AIでアプリを作る|業務で使えるものの範囲
業務効率化支援を行う「Ai-Raku(アイラク)」代表。国立大学でAIの研究を行い、ITコンサル・ウェブコンサルを経て独立。官公庁向けの業務効率化や上場企業の支援等を経て、中小企業の現場に定着するAI活用を企画から運用まで一気通貫で支援している。

- プログラミング未経験でも作れますか
- この記事で挙げた範囲であれば作れます。ただし「読めなくても作れる」と「読めなくても直せる」は違います。作るのはAIが助けてくれますが、半年後に直すときは、指示文からもう一度作り直す形になります。だから指示文を残すことを繰り返し書いています。逆に言えば、指示文さえ残っていれば、未経験でも運用を続けられます。
- どのくらいの時間で作れますか
- 題材の大きさによりますが、本記事で挙げた「まとめる」型であれば、手順の書き出しから照合まで含めて数時間から1日程度が目安です。ただし初めての1本は、そこに慣れの時間が加わります。最初の1本は「時間短縮のため」ではなく「やり方を覚えるため」と考えて、効果の小さい題材を選んでも構いません。
- 業務システムの代わりは作れますか
- 作らないでください。判断基準は「今日壊れたら明日の業務は回るか」です。業務システムは、壊れたら止まる側にあります。どうしても現行システムに不満がある場合は、不満のある部分だけを切り出して、読み取り専用の補助ツールとして作るところまでに留めてください。
- 出てきた結果が正しいか、どう確かめますか
- 最初の1回は必ず手作業でも同じことをやり、結果を突き合わせます。全件が難しければ、いちばん普通の1件・いちばん変わった1件・いちばん最近の1件を含めて抜き出してください。あわせて件数と合計値を確認します。件数が合っているのに合計が違うなら、行の重複か読み飛ばしが起きています。
- 顧客情報を扱うものを作ってよいですか
- 対象外です。漏えいしたときに取り返しがつかないためです。どうしても顧客が絡む作業を楽にしたい場合は、氏名や連絡先を外した状態で扱える形に変えられないかを先に検討してください。扱ってよい情報の範囲は、社内のルールとして先に決めておくと迷いません。
- 作ったものを他の部署にも配ってよいですか
- 配った時点で「他人が保守するもの」に変わるため、対象外に移ります。便利だという評判が立ったら、それは外注や既存サービスの導入を検討する合図だと考えてください。試作を持って相談すれば、要件が正確に伝わります。
- バイブコーディングと何が違うのですか
- 呼び名の違いで、やっていることは重なります。言葉の意味や由来、従来の開発・ノーコードとの違いといった整理はバイブコーディングとはにまとめています。本記事は、その線引きを前提にして実際に何を作り、どう手を動かすかを扱っています。
- どのツールを使えばよいですか
- 道具選びは後回しで構いません。先に決めるべきは題材と、手作業の手順です。それが決まっていないと、どの道具を使っても完成しません。手元のファイルを直接扱いながら対話で進めたい場合の選択肢についてはClaude Codeでできることを参照してください。
- 途中で動かなくなったらどうしますか
- エラーの文面をそのままAIに渡してください。要約したり、意訳したりしないでください。あわせて「何をしたか」「何が起きたか」「どうなってほしいか」の3点を伝えます。それでも進まない場合は、いったん動いていた地点まで戻して、そこから小さく足し直すほうが早いことが多いです。
- 途中で仕様を変えたくなったらどうしますか
- 変えて構いませんが、変えたら指示文の記録も更新してください。ここが更新されないまま運用に入ると、記録と実物がずれ、半年後に作り直せなくなります。更新は1行足すだけで十分です。日付と、何を変えたかを書いてください。
- 中小企業でも本当に意味がありますか
- 規模が小さいほど、特定の1〜2人に作業が集中しているので、その人の時間が空く効果は分かりやすく出ます。総務省「令和7年版 情報通信白書」によれば、日本の企業規模別で見ると中小企業では「方針を明確に定めていない」との回答が約半数を占めています。方針から入ると止まりやすいので、1つの作業から始めて、時間の記録で判断するほうが現実的です。
- 社内で反対が出たときはどうしますか
- 反対の中身を分けてください。「情報が漏れるのが心配」なら、扱わせない情報の一覧を先に示すことで多くは解けます。「勝手なものが増えて困る」なら、この記事の作ってはいけない4領域と、記録を残すルールを見せてください。反対の多くは、線引きが見えないことへの不安です。
- まず何から始めればよいですか
- 今週やった作業のうち、毎回同じ手順で15分以上かかったものを1つ選び、その手順を紙に書き出してください。この1枚が書けるかどうかで、作れるかどうかがほぼ決まります。書けたら、次はコピーの用意です。AIに話しかけるのは、その後で十分間に合います。
「AIに頼めばアプリが作れる」という話を聞いて、自分の業務でも試してみたいと思った。けれど調べても、出てくるのは開発者向けの解説か、逆に「誰でも簡単に作れます」という宣伝ばかり。知りたいのは、自分の会社の業務で、どこまでなら作って使ってよいのかという一点なのに、その答えがどこにも書いていない。
この記事はそこだけを扱います。何が作れて、何を作ってはいけないか。作ると決めたら、どういう順番で手を動かすのか。作ったものを業務に入れる前に何を確かめるのか。そして、作った本人がいなくなったあとどうするのか。技術の解説ではなく、判断と手順の話です。
- 非エンジニアが実際に作れるものの具体例と、作れるものに共通する3つの条件
- 作ってはいけない4領域と、「今日壊れたら明日の業務は回るか」という判断基準
- 最初の1本に選ぶべき題材の条件と、選んではいけない題材
- 紙に手順を書くところから始める、作成の7ステップ
- 最初の指示文に必ず入れる6要素と、直すときの伝え方
- 必ずコピーで作業する理由と、最初の1回を手作業と突き合わせるやり方
- 半年後に直せなくなる問題への備え(残すのは3つのファイル)
- 試作を作ってから外注すると、要件が正確に伝わる理由
結論|使い捨てなら作れる
先に結論を書きます。非エンジニアがAIを使って作ってよいのは、「今日それが壊れても、明日の業務が手作業で回るもの」だけです。これが唯一の判断基準で、それ以外の基準は要りません。
この基準を当てはめると、作ってよいものはかなりはっきりします。毎月のExcel集計を自動化する、決まった形式の書類から必要な項目を抜き出す、日報をまとめて要約する、書類の記入漏れを機械的にチェックする。これらは壊れても、以前と同じように手でやれば済みます。だから作ってよい。
逆に、受発注の管理、会計や給与の計算、顧客情報の保管、社外に公開する画面。これらは壊れたら明日の業務が止まります。止まるものは作らない。これだけです。
「AIに指示してソフトを作らせること」自体の定義や、従来の開発・ノーコードとの違い、この線引きがなぜ生まれるのかという背景については、バイブコーディングとは|中小企業の業務での使い方で詳しく整理しています。本記事は、その線の内側で実際に何をどう作るかに絞ります。
そもそも何が作れるのか
「アプリ」という言葉が話を難しくしています。スマートフォンのアプリストアに並ぶようなものを想像すると、途端に自分には無理だと感じます。しかし業務で役に立つものの大半は、そういう形をしていません。
実際に作れるものの具体例
非エンジニアが数時間から数日で形にできるものを、具体的に並べます。
| 作るもの | やっていること | 置き換わる作業 |
|---|---|---|
| Excel集計の自動化 | 複数ファイルを読んで1枚にまとめる | コピー&ペーストの繰り返し |
| 書類チェック | 決まった項目が埋まっているか確認する | 目視での記入漏れ確認 |
| ファイル名の一括変更 | 規則にそって名前を付け直す | 1件ずつの手入力 |
| 日報の要約 | 文章をまとめて要点を出す | 読んで拾い出す作業 |
| 1画面の入力フォーム | 入力した内容を表形式で保存する | 紙やメールでの提出 |
| データの形式変換 | ある様式を別の様式に並べ替える | 手作業での転記 |
| 文書のたたき台作成 | 雛形に沿って下書きを出す | 白紙から書き起こす作業 |
どれも地味です。しかし中小企業の現場で時間を食っているのは、たいていこの地味な作業のほうです。派手な仕組みを作る必要はありません。
作れるものに共通する3条件
上の表に並んでいるものには、共通点があります。
- 入力と出力が決まっている。「このファイルを渡すと、この形の結果が返る」と一言で言える
- 使う人が自分か、ごく近い数人。他部署や社外の人が触らない
- 間違いに気づける。出てきた結果を見れば、おかしいかどうかその場で分かる
3つ目が特に重要です。結果が正しいかどうか自分で判断できない領域には手を出さない。たとえば税額の計算や労働時間の判定は、出てきた数字が正しいかを目で見て確かめられません。だから対象外です。
「アプリ」と呼べる範囲の話
実務では、画面すら要らない場合が多くあります。フォルダにファイルを置いて実行すると結果が出る、という程度のもので十分に役立ちます。画面を作ろうとした瞬間に、作る手間が数倍になります。最初の1本では画面を作らないでください。
どの道具を使うかは、後の話です。生成AIに指示して業務用の小さな処理を作る道具としては、対話しながら手元のファイルを直接扱えるものが向いています。その具体的な使いどころはClaude Codeでできることにまとめています。ただし道具を決める前に、作るものを決めるほうが先です。
作ってはいけないもの
ここが本記事で最も大事な部分です。作れるものより、作ってはいけないものを先に決めてください。
判断基準はたった1つ
繰り返しますが、基準は「今日これが壊れたら、明日の業務は回るか」です。回るなら作ってよい。回らないなら作らない。
この問いを使うときのコツは、「壊れる」を「間違った結果を静かに出し続ける」と読み替えることです。完全に動かなくなるのは、実はいちばん安全な壊れ方です。誰でも気づくからです。怖いのは、9割は正しく、1割だけ静かに間違っている状態です。その1割が請求金額や在庫数なら、気づいたときには数か月分が狂っています。
対象外にする4つの領域
| 領域 | 具体例 | なぜ対象外か |
|---|---|---|
| 受発注・在庫 | 発注書の自動作成、在庫の引き当て | 間違いが取引先に直接届き、金銭が動く |
| 会計・給与 | 税額計算、勤怠集計、支払処理 | 法令が絡み、誤りを目視で判定できない |
| 顧客情報 | 個人情報を保存する仕組み | 漏えい時の影響が回復不能 |
| 社外公開 | 取引先や一般が触る画面 | 作った人が保守し続けられない |
もう1つ、領域とは別の観点で対象外にすべきものがあります。他人が保守することになるものです。自分が使うために作ったものを、いつのまにか他部署が使い始めている状態は、いちばん危険です。作った本人が異動した瞬間に、誰も直せない仕組みだけが業務に残ります。
迷ったときの3つの質問
基準を当てはめても迷う場合は、次の3つを順に自問してください。1つでも該当したら作らないでください。
- これが間違った結果を出したとき、社外の誰かに迷惑がかかるか
- 自分が1か月休んだら、これを直せる人が社内にいないか
- 出てきた結果が正しいかどうか、自分の目では判断できないか
この3つは、あとから見返せるように紙かファイルに書いて残しておくと、社内で議論するときに役立ちます。社内でAIを使う範囲そのものを決める方法は社内のAI利用ルールの作り方で整理しています。
データで見る前提
「自分で作るなんて、まだ早いのでは」と感じる方のために、いま企業がどのあたりにいるのかを確認しておきます。
総務省「令和7年版 情報通信白書」によれば、何らかの業務で生成AIを利用していると回答した割合は日本で55.2%でした。一方で、日本国内を企業規模別に見ると、中小企業では「方針を明確に定めていない」との回答が約半数を占めています。つまり、使っている人はいるが、会社としての方針は決まっていないという状態が中小企業の平均像です。
導入に際しての懸念については、日本では「効果的な活用方法がわからない」が最も多く、次いで「社内情報の漏えい等のセキュリティリスク」が挙げられています。また、活用推進による自社への影響については、日本では「業務効率化や人員不足の解消につながる」が最も多く挙げられています。
この並びは、本記事の内容とそのまま重なります。効果的な活用方法が分からないのは、何を作ってよいかの線引きが決まっていないからです。線引きさえ決まれば、あとは手を動かすだけになります。
出典:総務省「令和7年版 情報通信白書」企業におけるAI利用の現状
初心者が最初に選ぶべき題材
作ると決めたら、次は題材選びです。最初の1本を何にするかで、続くかどうかがほぼ決まります。
題材選びの5つの条件
- 自分が毎週やっている作業である(他人の作業を題材にしない)
- 手順が固定されている(毎回判断が入る作業は向かない)
- 1回あたり15分以上かかっている(短すぎると効果が見えない)
- 結果を目で見て確かめられる(正しさを自分で判定できる)
- 失敗しても誰にも迷惑がかからない(社内で完結する)
5つすべてを満たす作業を1つ選んでください。満たさないものを気合いで選ぶと、必ず途中で止まります。思いつかない場合は、業務のどこに時間が溜まっているかを洗い出すところから始めてください。棚卸しの観点は業務効率化のアイデアにまとめています。
最初の1本におすすめの型
迷ったら、次のどれかにしてください。いずれも入力と出力がはっきりしていて、間違いにすぐ気づけます。
| 型 | 入力 | 出力 | 難易度 |
|---|---|---|---|
| まとめる | 複数のファイル | 1枚の表 | 低い |
| 抜き出す | 決まった様式の書類 | 項目だけの一覧 | 低い |
| 並べ替える | ある形式の表 | 別の形式の表 | 低い |
| 確かめる | 提出された書類 | 不備の一覧 | 中くらい |
| 下書きする | 箇条書きのメモ | 文書のたたき台 | 中くらい |
この5つの型のうち、「まとめる」がもっとも成功しやすいと考えています。結果が1枚の表として目の前に出るので、正しいかどうかが一目で分かるためです。
選んではいけない題材
やる気があるほど、大きい題材を選びがちです。次のものは避けてください。
- 「社内の情報をまとめて検索できるようにしたい」。範囲が定まらず、完成の判定ができない
- 「今の業務システムの代わりを作りたい」。壊れたら業務が止まる側にある
- 「全社員が使うものを作りたい」。他人が保守する前提になる
- 「毎回やり方が変わる作業を楽にしたい」。手順が固定されていないので自動化できない
- 他人から頼まれた作業。正しさの判定を自分でできない
作る手順|7ステップ
ここからが実作業です。順番を守ってください。失敗する人のほとんどは、ステップ1と2を飛ばしています。
ステップ1|手順を紙に書く
AIに何も言う前に、いまやっている作業の手順を紙に書き出します。「Aのフォルダを開く→Bのファイルを開く→C列をコピーする→Dのシートに貼る」という粒度です。
ここで多くの人が驚きます。自分では10分の作業だと思っていたものが、書き出すと20手順あった、というのはよくあることです。逆に、書き出せない作業は自動化できません。紙に書けないものは、AIにも伝えられないと考えてください。
書き出したら、各手順の横に「毎回同じ/たまに変わる/毎回考える」の印を付けます。自動化してよいのは「毎回同じ」の部分だけです。「毎回考える」が半分以上を占める作業は、題材を選び直してください。
ステップ2|コピーを用意する
作業対象のファイルを、必ずコピーしてください。デスクトップに新しいフォルダを1つ作り、そこに複製を置きます。元のファイルには絶対に触らせない。これは例外なしのルールです。
理由は後の章で詳しく書きますが、簡単に言えば、試している最中に元データが書き換わると、何が起きたか追えなくなるからです。復元できない状態から始めると、失敗が事故になります。
ステップ3|AIに指示を出す
ここで初めてAIに話しかけます。ステップ1で書いた手順を、そのまま伝えるのが基本です。指示文の書き方は次の章で詳しく扱います。
大事なのは一度で完成させようとしないことです。最初は「まず、フォルダの中のファイル一覧を表示するだけのものを作ってください」くらいから始めます。動いたら次を足す。この積み方をすると、どこで壊れたかが必ず分かります。
ステップ4|まず自分で動かす
できあがったら、コピーしたフォルダの中だけで動かします。エラーが出たら、その文面をそのままAIに貼って直してもらいます。エラー文を要約して伝えないでください。原文をそのまま渡すのが最短です。
ステップ5|手作業と突き合わせる
動いたからといって、正しいとは限りません。最初の1回は、必ず手作業でも同じことをやって、結果を1件ずつ突き合わせてください。ここを飛ばした人だけが、あとで大きな事故を起こします。
突き合わせのやり方は後の章で詳しく書きます。
ステップ6|説明書を残す
正しく動くと確認できたら、その場で説明書を書きます。あとで書こうとすると、100%書きません。書く内容は3行で十分です。
- 何をするものか(1行)
- どうやって動かすか(1行)
- 作った日と作った人(1行)
そして、AIに出した指示文そのものも、同じフォルダに保存してください。これが後述する「半年後に直せなくなる問題」への唯一の備えです。
ステップ7|1週間だけ試す
いきなり本番の運用に組み込まないでください。まず1週間、手作業とAI版を両方走らせます。二重になって手間は増えますが、この1週間で不具合はほぼ出尽くします。
1週間を終えて、結果が毎回一致していたら、手作業をやめます。1回でも食い違いがあれば、原因が分かるまで手作業を続けてください。
指示文の書き方と例
ここが最初の関門です。ただし、うまい言い回しを覚える必要はありません。足りない情報を足すだけです。
最初の指示に必ず入れる6要素
| 要素 | 書く内容の例 |
|---|---|
| 目的 | 毎月の売上ファイルを1枚にまとめたい |
| 入力 | このフォルダに、支店ごとのExcelが12個ある |
| 出力 | 支店名・売上・件数の3列の表を1枚作りたい |
| 制約 | 元のファイルは絶対に書き換えないでほしい |
| 例外 | 金額が空欄の行は、合計に入れず別に一覧を出す |
| 確認方法 | 合計金額を画面に表示して、目視で確認できるようにする |
6つのうち、省かれがちなのは「例外」と「確認方法」です。この2つが抜けると、見た目は動くのに中身が間違っているものができます。とくに「確認方法」を最初から入れておくと、ステップ5の突き合わせが格段に楽になります。
直すときの伝え方
思ったものと違うときは、次の3点をセットで伝えます。
- 何をしたか(このファイルを入れて実行した)
- 何が起きたか(このエラーが出た/この数字が出た)
- どうなってほしいか(この数字になってほしい)
「うまくいきません」だけでは直りません。逆に、この3点さえ揃っていれば、専門用語をひとつも使わなくても直ります。
やってはいけない指示
- 「いい感じにして」。判定基準がないので、直したかどうかも分からなくなる
- 「全部作って」。一度に大きく作ると、壊れた場所が特定できない
- 実データを最初から渡す。まず数件だけの見本で試す
- 顧客情報や取引条件をそのまま貼る。試作段階では架空の値に置き換える
なお、AIは「それらしいが誤っている出力」を返すことがあります。今回のように結果を目で確かめられる題材を選んでいれば大きな問題にはなりませんが、性質そのものは知っておいてください。AIのハルシネーション対策で整理しています。
必ずコピーで作業する理由
ステップ2で書いたルールを、あらためて強調します。作業は必ずコピーに対して行ってください。
理由は3つあります。
- 途中経過が追えなくなるから。元データが変わると、間違いの原因が処理側にあるのかデータ側にあるのか判別できなくなる
- やり直しができなくなるから。試作は必ず何度もやり直します。戻る場所がないと、そこで終わりです
- 本番と試作の区別が消えるから。同じ場所で作業していると、いつのまにか試作が本番になっています
具体的には、次の形にしてください。
| 置き場所 | 入れるもの | ルール |
|---|---|---|
| 共有フォルダ(本番) | 元のファイル | 試作中は読むだけ。書き換えない |
| 手元の作業フォルダ | コピーしたファイル一式 | ここで何度でも壊してよい |
| 手元の保管フォルダ | 指示文と説明書 | 動いた時点のものを残す |
「面倒だから直接やる」と考えた瞬間が、いちばん危ないタイミングです。面倒だと感じるのは、たいてい急いでいるときで、急いでいるときほど間違えます。
最初の1回は手作業と比べる
ステップ5の詳細です。ここは省略されやすいのに、いちばん事故を防ぎます。
やり方は単純です。同じ入力に対して、手作業の結果とAI版の結果を並べ、1件ずつ突き合わせます。全件が多すぎる場合は、次の3種類を必ず含めて抜き出してください。
- いちばん普通の1件(何の変哲もないもの)
- いちばん変わった1件(空欄がある、桁が大きい、日付がおかしい等)
- いちばん最近の1件(直近の運用を反映しているもの)
そして、合計値と件数を必ず確認します。件数が合っているのに合計が違う場合は、どこかの行が二重に数えられているか、読み飛ばされています。この2つの数字を見るだけで、大半の不具合は見つかります。
突き合わせの結果は、紙かファイルに残してください。「◯月◯日、20件で照合、全件一致」と1行書くだけで構いません。これがあると、あとで結果を疑われたときに説明できます。
半年後に直せなくなる問題
作った直後は、すべて頭の中に入っています。問題は半年後です。
半年後に起きることを具体的に書きます。取引先が増えて様式が変わった。項目が1列増えた。そこで自作のものを直そうとして開いてみると、何が書いてあるか自分でも分からない。作ったときはAIと対話しながら進めたので、中身を読んだことがない。結果、直せずに手作業へ戻る。ここまでが典型的な流れです。
残すのは3つのファイル
この問題を完全に防ぐことはできませんが、備えはできます。次の3つを同じフォルダに置いておくだけです。
| 残すもの | 中身 | なぜ必要か |
|---|---|---|
| 指示文の記録 | AIに出した指示を、そのまま貼ったファイル | 同じ指示をもう一度出せば、作り直せる |
| 説明書 | 何をするものか/動かし方/作成日と作成者 | 他人が見たときに、触ってよいか判断できる |
| 照合の記録 | いつ何件を手作業と突き合わせたか | 結果の信頼性を後から説明できる |
1つ目がとくに重要です。中身を読んで直すのではなく、指示文からもう一度作り直すという発想に切り替えると、半年後の壁はかなり低くなります。作り直せるものは、直せないものより安全です。
置き場所と担当を決める
3つのファイルを作ったら、置き場所と担当を決めます。担当は「作った人」ではなく「その業務を持っている人」にしてください。作った人が異動しても、業務は残るからです。
そして、使う人を増やさないと決めておきます。便利だからと横展開した瞬間に、これは「他人が保守するもの」に変わり、作ってはいけない側に移動します。広げたくなったら、それは外注を検討する合図です。
モデルケース|試作の試算
どのくらいの手間で、どのくらい戻るのか。数字で並べます。
- 以下は実在の企業ではなく、当社が想定する典型的な状況にもとづく試算です。
- 社員25名、事務担当2名で月次の集計を行っている会社を想定しています。
- 金額換算は時給2,500円・月20営業日を前提としています。
- 以下の時間は実績値ではなく、仮に置いた数値です。実際の値は業務ごとに必ず異なります。この表は「自社の記録から同じ計算をするための型」として使ってください。
題材は「支店ごとのExcelを1枚にまとめる月次集計」とします。毎月、担当者が12個のファイルを開いて転記し、合計を確認して、報告用の表を作っている作業です。
まず、いまかかっている時間です。
| 作業 | 1回あたり | 月あたり | 金額換算(月) |
|---|---|---|---|
| ファイルを開いて転記 | 約90分 | 約90分 | 約3,750円 |
| 合計の確認と修正 | 約40分 | 約40分 | 約1,667円 |
| 報告用に整形 | 約30分 | 約30分 | 約1,250円 |
| 合計 | 約160分 | 約160分 | 約6,667円 |
次に、作る側の手間です。
| 工程 | 時間 | 金額換算 |
|---|---|---|
| 手順を紙に書き出す | 約1時間 | 2,500円相当 |
| コピーの用意と環境の準備 | 約1時間 | 2,500円相当 |
| 指示を出して作る(やり直し含む) | 約4時間 | 10,000円相当 |
| 手作業との突き合わせ | 約2時間 | 5,000円相当 |
| 説明書と指示文の保存 | 約0.5時間 | 1,250円相当 |
| 初期の合計 | 約8.5時間 | 約21,250円相当 |
| 毎月の実行と確認 | 約20分 | 約833円相当 |
この前提だと、月160分の作業が月20分になり、月あたり約140分・金額換算で約5,833円相当が浮きます。初期に必要な8.5時間と、この月140分を並べて見るのが、作るかどうかの判断材料です。
ただし、この表で本当に見てほしいのは金額ではありません。注目すべきは、突き合わせに2時間を確保している点です。ここを0時間にすれば初期は6.5時間で済みますが、そのぶん間違いに気づかない可能性を抱えたまま運用することになります。削ってよい時間ではありません。
また、月次の作業がもともと30分しかない会社では、作る手間のほうが大きくなります。だからこそ、題材選びの条件に「1回あたり15分以上」を入れています。作る前に、いま何分かかっているかを1回だけ計ってください。それをせずに作り始めると、この判断ができません。
業務アプリ作成の具体例3つ
もう少し具体的に、作り方の中身を3例ぶん書きます。
例1|書類の記入漏れチェック
提出された書類の必須項目が埋まっているかを、機械的に確認するものです。
- 入力:提出された書類のファイル一式
- 出力:不備がある書類の一覧(ファイル名と、足りない項目名)
- 判断させない工夫:内容の妥当性は見させない。空欄かどうかだけを見る
- 確認方法:不備なしと判定された書類を数件、目視で確認する
この題材の良いところは、間違えても損害が出ないことです。見落としがあっても、従来どおり人が確認する工程が残っているからです。最初の1本として非常に向いています。
例2|日報の集計と要約
各担当が出した日報をまとめ、その週の要点を1枚にするものです。
- 入力:1週間分の日報(文章)
- 出力:担当ごとの件数と、共通して出ている話題の一覧
- 判断させない工夫:評価やランク付けはさせない。事実の整理だけにする
- 確認方法:元の日報を1人分だけ読んで、要約と食い違わないか確かめる
注意点は、要約は人によって「正しい」の基準が違うことです。合っているかどうかを判定できるのは、元を読んでいる人だけです。だから他人の日報だけを対象にする形は避け、自分が内容を把握している範囲から始めてください。
例3|見積書の下書き作成
過去の見積を参考に、新しい見積のたたき台を作るものです。
- 入力:条件のメモ(数量、仕様、納期)と、過去の見積の雛形
- 出力:金額欄が空欄のままの、項目だけ埋まった下書き
- 判断させない工夫:金額は絶対に入れさせない。項目の抜け漏れ防止に用途を限定する
- 確認方法:過去の見積3件で同じ作業をさせ、項目が一致するか比べる
3例目は、線引きの練習としても有効です。「見積を作る」は対象外だが、「見積の項目を並べる」は対象内。同じ業務でも、金銭の判断を含むかどうかで扱いが変わります。この分け方ができるようになると、他の業務にも応用が効きます。
つまずく5つのパターン
実際に手を動かした人が止まる場所は、だいたい決まっています。
| つまずき | 起きること | 対処 |
|---|---|---|
| 題材が大きすぎる | いつまでも完成しない | 入力と出力を1文で書けるところまで削る |
| 一度に全部作る | 壊れた場所が特定できない | 動く最小の形から1つずつ足す |
| 本番データで試す | 元データが壊れる | コピーと数件の見本で試す |
| 照合を飛ばす | 静かに間違い続ける | 最初の1回は必ず手作業と比べる |
| 記録を残さない | 半年後に直せない | 指示文・説明書・照合記録の3点を残す |
いずれも技術の問題ではありません。順番と記録の問題です。逆に言えば、技術がなくてもここは守れます。
試作を作ってから外注する
作ってはいけない側だと判断したものは、外の力を借りることになります。ここで有効なのが、先に試作を作ってから相談するという進め方です。
試作があると何が変わるか
外注がうまくいかない典型は、「言ったつもり」と「聞いたつもり」の食い違いです。文章だけで要望を伝えると、どうしても抜けが出ます。ところが動く試作が1つあると、話が一気に具体的になります。
| 伝え方 | 相手に伝わること | ずれやすさ |
|---|---|---|
| 口頭で説明する | やりたいことの雰囲気 | 大きい |
| 文書で要望を書く | 項目としての要望 | 中くらい |
| 動く試作を見せる | 入力・出力・例外の扱い | 小さい |
とくに効くのが例外の扱いです。「空欄があったらどうするか」「重複していたらどうするか」といった条件は、文章では抜け落ちますが、試作を動かすと必ず表面化します。試作は、自分の要望を自分に思い出させるための道具でもあります。
外注に渡す4点セット
相談するときは、次の4つを揃えて渡してください。
- 動く試作(不格好でよい)
- 指示文の記録(何を狙って作ったかが分かる)
- 試したときの入力と出力の例(数件でよい)
- 試作では諦めたことの一覧(ここが本番で必要な要件になる)
4つ目が価値の高い情報です。「自分で作ってみて、できなかったこと」は、そのまま外注すべき範囲の説明になります。ここを言語化できている会社は、見積の精度も納品後の満足度も上がります。要望を仕様として整理する手順は要件定義の進め方でまとめています。
やめる判断と捨て方
作ったものは、いつか捨てます。最初から捨て方を決めておいてください。
やめる合図は3つです。
- 3か月使わなかった。必要なかったということなので、消してよい
- 直すのに毎回1時間以上かかる。手作業に戻すか、外注に切り替える時期
- 作った人以外が使い始めた。線を越えているので、いったん止めて相談する
捨てるときも、説明書と指示文だけは残してください。それは業務の手順書として使えます。仕組みが消えても、「その作業が何をしていたか」の記録が残っていれば、次に作るときの出発点になります。やめることは失敗ではなく、記録が残っていれば投資は無駄になりません。
よくある質問(FAQ)
Q. プログラミング未経験でも作れますか
A. この記事で挙げた範囲であれば作れます。ただし「読めなくても作れる」と「読めなくても直せる」は違います。作るのはAIが助けてくれますが、半年後に直すときは、指示文からもう一度作り直す形になります。だから指示文を残すことを繰り返し書いています。逆に言えば、指示文さえ残っていれば、未経験でも運用を続けられます。
Q. どのくらいの時間で作れますか
A. 題材の大きさによりますが、本記事で挙げた「まとめる」型であれば、手順の書き出しから照合まで含めて数時間から1日程度が目安です。ただし初めての1本は、そこに慣れの時間が加わります。最初の1本は「時間短縮のため」ではなく「やり方を覚えるため」と考えて、効果の小さい題材を選んでも構いません。
Q. 業務システムの代わりは作れますか
A. 作らないでください。判断基準は「今日壊れたら明日の業務は回るか」です。業務システムは、壊れたら止まる側にあります。どうしても現行システムに不満がある場合は、不満のある部分だけを切り出して、読み取り専用の補助ツールとして作るところまでに留めてください。
Q. 出てきた結果が正しいか、どう確かめますか
A. 最初の1回は必ず手作業でも同じことをやり、結果を突き合わせます。全件が難しければ、いちばん普通の1件・いちばん変わった1件・いちばん最近の1件を含めて抜き出してください。あわせて件数と合計値を確認します。件数が合っているのに合計が違うなら、行の重複か読み飛ばしが起きています。
Q. 顧客情報を扱うものを作ってよいですか
A. 対象外です。漏えいしたときに取り返しがつかないためです。どうしても顧客が絡む作業を楽にしたい場合は、氏名や連絡先を外した状態で扱える形に変えられないかを先に検討してください。扱ってよい情報の範囲は、社内のルールとして先に決めておくと迷いません。
Q. 作ったものを他の部署にも配ってよいですか
A. 配った時点で「他人が保守するもの」に変わるため、対象外に移ります。便利だという評判が立ったら、それは外注や既存サービスの導入を検討する合図だと考えてください。試作を持って相談すれば、要件が正確に伝わります。
Q. バイブコーディングと何が違うのですか
A. 呼び名の違いで、やっていることは重なります。言葉の意味や由来、従来の開発・ノーコードとの違いといった整理はバイブコーディングとはにまとめています。本記事は、その線引きを前提にして実際に何を作り、どう手を動かすかを扱っています。
Q. どのツールを使えばよいですか
A. 道具選びは後回しで構いません。先に決めるべきは題材と、手作業の手順です。それが決まっていないと、どの道具を使っても完成しません。手元のファイルを直接扱いながら対話で進めたい場合の選択肢についてはClaude Codeでできることを参照してください。
Q. 途中で動かなくなったらどうしますか
A. エラーの文面をそのままAIに渡してください。要約したり、意訳したりしないでください。あわせて「何をしたか」「何が起きたか」「どうなってほしいか」の3点を伝えます。それでも進まない場合は、いったん動いていた地点まで戻して、そこから小さく足し直すほうが早いことが多いです。
Q. 途中で仕様を変えたくなったらどうしますか
A. 変えて構いませんが、変えたら指示文の記録も更新してください。ここが更新されないまま運用に入ると、記録と実物がずれ、半年後に作り直せなくなります。更新は1行足すだけで十分です。日付と、何を変えたかを書いてください。
Q. 中小企業でも本当に意味がありますか
A. 規模が小さいほど、特定の1〜2人に作業が集中しているので、その人の時間が空く効果は分かりやすく出ます。総務省「令和7年版 情報通信白書」によれば、日本の企業規模別で見ると中小企業では「方針を明確に定めていない」との回答が約半数を占めています。方針から入ると止まりやすいので、1つの作業から始めて、時間の記録で判断するほうが現実的です。
Q. 社内で反対が出たときはどうしますか
A. 反対の中身を分けてください。「情報が漏れるのが心配」なら、扱わせない情報の一覧を先に示すことで多くは解けます。「勝手なものが増えて困る」なら、この記事の作ってはいけない4領域と、記録を残すルールを見せてください。反対の多くは、線引きが見えないことへの不安です。
Q. まず何から始めればよいですか
A. 今週やった作業のうち、毎回同じ手順で15分以上かかったものを1つ選び、その手順を紙に書き出してください。この1枚が書けるかどうかで、作れるかどうかがほぼ決まります。書けたら、次はコピーの用意です。AIに話しかけるのは、その後で十分間に合います。
まとめ|範囲を決めてから作る
本記事の要点を整理します。
- 作ってよいのは「今日壊れても明日の業務が回るもの」だけ。基準はこれ1つ
- 受発注・会計給与・顧客情報・社外公開は対象外。他人が保守するものも対象外
- 最初の1本は「まとめる」型。毎週やる作業で、結果を目で確かめられるものを選ぶ
- 紙に手順を書くのが第一歩。書けないものはAIにも伝えられない
- 必ずコピーで作業する。元データには触らせない
- 最初の1回は手作業と突き合わせる。件数と合計値を必ず見る
- 指示文・説明書・照合記録の3点を残す。半年後は直すのではなく作り直す
- 試作を作ってから外注する。できなかったことが、そのまま要件になる
AIでアプリを作る話がうまくいかない会社は、技術で失敗しているのではありません。作ってよい範囲を決めないまま作り始めているだけです。範囲さえ決まっていれば、失敗は「うまく動かなかった」で終わります。範囲を決めていないと、同じ失敗が業務の停止になります。
情報通信白書によれば、生成AI導入に際しての懸念として日本で最も多いのは「効果的な活用方法がわからない」で、次いで「社内情報の漏えい等のセキュリティリスク」が挙げられています。また、活用推進による自社への影響については、日本では「業務効率化や人員不足の解消につながる」が最も多く挙げられています。効果的な活用方法とは、結局のところ手元の小さい作業を1つ選ぶことです。まずは今週の作業を1つ、紙に書き出すところから始めてください。
Ai-Rakuでは、業務を見ながら1業務から始めるAI導入・業務効率化を支援しています。何を自社で作り、何を作らずに任せるかの線引き、最初の1本に選ぶ題材、手作業との突き合わせの設計、作ったものを残して引き継ぐ形まで、御社の業務と体制に合わせて整理します。すでに試作があれば、それを見ながらのご相談も可能です。
実際に「自作してよいか」で迷いやすい題材は在庫管理です。判断の線引きは在庫管理システムを自作する前の判断で具体的に整理しています。


