未整備・要件の後出し・連携・デザイン往復・運用担当不在の5つ
  • 説明文の下書き・データ整形・問い合わせ下書き・写真処理はAIで圧縮できる
  • 価格決定・法令表記の最終確認・写真の最終判断・個人情報と決済の設計は人が行う
  • 発注前に7項目を決め、A4用紙1枚のRFPにして同じ内容で各社に渡す

ECサイトの費用は、見積書を受け取る前の準備でほとんど決まっています。「どこを社内で持ち、どこを外に出すか」を仕分けるだけで、初期費用も毎月の負担も大きく変わります。

Ai-Rakuでは、初期費用0円・月額5万円〜で、商品データの整備からAIで圧縮できる工程の切り出し、公開後の運用の定着までを伴走しています。「どの方式を選ぶべきかから相談したい」という段階でも構いません。まずは無料相談をご利用ください。小売・EC向けの支援内容は小売・EC向けソリューション、AI導入の費用全体はAI導入の費用、導入の進め方は中小企業のAI導入もあわせてご覧ください。

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